ベトナムを南北に貫くように、話題のダイニングとバーが夏のあいだ一斉に脚光を浴びている。ハロン湾の日本料理店から、フーコック島でいちばん高いルーフトップバー、ホーチミンの下町にできた「記憶の壁」を持つ老舗まで。共通するのは、古い記憶に触れる懐かしさと、写真に収めたくなる今っぽさが同居していること。ベトナムに住む人にとっても、これから旅する人にとっても、週末の一晩や数日の旅程を組み立てる手がかりになる。どこを、どの順番で、いくらで回るか――在住者目線で整理してみたい。
きっかけは、夏の食のプログラム
この動きの起点になったのは、IHGホテルズ&リゾーツが2026年7月1日から8月31日まで走らせている食のキャンペーン「Sizzling Summer Fest」だ。会員制度「IHG One Rewards」のメンバーが対象レストラン・バーで飲食すると、ポイントが2倍になる。対象は東南アジアと韓国の複数国にまたがり、ベトナムでも各地の系列施設が名を連ねる。現地メディアはベトナム側だけで「50店舗規模」と紹介している。ポイント2倍が効くのはあくまでIHG系の対象店で、後述する独立系の話題店は特典の対象外という点は、あらかじめ切り分けておきたい。
注意したいのは、1つの会計につきポイントを貯められる会員は1人だけ、というルールだ。グループで割り勘にしても人数分は積み上がらない。裏を返せば、同じ店に何度も足を運ぶ在住者ほど、この期間中は得をしやすい設計になっている。
「記憶に触れる×映える」が今の合言葉
なぜこうしたスポットが今、若い世代を惹きつけるのか。ベトナムのZ世代の間では、古い街並みや昭和ならぬ「あの頃」を思わせる空間で写真を撮る懐古志向と、高層階からの絶景やデザイン性の高い内装を狙う映え志向が、同時進行している。片方だけでは物足りず、ノスタルジーとモダンの両方を一度に味わえる場所が「旬の座標」として支持されるようになった。物価高で財布のひもが固くなり、消費のメリハリが強まっているのも背景にある(YOLOから節約志向へ、物価高で越Z世代の消費が変わった)。ふだんは締める分、記念日や特別な一晩には「ここぞ」の一軒に投資する。今回のスポット群は、その「ここぞ」の受け皿になっている。
南北に散らばる、主なスポット
今回話題に上っている施設は、北のハロン湾から南のフーコック島まで広く散らばる。旅程を組むときは、この地理を頭に入れておくと動きやすい。
| エリア | スポット | タイプ・特徴 |
|---|---|---|
| ハロン湾 | Roku(インターコンチネンタル・ハロン湾) | コンテンポラリー日本料理。湾を見下ろす高層階 |
| ハノイ | Stellar Teppanyaki(ランドマーク72) | 鉄板焼。A4和牛など |
| ニャチャン | プールバー(voco Scenia Bay・5階) | 海風とワインのシービュー |
| ホーチミン | Quán Bụi Heritage(独立系) | インドシナ様式の話題店。ベトナム料理の新店 |
| フーコック島 | INK 360(インターコンチネンタル・19階) | 島内最高所のルーフトップバー |
三者三様、それぞれの顔
性格の違う3軒を挙げておく。フーコックのINK 360は、インターコンチネンタル・フーコック・ロングビーチの19階にある、島でいちばん高い場所のルーフトップバーだ。内装はデザイナーのアシュレイ・サットンが手がけ、インクや金属、海の生き物クラーケンをモチーフにした劇場的な空間になっている。営業は毎日17時から。夕日が沈む時間に合わせて訪れると、水平線に沈む陽と、灯りがともる店内の両方を写真に収められる。宿泊者以外はデポジットが必要で、その額は時期によって変わることがあるため、来店前に最新の条件を確認しておくと安心だ。
ホーチミンのQuán Bụi Heritageは、15年続くベトナム料理グループ「Quán Bụi」が新たに開いた店。インドシナ様式の空間に、地方の陶器や店の歩みを語る展示が組み込まれ、系列で唯一この店だけが土鍋ご飯(cơm niêu)を出す。地上階から2つの上階、屋上まで使い分けられる造りで、「記憶に触れる」という今回のテーマをそのまま体現している。IHGのポイント特典は対象外の独立系だが、今回の「旬の座標」として現地メディアで並び称されている一軒だ。
ハロン湾のRokuは、インターコンチネンタル・ハロン湾リゾートの高層階に構える現代的な日本料理店。湾の夜景を眺めながらのコース料理は、記念日や接待の一席に向く。北部を旅する日本人にとっては、味の勝手がわかる安心感もある。
週末・旅程づくりへの落とし込み
これらを「行った店リスト」で終わらせず、旅の設計図として使うなら、組み合わせ方に工夫の余地がある。おすすめは、ノスタルジー系の一軒とモダン系の一軒をセットで押さえること。たとえばホーチミン滞在なら、夕方はQuán Bụi Heritageで土鍋ご飯と地方料理を囲み、記憶に触れる時間を過ごしてから、別日にルーフトップバーで夜景を締めにする。フーコックに渡るなら、島の足がかりが増えている今、直行便の就航状況を先に押さえておくと動きやすい(北部の空が広がる、ハイフォン発フーコック直行が7/25就航)。
在住者にとっての現実的な使い方は、少し違う。旅行者が一度きりの「特別な夜」に投資するのに対し、住んでいる人は同じ店に季節ごと通える。ポイント2倍の期間は8月末まで。誕生日や来客のもてなしをこの2か月に寄せておけば、いつもの外食が少しだけお得になる。記念日ディナーの選択肢としては、ミシュランに名を連ねる眺めのよいグリルなども増えており、都市部の「特別な一席」の層は年々厚くなっている(西湖を見下ろすグリルが4年連続ミシュラン、記念日ディナー)。
ポイント経済が広げる、外食の意味
今回の動きは、単なる期間限定セールにとどまらない。会員が同じチェーンに通うほど得をする仕組みは、旅行者を一過性の客で終わらせず、リピーターに変えていく。在住外国人や出張の多いビジネス層にとっては、宿泊とダイニングをひとつの会員制度でまとめる意味が出てくる。ベトナム側で50店舗規模という広がりは、都市の高層バーから海辺のリゾート、下町の老舗まで、体験の幅がそれだけ用意されているということでもある。街の食シーンが「記憶」と「映え」の二軸で厚みを増していく流れは、この夏だけで終わりそうにない。
訪ねる前に押さえる実用情報
目玉になりやすいINK 360を例に、事前に知っておきたい点をまとめる(2026年7月時点の1円=約162VNDで換算、金額は概算)。
| 施設 | INK 360(ルーフトップバー) |
|---|---|
| 場所 | インターコンチネンタル・フーコック・ロングビーチ 19階 |
| 営業 | 毎日17:00〜 |
| 入店条件 | 宿泊者以外は1人あたりデポジットが必要(目安40万VND・約2,470円、飲食代に充当)。額は時期により変動 |
| おすすめの時間 | 夕日の時間帯。日没に合わせて入店すると景色が変わる瞬間を狙える |
| ポイント特典 | Sizzling Summer Fest期間中(〜2026年8月31日)はIHG One Rewards会員の飲食で2倍 |
Quán Bụi Heritageはホーチミン市の16 Trần Cao Vânにある。土鍋ご飯は火の通りに時間がかかるため、混雑する週末夜は早めの来店か予約が無難だ。
まとめ
ハロン湾からフーコックまで、この夏は「記憶に触れる一軒」と「映える一軒」を組み合わせて回ると、ベトナムの街の表情がよく見えてくる。旅行者なら、滞在都市でノスタルジー系とモダン系を1軒ずつ押さえるところから。在住者なら、記念日やもてなしの予定を8月末までのポイント2倍期間に寄せてみてほしい。まずは自分の滞在エリアに、上の表のどのスポットがあるかを確かめることから始めたい。次の週末の一晩が、そのまま旅の記憶になる。
参照元:Thanh Niên/InterContinental Phu Quoc(INK 360)/Quán Bụi Heritage
