ベトナムの街を歩いていると、低いプラスチックの椅子に座ってコーヒーを飲んでいる人たちを必ず見かけます。歩道にずらりと椅子が並び、みんな同じ方向を向いて道路を眺めている——あの光景です。
でも、よく見るとコーヒーマシンと簡単な台があるだけ。カフェらしい看板もありません。正直、観光で来た人からすると「これ、入っていいのか?」と戸惑うと思います。
というわけで今回は、この路上カフェについて解説します。いくらするのか、どんな味なのか、そしてどう頼めばいいのか。
ちなみにこのスタイルには、ベトナム語でちゃんと名前があります。「cà phê cóc(カフェ・コック)」。語源には諸説あって、低い椅子にしゃがんで座る客の姿がカエル(cóc)に見えたから、という説がよく語られますが、コップ(cốc)が訛ったという説や、道具を出し入れする音からきたという説もあるようです。どれが本当かはさておき、この座り方を見れば「カエル説」に一票入れたくなる気持ちはわかります。
路上カフェには、大きく2パターンある
ひとくちに路上カフェと言っても、私の見立てでは2つのタイプがあります。これを知っておくと、味の想像がつきやすくなります。
① フィンで淹れる、昔ながらのベトナムコーヒー
ひとつめが、ベトナムコーヒー独特の「フィン(phin)」という金属のフィルターを使って抽出するタイプです。
路上のお店だと、朝のうちにまとめて抽出しておいて、瓶などに保管し、注文が入ったら注いで出す——というスタイルが多いです。お店によっては、フィンをカップに乗せたまま提供してくれて、目の前でぽたぽた落ちていくのを待つこともあります。
味は、みなさんが「ベトナムコーヒー」と聞いて想像するとおり。しっかり苦くて、味が濃いです。このタイプなら、練乳を入れてもらうこともできます。
ただ、正直に書くと、私はこのフィンタイプをあまり頼みません。カフェインがかなり強く感じられて、飲んだあと少し気持ち悪くなることがあるからです。コーヒーに強い方なら問題ないと思いますが、私のような人間には少し重たい。
これには理由がありそうです。フィンは4〜5分ほどかけてゆっくり抽出する器具で、お湯と粉が長く接触します。そのぶん濃く出る。加えてベトナムのコーヒーはロブスタ種が主流で、この品種はアラビカ種にくらべて苦味が強く、カフェインも多いとされています。「濃い豆を、長い時間かけて抽出する」——強く出ないほうが不思議かもしれません。
② エスプレッソマシンを置いている路上カフェ
もうひとつが、エスプレッソマシンを置いているタイプです。路上なのに、ちゃんとマシンがある。
ベトナムのロブスタ種の豆をその場で挽いて、マシンでエスプレッソを抽出し、氷を入れて出してくれます。
余談ですが、ベトナムはコーヒー生産量が世界2位で、ロブスタ種にかぎれば世界1位の国です。国内で穫れるコーヒーの大半がロブスタなので、路上で出てくる一杯も、たいていはこの品種ということになります。
こちらは正直、かなりおいしいと思っています。しかもフィンタイプに比べると濃さをそこまで感じないので、カフェインが苦手な人でも飲みやすいはずです。私が路上で頼むなら、だいたいこちらです。
| タイプ | 抽出方法 | 味の印象 | こんな人に |
|---|---|---|---|
| ① フィン式 | 金属フィルターでゆっくり抽出。朝にまとめて作り置きも | しっかり苦く、濃い | 本場のベトナムコーヒーを味わいたい人 |
| ② エスプレッソ式 | その場で豆を挽いてマシンで抽出 | おいしく、濃さはひかえめ | カフェインが苦手な人にも |
お茶か水が、必ず一緒に出てくる
路上カフェでも、普通のカフェでも同じなのですが、ベトナムでコーヒーを頼むとお水、あるいはお茶が一緒に出てきます。
これがとてもよくできていて、コーヒーとお茶を交互に飲むと、カフェインの強さがうまく和らぎます。濃いコーヒーを飲む文化だからこそ、こういう組み合わせが定着したのだろうな、と思っています。出されたら遠慮なく飲んでください。
この冷たいお茶は「trà đá(チャー・ダー)」と呼ばれます。席に着くと勝手に置かれ、伝票にも載らないことが多い。もともと「客に水を出すのは当たり前の礼儀」という昔ながらの習慣が、そのまま飲食店に持ち込まれたものだそうです。有料でも数千ドン程度なので、お会計で驚くことはまずありません。
気になるお値段は、100〜200円
肝心の値段ですが、路上カフェならだいたい15,000〜30,000ドン。日本円にするとおよそ100〜200円です。
この安さは、比べてみるとよくわかります。大手チェーンのHighlands Coffeeだと、フィンのコーヒーが29,000ドン前後から、エスプレッソ系だと45,000ドンほど。路上カフェは、その半分から3分の1という計算になります。
| どこで飲むか | 1杯の目安 | 円換算 |
|---|---|---|
| 路上カフェ(cà phê cóc) | 15,000〜30,000ドン | およそ100〜200円 |
| 大手チェーン(フィン系) | 29,000〜45,000ドン | およそ170〜260円 |
| 大手チェーン(エスプレッソ系) | 45,000ドン〜 | およそ260円〜 |
この値段で、椅子に座って、コーヒーを飲んで、ベトナムの街の空気をそのまま味わえる。コストパフォーマンスという意味では、かなりのものだと思います。なお、豆の相場が上がっている影響で路上カフェも少しずつ値上がりしているので、このあたりは目安として見てください。
頼み方は、思っているより簡単
看板がないぶん、「どうやって注文するのか」が一番の心理的ハードルだと思います。でも実際はとても簡単です。
- 席は自分で選ぶ:案内を待つ必要はありません。空いている椅子に座ってしまってOK
- 注文は口頭で:「cà phê sữa đá(カフェ・スア・ダー)」と言えば練乳入りアイスが出てきます。指差しでも通じます
- 支払いは帰り際:先に払う必要はありません。立つときに店主に声をかけて現金で払います
- 現金を用意:小さな屋台はキャッシュが基本。高額紙幣より小額紙幣があると親切です
- 長居してよい:1杯で何十分座っていても、まず嫌な顔はされません
最近の流行:塩コーヒー
もうひとつ、最近のトピックを。「cà phê muối(カフェ・ムオイ)=塩コーヒー」がここ数年で一気に広まりました。
もともとは中部フエの小さな店が2010年に始めたものだそうですが、2024年ごろからサイゴンの屋台にも一斉に登場し、ベトナムのスターバックスまで独自版を出したほどです。コーヒーに練乳と、塩の入ったクリームを乗せた一杯で、塩気が甘さを引き締めてくれます。見かけたら試してみてください。
路上カフェのいいところは、コーヒーを飲むというより「街を眺める権利を100円で買っている」感覚があることです。椅子はたいてい道路のほうを向いて並んでいて、みんな特に会話をするでもなく、バイクが流れていくのをぼんやり見ている。最初は「なぜ全員同じ方向を向いているんだろう」と思っていましたが、自分が座ってみると理由がわかりました。ただ座って、道を見ているだけで間が持つのです。観光のスケジュールに疲れたとき、この椅子に30分座るのが、実は一番ベトナムらしい時間の使い方かもしれません。
衛生面が気になる人は、無理をしない
正直なところを書いておくと、路上のお店なのでハエが飛んでいたりすることはあります。氷やグラスの扱いも、日本の基準からするとおおらかです。
ベトナムの保健当局が路上の飲食について注意を促していて、なかでも具体的に挙げられているのが氷です。製氷に使う水や、保管・運搬の状態によってはリスクがある、という指摘です。「路上カフェは危険」という話ではなく、氷の扱いは店によりけり、ということだと理解しています。
なので、そういうところが気になる方は無理をせず、しっかりした建物の中のカフェに入るのがいいと思います。ベトナムには冷房の効いた居心地のいいカフェも山ほどあります。ホットで頼めば氷を避けられる、という手もあります。
建物の中のカフェでも、ベトナムらしい味は頼める
ここでひとつ、知っておくと得をする話をします。
こじゃれたカフェのメニューを見ると、エスプレッソやアメリカーノと並んで、「cà phê đen đá(カフェ・デン・ダー)」のような表記があるはずです。この違いが、実は豆の品種の違いだったりします。
| エスプレッソ/アメリカーノ | アラビカ種を多めに配合したブレンドが使われることが多い。日本で飲むコーヒーに近く、酸味があって飲みやすい |
|---|---|
| cà phê đen đá など | ロブスタ種が主体。ベトナムらしい、苦味の強い一杯 |
ここは「エスプレッソ=アラビカ100%」と割り切れるほど単純ではなく、実際にはブレンドの配合で調整されています。最近はむしろロブスタ100%のスペシャルティ・エスプレッソを打ち出す店も出てきていて、このあたりの常識は動いている最中です。
それでも大枠として、路上に座るのはちょっと…という方でも、建物の中のカフェで「デンダー」を頼めば、ベトナムらしいコーヒーは味わえるということです。好みに応じて選んでみてください。
ついでに読み方も覚えておくと便利です。cà phê=コーヒー、đen=黒、sữa=練乳、đá=氷、nóng=ホット。「コーヒー+中身+温度」の順に並ぶので、cà phê sữa đá なら「練乳入りアイスコーヒー」。この4語さえ知っていれば、たいていのメニューは読めてしまいます。
コーヒー以外も置いている
最後に補足すると、この手の路上の店ではコーヒー以外も出てきます。ビールを置いている店もあれば、場所によっては普通のジュースもあります。
ベトナムには、プラスチックの椅子に座って路上で飲むという文化そのものがあります。味を楽しむだけでなく、その空気を感じるという意味でも、ぜひ一度トライしてみてください。座ってしまえば、思っていたより敷居は低いはずです。
よくある質問
- ベトナムの路上カフェはいくらくらいですか?
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だいたい15,000〜30,000ドン、日本円でおよそ100〜200円が目安です。この値段で座って街を眺められるので、コストパフォーマンスは高いと思います。
- 路上カフェのコーヒーはどんな味ですか?
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フィン(金属フィルター)で抽出するタイプは、しっかり苦くて濃いベトナムコーヒーらしい味です。エスプレッソマシンを使う店は、同じベトナムの豆でも濃さがマイルドで飲みやすい傾向があります。
- 観光客でも入れますか?注文はどうすればいいですか?
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看板がないので入りづらく見えますが、空いている椅子に自分で座ってしまって大丈夫です。注文は口頭か指差しで、支払いは帰り際に現金で。長居しても問題ありません。コーヒーには水かお茶(trà đá)が一緒に出てきます。
- メニューのベトナム語がわかりません
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cà phê=コーヒー、đen=黒、sữa=練乳、đá=氷、nóng=ホットの5語を覚えれば読めます。「コーヒー+中身+温度」の順に並ぶので、cà phê sữa đá なら練乳入りのアイスコーヒーです。
- 建物の中のカフェでベトナムらしいコーヒーを頼むには?
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メニューにある「cà phê đen đá(カフェ・デン・ダー)」などを選ぶと、苦味の強いロブスタ種のベトナムらしいコーヒーが飲めます。エスプレッソやアメリカーノはアラビカ種が使われることが多く、日本で飲むコーヒーに近い味わいです。
