ベトナムで暮らしていると、結婚式に招かれることがあります。私も南部で一度、出席する機会がありました。
行ってみて思ったのは、日本の結婚式とはずいぶん違うということです。そもそも私が参加したのは、ホテルの宴会場ではなく、野外のビアガーデンのような場所でした。
この記事では、その体験を中心に、ベトナムの結婚式について書いてみます。
前提:ベトナムの結婚式は「一概には言えない」
先に断っておきたいことがあります。ベトナムの結婚式は、地域や家庭によって本当にさまざまです。
- 地域差:北部と南部でしきたりが違う
- 家庭差:家で行うパターンと、外で披露宴を開くパターンがある
- 都市と地方の差:都市部と農村部でも様子が変わる
なので「ベトナムの結婚式とはこういうものだ」と一つの型で語ることはできません。この記事は、私が南部で参加した一例として読んでいただければと思います。参加していないパターンについては、正直にそう書きます。
結婚式は一度では終わらない
日本だと「結婚式=一日のイベント」というイメージが強いと思います。ベトナムは違います。いくつかの段階に分かれているのが一般的です。
まず、伝統的な儀式がある
多くの場合、まず伝統的な儀式が行われます。これは基本的に身内のみが参加するもので、新郎側・新婦側からそれぞれ数名ずつ、結納品を運ぶ役割の人が招かれる、という形になります。
私はこの伝統的な儀式には参加していないので、中で何が行われるのかを詳しく書くことはできません。ただ、調べてみると、ベトナムの婚礼はおおむね次のような段階を踏むようです。
| 段階 | ベトナム語 | 内容 | 参加者 |
|---|---|---|---|
| ① 顔合わせ | lễ dạm ngõ | 両家が初めて会い、日取りや結納品の数を相談する | 両家の近親のみ |
| ② 結納 | lễ ăn hỏi | 新郎側が結納品を新婦側へ正式に納め、婚約を公表 | 親族+結納品を運ぶ若者 |
| ③ 挙式・披露宴 | lễ cưới / tiệc cưới | 花嫁を迎えに行き、祖先へ報告し、披露宴を開く | 数百人規模になることも |
| ④ 里帰り | lễ lại mặt | 新婚夫婦が新婦の実家へ挨拶に戻る | 身内のみ |
なお南部では、①を省いて②と③をまとめてしまう家庭も多いそうです。このあたりの簡略化の度合いも、家庭によります。
結納品を運ぶ人には、こんな言い伝えがある
先ほど「結納品を運ぶ役割の人」と書きましたが、これは未婚の若い男女が担うのが習わしです。新郎側の未婚男性が結納品の盆を運び、新婦側の未婚女性が受け取る。人数は盆の数と同じだけ揃えます。
面白いのはここからです。この役を務めると「自分の縁が逃げてしまう(mất duyên)」という言い伝えが古くからあるのだそうです。それを打ち消すために、運び手の男女が向かい合ってお互いにポチ袋(lì xì)を交換する——これを「縁を渡す(trao duyên)」と呼ぶのだとか。結納という厳かな場に、こういう可愛らしい風習が組み込まれているのが、いいなと思いました。
ちなみに結納品の盆の数には、はっきりした南北の違いがあります。
| 北部 | 奇数(3・5・7・9・11)。奇数は増え続ける数とされる |
|---|---|
| 南部 | 偶数(6・8・10)。「対になる」=夫婦の象徴。6は「禄(lộc)」、8は「発(phát)」に音が通じる縁起も |
披露宴にも、いくつかのパターンがある
そのあとに来るのが披露宴です。ここにもいくつかのパターンがあります。まず時間帯として、昼に行うものと、夜に行うものがあります。
これも南北で傾向が違うようで、ベトナムのメディアによれば北部は平日の昼、南部は週末の夜が典型なのだそうです。北部は「仕事のついでに立ち寄れるように」、南部は「昼は慌ただしくてゆっくり祝えないから」。同じ国でも発想が逆なのが面白いところです。
パターン①:ローカル色の強い宴会
本当にローカルな結婚式だと、ビールを一気に飲んで、カラオケをする——そういう宴会に近い形になります。厳粛なセレモニーというより、とにかく賑やかに飲んで歌う場、という雰囲気です。
パターン②:若い世代の、こじゃれた会場
私が実際に参加したのは、こちらのタイプでした。会場は、現地の少しこじゃれた居酒屋のような場所。50名くらいが入る、大きめの野外のビアガーデンと言えばイメージが近いかもしれません。
そこでビールを飲み、料理が運ばれてきて、カラオケをしたり、写真を撮ったり。ホテルの宴会場で司会者が進行する日本の披露宴とは、まるで別の種類のイベントでした。言ってしまえば、「大きめの飲み会」に近い温度感です。
パターン③:ホテルやイベント会場
もちろん、しっかりとしたホテルやイベント会場で披露宴を行う人もいます。このあたりは、新郎新婦の年齢層や、家庭の考え方によるところが大きいのだと思います。
また、地方に行くとまた様子が変わるはずですが、私は地方の結婚式には参加したことがないので、ここは書けません。
| タイプ | 会場 | 雰囲気 |
|---|---|---|
| ローカル色の強い宴会 | 自宅前や地元の会場 | ビールを一気に飲み、カラオケ。宴会に近い |
| 若い世代(私が参加) | こじゃれた居酒屋/野外ビアガーデン | 50名規模。飲んで、食べて、歌って、撮る |
| フォーマル | ホテル・イベント会場 | 日本の披露宴に比較的近い形式 |
日本人が驚く、ベトナム式のふるまい
参加してみて、あるいは調べてみて、「日本とはずいぶん違うな」と思ったことをいくつか挙げます。
時間は「ゴム時間」
ベトナムには「giờ dây thun(ゴム時間)」という言葉があります。文字どおり、伸び縮みする時間のこと。招待状に18時と書いてあっても、実際に始まるのが20時、ゲストが来るのが20時半——といったことが起こり、現地の新聞でもたびたび話題になっています。
ただしこれも地域によりけりで、地方には招待状の時刻きっかりに始まるところもあるそうです。いずれにせよ、日本の感覚で分刻みに動くと疲れるので、余裕を持って構えておくのがよさそうです。
途中で帰ってよく、席次もない
日本の披露宴だと、最後の挨拶とお見送りまでが一つの流れになっています。ベトナムはそこがかなり自由で、食べ終わったら帰ってよいという感覚です。「1時間だけ顔を出して帰る」ということも普通にあります。
席次表や名前カードも基本的にはなく、知り合い同士で自由に座ります。このゆるさが、あの「大きめの飲み会」感につながっているのだと思います。
新郎側と新婦側で、別々に披露宴をする
これは日本人が一番驚くところかもしれません。ベトナムでは新婦側の宴と新郎側の宴を、それぞれ別に開くのが標準的です。近ければ同じ日に、離れていれば連日にわたって行われます。招待状も、新郎側用と新婦側用で文面が違うのだそうです。
引き出物は、見当たらない
日本の結婚式には引き出物がありますが、ベトナムでそれにあたる習慣は、今回調べた範囲では見つかりませんでした。贈り物の流れは、ゲストから新郎新婦への一方向、というのが基本のようです。
招待されたら:ご祝儀と服装
ここからは、実際に招かれたときに真っ先に困るであろう2つ——お金と服装について書きます。
ご祝儀は、もらった封筒にそのまま入れる
日本だと、ご祝儀袋を自分で買ってきて、筆で名前を書いて…という準備が必要です。ベトナムはもっと簡単でした。
招待状(インビテーション)に封筒が付いてくるので、そこにお金を入れて渡せばいい。これがいつものやり方です。専用の袋を探しに行く必要はありません。
渡し方も簡単で、会場の入口に箱が置かれていて、そこに入れる方式が一般的です。受付でうやうやしく手渡す、という日本の作法とは違います。ただし「誰からいくら」を記録する文化があるので、封筒に自分の名前を書くのは忘れずに。
金額の目安ですが、私の感覚では50万ドン札を1枚から3枚程度。つまり50万〜150万ドン(およそ3,000〜9,000円)くらいが一般的なところだと思います。間柄によって枚数を加減する、という考え方です。
この感覚は、そう外れていないようです。ベトナムの新聞が2024年に行った調査では、「50万〜100万ドンを包む」と答えた人が59%で最多、次いで「30万〜50万ドン」が30%でした。ただし都市部の高級ホテルやレストランでの披露宴だと、80万〜100万ドン以上でないと厳しい、という声もあります。会場のグレードに合わせて調整する——つまり「自分の食事代+お祝い分」と考えるのが、現地の相場感に近いようです。
ひとつだけコツがあるとすれば、できるだけきれいなお札を入れること。ベトナムのお札は流通しているうちにかなりくたびれたものが混じるので、手持ちの中から一番きれいな50万ドン札を選んで入れています。
服装は、会場のタイプで決まる
服装は、どのタイプの式に呼ばれたかで変わります。ここを間違えると気まずいので、事前に会場を確認しておくといいです。
| どんな式か | 服装の目安 |
|---|---|
| ローカルの披露宴(レストラン・野外会場など) | シャツを着ていれば大丈夫。サンダルで来ている人もいます |
| 家で行う伝統的な儀式 | スーツやアオザイなど、きちんとした服装が必要 |
つまり、ビアガーデンのような披露宴ならかなりカジュアルで問題ありません。一方で、家で行う伝統的な儀式に招かれた場合は、日本の結婚式に近い感覚できちんとした格好をしていったほうがいいということです。
色について補足すると、白は避けておくのが無難です。ベトナムのファッション媒体では「花嫁の色を食ってしまう」として避けるべき色の筆頭に挙げられています。ただしこれは都市部や若い世代の感覚が強く、「何色でも構わない」と書いている在住者向けの案内もあります。厳格なドレスコードがあるわけではないけれど、純白だけは外しておく、くらいの温度感でよさそうです。
女性はアオザイを着ても喜ばれます。ただし必須ではありませんし、赤いアオザイは新婦が着る可能性があるので、そこだけは避けたほうがいいでしょう。
参加してみて一番おどろいたのは、「式」という言葉から想像する緊張感がほとんどなかったことです。野外の会場に椅子とテーブルが並んでいて、ビールが注がれ、料理が次々に運ばれてくる。誰かがカラオケを歌い、みんなが写真を撮り合っている。日本の披露宴のように進行表どおりに場面が切り替わっていくのではなく、ただ賑やかな時間がずっと続いていく感じでした。新郎新婦を祝う場であることは間違いないのですが、その祝い方が「みんなで楽しく飲む」に振り切られている。形式ばることよりも、その場の熱量を大事にする——そういう文化なのだと思いました。
南部は、もっと自由らしい
ここからは私が直接見た話ではなく、現地で聞いた話として書きます。
南部の人は比較的開放的な方が多いようで、街でやっている結婚式をのぞいていたら「参加していきなさい」と声をかけられ、知らない人でも招待してもらえた——そんなケースもあると聞きました。
日本の感覚だと、結婚式は招待状をもらった人だけが行くものです。それに比べると、ベトナムの結婚式はずいぶん形式張らない、自由なスタイルなのだろうと思います。
この話が気になって少し調べてみたのですが、どうやら「南部だから」というより農村部を中心に、招待の範囲がとても広いという事情があるようです。地方の披露宴は300〜500人規模になることも珍しくなく、遠い親戚から近所の人まで招かれる。「私の結婚式は500人で、そのうち400人以上は知らない人だった」という当事者の手記まで見つけました。メコンデルタのほうでは「客が多いほどめでたい」という考え方もあるそうです。
ただし面白いことに、招く側の気前よさと、招かれる側の温度は別のようです。先ほどの新聞調査では、「親しくない人からの招待状」について「行かないし包まない」と答えた人が65%でした。誰でも歓迎する文化がある一方で、受け取る側はけっこう現実的、というのが実情なのかもしれません。
まとめ:形式より、その場の楽しさ
私が南部で見たベトナムの結婚式は、一言でいえば「形式より、その場の楽しさを優先する」ものでした。野外のビアガーデンでビールを飲み、カラオケを歌い、写真を撮る。それが立派な結婚式として成立している。
もちろん、これはあくまで一例です。北部では違うでしょうし、地方でも、フォーマルな会場を選ぶ家庭でも様子は変わります。ただ、「結婚式はこうあるべき」という枠が日本ほど強くないことは、たしかに感じました。
もしベトナムで結婚式に招かれる機会があったら、身構えずに行ってみてください。たぶん、想像しているよりずっと気楽な場所です。
よくある質問
- ベトナムの結婚式は日本とどう違いますか?
-
地域や家庭によって大きく異なりますが、伝統的な儀式と披露宴が別々に行われるのが一般的です。披露宴は野外の会場や地元のレストランで、ビールを飲みカラオケをする宴会に近い形になることもあります。また新郎側と新婦側で別々に披露宴を開くのが標準で、途中で帰ってよく、席次表もなく、引き出物にあたる習慣も見当たりません。
- 結婚式は時間どおりに始まりますか?
-
ベトナムには「giờ dây thun(ゴム時間)」という言葉があるほどで、招待状の時刻より大幅に遅れて始まることがあります。ただし地方には時刻どおりに始まる地域もあり、一律ではありません。余裕を持って構えておくのが無難です。
- 披露宴はどんな会場で行われますか?
-
ホテルやイベント会場のほか、自宅前や地元のレストラン、野外のビアガーデンのような場所などさまざまです。筆者が南部で参加したのは、50名ほどが入る野外の会場でした。昼に行う場合と夜に行う場合があります。
- 伝統的な儀式には誰が参加しますか?
-
基本的に身内が中心で、新郎側・新婦側からそれぞれ数名ずつ、結納品を運ぶ役割の人が招かれる形が一般的とされています。披露宴とは別に行われます。
- ベトナムの結婚式でご祝儀はいくら包みますか?
-
招待状に封筒が付いてくるので、そこにお金を入れて渡します。筆者の感覚では50万ドン札を1〜3枚程度、およそ50万〜150万ドン(3,000〜9,000円ほど)が目安です。間柄によって枚数を加減します。できるだけきれいなお札を選んで入れるのがおすすめです。
- 結婚式に招かれたら何を着ていけばいいですか?
-
会場のタイプによります。レストランや野外会場でのローカルな披露宴なら、シャツを着ていれば十分で、サンダルの人もいます。一方、家で行う伝統的な儀式に招かれた場合は、スーツやアオザイなどきちんとした服装が必要です。
- 知らない人でも参加できるのですか?
-
筆者が現地で聞いた話として、南部では街で行われている結婚式をのぞいていたら声をかけられ、招待されたというケースもあるそうです。地域や家庭によりますが、日本ほど形式張らない雰囲気があるようです。
