韓国のイ・ジェミョン大統領夫妻が、2026年4月23日夜にハノイ旧市街ディンリエット通り40番地の小さなフォー店「Phở Lý Quốc Sư」を訪れ、店主トゥー・ヴァン・ムイ氏ら家族と25分間の食事を楽しんだ。注文はフォー17杯と牛肉チャーハン2皿。広さわずか15平米・5卓のこの店は、訪問翌日から行列が普段の3倍に膨れ上がり、別都市や韓国からの観光客の予約も相次いでいる。VnExpress InternationalとTuoi Tre Newsの現地報道をもとに、その全容を整理する。
路地裏の小店で繰り広げられた25分間
大統領夫妻が「Phở Lý Quốc Sư」に到着したのは4月23日の午後7時頃。随行員を含む10人以上の一行は、靴を脱いで2階のキッチン兼ダイニングへ案内された。注文の中心は同店の看板であるウェルダン牛肉のフォーで、これに発酵野菜と牛肉のチャーハンを2皿添えた。店主のムイ氏はメディアの取材に対し「夫妻は完食して微笑み、おいしかったとうなずいてくれた」と語っている。
事前に「韓国人客はパクチーを敬遠する傾向がある」と聞かされていたムイ氏は、夫妻の器にはパクチーを入れず、青ねぎだけで香りを立てる調整を行った。出汁は牛骨30kgを18〜20時間煮込んだもので、魚醤を控えめにして牛骨と乾燥したサスン(ホシムシ)、干しイカで甘みを引き出すレシピが特徴だ。
15平米・5卓の路地店がなぜ選ばれたのか
「Phở Lý Quốc Sư」は、ハノイ旧市街の細い路地に位置する家族経営の店。歩道での営業が制限される前は1日300〜400杯を売り上げていたが、規制後は売上が落ち込んでいたという。Googleレビューは★4.4と高く、観光ガイドにも度々登場している。一杯55,000ドン(約324円)という価格設定は、観光地の中心としては良心的だ。
大統領府は事前に複数の候補店を選定したうえで、ハノイの庶民の味を体験できる場所として同店を選んだとされる。ムイ氏は「うちのような小さな店が選ばれるとは思わなかった」と当夜の興奮を語り、夫妻と撮影した写真を引き伸ばして店内に飾る予定だ。
外交日程の合間に旧市街を散策
イ・ジェミョン大統領は、ベトナムのトー・ラム書記長兼国家主席の招待で4月21日から24日までベトナムを国賓訪問していた。これは2026年6月の就任以降、初の東南アジア歴訪となる。23日の夜は公式行事の合間に夫妻でホアンキエム湖周辺を散策し、ディンリエット通りのフォー店に立ち寄ったかたちだ。VietnamNetによると、訪問の主な目的はベトナム・韓国包括的戦略パートナーシップの深化だった。
ハノイ旧市街はエッグコーヒー発祥のジャン・カフェや老舗フォー店が密集する地区で、各国首脳の「味の外交」舞台として知られる。2016年にはオバマ前大統領が同じく旧市街でブン・チャーを食べた逸話が世界中に拡散した。
注文内容と価格データ(円換算 1JPY=170VND)
| メニュー | 注文数 | 単価(VND) | 単価(円) |
|---|---|---|---|
| ウェルダン牛肉のフォー | 17杯 | 55,000 | 約324円 |
| 牛肉と発酵野菜のチャーハン | 2皿 | 80,000 | 約471円 |
| 合計(推定) | 19品 | 約1,095,000 | 約6,440円 |
大統領夫妻ともに会計は通常通り行われた。ベトナムでは要人来店時も無料提供をしないのが通例で、ムイ氏も「他のお客様と同じ料金をいただいた」と話している。
SNSと現地客の反応
「うちの近所のフォー屋に大統領が来るなんて、ハノイ人として誇らしい。夫妻が食べた17杯がとにかく印象的」(Facebook、Hanoi在住・40代男性の投稿意訳)
「韓国人観光客として、明日はディンリエット通りに行きます。大統領が選んだ味を確かめたい」(Threads、ソウル在住・20代女性の投稿意訳)
「観光地化していない庶民の店をあえて選んだセンスがいい。これが本物のフォー外交だ」(X、Hanoi在住・フードブロガーの投稿意訳)
ベトナム人ユーザーからは「家族経営の小店を選んだ大統領のセンス」を称賛する声が多く、韓国人ユーザーからは「次の旅行で必ず行く」という反応が相次いだ。
日本人観光客への影響
ハノイ旧市街は日本人観光客にとっても定番のエリアで、デジタル到着カードの義務化後も訪問者は増加傾向にある。「Phở Lý Quốc Sư」は朝6時から夜9時頃まで営業し、英語メニューはないものの写真付きの注文表が用意されている。座席数は限られるため、訪問のピーク時間(11時台、19時台)は30分以上の待ち時間が発生する見込みだ。
注文時に「No coriander(パクチー抜き)」と一言添えれば対応してもらえる。現金(VND)のみの会計で、QRコード決済や日本円直接払いには対応していない。
業界・社会への波及
大統領訪問のニュースが流れた4月24日以降、店の電話は鳴り止まず、ハノイ市外からも予約の問い合わせが入るようになった。ムイ氏は「興奮で一晩眠れなかった」と語り、家族3人で対応してもさばききれない状況だという。
ベトナム観光業界では、こうした「首脳が選んだ庶民店」がSNS経由で世界の観光客を呼び込む現象を「pho diplomacy(フォー外交)」と呼んでいる。2016年のオバマ訪問時は会場となったブン・チャー店「フォン・リエン」が観光客で連日満員となり、現在もリピート客が絶えない。同店の事例から、Phở Lý Quốc Sưもフォーをめぐる近年の話題とは対照的に、家族経営の透明性が評価される展開が予想される。
訪問前に押さえる実用情報
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 店名 | Phở Lý Quốc Sư(フォー・リー・クォック・スー) |
| 住所 | 40 Đinh Liệt, Hoàn Kiếm, Hà Nội |
| 営業時間 | 06:00〜21:00頃(売り切れ次第終了) |
| 定休日 | 不定休 |
| 看板メニュー | ウェルダン牛肉のフォー(55,000VND) |
| 店舗サイズ | 約15平米/5卓 |
| 支払方法 | 現金(VND)のみ |
| アクセス | ホアンキエム湖から徒歩約3分 |
| 近隣スポット | タンロン水上人形劇場、ハンガイ通り |
まとめ:庶民の小店が外交舞台になる時代
大統領夫妻が選んだのは、観光客向けに整えられた高級店ではなく、地元客で溢れる路地裏の家族経営店だった。15平米5卓の小店が世界に発信されたことは、ハノイの食文化の奥深さを象徴する出来事となった。一杯324円のフォーが、ベトナムの食外交における新しい看板になりつつある。
日本からハノイを訪れる際は、混雑時間を避けて午前中の早い時間帯に立ち寄るのがおすすめだ。シンプルなねぎだけのフォーを、店主が毎晩牛骨を煮込み続ける香りの中で味わってほしい。
引用元
- Dân trí|Tổng thống Hàn Quốc và phu nhân ăn phở, cơm rang dưa bò giữa phố cổ Hà Nội
- Tuoi Tre News|Hanoi ‘pho’ restaurant draws crowds after South Korea’s Lee Jae Myung visit
- VnExpress International|Inside Hanoi pho shop that serves South Korea’s president
- VietnamNet|RoK President, spouse conclude state visit to Vietnam
