ホーチミン市の旧8区あたりを歩いていたスウェーデン人の旅行者が、砂糖の入らないアイスのブラックコーヒーを買おうとして立ち往生した。ベトナム語が話せず、どうにか説明しても店の人は首を振る。その様子を見ていた地元の女性が自分から声をかけ、バイクの後ろに乗せて近くの店まで送り、コーヒー代まで払った。ベトナム紙Dân tríが9月24日に報じた一件で、取材に答えたのはRobert Bergさん(28歳、スウェーデン出身)。女性とは名前も連絡先も交わさないまま別れている。
甘さの指定でつまずくのは、ベトナムに着いたばかりの日本人にも起こる。原文で確かめられたことを並べ直したうえで、ホーチミンでコーヒーを頼むときに効く言い方までまとめる。
旧8区で砂糖なしの注文が通らず、見知らぬ女性のバイクに乗った
最初に入った店は砂糖を混ぜたものしか置いていなかった
Dân tríの記事によると、Bergさんは旧8区(原文の表記は quận 8 cũ)のあたりを歩きながら、砂糖の入らないアイスのブラックコーヒー、ベトナム語でいう cà phê đen đá không đường を探していた。苦味が好きで普段からブラックを飲み、暑い国ではとくに氷入りを選ぶという。ところがベトナム語が分からないため注文が通らない。ある店に入って飲みたいものを説明したが、店の人は「無い」と首を振った。
そこで動いたのが、そばにいた地元の女性だった。最初Bergさんは注文を代わりに伝えてくれるだけだと思っていたが、女性はバイクで近くの別の店まで送ると申し出た。最初に入ったその店が砂糖をあらかじめ混ぜたコーヒーしか置いていなかったからだ、と原文は書く。これは彼が入った一軒の事情として書かれたもので、ベトナム中の店がそうだという話ではない。
本人が口にした言葉はどこまでか
この手の話はいつの間にか脚色が足される。原文で引用符が付いているBergさんの発言は数か所で、バイクに乗ると決めた場面はこうある。「すべてがとても偶然で自然に進んだ。かなり驚いたが、長くは迷わなかった。彼女は誠実で親しみやすく見えたし、そのときの状況は安全だと感じられた」。一方「砂糖なしのコーヒーが欲しかった」は発言ではなく、記者の地の文として書かれている。
女性がしたのは、注文を手伝い、バイクで店まで送り、代金を払い、「cà phê không đường」の発音を教えた、という四つだ。道中は英語で話せたので言葉の壁はほとんど問題にならなかった、とある。別れ際に名前も連絡先も聞けず、二人はその後連絡を取っていない。
| 項目 | 原文に書かれている内容 |
|---|---|
| 人物 | Robert Bergさん、28歳、スウェーデン出身 |
| 出所 | Dân tríの記者に本人が語った(2026年9月24日公開、署名 Mộc Khải) |
| 場所 | ホーチミン市の旧8区エリア(quận 8 cũ) |
| 探していたもの | 砂糖なしのアイスのブラックコーヒー(cà phê đen đá không đường) |
| つまずいた理由 | ベトナム語が話せず、入った店は砂糖入りしか扱っていなかった |
| 女性がしたこと | 注文の手伝い、バイクでの送り、代金の支払い、発音の指導 |
| その後 | 名前も連絡先も聞けずに別れ、再会していない |
| 旅程 | 3月の初めてのベトナム旅行で、約2週間をホーチミン市だけに使った |
注文でつまずくのは味の好みではなく、言葉と作る順番のほうだ
「không đường」が言えると何が変わるか
女性が発音を教えたのは、次に自分で頼めるようにするためだった、と原文にある。短いやり取りでいちばん実用的なのはこの部分だ。không đường(砂糖なし)は単語二つで、店先で言えば通じる。注文が通らない理由の多くは、好みが特殊だからではなく伝える言葉を持っていないことにある。
もう一つの壁が、飲み物を作る順番だ。あらかじめ甘くした状態で用意している店では、その場で砂糖を抜く選択肢が残らない。断られたのは好みを否定されたからではなく工程がそうなっていた、という読み方になる。粘るより店を替えるほうが早く、この日も女性はそう判断した。
ベトナムのコーヒーは「濃くて強い」と本人は話している
たどり着いた一杯は探していたものと一致したとBergさんは話し、母国で普段飲むものと比べてベトナムのコーヒーは「かなり濃くて強い」と評している。その強さが気に入ったとも述べている。砂糖なしを選ぶ人ほど、この濃さに当たったときの落差は大きい。
甘さと氷をめぐる飲み方は、この一杯だけの話ではない
ビールに氷を入れる人は75%、薄めるほうが多数派だ
甘さや氷の扱いは、ベトナムの飲み物では日本と前提が違う場面がしばしばある。当サイトで以前取り上げたビールに氷を入れる飲み方についての記事では、ベトナムでビールを飲む人の75%が氷を入れるという2019年のQ&Me調査が、現地の英語メディアSaigoneerの寄稿経由で紹介されている。冷えた一杯をわざわざ薄める飲み方も、暑い土地では筋が通った選択として説明されていた。甘さを最初から混ぜてしまう作り方も、同じ延長に置くと納得しやすい。
フエでは発酵調味料入りのコーヒーも出ている
逆方向の振れ幅もある。フエのカフェが出すマムルオック入りコーヒーは、アミを塩で発酵させた調味料をコーヒーに入れるもので、価格は店頭で1杯55,000ドンだ。こちらはフエ市の店の話で、Bergさんが訪れた店とは関係がなく、彼はホーチミン市から出ていない。甘い・甘くないの二択で語られがちなベトナムのコーヒーに、実際はもっと幅がある。
2週間をホーチミン1都市だけに使った旅で何を見たか
印象に残った場所は戦争証跡博物館、勧めたのは地元の人
Bergさんの旅程も少し変わっている。3月の初訪越で、複数の省や都市を回らず約2週間をホーチミン市だけに使った。観光客の多い現代的な区画から生活の音がする住宅地まで歩いたが、それでも行けなかった場所が残ったと話している。アジアの大都市はいくつか訪れていたので混雑は想像していたが、バイクの数と、それが生活に組み込まれている度合いは現地で初めて実感したという。
とくに印象に残った場所として挙げたのは戦争証跡博物館で、これも地元の人に教わって行った先だった。展示は軽い気持ちで見られるものではなかったが、ベトナムの歴史を深く理解する助けになった、と述べている。開館時間や入館料は今回の記事に載っていないので、行くなら公式の案内で確かめてほしい。
バインセオとコムタムが好み、チャオロンは苦手だった
食べたものはバインセオ、コムタム、ブンボーフエ、バインクオンなど。いちばん気に入ったのはバインセオとコムタムの二つだ。ほとんど口に合ったが、チャオロン(モツ入りの粥)だけは体験として試したものの食べにくかった、と正直に話している。約2週間で最も強く残ったのは料理でも街並みでもなく人の親切さだった、というのが本人の結論だ。
日本から行く人はこの話から何を用意しておけばいいか
助けてもらう側に回る前提で1日を組む
この話を「ベトナム人は親切」で終わらせると、持ち帰れるものが残らない。Bergさんは自分から地元の人に話しかける旅をしていて、見知らぬ人への一つの質問がその日の行き先を丸ごと変えることがある、と話している。実際、博物館は地元の人に教わった先で、カフェで話しかけた生徒たちからも近くの行き先を聞いている。移動の効率だけで1日を埋めると、この種の展開は起きにくい。
移動の事情は行き先で違う。彼がバイクの後ろに乗ったのは旧8区での話で、中心部は地下鉄2号線の工事で主要2本の通りが3年以上の一方通行に切り替わる区間を抱える。ドンコイ周辺に宿を取る出張者ほど、所要時間は厚めに見ておいたほうがいい。
スウェーデンとの距離感の違いを本人はこう説明した
Bergさんがこの出来事を特別だと感じた理由も、原文で説明されている。スウェーデンの人はかなり控えめで、必要なときには助け合うが、見知らぬ相手とは一定の距離を保つのが普通だという。そのうえで「彼女には私に何かをする理由も義務もなかった。だからこの行為には大きな意味があった」と述べている。ベトナムが観光大使を必要とするなら、あの日の彼女はその役を十分に果たしていた、とも話している。
日本から行く人も、距離を詰められることに慣れていない側として現地に立つ。親切を断る形になっていないか、逆に相手の時間を一方的に使っていないかは、その場で判断するしかない。Bergさんは「安全だと感じられた」から乗ったと明言しており、そう感じられない場面まで同じようにしろという話ではない。
店先で使う言葉は数が少ない
注文で必要な語は多くない。下の表の上二つは今回の記事に出てくる表記で、残りは店先で一般に使われる言い方だ。発音に自信がなければ画面に出して見せるだけでも足りる。
| 頼みたいこと | ベトナム語 | 出所 |
|---|---|---|
| 砂糖なしで | không đường | 記事にある表記(女性が発音を教えた言葉) |
| アイスのブラック | cà phê đen đá | 記事にある表記 |
| 甘さ控えめで | ít đường | 一般的な注文の言い方 |
| 氷なしで | không đá | 一般的な注文の言い方 |
| 氷少なめで | ít đá | 一般的な注文の言い方 |
| 練乳入りのアイス | cà phê sữa đá | 一般的な注文の言い方 |
次の一杯で試すなら
今回の記事には店名も住所も価格も出てこないので、「この店へ行けばいい」という形では持ち帰れない。代わりに確実に持てるのは二語だ。ホーチミンでの最初の一杯で、メニューを指さしながら không đường と言ってみる。断られたら粘らずに次の店へ移る。Bergさんの一日が動いたのもその判断からだった。


