ホーチミン市アンラック坊で9月22日、日本酒のショールーム「Tasu+ Fine Sake & Beyond」が開業した。ベトナムのオンライン紙VnExpressが同日伝えた記事によると、開業式には日本国総領事館の代表、ベトナムにある日本の企業団体、日本酒の生産者、飲食・宿泊分野の提携先の代表が出席した。高級な日本酒の銘柄を扱う流通拠点でありながら、展示とテイスティング、専門セミナー、資格講座を同じ場所に並べる構成になっている。
Tasu+ Fine Sake & Beyondの開業式に、小野益央総領事と日本の企業団体が並んだ
出席者として挙がっているのは、日本国総領事館の代表、ベトナムにある日本の企業団体、日本酒の生産者、そしてレストランとホテル分野の提携先の代表である。
掲載写真のキャプションには、在ホーチミン日本国総領事の小野益央(Masuo Ono)氏が開業式で挨拶したこと、和太鼓の奏者が式で演奏したことが記されている。小野氏は2023年3月に在ブリスベン総領事から在ホーチミン総領事へ発令された(VIETJO)。VnExpressは氏名と肩書きを記すのみで、挨拶の内容には触れていない。
運営者は従来型の飲料小売ではなく多面的な文化体験の場と説明、展示は産地・醸造元・発酵法まで記す
記事は同社の代表の説明として、従来の飲料小売のモデルで運営するのではなく、多面的な文化体験の空間を目指す方針を紹介している。来場者は日本酒の歴史、醸造の技術、原料の産地、そして日本でこの飲み物と結びついてきた地域の暮らしを通して、日本酒を総合的に知ることができるという説明だ。
展示の作りにも記述がある。内装はミニマルな様式で、自然素材を使い日本の伝統建築を思わせる設計にしたという。各展示エリアには、製品ごとに産地、醸造元の名前、発酵の手法の情報を揃えて示している。Tasu+の代表は、一本ごとの日本酒が米の品種、水、麹づくりの技術、そして酒づくりの職人に何代も受け継がれてきた経験の相互作用を映すものであり、生産の背景を示すことで味の背後にある食文化の価値と物語が消費者に伝わる、と述べている。
展示とテイスティングと資格講座が同じ場所に、酒器は日本とベトナムの作家の作品
「Beyond Sake」として記事が挙げる方向は、飲料の商品だけにとどまらず、料理と工芸へ広げるというものだ。来場者は多様な味わい方を体験でき、なかでもベトナム料理や各国の料理に日本酒を合わせるペアリングが強調されている。あわせて、日本とベトナムの作家が制作した陶器と、酒を楽しむための道具を展示している。
ショールームの機能を項目ごとに並べると、次のようになる。
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| 流通 | 高級な日本酒の各銘柄を扱う |
| 展示 | 製品ごとに産地、醸造元の名前、発酵の手法を表示。歴史や醸造の技術、原料の産地も紹介 |
| テイスティング | 試飲の会を定期的に開催 |
| セミナー | 座談会と専門テーマの講習会。内容は日本酒の等級分類、保存の技術、標準的な提供温度、食卓の文化 |
| 資格講座 | 国際的な日本酒の教育機関と協力し、専門資格の講座をベトナムへ導入する |
| ペアリング | ベトナム料理と各国料理に日本酒を合わせる体験 |
| 工芸の展示 | 日本とベトナムの作家が制作した陶器と酒器 |
作り手の世代や立場が異なるものを一つの空間に並べる展示は、公的な催しの側でも組まれている。ハノイでは9月26日まで、工業美術大学とハノイ市文化スポーツ観光局が主催する工芸展「NGHE」で、工芸村の技と大学の学生・講師の作品、企業が実際に売る製品が横並びになっている。ベトナムの陶磁器の現在地を見ておきたいなら、ハノイ滞在中に寄れる。
講座が扱うのは等級分類と保存と提供温度、対象はソムリエと料理人と宿泊・飲食の従事者
商業活動と並べて、記事は日本の日本酒生産者とベトナム国内市場を直接つなぐ役割を目標に掲げると書いている。定期的に開く試飲会、座談会、専門セミナーの対象として名前が挙がるのは、テイスティングの専門家、料理人、それに宿泊・飲食サービス業に携わる人材だ。扱う内容は日本酒の等級分類、保存の技術、標準的な提供温度、食卓の文化の4項目。さらに国際的な日本酒の教育機関と協力し、専門資格の取得講座をベトナムに持ち込むとしている。
提供温度が講座の項目に入っているところは、現地の酒席の習慣と並べると読みやすい。ベトナムではビールに氷を入れる飲み方が広く、氷入りビールを扱った記事で紹介した2019年のQ&Me調査(回答者682人)では、「たいていの場面で氷を入れる」と答えた人が79%、「一度も入れない」は5%だった。日本酒とビールは別の飲み物だが、リンク先で整理したとおり、氷を入れるかどうかは価格帯と客層で分かれ、常温管理と適温提供を売りにするクラフトビール店も増えている。提供温度を項目立てて教える講座は、その適温志向の層と重なるところに入ってくる。
ホーチミンで日本酒を飲める場所そのものは、すでにある。ビンタイン区(Bình Thạnh)ファムビエットチャン通りのディスコ酒場「Doobie Doo Bar」は、佐賀県・天吹酒造の花酵母で醸した酒や、栃木県・小林酒造の愛山米を使った酒を、おでんやきつねバインミーと合わせて出す店として紹介した。
運営側は、産地が明確な高級輸入品と文化体験への関心がベトナムの飲料市場で高まっている状況を背景に挙げる。Tasu+ Fine Sake & Beyondの代表はVnExpressに「商業と市場教育を組み合わせることで、日本の伝統的な酒蔵がベトナムの消費者にきちんと届く環境をつくりたい」と述べている。等級や保存、提供温度を業界の人材に教える講座と資格の導入は、その市場教育の側に置かれている。
アンラック坊は旧ビンタン区、サイゴン中心部から西へ約11キロ
記事が示す所在地は「phường An Lạc, TP HCM」までで、番地はない。アンラック坊はホーチミン市の西側で、中心部(サイゴン坊)から西へ約11キロ離れた旧ビンタン区の区域にあたる。イオンモール・ビンタンがあるエリアで、1区や3区の日本料理店街からは市内移動が必要になる。このアンラック坊は、国会常務委員会の2025年6月16日付決議1685/NQ-UBTVQH15により旧アンラック坊、旧アンラックA坊、旧ビントリドンB坊を統合して2025年7月1日に発足した。区(quận)の階層は置かれず、坊が市の直下にある。
9月22日に開業したこと、場所がアンラック坊であること、試飲会とセミナーを定期的に開くと運営者が説明していること、この3つが今のところ確かな情報だ。日本酒の資格講座をベトナムで受けたい在住者なら、次に確かめたいのは講座の開講時期と、協力する教育機関の名前である。番地、営業時間、価格、取り扱い銘柄数、協力先の教育機関名はいずれもVnExpressの記事には出ていない。


