ベトナムのファッションを動かしているのは、いま20代前後の若い世代——いわゆるZ世代だ。彼らが何を基準に服を選び、どうやって買っているのかを知ると、なぜ無名のローカルブランドが次々とファンを集めるのかが見えてくる。この記事は、ベトナムのアパレルを「つくる側」ではなく「買う側」から掘り下げる。
先に大枠を言うと、ベトナムのZ世代の消費には3つの特徴がある。①ブランドの知名度より「自分の価値観に合うか」で選ぶ、②スマホの動画から直接買う、③海外の憧れと自国への誇りが同居している——この3点だ。順に見ていく。

まず、ベトナムのZ世代とはどんな層か
ベトナムは東南アジアでも特に若い国で、人口の中心が若年層に寄っている。生まれたときからスマートフォンとSNSが当たり前にあったデジタルネイティブで、経済成長とともに可処分所得も伸びてきた。「お金を使える若い世代が、SNSで四六時中つながっている」——この組み合わせが、ファッション消費の土台になっている。
| 指標 | おおよその水準 | 出典・注記 |
|---|---|---|
| Z世代の人口 | 約1,300万人(総人口の約2割) | 1997〜2012年生まれ。Friedrich Naumann財団/PwC |
| 若年構成 | 人口の40%超が30歳未満 | 東南アジアでも特に若い国 |
| SNS利用者 | 約7,270万人(2024年1月) | DataReportal「Digital 2024: Vietnam」 |
| 主要SNS | Facebook 約7,270万/TikTok 約6,772万/Instagram 約1,090万 | 同上。TikTok・FBが圧倒的で、IGは比較的小さい |
数字の細部は調査によって幅があるが、共通して言えるのは「若く、デジタルで、発信する世代」がボリュームゾーンだという点だ。しかも彼らは2025年までに労働力人口の3割前後を占めると見られており、”財布を持つ”側にも回りつつある。若さ・デジタル・可処分所得がそろった層が分厚い——この一点だけで、なぜベトナムのファッションが動きやすいのかがわかる。
見落とせないのが、そのデジタルの中身だ。同じSNS大国でも、ベトナムはInstagramの利用者がFacebookやTikTokにくらべてぐっと少ない。写真映えのIGよりも、動画とライブのTikTok、そしてコミュニティのFacebookが日常の中心にある。ここを取り違えると、”どこで発信すれば若者に届くか”を読み違える。
① 選ぶ基準は「知名度」より「共感」
ベトナムのZ世代にとって、ファッションは「自分らしさ」を表す最も身近な手段だ。かつてのように有名ブランドだから、値段が高いから選ぶのではなく、「自分の価値観に合うか」を判断のものさしにする。ブランドの世界観やつくり手の姿勢に共感できれば、無名でも迷わず手に取る。
市場調査会社Cimigoは、ベトナムのZ世代について「企業の建前をそのままは受け取らず、第三者のレビューや信頼できる発信者の言葉を重んじる」と指摘する。信頼は”ブランドが自分で何を言うか”ではなく”他人が何と言っているか”から生まれる、という感覚だ。だからこそ、SNSでリアルな声が積み上がる小さなブランドが強い。
もうひとつ効いているのが「近さ」だ。新世代ブランドの多くは、古着の転売や街の仕立て屋から始めた”普通の個人”が立ち上げている。作り手の顔が見え、打ち出し方も体型や年齢を選ばない。orié baieの「体型ではなく、好きな服を着る自信こそが美しい」、Label of Laceの「体型にかかわらず心地よく」といったメッセージは、「モデルが着る憧れの服」ではなく「自分でも着られる服」という親近感を生む。この距離の近さが、共感をそのまま購入につなげている。
いっぽうで、よく語られる「サステナブル志向」は割り引いて見たほうがいい。「Z世代の9割が環境配慮のブランドを選ぶ」といった数字は世界規模の調査で、ベトナム限定のものではない。ベトナムの研究も、扱っているのは購入”意向”どまりで、実際の購買行動ではない。世界的にもZ世代はファストファッション最大の買い手で、”語ること”と”買うこと”にはギャップがある。実際に財布を動かすのは、いまも価格・トレンド・「みんなが良いと言っているか」という社会的証明だ。サステナブルは、選ぶ理由の”上乗せ”にはなっても、まだ主役ではない。
| 選ぶ基準 | 知名度・価格 →「自分の価値観に合うか」 |
|---|---|
| 響く要素 | 大手の広告 → 世界観・作り手の顔・親近感 |
| 親近感 | “普通の個人”が発信 →「自分でも着られる」 |
| サステナブル | 語られるが、実購買は価格・トレンド・社会的証明が優先 |
| 自国ブランド | 無名でも共感できれば迷わず支持 |

② 買い方が変わった——スマホの動画から、その場で買う
選び方と同じくらい変わったのが、買い方だ。ベトナムのZ世代は、Facebook・Instagram・TikTokで日々ファッションを追い、動画で見つけた服をそのままリンクから買う。店で試着してから、ではなく「見つけて即購入」が当たり前になった。
その舞台はInstagramだけではない。むしろベトナムでは、Facebookと動画のTikTokが日常の中心にある。通販モールのShopeeやTikTok Shopで、動画やライブ配信から直接買う流れが一気に広がった。
| 指標 | 2024年の水準 | 出典・注記 |
|---|---|---|
| 主要4モールの流通額 | 前年比40%増の約138億USD | YouNet ECI(Shopee/Lazada/TikTok Shop/Tiki) |
| TikTok Shop | 約38億USD・シェア約27% | 発見型コマースの主役として急伸 |
| 最大カテゴリ | ファッション・アクセが取引額トップ | 2024年Q1で約23.4兆VND(4モール横断/YouNet ECI) |
検索して買うのではなく、動画やライブで「見つけて、その場で買う」——いわゆるショッパーテインメントが、ファッションでとりわけ強い。Instagramはブランドの世界観を見せる場として効くが、実際に数を動かしているのはTikTokとShopeeだ、というのがベトナムの特徴だ。
とりわけ勢いがあるのがライブ配信での販売だ。ホストが実演しながら売るライブコマースはファッションと相性がよく、大型セールでは1回の配信で数十万件の注文が入るような瞬間も生まれている(YouNet ECI報道。ただしこれはピーク時の事例で、日常の平均値ではない)。「テレビショッピングをスマホで、しかも双方向で」という感覚が、若い世代の買い物の入口になっている。
この「動画→即購入」の流れは、大きな在庫や実店舗を持たない小さなブランドに決定的な後押しになった。InstagramのDMや通販モールのShopeeだけでも、数万人規模のファンに服を届けられるからだ。
旅行者にとっては、これはむしろ朗報だ。街で見かけて気に入った服も、店名やタグをスマホで検索すればアカウントや通販ページにたどり着けることが多い。「その場では買わず、あとでスマホから」という現地の買い方に乗れば、荷物を増やさずにお目当てを持ち帰れる。
③ 「韓国っぽさ」と「自国プライド」が同居する
ベトナムのZ世代のワードローブには、韓国ファッションの影が濃い。「ストリート×ミニマル」を軸に、韓国アイドル風のゆったりしたシルエットや落ち着いた配色が広く受け入れられている。K-POPとK-beautyが敷いた”韓国的な美意識”が、日々の着こなしの下地になっている。
おもしろいのは、その憧れと「自国ブランドを着る誇り」が矛盾なく同居していることだ。テイストは韓国風でも、実際に選ぶのはホーチミンやハノイの現地ブランド、というケースが多い。海外のトレンドを取り込みながら、それを自分たちの手でつくり直す——この二層構造が、ベトナムのローカルブランドを厚くしている。
ストリートの分野では、この「借りて、つくり直す」がさらにはっきり出る。アメリカや韓国のストリートウェアの文法を土台にしながら、ベトナムやアジアの文化のモチーフ、ローカルなスラングやグラフィックを乗せる。海外の型をなぞるだけでは埋もれるからこそ、”自分たちらしさ”をどう混ぜるかが、生き残るブランドの分かれ目になっている。

Z世代に選ばれるブランドの、共通点
では、実際にZ世代の支持を集めているのはどんなブランドか。タイプは違えど、共通するのは「SNSで世界観を語り、共感でファンを育てている」点だ。
- She by Shi(ホーチミン)|鮮やかな色柄の手頃な女性カジュアル。”シティガール”層の日常着
- Nhà kho Liti(ホーチミン)|韓国風トレンドをいち早く取り込むミドルプライス
- usthebasic(ホーチミン)|ベーシック路線で学生〜若年層に浸透
ストリート寄りの層も厚い。若者アワードで「最も愛されるユースファッションブランド」に選ばれたDirtyCoins、独自ファブリックを掲げるLevents、ベトナムやアジアの文化要素をストリートに落とし込むDegreyなど、国産ストリートブランドがZ世代の日常着として定着している。メンズD2CのCoolmateのように、機能性とオンライン完結で伸びた例もある。
ここで見落としたくないのが、伸び方には二つの道があることだ。ひとつは、日常着で共感を積み上げる”親近感”の道。もうひとつは、海外セレブやK-POPアイドルが着たことで一気に知られる”憧れ”の道だ。JennieがはいたスカートのLSEOUL、Bella Hadidらが着たFancì Clubは後者で、これはK-POPと同じ「スターが着る服」の構造で跳ねた。つまり「K-POPは憧れ、ベトナムは親近感」ときれいに分かれるわけではなく、同じベトナムの新世代のなかに、親近感で広がる層と憧れで跳ねる層が併存している。この二層で見ると、シーンの厚みがより立体的に見えてくる。
もっと小さな、手書きの名前カード一枚から始まるようなブランドも同じだ。シルクのワンピースやレースの下着を、共感してくれる少数のファンに向けて丁寧につくる。この積み重ねが、次のヒットブランドを生む土壌になっている。新世代ブランドの全体像や、ハノイの現場の様子は別記事でまとめている。

店内の靴を手に取ったとき、値札に「To: lovely」と印刷されているのが目に入った。自分で自分に贈るように買う——そんな空気が、商品の一つひとつにまとわりついている。ベトナムの若い買い手は、必要だから服を買うというより、「なりたい自分」や「好きな世界観」に近づくために買っている。だから値段や知名度より、共感できるかどうかが効く。広告予算を持たない小さなブランドが数万人に届くのも、この「自分への贈りもの」を選ぶ感覚に、うまく寄り添えているからだと感じた。
旅行者は、この世代の視点を借りると買い物が変わる
この世代の選び方を知っておくと、ベトナムでの買い物が一段おもしろくなる。有名モールの海外ブランドを追うより、TikTokやInstagramで現地の若手ブランドを検索し、セレクトショップで実物に触れるほうが、今のベトナムの気分に近づける。気に入ったブランドは、その場で買えなくてもアカウントをフォローしておけば、帰国後に通販でつながっていられる。
ちなみに、つくる側から見てもこの市場の勘所は同じだ。ベトナムのZ世代に届くのは広告の物量ではなく「価値観への共感」と「SNSでの語り」で、知名度がなくても世界観がはっきりしていれば選ばれる。大手の物量に頼れない小さなつくり手にとっては、この世代の選び方こそがいちばんの後押しになっている。
よくある質問
- ベトナムのZ世代はどんな基準で服を選びますか?
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ブランドの知名度や価格よりも「自分の価値観に合うか」を重視する傾向が強く、世界観やつくり手の姿勢に共感できれば無名ブランドでも選びます。サステナブルな素材や手仕事への関心も高めです。
- どこで服を買っていますか?
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Instagram・TikTok・Facebookで見つけた服を、そのままリンクやダイレクトメッセージ、通販モールのShopeeで買う「動画で見つけて即購入」が主流です。実店舗を持たないブランドも多く、SNSが実質的な売り場になっています。
- なぜ海外ブランドより自国のローカルブランドが人気なのですか?
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テイストは韓国ファッションの影響を受けつつ、実際に選ぶのは共感できる現地ブランド、というケースが増えています。海外のトレンドを自分たちの手でつくり直す動きが、自国ブランドへの誇りとして表れています。
- 旅行者が現地の若者ブランドに触れるにはどうすればいいですか?
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気になったブランド名をTikTokやInstagramで検索し、複数ブランドが集まるセレクトショップで実物を見るのが近道です。ハノイやホーチミンのコンセプトストアなら、いまの気分をまとめて確認できます。
