「ベトナムって治安はどうなの?」とよく聞かれます。ウェブサイトや動画では、バイクによるひったくり、水や氷に当たる、怪しい人に声をかけられる——といった注意点が並んでいます。
先に立場をはっきりさせておくと、この記事は「そういう心配は要りませんよ」と言う記事ではありません。スリに気をつけるとか、水に注意するとか、よく言われていることは、たしかにそのとおり注意したほうがいいと思っています。
前提として、ベトナムは外務省の危険情報が出ていない国です(2026年8月時点)。外務省も「治安状況は総じて安定している」としています。ただし同時に、ひったくりやスリ、置き引きへの注意喚起は継続して出されています。「安全な国だけれど、油断してよい国ではない」というのが実情に近いと思います。
そのうえで、実際にこの国で暮らしている私が「ここは本当に気をつけたほうがいい」と感じていることを、一般的な注意点にプラスする形で書いてみます。特に後半の食事の話は、あまり他では見かけない内容かもしれません。
① いちばん現実的な脅威は、やっぱりバイク
まず交通です。ベトナムの道路は、日本人の感覚だと正直こわいです。これは気のせいではなく、WHOの推計では、ベトナムの人口あたり交通事故死者数は日本のおよそ6.6倍とされています。外務省の統計でも、2025年の死者は1万人を超えました。
信号のない場所を渡るときは、左右だけでなく前後もしっかり見て、バイク、自転車、車、トラックが来ていないかを確認してから、慎重に渡る必要があります。なお在ダナン日本国総領事館は「横断歩道も歩行者にとって安全とは言えず、一時停止してくれるような車両はほぼない」と明記しています。横断歩道だから安心、とは考えないほうがいいです。
最大のコツは「渡っている最中に走らないこと」
そのうえで、私がいちばん大事だと思っているのがこれです。渡っている途中で、急に走らないこと。
ベトナムのバイクは、常に前を見て、相手を避けながら走っています。この「避ける」ときに、ライダーと歩行者のあいだでコンマ1秒の駆け引きが起きていると思うのです。目を合わせるのか、合わせないのか。この人はこのペースで進むな、だからこの隙間を抜けよう——という判断が、一瞬でなされている。
だから、渡っている最中に「こわい」と感じて急に走り出すと、ライダーの予測が外れて戸惑ってしまい、かえって事故につながる可能性があります。急に走らない。一定のペースで歩く。そして左右をしっかり見る。この3つが、ベトナムの道路を渡るときの基本だと思っています。
道路沿いでは、スマホとカバンの位置に注意
渡っている最中よりも、むしろ危ないのが道路沿いです。歩道でスマートフォンを触っていると、バイクで近づいてきて取られることがあります。カバンを道路側に持っていると、これも同じように狙われます。ここは、よく言われているとおり本当に注意したほうがいいところです。
これは私の実感というだけでなく、外務省も「後方からバイクに乗った犯人が近づき、追い越しざまに携帯電話等をひったくる」手口を具体的に挙げています。日本人が多く集まるエリア(ハノイのキンマー・リンラン、ホーチミンのレタントン・タイバンルン周辺)が名指しで注意対象になっている点も、覚えておいて損はありません。
在ベトナム日本国大使館の「安全の手引き」には、そのまま実践できる一文があります。「深夜帯はタクシーを呼ぶ際に、携帯電話を路上で操作するのではなく、店舗内で操作する」。配車アプリを開くその一瞬が狙われる、という発想は、日本にいるとなかなか出てきません。
② Grabを呼ぶとき、空港では気をつける
交通に関連してもうひとつ。配車アプリのGrabを使うときの話です。
特に空港では、偽の画面を見せてくる人がいます。いかにも配車アプリのような画面を提示して、自分がその運転手であるかのように装うパターンです。アプリに表示された車種・ナンバー・運転手の名前と、実際の車をきちんと照合するようにしてください。
これは在ホーチミン日本国総領事館も公式に注意喚起しています。手引きに載っている実例が、そのものずばりでした。Grabで手配した車を探していたら「グラブ?」と声をかけられ、「イエス」と答えたら別の車に案内された——そして目的地とは違う場所に連れて行かれ、法外な料金を請求された。
総領事館は「偽物ドライバーは助手席に乗車するよう強く求める傾向がある」とも指摘しています。また、車内では「絶対に財布の中身を運転手に見せたり、財布を渡したりしない」こと。財布に新聞紙をかぶせ、その隙に抜き取るという手口も報告されています。
支払いについては、クレジットカード決済にしておけば基本的に問題ありません。Grabはアプリ側でカード事前決済ができるので、不安な方はそちらをおすすめします。
現金払いにすると、お札の桁を読み違えて多く払ってしまうことが起こり得ます。ベトナムの紙幣はゼロが多いうえ、色の系統が似ている組み合わせがあるのが厄介です。具体的には次の2組に注意してください。
| 紛らわしい組み合わせ | 色 | ひとこと |
|---|---|---|
| 50万ドン ⇔ 2万ドン | どちらも青系 | 25倍の違い。最も痛い取り違え |
| 20万ドン ⇔ 1万ドン | どちらも茶系 | 実際にすり替え事件が報じられている |
ニャチャンでは2025年に、タクシー運転手が外国人観光客の20万ドン札を1秒未満で1万ドン札にすり替える様子が撮影され、本人が認めるという事件がありました。報道でも「2枚は色味が似ていて、ベトナム人でも取り違えることがある」と書かれています。払うときは、ゼロの数を一度落ち着いて数えてください。
③ 食事——水や氷より、私が警戒しているもの
ここからが本題です。「ベトナムは水や氷が危ない」とよく言われます。これについての私の実感は、正直、人によります。当たらない人はまったく当たりませんし、当たる人は当たります。ただ、これはあくまで体感の話です。
公的な見解は、もっとはっきりしています。ベトナムの水道水は、国の水質規格そのものが「蛇口から直接飲む水には適用しない」と明記していて、制度上そもそも飲用として作られていません。外務省も米国CDCも厚労省検疫所も、飲用を避けるよう案内しています。
氷についても、「都市部の店の氷は工場製だから安全」という話をよく聞きますが、これを裏づける公的な情報は見当たりませんでした。むしろホーチミン市の検査では、氷の検体のおよそ1割が微生物の基準を満たしていなかったという結果が出ています。市の保健当局自身が「見た目では清潔かどうか判別は極めて難しい」「できるだけ使う量を減らすべき」と言っています。
とはいえ、暑いベトナムで氷を完全に避けるのは現実的ではありません。私も普通に飲んでいます。なので「絶対ダメ」ではなく、お腹が弱い自覚がある人、大事な予定を控えている人は控える、というくらいの温度感がちょうどいいと思います。
そのうえで、私が「これはちょっと」と思っているものが2つあります。
危ないと思うもの その1:血を固めた具材
ベトナムの麺料理には、血を固めた黒っぽいゼリー状の具材が入っていることがあります。ベトナム語で「huyết(フエット)」と呼ばれるものです。
気になるのは、その扱われ方です。固める前の環境がどうなのか。そして固めたあとも、常温で置かれていることがある。これは私見ですが、心配な方は避けておくのが無難だと思っています。
ただ、この記事を書くにあたって調べ直したところ、もっと重要な区別があることが分かりました。ここは声を大にしてお伝えしたい部分です。
🔴 本当に危険なのは「tiết canh(ティエットカイン)」
麺に入っている huyết は加熱して固めたものです。専門医のコメントによれば、豚レンサ球菌などの原因菌は十分に加熱すれば死滅します。常温放置による腐敗のリスクは残りますが、加熱されている限り、菌そのものは処理されている。
一方、まったくの別物として「tiết canh(ティエットカイン)」という料理があります。こちらは生の血をそのまま固めたもので、加熱していません。これが本当に危険です。
ベトナムでは、この生血食による豚レンサ球菌(Streptococcus suis)の感染症が毎年報告されています。髄膜炎や重い敗血症を起こし、致死率は3〜7%、重症化した場合はさらに高くなるとされます。2025年にも、生血を食べた後に発症した患者のクラスターが確認され、全国で年40例前後が報告されています。ベトナム保健省とWHOは「tiết canh と、十分に加熱されていない豚肉製品を絶対に食べない」よう勧告しています。
旅行者が自分から注文することは少ないと思いますが、「地元の人におすすめされた」「めずらしい料理だから」という流れで口にしてしまう可能性はゼロではありません。血の料理を勧められたら、それが加熱されたものか生かを必ず確認してください。これだけは、味の好みの問題ではありません。
危ないと思うもの その2:エビ、とくにエビ味噌
もうひとつがエビです。エビは収穫されてから運ばれるあいだに、少し傷んでしまうケースがあります。そして傷んだあとに冷凍されると、頭の部分——いわゆるエビ味噌が体調不良の原因になるのではないか、と考えています。私自身、実際に2回当たりました。
これは単なる思い込みではないようです。食品科学の研究では、エビは頭(肝膵臓)から先に、最も速く傷むことが分かっています。頭にはタンパク質を分解する酵素が多く含まれていて、それが時間の経過とともに身のほうへ移り、肉質の劣化を進めていく。冷蔵物流の業界マニュアルにも「有頭エビは、この部分が急速に傷むため、漁獲後できるだけ早く頭を落とすべき」と書かれています。
つまりエビそのものが危ないのではなく、頭は鮮度が落ちるのがいちばん速い部位だ、ということです。流通や保存の状態が読めない店では、頭・味噌の部分だけ遠慮しておく。これが私の落としどころになっています。
代表的な料理として挙げたいのがバインセオ(bánh xèo)です。「ベトナム風お好み焼き」と紹介されることが多い料理で、中にもやしや豚肉、そしてエビが入っています。
余談ですが、あの鮮やかな黄色い生地、卵はまったく入っていません。米粉とココナッツミルクの生地に、ターメリック(ウコン)で色をつけたものです。オムレツのように見えて卵不使用、というのがこの料理の面白いところ。
話を戻すと、バインセオはエビが丸ごと入っているタイプがあります。その場合は、頭の部分に少し気をつけてみてください。
④ 日本語で声をかけてくる人には、一歩引く
最後は人です。ベトナムには日本語を話せる人がそれなりにいます。だからこそ、日本語で親しげに声をかけてくる人には、一歩引いて接したほうがいいと思っています。
街中で声をかけてきて、「一緒にどこそこへ行こう」「乗せていってあげる」と誘ってくるパターンは、やはり警戒したほうがいいです。また、飲食店などでたまたま知り合った日本語の話せるベトナム人についていく場合も、自分で判断せずに流されると、危ない目に遭う可能性があります。
この感覚は、私の思い込みではありませんでした。在ホーチミン日本国総領事館の「安全の手引き」には、日本語で声をかけてくる手口が具体的に2つ載っています。
| 手口 | 内容 |
|---|---|
| ① 紙幣を見せて型 | 英語または日本語で「日本の紙幣を見せてほしい」と話しかけ、親切心で財布を出したところを取り上げられ、紙幣を抜き取られる |
| ② イカサマ賭博型 | 片言の日本語などで親しくなり、自宅に招待。食事中にカードゲームの賭博へ誘導され、最終的にホテルへ現金を取りに戻らされたり、カードで貴金属を買わされたりする |
②については、総領事館が2024年と2025年に繰り返し注意喚起を出しています。手引きの言葉はきわめて明快です——「見知らぬ人からの自宅への招待には絶対に応じない」。ちなみにベトナムでは賭博は違法なので、巻き込まれた側も捜査の対象になり得ます。
さらに深刻なのが昏睡強盗です。総領事館の手引きには「街中でベトナム人に親しげに声をかけられて、睡眠薬入りの飲み物を飲まされ、意識が薄れたところで現金やクレジットカード等を奪われる」被害が挙げられています。混入されるものによっては命に関わる場合もあると明記されており、女性の場合は性被害に至る危険性も指摘されています。
日本語が通じる安心感は、異国ではとても大きいものです。だからこそ、そこにつけ込まれやすい。「日本語が話せる=信用できる」ではない、ということだけは、頭の片隅に置いておいてください。
⑤ 危険ではないけれど、フライトと入国審査には余裕を
最後に、これは「危ない」という話ではなく、「余裕を持っておいたほうがいい」という話です。でも旅程が崩れると旅そのものが台無しになるので、個人的にはかなり重要だと思っています。
ベトナムのフライトは、よく遅れる
ベトナムの国内線・国際線は、ディレイ(遅延)がわりと日常的に起こります。そのため、ぎりぎりのスケジュールでフライトを入れるのは避けたほうがいいです。
とくに気をつけたいのが乗り継ぎです。「この便で着いて、すぐ次の便に乗る」という組み方をしていると、前の便が遅れただけで計画全体が崩れます。乗り換えを含む旅程を組むときは、ある程度の余裕を持たせておくことを強くおすすめします。
ホーチミンのイミグレーションは、時間帯によってかなり混む
もうひとつがイミグレーション(出入国審査)です。ホーチミンの空港は、入国・出国ともに、時間帯によって非常に混雑します。行列が長く伸びていて、思ったより時間を取られることがあります。
ここは本当に大事なところで、「空港には早めに着いておく」というだけで防げるトラブルです。特に出国時は、搭乗時刻から逆算してぎりぎりで動くと危険なので、余裕を見て向かってください。
住んでいて思うのは、ベトナムは決して「危険な国」ではない、ということです。夜に出歩いても、日本と極端に違う怖さを感じることは少ない。ただ、リスクの種類が日本とは違うだけなのだと思います。日本で暮らしていると、道路を渡るときに命の危険を意識することはあまりないし、出てきた料理の保存状態を疑うこともあまりない。ベトナムでは、その2つに少しだけ注意を向ける。それだけで、体感のリスクはかなり下がります。過剰に怖がる必要はないけれど、油断してよい場所でもない——そのあいだのちょうどいい距離感が、住んでみて分かってきた気がします。
まとめ:一般的な注意点+α
この記事で挙げたのは、一般的に「ベトナムで危ない」とされていることに、在住者としての実感を足したものです。最後に整理しておきます。
| 場面 | 気をつけること |
|---|---|
| 道路を渡る | 左右と前後を確認。途中で急に走らない。一定のペースで歩く |
| 道路沿いを歩く | スマホを出したままにしない。カバンは道路と反対側に持つ |
| Grabを呼ぶ | 空港では偽の画面に注意。車種・ナンバー・氏名を照合。支払いはカードが安全 |
| 現金を払う | 紙幣のゼロの数を必ず確認する |
| 食事(水・氷) | 水道水は飲まない。氷は体調と予定に応じて加減する |
| 食事(血の料理) | 🔴生血の tiết canh は絶対に食べない。加熱済みの huyết も心配なら避ける |
| 食事(エビ) | 頭・味噌は最も傷みやすい部位。店を選んで判断 |
| 声をかけられる | 「紙幣を見せて」「自宅に招待」は既知の手口。飲み物を勧められても口をつけない |
| フライトを組む | 遅延は日常的。乗り継ぎには余裕を持たせる |
| 空港に向かう | ホーチミンの入国・出国審査は時間帯によって大混雑。早めに着く |
ベトナムは、正しく警戒していれば十分に楽しめる国です。ここに挙げたことだけ頭に入れて、あとは思いきり旅を楽しんでください。
よくある質問
- ベトナムの治安は悪いですか?
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極端に危険な国ではありませんが、日本とはリスクの種類が違います。とくにバイクによるひったくりと交通事故には注意が必要です。夜間の外出そのものが極端に危険というわけではありませんが、スマートフォンやカバンの持ち方には気をつけてください。
- 道路を渡るときのコツはありますか?
-
左右だけでなく前後も確認したうえで、一定のペースでゆっくり歩くことです。バイクは歩行者を避けながら走っているため、途中で急に走り出すと相手の予測が外れて、かえって危険になります。
- ベトナムで食事をするとき、何に気をつければいいですか?
-
水道水は飲まないでください。氷は体調や予定に応じて加減するのが現実的です。具材では、エビの頭・味噌は最も傷みやすい部位なので店を選んで判断を。そして生の血を使った tiết canh は絶対に避けてください。
- tiết canh(ティエットカイン)とは何ですか?なぜ危険なのですか?
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生の血を固めたベトナムの料理です。加熱していないため、豚レンサ球菌などに感染するリスクがあり、髄膜炎や重い敗血症を起こすことがあります。ベトナムでは毎年感染例が報告されており、保健省とWHOが食べないよう勧告しています。麺に入っている加熱済みの血のゼリー(huyết)とは別物です。
- 日本語で話しかけてくる人は信用できますか?
-
日本語が話せることと信用できることは別です。在ホーチミン日本国総領事館は「日本の紙幣を見せてほしい」と声をかける手口や、親しくなって自宅に招きイカサマ賭博に誘導する手口を公式に警告しています。また、睡眠薬入りの飲み物を飲まされる昏睡強盗の被害も報告されています。見知らぬ人からの招待には応じず、勧められた飲み物に口をつけないでください。
- フライトや空港で気をつけることはありますか?
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ベトナムではフライトの遅延が起こりやすいため、乗り継ぎを含む旅程には余裕を持たせてください。またホーチミンの空港は入国・出国審査が時間帯によってかなり混雑するので、早めに空港へ向かうことをおすすめします。
