ベトナム版浮世絵の里ドンホーへ、ハノイから半日で刷り体験

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木版を彫り、天然の顔料を一色ずつ摺り重ねる——そう聞いて浮世絵を思い浮かべた人にこそ知ってほしい村が、ベトナムの首都ハノイから約30kmの場所にあります。ベトナムの大手ニュースサイトVietnamNetが2026年7月4日、バクニン省のドンホー版画の村を訪れた旅行者が「年季の入った宝物」に驚いた、と報じました。宝物の正体は、絵柄ではなく貝殻の粉を塗り込んだ手漉き紙。400年以上続くベトナム民衆版画の里は、ハノイから半日で往復できて、自分の手で摺る体験までできる場所です。和紙や浮世絵に親しんできた日本人なら、既視感と発見が同時に押し寄せるはずです。

目次

VietnamNetが報じた、ハノイから30kmの版画の里

起点となったのは、VietnamNetが2026年7月4日に掲載したルポ記事です。舞台はハノイの東、ズオン川の南岸に広がるドンホー村。行政区分としては現在のバクニン省トゥアンタイン地区にあたり、ハノイ中心部からの距離は約30kmと報じられています。

記事に登場するのは、国から「優秀工芸士」の称号を受けた職人グエン・ダン・チェ氏の工房です。木版の凹凸に刷毛で色を載せ、紙を押し当てて一色ずつ摺り上げていく——工程は最初から最後まで手作業で、顔料も黒は竹を焼いた炭、青は藍の葉、黄は夜香花、赤は天然の鉱物と、身の回りの自然物から作られます。訪れた旅行者は工房で摺りの工程を見学できるだけでなく、自分で版に色を載せ、紙を当てて一枚を摺る体験もできると記事は伝えています。

ドンホー版画とは——テトの家々を飾ってきた「民衆の絵」

ドンホー版画は、400年以上の歴史を持つと伝えられるベトナム北部の木版民衆画です。代表作としてVietnamNetの記事が挙げるのは、大吉を告げる鶏を描いた「ガー・ダイカット」と、ネズミたちが行列を組んで婚礼に向かう「ネズミの嫁入り(ダム・クオイ・チュオット)」。豊かさや子孫繁栄への願いを込めた絵柄が多く、テト(旧正月)に家々へ貼る縁起物として親しまれてきました。

「ネズミの嫁入り」と聞いて、日本の昔話を思い出した人も多いはずです。ネズミの行列が婚礼を挙げるという主題が、海を隔てた二つの国で別々に絵になっている。こうした偶然の重なりが、ドンホー版画を日本人にとって「初めて見るのにどこか懐かしい」ものにしています。

宝物は絵ではなく紙——貝殻を塗り込んだ手漉き紙

記事の見出しが「宝物」と呼ぶのは、実は絵柄そのものではなく紙のほうです。ドンホー版画の紙は、ゾーと呼ばれる木の樹皮から漉いた手漉き紙に、貝殻の粉を塗り重ねたもの。VietnamNetは、この紙が高い強度と色持ちを備え、長期保存してもシロアリの害を受けにくいと伝えています。きらめく貝の層が天然顔料の発色を支え、400年を生き延びてきた版画の土台になっているわけです。

和紙に親しんだ読者なら、この説明だけで手触りまで想像できるのではないでしょうか。楮の繊維から漉く和紙と、ゾーの樹皮から漉くベトナムの紙。牡蠣殻を砕いて作る日本画の白色顔料「胡粉」と、貝殻の粉をまとったドンホーの紙。素材の発想がここまで似通うのは、偶然というより、アジアの手仕事が同じ答えにたどり着いた必然に見えます。

比較項目 浮世絵(日本) ドンホー版画(ベトナム)
楮などの繊維から漉く和紙 ゾーの樹皮の手漉き紙+貝殻粉の下地
色の出どころ 植物・鉱物由来の顔料(時代により変遷) 竹の炭・藍の葉・夜香花・天然鉱物
作り方 絵師・彫師・摺師の分業による多色摺り 職人の工房で版に色を載せ手で摺る
題材 役者絵・美人画・風景など庶民の楽しみ 鶏・ネズミの嫁入りなど縁起物
買い手 江戸の町人 テトを迎える農村の家々

訪ねた人は何に驚くのか——現地ルポの反応

VietnamNetの記事は、旅行者の驚きを軸に構成されています。ハノイから訪れた23歳の女性ニュンさんは「手作業の素朴さが作品に魂を与えている」と語り、印象に残った点として、貝殻をまとった紙の質感を真っ先に挙げました。あわせて、下絵から摺りまで一切を手仕事で完結させる制作工程にも驚いたと話しています。

そして記事の見出しそのものが「客が年季の入った宝物に驚く」という書き方です。派手な演出やフォトスポットではなく、紙と手仕事の質で人を驚かせる場所——現地メディアがドンホーをそう紹介していること自体が、この村の性格をよく表しています。

和紙と浮世絵の国から——日本の読者がドンホーで得られるもの

ドンホー版画が日本人に刺さる理由は、単なる「アジアの伝統工芸」だからではありません。浮世絵は美術館の宝物である前に、庶民が気軽に買って部屋に貼る量産メディアでした。ドンホー版画もまったく同じで、農村の家々がテトのたびに買い替える生活の絵です。多色木版という技術で「絵を庶民のものにした」発明が、日本とベトナムで並行して起きていた——現地で版画を眺めると、その事実が腑に落ちます。

もうひとつの価値は、体験の質です。日本国内で浮世絵の摺りを体験できる場所は限られていて、多くの人にとって浮世絵は「ガラス越しに見る」対象になりました。ドンホーでは、優秀工芸士の称号を持つ現役の職人の工房で、観光客が刷毛を握り、版に色を載せて一枚を摺れます。ガラス越しの伝統ではなく、手が汚れる伝統。この距離の近さは、後継者確保に悩む日本の工芸産地が体験工房や産地観光に力を入れているのと同じ文脈にあり、旅行者としてはその「開かれた工房」の恩恵をそのまま受け取れる段階です。

お土産としての実用性も見逃せません。版画は軽く、かさばらず、濡れ物や割れ物のような気遣いも不要です。ハノイ土産の定番であるコーヒーや菓子と違い、「400年の紙と天然顔料」という物語ごと持ち帰って額に入れられる。旅の記録として、自分で摺った一枚以上のものはなかなかありません。

ハノイから半日で行く——アクセスと体験の実用ガイド

ドンホー村はハノイ中心部から約30km。旅行者が公共交通だけでたどり着くのは乗り継ぎの難度が高いので、Grabなどの配車アプリで車を呼ぶか、タクシーを半日チャーターするのが現実的です。道路状況にもよりますが、片道1時間前後を見込んでおけば、午前に出て昼過ぎにハノイへ戻る半日行程が組めます。工房では見学のみでも、摺り体験まで踏み込むこともできます。天然顔料を扱うので、体験するなら汚れても気にならない服装が安心です。

項目 内容
場所 バクニン省トゥアンタイン地区ドンホー村(ズオン川南岸)
ハノイからの距離 約30km
行き方 配車アプリの車手配、またはタクシーの半日チャーターが現実的
所要の目安 片道1時間前後(道路状況により変動)、半日で往復可能
現地でできること 職人工房の見学、版に色を載せて摺る版画体験、作品の購入
服装 顔料で汚れても気にならない服がおすすめ

ハノイ市内の移動と組み合わせて計画するなら、中心部のバスが1年間無料化された話が参考になります。週末に訪れるなら、夜は旧市街11通りがバイクを止めて歩行者空間になる取り組みと組み合わせると、昼は村の手仕事、夜は旧市街散歩という一日が作れます。村の暮らしに触れる旅が好きな人には、南部のオウギヤシの森に泊まるメコン奥地の村ツーリズムもあわせて読んでみてください。

まとめ——摺った一枚をスーツケースに

ドンホー版画の村は、ハノイからわずか30kmにある「ベトナム版浮世絵」の産地です。貝殻を塗り込んだ手漉き紙、竹炭や藍の葉から作る顔料、そして観光客にも刷毛を握らせてくれる職人の工房。和紙と浮世絵の国から来た旅行者にとって、これほど答え合わせが楽しい場所はそうありません。次のハノイ旅程に半日の余白があるなら、配車アプリで車を呼んでズオン川の南岸へ。見るだけで終わらせず、自分の手で一枚摺って、額装して持ち帰る——それがこの村のいちばん贅沢な楽しみ方です。

参照元

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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