ホーチミン市3区の路地にある精進フォーの食堂「フォー・チャイ・ニュー(Phở Chay Như)」は、地元英字メディアSaigoneerが「35年続く精進食堂」として取り上げた一軒だ。肉も鶏ガラも使わないベジタリアンのフォーを長年出し続けてきた店で、肉を避けたい旅行者にとって現実的な選択肢になる。何が食べられて、いくらで、どう訪ねればいいのかを、ベトナムの精進食(đồ chay)の実際とあわせて紹介する。
54 Trương Quyền、朝6時から開く1986年創業のフォー・チャイ・ニュー
店は3区の 54 Trương Quyền にある。行政区の呼び名は再編で変わっており、地図や口コミでは「Phường 6 / Võ Thị Sáu」(旧表記)と「Xuân Hòa坊」(現行)が混在する。Googleマップでは店名「Phở Chay Như」か住所の番地で引いた方が確実だ。レ・ヴァン・タム公園(Lê Văn Tám)のそばで、スタッフは朝5時から仕込みを始め、6時に開店する。閉店時刻は資料により差があり、Saigoneerは21時、地図サービスの一部は20時と表示する。夜に行くなら当日の営業を確認しておくと安心だ。
予算は1人あたり100,000ドン未満が目安。2026年7月時点の為替(およそ1円=164ドン)で換算すると約600円前後で、レストランというより街の食堂の価格帯だ。支払いは現金が無難で、電子決済やQRの可否は店によって変わるため、現金(ドン)を持っておきたい。
創業時期については、現地グルメサイトの掲載名に「1986年からの家伝(gia truyền từ 1986)」とあり、1986年前後とみられる。Saigoneerが紹介した2020年時点では「35年」、2026年の今ではおよそ40年になる計算だ。いずれにせよ、数十年にわたり同じ路地で肉なしのフォーを出し続けてきた老舗であることは変わらない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 店名 | フォー・チャイ・ニュー(Phở Chay Như) |
| 場所 | 54 Trương Quyền・ホーチミン市3区(旧: Phường 6 / Võ Thị Sáu、現行: Xuân Hòa坊) |
| 最寄り | レ・ヴァン・タム公園から徒歩圏 |
| 営業 | 6:00〜21:00(地図サービスにより20:00表記あり/当日確認推奨) |
| 予算 | 1人100,000ドン未満(約600円前後) |
| 支払い | 現金推奨(電子決済は店により異なる) |
| 創業 | 1986年頃(約40年) |
| 主なメニュー | フォー・チャイ、コムタム、ボーコー、ミー・クアン(いずれも精進版) |
旧暦1日と15日に肉を断つ習慣が、精進食堂の裾野を広げている
ベトナムでこの手の店が街のあちこちで成り立つのは、仏教に根ざした「チャイ(chay)」の習慣が広く定着しているからだ。チャイは「精進・肉なし」と「斎戒」の両方を指す言葉で、実践は大きく二つに分かれる。年間を通じて肉を断つchay trườngと、旧暦の決まった日だけ肉を控えるchay kỳである。
後者で最も一般的なのが、旧暦1日と満月の15日の月2回を守るかたちで、地域や宗派によって守る日数はさらに増える。毎月決まった日になると、普段は肉を食べる人も含めて精進食の需要が一気に立ち上がる。だからベトナムの精進食堂は一部の菜食主義者だけを相手にしているのではなく、月に何度も客層が入れ替わる前提で回っている。フォー・チャイ・ニューのような一軒が数十年続いてきた背景には、この毎月繰り返す需要がある。
きのことゆばで出汁を組む、肉なしでもフォーが物足りなくならない仕組み
肉なしのフォーがなぜ成立するのか。Saigoneerの記者は、この店の一杯について、ベジタブルストックをベースに、きのこと巻いた湯葉(ゆばの皮)がうまみとコクを補っていると描写している。牛骨の代わりに植物性のだしと大豆加工品で、「土っぽい(earthy)」深みを出す作りだ。
そこにベトナムのフォーらしい生バジル、ライムの酸味、唐辛子の辛み、そして精進版のヌクマム(nước mắm chay)の塩気と甘みが重なる。動物性の肉こそ入らないが、香りと食感で満足感を組み立てている。きのこのうまみ成分と大豆たんぱくで肉の役割を埋める発想は、日本の精進料理とも共通する。麺料理の「主役の穴」を、香りと出汁でどう埋めるかという設計だ。
ベジ・ヴィーガン・ハラルは別物、ビールを置く「肉なし食堂」という位置づけ
ひとつ注意したいのは、精進食(チャイ)とヴィーガン、ハラルはそれぞれ別の基準だという点だ。フォー・チャイ・ニューの面白いところは、仏教系の精進食堂でありながら店内でビール(タイガー、ハイネケン)を出すことだ。Saigoneerによれば、その点を尋ねられた店員も面白がっていたという。厳格な戒律で統一された店ではなく、あくまで「肉を使わない食堂」という位置づけだ。
豚肉を避けたいムスリムの旅行者にとって、肉なしの一杯は現実的な逃げ場になる。ただしビールを提供する店であり、ここはハラル認証店ではない。厳密なハラルを求めるなら、ホーチミン市には認証を受けた専門店(ベンタイン市場周辺のムスリム系店など)を別途あたるのが筋だ。ヴィーガンの人は、精進版とはいえヌクマムや、卵・乳を使う品が混じる場合があるので、気になるメニューは注文時に一言確認するといい。
1人約600円で通える、日本人旅行者のアクセスと頼み方
日本から訪ねる場合の要点を挙げる。予算は先述のとおり1人100,000ドン未満(約600円前後)と、街の食堂の価格帯だ。海外で食べるベトナム料理の割高さと比べると差は大きい。たとえば当サイトで紹介したヒマラヤの麓でフォー1杯1,480円、年の半分だけ開くベトナム食堂のような例と並べると、本場サイゴンの精進フォーが数百円で食べられる価値がよくわかる。
場所は3区、レ・ヴァン・タム公園そばの路地。中心部からはGrabなどの配車アプリで店名「Phở Chay Như」か番地を指定すると迷いにくい。朝6時から開くので、活動を始める前の朝フォーとしても使える。注文は「フォー・チャイ(phở chay)」を軸に、コムタム(精進版の折れ米)、ボーコー(肉なしのシチュー)、ミー・クアン(クアン風の和え麺)と選択肢が広い。ヌクマムを避けたいときは「không nước mắm(ヌクマム抜き)」と伝えるとよい。支払いは現金が確実なので、日本からの短期旅行者は現金(ドン)を用意しておくのが無難だ。
3区は老舗の入れ替わりが激しい街でもある。当サイトではサイゴン3区のボッチェン老舗「ダッタン」が営業終了という、17年続いた店が建物改修で幕を下ろした話も伝えた。40年近く営業を続けるフォー・チャイ・ニューは、そうした流れのなかで生き残ってきた一軒だ。長く続く食の担い手という点では、TikTokで味を継ぐサイゴン4代目のフーティウ店とも重なる。世代や時代の変化のなかで、路地の味がどう受け継がれるのかを見に行く一皿だ。
