ホーチミン1区に出現した「分子フォー」の殿堂
2025年12月21日、ホーチミン市1区トンタッダム通り91番地に、わずか14席のカウンターレストラン「Pot Au Pho 2.0」がオープンした。手がけるのは、ベトナム初のミシュラン星を獲得したAnan Saigonのシェフ、Peter Cuong Franklin氏。12皿のテイスティングコースで、フォーという国民食を分子ガストロノミーの技法で再構築する。
1皿あたり約350万VND(約2万600円)。フォー1杯が3万VND前後で食べられるベトナムで、この価格設定は挑戦的だ。だが予約は連日埋まり、ウエイティングリストが伸び続けている。
Peter Cuong Franklin——難民からミシュラン星シェフへ
ベトナム系アメリカ人のFranklin氏は、ル・コルドン・ブルーで研鑽を積んだ後、香港のCaprice、シカゴのAlinea、バンコクのNahmといった世界トップクラスのレストランで腕を磨いた。2017年にホーチミンで開いたAnan Saigonは、2023年にベトナム初のミシュラン1つ星を獲得し、ベトナム・ファインダイニングの歴史を塗り替えた。
Pot Au Pho 2.0の原点は、10年以上前に香港で営んでいた小さなフォーヌードルバー。「フォーは母の味であり、自分のルーツ。それを世界レベルの技法で進化させたかった」と語る。
12皿のテイスティングメニュー全解剖
コースは約2時間。フォーの構成要素——出汁、麺、牛肉、ハーブ——を分解し、それぞれを独立した料理として再構成する。
| 料理名 | 技法 | 特徴 |
|---|---|---|
| One Bite Molecular Pho | 球体化(スフェリフィケーション) | 12時間煮込んだ出汁をゼリー状の球体に封じ込め、口の中で弾ける |
| Caviar Egg Pho | キャビア風粒状化 | フォーの風味をキャビアのような粒に凝縮 |
| Pate Chaud | フランス菓子技法 | フォーの具材をパイ生地で包んだ一品 |
| Black Chicken Pho | コンソメ精製 | 烏骨鶏の透明スープとフォー麺 |
| Le Pot Au Pho | VGEスープ着想 | Paul Bocuseのトリュフスープを参照した看板料理 |
中でも目を引くのが「One Bite Molecular Pho」。スペインの3つ星シェフ、フェラン・アドリアが開拓した球体化の技法で、12時間煮込んだ牛骨出汁をゼリー膜で包む。箸でつまむと透明な球体がぷるぷると揺れ、口に入れた瞬間、濃厚なフォーの旨味が一気に広がる。
空間デザイン——牛骨ドアハンドルと14席の劇場
設計はDix design+architecture。14席のカウンターはオープンキッチンを囲む劇場型配置で、シェフの手元が全席から見える。入口の真鍮製ドアハンドルは牛骨をかたどったもので、フォーの世界へ踏み入る儀式のようだ。壁面を飾る手描きのセラミックタイルにはフォースプーンが描かれ、細部まで「フォー愛」が貫かれている。
別室には4席のカクテルバーも併設。フォーのスパイスを活かしたオリジナルカクテルやワインペアリング(追加220万VND・約1万3,000円)も用意されている。
食べた人たちの声
SNSとレビューサイトには、オープン直後から驚きの声が集まっている。
- 「フォーが球体になって出てきた瞬間、笑ってしまった。でも味は正真正銘のフォー。出汁の深さはむしろ普通の店より上」(在住日本人フードブロガー)
- 「Ananの延長線上にあるけれど、ここは完全にフォーだけの宇宙。12皿食べ終わる頃には、フォーという料理の奥行きに圧倒される」(香港在住フードライター)
- 「350万VNDは高い。でも、シカゴのAlineaで同じ体験をしたら5倍はかかる。ホーチミンだからこそ成立する価格帯」(旅行メディア編集者)
日本人旅行者への実用ガイド
日本からホーチミンへの直行便は成田・羽田・関空から毎日運航しており、片道約6時間。Pot Au Pho 2.0はベンタイン市場から徒歩10分のトンタッダム市場エリアにあり、UNU Cocktails & EateryやLai Raiといった注目レストランも徒歩圏内。ファインダイニングのハシゴも可能だ。
予約はInstagram(@potaupho2.0)のDMが最も確実。英語対応可。5:30PMと8:30PMの2部制で、水曜から日曜の営業。月曜・火曜は定休日なので注意したい。
ベトナム・ファインダイニング市場への波及
ベトナムのミシュランガイドは2023年に初上陸し、ホーチミンとハノイを対象に星付きレストランを選出している。Pot Au Pho 2.0は、伝統料理をファインダイニングに昇華させる流れの最前線に立つ。After Eden NYCのようにベトナム料理のエッセンスを海外に持ち出す動きと、国内で深化させる動き——その両輪がベトナム食文化の世界的評価を底上げしている。
特に注目すべきは「フォー特化」という戦略。1つの料理を12皿に展開するアプローチは、日本の寿司おまかせに通じる発想であり、欧米の美食家たちにとっても馴染みやすい形式だ。
基本情報
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 店名 | Pot Au Pho 2.0 |
| 住所 | 91 Ton That Dam, Sai Gon Ward, District 1, Ho Chi Minh City |
| 営業時間 | 水〜日 17:00〜(月火定休) |
| 席数 | カウンター14席+カクテルバー4席 |
| テイスティングメニュー | 350万VND(約2万600円)/ 12皿 |
| ワインペアリング | 追加220万VND(約1万3,000円) |
| 予約 | Instagram @potaupho2.0 DMまたはhelloanan.my.canva.site/pot-au-pho-2-0 |
| シェフ | Peter Cuong Franklin(Anan Saigon ミシュラン1つ星) |
| 言語 | 英語・ベトナム語対応 |
まとめ——フォーの「おまかせ」体験をホーチミンで
Pot Au Pho 2.0は、フォーという日常食を2時間の非日常体験に変換する場所だ。分子ガストロノミーの技法は手段であって目的ではなく、すべての皿がフォーへの深い敬意に貫かれている。次のホーチミン旅行では、屋台のフォーとHOP Vietnamese Londonのような海外進出ベトナム料理の両方を味わったうえで、この14席のカウンターに座ってみてほしい。フォーの見え方が、確実に変わる。
