ベトナムの新世代ブランドを一度にたくさん見たいなら、有名モールより、路地や複合店の「セレクトショップ」を訪ねるのが近道だ。独自の路面店を持たない小さなブランドが、一つの店の棚を分け合って並ぶ——この「ローカルがローカルを支える」場所こそ、いまのベトナムのアパレルを動かす中心にある。
この記事では、なぜセレクトショップがこれほど重要なのか、その仕組みと、ハノイ・ホーチミンの主要スポット、そして旅行者としての歩き方までをまとめる。

なぜ「セレクトショップ」が、ベトナムのアパレルの心臓なのか
理由は、新世代ブランドの多くが自前の路面店を持たないからだ。販売はInstagramやTikTokでの発信、通販モールのShopee、そして街のセレクトショップの組み合わせで完結する。大きな在庫や自社店舗を抱えずに始められるこの身軽さが、個人デザイナーの参入を後押ししてきた。
その裏返しとして、「実物を見て、触って、試着できる場所」の役割をセレクトショップが担う。一つの店に十も二十ものブランドが集まるから、客は効率よく見比べられ、無名のブランドは家賃を分け合って露出を得られる。大手に頼らず、小さなつくり手どうしが場所を共有して支え合う——この構造が、シーン全体の裾野を広げている。
資本の面でも意味が大きい。路面店を一軒構えるには、家賃も内装も人も要る。その負担を十も二十も並ぶブランドで分け合えば、個人でも実店舗の棚に自分の服を置ける。オンラインで生まれたブランドが、次の一歩として「街に出る」ための踏み台になっているのが、セレクトショップという場所だ。
仕組み——小さなブランドが「1〜3型ずつ」棚を分け合う

ベトナムのセレクトショップの多くは、ブランドごとに小さな区画や棚、あるいは名前カードを立てて陳列を分ける。一つのブランドが出すのは1〜3型だけ、というケースも珍しくない。来店客は棚から棚へと渡り歩きながら、気になった名前をその場でスマホで検索し、Instagramやショップページで在庫やサイズを確かめる。
つまり店頭は「実物のショールーム」、購入や再入荷はオンライン、という二段構えだ。店は小さなブランドに露出とフィッティングの場を与え、ブランドは店に旬の顔ぶれと集客をもたらす。この持ちつ持たれつが、冒頭で書いた「ローカルがローカルを支える」の中身だ。
もう一つの特徴が、期間限定の「ドロップ」やコラボの多さだ。数量限定の入荷や、店とブランドの共同企画がSNSでの話題を生み、「その店に行くこと自体」がコミュニティに属する感覚につながる。服を買うだけでなく、地元の作り手を応援する輪に加わる——という体験の色が濃いのも、ベトナムのセレクトショップらしさだ。
ハノイ・ホーチミンの主要スポット

代表的なセレクトショップ/コンセプトストアを挙げておく。(住所・入居ブランドは取材時点の公開情報。規模や顔ぶれは変わるため、訪問前に各店のInstagramで最新を確認したい。)
| 店名 | 都市・エリア | タイプ | 入居ブランドの例・規模 |
|---|---|---|---|
| Lả Space | ハノイ(バーディン区 6 Ngõ 52 Hàng Bún) | 女性向け・ハンドメイド寄り | orié baie/Label of Lace/RedA ほか |
| The Raw Compound | ハノイ(ドンダー区 180 Đê La Thành) | 2フロアの複合(1F=ストリート/2F=集積) | 約30ローカルブランド。入居の約95%がホーチミン発 |
| Rue Miche | ホーチミン(1区 Đồng Khởi ほか) | 網羅型セレクト | 60〜70ブランド超。Beuter/Môi Điên ほか |
| The New Playground | ホーチミン(1区 Lý Tự Trọng/Vincom Đồng Khởi B1-B2) | ストリート集積 | 約70ブランド。Dirty Coins/Degrey ほか |
| 11 Garmentory | ホーチミン(フーニュアン区 117B Nguyễn Đình Chính) | 複数フロアの複合店(カフェ併設) | ミニマル〜ストリート、約50ブランド規模 |
注目したいのは、こうした大型のコンセプトストアが2024〜2025年に相次いで生まれていることだ。ホーチミンのRue Micheは2024年、ハノイのThe Raw Compoundは2025年のオープン。オンラインで育ったブランドの受け皿として、”まとめて見せる場所”の需要が急に膨らんでいる。
タイプの違いにも注目したい。Lả Spaceは女性向けやハンドメイド寄り、The New PlaygroundやThe Raw Compoundはストリート系が主役、Rue Micheや11 Garmentoryはメンズ・レディースを幅広く網羅する。目当ての系統で行き先を選ぶと、効率よく回れる。
なお、ハノイ旧市街のTiredCityのように、複数ブランドの寄せ集めではなく、自社ブランドをベトナムのアーティストとの協業でつくる「アーティスト協業型」の店もある。セレクトショップとは性格が違うが、”ローカルの創造性を支える”という発想は地続きだ。
ハノイとホーチミン、街ごとの色
同じセレクトショップ文化でも、二つの街では色合いが違う。ハノイは、Lả Spaceのような女性向け・ハンドメイド寄りの小さな店と、The Raw Compoundのような新しい複合コンセプトストアが共存する。旧市街の路地に、静かで丁寧な作り手の店が点在するのがハノイらしさだ。
ホーチミンは、より大きく、よりストリートだ。The New PlaygroundやRue Micheは数十ブランドを一度に集め、ストリートウェアやユニセックスが前面に出る。国産ストリートブランドの多くがホーチミン発で、ハノイの複合店にもホーチミン発ブランドが多く入るなど、「つくるのは南、広げるのは全国」という流れも見える。
ホーチミンでは、店だけでなく”通り”そのものがブランドの集積になっている場所もある。Nguyễn Trải(グエンチャイ)通りは、若者から「ファッションストリート」と呼ばれ、センスのいい地元ブランドの路面店が軒を連ねる。3区のTrần Quang Diệu(チャンクアンジエウ)通りにも、韓国風の可愛い店が集まる。一軒ずつ入るセレクトショップとはまた別の”面”で、街歩きしながらブランドを掘れるのがホーチミンの楽しさだ。
Lả Spaceの棚を見ていて気づいたのは、一つのブランドが出している数が驚くほど少ないことだ。ワンピースが2〜3型、下着が数枚——それだけで一区画が完結している。大量に並べて売り切る発想ではなく、「この作り手はこういう世界観です」と一枚看板を掲げるように、厳選した数型だけを置く。だからこそ十以上のブランドが一室に収まり、客は棚から棚へ渡り歩くだけで、いくつもの小さな世界を横断できる。たくさん買わせる店ではなく、たくさん出会わせる店——それがベトナムのセレクトショップの居心地の良さだと、歩いてみて分かった。
旅行者としての、セレクトショップの歩き方
この文化は、旅行者にこそ相性がいい。短い滞在でも、一軒のセレクトショップに入るだけで十数ブランドをまとめて見られるからだ。歩き方のコツを挙げておく。
- 系統で店を選ぶ:女性向け・ハンドメイドならLả Space、ストリートならThe New Playground/The Raw Compound、幅広く見たいならRue Miche/11 Garmentory
- 名前カードを手がかりに:気になった棚のブランド名を、その場でInstagram・TikTokで検索。在庫やサイズ、価格帯を確認できる
- その場で買えなくてもOK:多くのブランドはShopeeやDMで海外発送に対応。フォローしておけば帰国後にも買える
- 訪問前にInstagramを確認:営業時間・入居ブランド・ポップアップは変わりやすいので、各店の最新投稿をチェック
現地の一室で起きていることを、ブランド単位でもっと詳しく知りたいなら、ハノイのLả Spaceを軸にしたルポも用意している。

よくある質問
- ベトナムのローカルブランドはどこで実物を見られますか?
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複数ブランドが集まるセレクトショップ/コンセプトストアが近道です。ハノイならLả SpaceやThe Raw Compound、ホーチミンならRue Miche・The New Playground・11 Garmentoryなどで、十〜数十のブランドを一度に見比べられます。
- セレクトショップで値段交渉や試着はできますか?
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定価販売が基本で、値切り文化は強くありません。多くの店で試着はできますが、1ブランドあたり1〜3型だけの小さな出品も多く、サイズ欠けが起きやすいので、気になったら早めに確認するのが安心です。支払いはQRコード決済が普及していますが、小さな店では現金が確実な場面もあります。
- ハノイとホーチミンで違いはありますか?
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ハノイは女性向け・ハンドメイド寄りの小さな店と新しい複合店が共存し、旧市街の路地に丁寧な作り手が点在します。ホーチミンはより大きくストリート色が強く、数十ブランドを集めた大型のコンセプトストアが目立ちます。
- その場で買えなかった服は後から買えますか?
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多くのブランドがShopeeやInstagramのダイレクトメッセージで販売しており、一部は海外発送にも対応しています。店で気に入ったらアカウントをフォローしておくと、帰国後にもつながっていられます。
