ホーチミン市の中でも在住日本人や欧米人が多く集まるタオディエン地区。おしゃれなカフェやイタリアン、韓国焼肉が並ぶこのエリアの、住宅街の一番奥まった路地に、チベットの蒸し餃子「モモ(momo)」を出す小さな店があります。店名は「Om Momo」。地元英字メディアSaigoneerの看板コラム「Hẻm Gems(路地の名店)」が2026年6月14日に取り上げ、サイゴンで暮らす人々の間で静かに話題になっています。店主はチベット難民の家系に生まれ、20年間広告業界で映像監督を務めた人物。観光ガイドにはまず載らない、知る人ぞ知る一軒です。
本記事では、このニュースの要旨を整理したうえで、店主の歩んできた道のり、メニューと予算、現地での受け止め方を紹介します。そのうえで、サイゴンを訪れる日本人旅行者がこの店をどう楽しめるか、そして移民が彩るサイゴンの食文化という視点から、独自の考察を加えます。
起点となったニュースの要旨
Saigoneerが報じた内容を整理すると、要点はこうです。タオディエン(行政区分上は旧2区、現在はAn Khánh)の住宅コンパウンドの一角に、チベット料理店「Om Momo」が2024年に開業しました。店主はTsering Tashi Gyalthang氏。1959年のチベット動乱後にインド北部で育ったチベット難民の家系で、2000年代初頭にベトナムへ渡り、長く広告・ドキュメンタリーの映像監督として活動してきました。手作りの蒸し餃子モモを看板に、ラム・牛・鶏・ほうれん草とチーズなどの具材を用意。料理を「物語を語る手段」と位置づけ、多くのサイゴン住民にとって初めてのチベット文化との出会いの場になっています。
広告監督からモモの店主へ、店主の物語
Tsering氏が飲食の道に進んだきっかけは、2023年にさかのぼります。当時、彼は「State of Statelessness(無国籍の状態)」という映像プロジェクトのためにチベット人の友人たちを自宅に招いていました。皆で生地をこね、具を包み、モモを作る。その共同作業の時間に、彼は何かを掴んだと振り返ります。
Saigoneerに対して、彼はこう語っています。「監督としてずっと広告を作ってきたが、どれだけ美しく仕上げても、それは自分のものにはならなかった。あの頃の私は、もっと人間らしい何かをやりたいと感じていた」。映像という、いくらでも編集できて完璧に作り込める仕事の対極にある、手で握るしかない不器用で素朴な作業に、彼は惹かれていったのです。
思い立ってからの動きは堅実でした。2024年の丸一年を、彼はモモ作りの習得に充てています。故郷で母や友人から包み方を教わり、サイゴンに戻ってからは毎日のように手を動かして練習を重ねました。そんなとき、近所のカフェが空くという話が舞い込みます。自分でも驚いたことに、彼はその場で引き受け、友人のAnto氏の力を借りて店を開きました。Tsering氏は「食は物語を語ること」と語り、料理だけでなく店内の写真や音楽も含めて、訪れた人がチベットの歴史や人々に「興味を持つきっかけ」になればと話しています。
そもそもモモとは何か
モモは、チベットとネパールを中心に食べられている蒸し餃子です。名前はチベット語の「モクモク(mog mog)」に由来するとされ、ヒマラヤ交易を通じてネパールへ伝わり、現在ではネパールの国民食とも呼ばれるほど定着しています。1959年のチベット動乱後、多くのチベット人がインドへ移り、その際にモモの製法も各地へ広がりました。Tsering氏自身の家族の歩みと、モモという料理が国境を越えて広がってきた道のりが重なって見えるのは、偶然ではないのかもしれません。
日本人がイメージする中国の焼き餃子や水餃子とは、食感も食べ方も少し違います。Om Momoのモモは生地がやや厚めで、具材は素材の味を生かしたシンプルな構成。そのまま食べても、インド風のカレーソースや自家製の発酵唐辛子ソースを添えても楽しめます。
メニューと予算の目安
Om Momoはモモ以外にもチベットの家庭料理を幅広く揃えています。元記事をもとに主なメニューを整理しました。価格は店ごとの個別表記が確認できなかったため、ここでは記載していません。1人あたりの予算の目安として、Saigoneerは約20万ドン前後を挙げています。日本円ではおおよそ1,200円前後(1円≈170ドン換算)が一つの目安になりますが、為替や注文内容で変動します。
| 料理名 | 内容 |
|---|---|
| モモ(蒸し餃子) | ラム・牛・鶏・ほうれん草とチーズの4種。やや厚めの生地に素材を生かしたシンプルな具 |
| 自家製ソース | 辛さの異なる3種類の発酵唐辛子ソース。インド風カレーソースも選べる |
| シャプタ(Shapta) | 牛または鶏をピーマン・玉ねぎ・トマトと炒めた一皿。蒸しパンのティンモを添えて |
| チキン・シャムデー(Shamdey) | 鶏とじゃがいものシチューをご飯と。チベットの家庭の味と紹介される |
| ケワ・ダツィ(Kewa Datshi) | 柔らかいじゃがいもを唐辛子とチーズのソースで |
| チベットバター茶 | 発酵させた黒茶にバターを加えた塩味のお茶。木の器で供される |
| デザート | 赤ワインと香辛料で煮た洋梨「酔っ払いラマ」、チョコレートラバケーキ、チベットローズのパンナコッタ |
現地・客の反応
現地での受け止め方を、報道や店をめぐる声から3つの角度で見てみます。
第一に、サイゴンの食を取材し続けるSaigoneerが、看板コラム「Hẻm Gems」で取り上げたこと自体が一つの評価です。同コラムは、表通りからは見えにくい路地の名店を発掘する企画。観光客向けの派手な店ではなく、住宅街の奥にある一軒を選んだ編集判断に、この店の本物さがうかがえます。
第二に、店の体験そのものへの評価です。中央に置かれた円筒形のターコイズ色のオブジェ、壁を埋める鮮やかな写真とアート、岩塩ランプの温かい光、屋外席の上にはためくタルチョ(祈りの旗)。Saigoneerはこの空間を、料理と同じくらい物語性のある場として描写しています。多くのサイゴン住民にとって、ここがチベット文化に触れる最初の入口になっているという点も繰り返し強調されています。
第三に、店主自身の言葉に表れる手応えです。「みんなが好奇心を持ってくれること」を願うというTsering氏の姿勢は、味だけでなく、その背景にある物語ごと受け止めてもらえている実感の裏返しでもあります。デリバリーアプリには対応せず、足を運んだ人にだけ届ける構えも、この店の性格をよく表しています。
日本人旅行者への示唆
では、サイゴンを訪れる日本人旅行者にとって、この店はどんな意味を持つでしょうか。考察を3つに分けて述べます。
一つ目は、タオディエンという土地との相性の良さです。この地区は在住日本人にとって生活圏でもあり、出張や長期滞在で訪れる人も少なくありません。一区画の中に韓国焼肉、ブラジル料理、日本の回転寿司、ベトナム精進料理が共存するのがこの街の面白さですが、そこに「チベット料理」という選択肢が加わったことの意外性は大きい。フォーやバインミーといった定番の合間に、まったく異なる食文化を一食はさめるのは、滞在を立体的にしてくれます。
二つ目は、料理を「物語ごと味わう」体験の価値です。日本人旅行者が海外で求めがちなのは、写真映えする派手な料理や有名店の行列ですが、Om Momoが差し出すのはその逆です。難民として国を持たない家系に生まれた店主が、20年の広告キャリアを手放して、手で握るしかないモモにたどり着いた。その背景を知ったうえで一口頬張るモモは、単なる蒸し餃子以上の重みを持ちます。食を通じて土地の歴史や人の生き方に触れたいと考える旅行者にとって、これ以上ない一軒です。
三つ目は、日本の食卓との接点です。蒸した皮で具を包むモモは、餃子や肉まんに親しんだ日本人の舌にすっと馴染みます。バター茶の塩味や発酵唐辛子ソースは初体験でも、料理の輪郭そのものは想像しやすい。異国の料理に踏み出す最初の一歩として、ハードルが低いのも魅力です。辛さは3段階のソースで調整できるので、辛いものが苦手でも安心して頼めます。
移民が彩るサイゴンの食
Om Momoの登場は、一軒の新店という以上の意味を持っています。サイゴンの食は、もともと多様な人の流れが積み重なってできてきました。フランス統治期に持ち込まれたバゲットがバインミーになり、各地の華人が麺料理を持ち込み、いまは世界中の駐在員が母国の味を運んできた。タオディエンに国際色豊かな店が集まるのも、その延長線上にあります。
そこに、難民として移り住んだチベット系の店主が、自国の家庭料理を静かに置いたことの意味は小さくありません。観光向けに薄めた料理ではなく、母から教わった製法をそのまま出す。商業映像の世界で完璧を追い続けた人が、あえて素朴で人間くさい手仕事に戻った。サイゴンの食の懐の深さは、こうした個人の物語を一皿ごとに受け止められるところにあります。旅行者がその一皿を選ぶことは、料理を消費するだけでなく、街が育ててきた多様性の一部に触れることでもあります。
行き方・利用のコツ(実用情報)
訪問の前に押さえておきたい実用情報をまとめます。住所や営業時間はSaigoneerの掲載情報に基づきます。変更の可能性があるため、訪問前に電話などで最新の状況を確認することをおすすめします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | Om Momo |
| 住所 | 11/2 Street No. 57, An Khánh(旧タオディエン/2区), ホーチミン市 |
| 営業時間 | 平日12:00〜21:30/週末11:30〜22:00 |
| 電話 | 0918 699 697 |
| 予算目安 | 1人あたり約20万ドン前後(約1,200円/1円≈170ドン換算) |
| 支払い | 各種対応 |
| 駐車 | 車・バイクとも可 |
| デリバリー | 配達アプリ非対応(店内飲食のみ) |
行き方のコツとしては、店が住宅コンパウンドの奥まった一角にあるため、地図アプリで番地まで入力し、最後は路地を歩いて探す心づもりでいると迷いません。タオディエン中心部からはバイクタクシーや配車アプリで向かうのが現実的です。注文のコツは、まず看板のモモを2〜3種類シェアで頼み、3段階のソースを味見しながら、シャプタやシチューを一品足す流れ。木の器で出るチベットバター茶は塩味で好みが分かれるので、少量から試すと安心です。デリバリーがないぶん、店の雰囲気ごと味わうつもりで時間に余裕を持って訪ねたい店です。
まとめ
Om Momoは、派手さや行列とは無縁の、住宅街の路地裏にひっそりとある一軒です。だからこそ、難民の家系に生まれ、広告監督から転身した店主が手で握るモモには、観光地の有名店にはない密度があります。タオディエンに滞在する日本人にとっては、フォーやバインミーの合間に異文化を一食はさむ恰好の選択肢になりますし、サイゴンの食の多様性を体で知りたい旅行者にとっては忘れがたい体験になるはずです。次にホーチミン市を訪れる機会があれば、タオディエンの路地を少しだけ奥へ歩き、木の器のバター茶とできたてのモモで、チベットという遠い土地の物語に触れてみてください。
よくある質問
Om Momoはどこにありますか
ホーチミン市タオディエン地区(旧2区、現在のAn Khánh)の住宅コンパウンド内、11/2 Street No. 57にあります。住宅街の奥まった一角のため、地図アプリで番地まで入力し、最後は路地を歩いて探すとたどり着きやすいです。
モモとはどんな料理ですか
チベットとネパールを中心に食べられている蒸し餃子です。Om Momoのモモは生地がやや厚めで、具材は素材の味を生かしたシンプルな構成。そのまま、あるいはインド風カレーソースや自家製の発酵唐辛子ソースを添えて食べます。ラム・牛・鶏・ほうれん草とチーズの4種があります。
予算はどのくらいですか
Saigoneerによると1人あたり約20万ドン前後が目安です。日本円ではおおよそ1,200円前後(1円≈170ドン換算)ですが、為替や注文内容で変わります。配達アプリには対応しておらず、店内での飲食のみとなります。
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