ベトナムの麺といえば、多くの人がフォー(phở)を思い浮かべると思います。たしかにフォーはおいしいのですが、この国の麺文化は、それだけではとても収まりません。街を歩けば、見たことのない麺の看板がいくらでも出てきます。
この記事では、ホーチミンで食べられる麺に絞って、私が実際に食べて「これはいい」と思ったものを3杯紹介します。ベトナムの麺すべてを網羅したものではなく、あくまで私が知っている、あるいは最近食べたものの中から選んだ私的なヌードル決定戦です。
| 麺 | どんな一杯か | こんな人に |
|---|---|---|
| フーティウ・コー(hủ tiếu khô) | 汁なしの混ぜそば系。ジャンキーでクセになる | 飲んだあとの締めに |
| ブンリエウ(bún riêu) | カニとトマトのスープ。発酵エビペーストで濃く | 濃い味・発酵系が好きな人に |
| ブンボーフエ(bún bò Huế) | 中部フエ由来の肉スープ。唐辛子で味が締まる | 辛いものが好きな人に |
1杯目:フーティウ・コー(hủ tiếu khô)——汁なしがうまい
まずはフーティウ(hủ tiếu)です。ルーツをたどると潮州系の中華料理にたどりつく麺で、1950年代以降、サイゴン(ホーチミン)で大きく発展しました。いわば南部を代表する麺です。
この麺の何より特徴的なのは、その食感。麺というより、ちょっとゴムのような、かなりしっかりとしたコシがあります。日本の麺にはあまりない歯ごたえで、最初に食べたときは驚きました。
一般的なフーティウは、野菜や海老が入ったスープで供されます。あっさりしていて、いかにもヘルシーそうな味です。これはこれでおいしいのですが、私が本当に紹介したいのは、スープ版ではありません。
「khô(コー)」=汁なしを頼んでほしい
ベトナムの麺料理では、メニューに「khô(コー)」と書かれていたら、それは汁なしを意味します。つまり「hủ tiếu khô(フーティウ・コー)」と頼めば、汁なしのフーティウが出てきます。
この汁なしが、なかなかジャンキーな味で、意外とクセになるのです。イメージとしては、日本の混ぜそばが近いと思います。具材は正直そこまで多くなくて、海老とお肉くらいしか入っていないこともあります。そこに自分でソースをかけて、味を調整していく。
ベトナムの汁なし麺のいいところは、別の器でスープが付いてくることです。このスープを少し麺にかけて食べたり、ライムをぎゅっと絞ったりする。味そのものは決して濃くないのですが、なぜか食べ応えがあって、飲んだあとの締めに食べたくなる、そういう一杯です。
ガイドブックにはあまり載っていない気がするので、ぜひ一度トライしてみてほしいと思います。
2杯目:ブンリエウ(bún riêu)——ベトナムで一番しょっぱい麺
2杯目はブンリエウ(bún riêu)です。もともとは北部・紅河デルタ地方が起源の料理で、私はずっと「ハノイの麺」だと思っていたのですが、いまではベトナム全土で食べられていて、もちろんホーチミンにもたくさんの店があります。
カニとトマトをベースにしたスープの麺で、具材には厚揚げのような豆腐や、ソーセージのような練り物(chả)が入っています。ベースになるのは田ガニ(cua đồng)の身とミソ。トマトの酸味と合わさって、見た目よりもさっぱりしています。
この一杯の主役は、付け合わせで出てくることの多いマムトム(mắm tôm)です。エビを発酵させたペーストで、これを入れると味が一気に変わります。私の感覚だと、マムトムを入れたブンリエウは、ベトナムで一番しょっぱい麺です。
というのも、私はベトナム料理全般について「わりと味が薄い」と感じているのです。だからこそ、このマムトムの塩気と発酵の香りは強烈で、印象に残ります。逆に言えば、入れる量で自分好みに調整できるということでもあります。
ホーチミンで食べるブンリエウは、ハノイのものと比べると少し甘めに仕上がっている印象です。そこにマムトムを足して、自分のちょうどいい濃さを探る。この調整が楽しい麺でもあります。
麺は「bún(ブン)」——そうめんとうどんの中間
ここで使われている麺が「bún(ブン)」です。白くて丸い米の麺で、太さでいうと、日本のそうめんとうどんのちょうど中間くらい。このブンはベトナムで本当によく使われていて、ほかのいろいろな料理にも登場します。
発酵エビペーストの香りは、旅行者の方によっては少し抵抗があるかもしれません。でも私は、これが好きです。
3杯目:ブンボーフエ(bún bò Huế)——唐辛子で化ける
最後はブンボーフエ(bún bò Huế)。名前のとおり、中部フエ(Huế)の料理です。起源は16世紀末から17世紀初頭のフエまでさかのぼるとされ、2025年7月には、ベトナムの国家無形文化遺産にも登録されました。街の麺が国の遺産になる、というのがなんともベトナムらしい話です。
麺は同じ「ブン」ですが、ホーチミンで出てくるブンボーフエは、ブンリエウのものよりやや太めのブンを使うことが多いです。同じ名前の麺でも、料理によって太さが違うのが面白いところ。
ベトナム語で「bò(ボー)」は牛肉のこと。その名のとおり牛骨をベースにしたスープで、店によっては豚足も一緒に煮込みます。決め手になるのはレモングラスと、マムルック(mắm ruốc)というオキアミの塩辛、そして唐辛子油。具材は肉のほかに、パクチーや玉ねぎが入ります。
この麺で私が必ずやるのが、サテ(sa tế)を入れることです。唐辛子を漬け込んだような調味料で、これを加えると味がぐっとはっきりして、少しピリッとする。これがなかなかクセになります。
ブンボーフエも、ガイドブックではあまり大きく扱われていない印象です。そして店によって味がまったく違います。だからこそ、見かけたときには気軽に入ってみてほしい。同じ名前の麺でも、店ごとに別の料理のような顔をしています。
この3杯を並べて気づいたのは、どれも「自分で味を仕上げる」料理だということです。フーティウ・コーは別碗のスープとライムで、ブンリエウはマムトムで、ブンボーフエはサテで。出てきた時点では、正直どれも少し物足りない。でもそこから自分で足していくと、自分にとってちょうどいい一杯になります。日本のラーメンのように「完成された一杯が出てくる」のとは、そもそも設計思想が違うのだと思います。だからベトナムの麺は、同じ店に何度通っても飽きないのかもしれません。
フォーの外に、まだまだ広い世界がある
ベトナムにはフォーに限らず、本当にいろいろな種類の麺があります。しかも同じ名前の麺でも、地域によって少しずつ味が違う。北部はあっさり、南部は少し甘め、中部は辛め——そんな傾向を頭に入れておくと、食べ比べがぐっと面白くなります。
ホーチミンに来たら、まずはフォーを一杯。そのあとはぜひ、看板に書かれた知らない麺の名前に飛び込んでみてください。ここで挙げた3杯は、そのきっかけになれば十分です。
注文と食べ方の、ちょっとしたコツ
ローカルの麺屋に入るとき、知っておくと役に立つことをいくつか書いておきます。
値段の目安は、ローカルの店で1杯おおむね3万〜5万VND(およそ180〜290円)です。ときどき1万VND台という驚くほど安い店もありますが、それは地元紙がニュースにするくらいの例外です。
- 「khô」で汁なしになる:メニューで麺の名前のうしろに「khô」が付いていれば汁なし。スープありは「nước(ヌック)」と書かれていることが多い
- 卓上の調味料はどんどん使う:ベトナムの麺は、出てきた時点では完成ではありません。ライム、唐辛子、ソース類で自分好みに仕上げるのが前提です
- 付け合わせの皿も食べる:もやしやハーブが別皿で出てきたら、好きなだけスープに沈めて構いません
- 発酵系は少しずつ:マムトムのような発酵調味料は香りが強いので、まず少量入れて味を見るのが安全です
よくある質問
- ホーチミンでフォー以外におすすめの麺は?
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この記事で紹介したフーティウ・コー(汁なしフーティウ)、ブンリエウ(カニとトマトのスープ)、ブンボーフエ(中部フエ由来の肉スープ)の3つがおすすめです。いずれもローカル店で気軽に食べられます。
- 「khô」とはどういう意味ですか?
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ベトナム語で「乾いた」という意味で、麺料理では汁なしを指します。メニューに「hủ tiếu khô」とあれば汁なしのフーティウです。汁なしを頼んでも、多くの場合スープが別の器で付いてきます。
- マムトム(mắm tôm)とは何ですか?
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エビを発酵させたペーストで、強い塩気と発酵の香りが特徴です。ブンリエウなどに付け合わせで出てきます。好みが分かれる味なので、少量ずつ足して調整するのがおすすめです。
- ブン(bún)とフォー(phở)の麺はどう違いますか?
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フォーが平たい米麺なのに対し、ブンは白くて丸い断面の米麺です。太さは日本のそうめんとうどんの中間くらい。ブンリエウやブンボーフエなど、多くの料理に使われます。
