1両まるごと990万円――ベトナム豪華列車の皇帝スイートは四季島超え

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ハノイとホーチミンを8日間かけて結ぶベトナムの豪華寝台列車「SJourney(エスジャーニー)」が、2026年10月に最上級客室「インペリアルスイート(皇帝スイート)」を投入します。13両編成のうち1両をまるごと1組で使う51㎡の個室で、料金は1人6万4,000ドル(約990万円 ※1ドル=約155円換算、以下同)。日本を代表する豪華列車・四季島や瑞風の最高額コースを大きく上回る、アジア鉄道旅の新しい頂点です。「ベトナム旅行=安い」という感覚のまま眺めると桁を二度見する価格ですが、この列車はすでにピークシーズン満席が続く人気商品。何が起きているのか、日本の豪華列車との比較で読み解きます。

目次

1両まるごと51㎡、8日間で990万円の「皇帝スイート」

VnExpressの報道によると、新設されるインペリアルスイートは面積51㎡で、標準客室3室分に相当するスペースを1両まるごと使う設計です。内装はフランス統治時代の意匠を汲むインドシナ様式でまとめられ、車窓ガラス越しではなく外気に触れて景色を楽しめるプライベートバルコニーが付きます。料金はハノイ〜ホーチミンの8日間で1人約17億ドン(6万4,000ドル、約990万円)です。

同時に投入される「スイート」は寝室部分が17㎡で1両に2室。こちらは8日間で約8億6,000万ドン(3万2,000ドル、約500万円)と、皇帝スイートのちょうど半額に設定されています。どちらの客室にも専任バトラー、好みに合わせたカスタマイズメニュー、VIP送迎、旅程のパーソナライズといったサービスが付き、プレミアムレストラン車両の連結も計画されています。

参考までに、SJourneyの既存の標準客室は8日間で約2億ドン(約7,600ドル、約120万円 ※1万ドン=約60円換算)から。皇帝スイートはその8倍超という位置づけです。

SJourneyはどんな列車か——月4〜6便、ピーク期は満席続き

SJourneyは2024年12月に運行を始めた、ベトナム初の本格的な長距離豪華寝台列車です。編成は全13両で、キッチン車1両、ダイニング車2両、残りが客室という構成。看板商品のハノイ〜ホーチミン8日間のほか、ハノイ〜サパ〜ハロンの4日間、ホーチミン〜ホイアンの4日間という短めのコースも走っています。

運行は月4〜6回で、開業からこれまでに2,000人以上が乗車。9月から4月のハイシーズンは満席が続いていると報じられており、「高すぎて誰が乗るのか」という段階はすでに過ぎています。今回の皇帝スイート投入は、この実績を踏まえて客単価の天井をさらに引き上げる一手といえます。

四季島・瑞風と比べる——1泊あたりは日本最上級の約2倍

日本で「豪華列車の最高峰」といえばJR東日本のTRAIN SUITE 四季島とJR西日本のTWILIGHT EXPRESS 瑞風です。最上級客室どうしで並べると、相場観がはっきりします。

列車 行程 最上級客室 料金(1名) 1泊あたり概算
SJourney(ベトナム) ハノイ〜ホーチミン 8日間(7泊) インペリアルスイート(51㎡・1両貸切) 約990万円(6万4,000ドル) 約141万円
TRAIN SUITE 四季島 3泊4日周遊 四季島スイート(1名1室) 195万円 65万円
TWILIGHT EXPRESS 瑞風 2泊3日周遊(せとうち・山陰) ザ・スイート(2名1室) 137万円 約68.5万円

総額で見ると990万円対195万円で約5倍、1泊あたりに直しても日本の最上級のおよそ2倍です。もっとも四季島には44万円(1泊2日・スイート2名1室)、瑞風には33.5万円(1泊2日・ロイヤルシングル2名1室)という入口価格もあり、「豪華列車=100万円台後半」というのは日本でも最上級クラスの話。SJourneyも標準客室なら約120万円からで、実は四季島の3泊4日コースの下位客室と近い水準に収まります。

日本と決定的に違うのは商品の作り方です。四季島も瑞風も最上級は「編成内で一番良い部屋」ですが、SJourneyは1両まるごとを1組に売るという発想で、部屋単位ではなく車両単位の販売に踏み込みました。バルコニー付き客室も日本の定期運行豪華列車にはない仕様です。

現地・業界はどう受け止めているか

現地報道と業界の反応をいくつか拾うと、この価格設定が思いつきではないことが分かります。

  • SJourneyの営業責任者はVnExpressの取材に「約1年半の運行を経て、ベトナムのラグジュアリー観光における独自のスロートラベル体験としての地位を確立できた」と答え、新客室は上位需要への応答だと位置づけています。
  • VnExpress自身も、9月〜4月のピークシーズンは満席が続くという需要の強さをあわせて報じています。
  • 英国の豪華列車専門予約サイト「Luxury Train Club」などがすでに料金・日程ガイドを掲載しており、国際的な富裕層旅行市場で流通する商品として扱われ始めています。
  • 現地発着ツアーを扱う旅行会社も「ベトナム初の8日間豪華列車」として特集を組み、従来の短区間ラグジュアリー列車の先を行く存在として紹介しています。

なぜベトナムで「1泊140万円」が成立するのか

第一の理由は、ベトナム観光そのものが「量」から「単価」へ舵を切っていることです。カインホア省では3つの湾を水上飛行機で結ぶ富裕層向け構想が動いており(ニャチャンの水上飛行機構想の記事で詳しく書きました)、ホーチミンでは国際線の受け皿となるロンタイン新空港への移管が進行中。SJourneyの皇帝スイートは、この高付加価値化の流れの中で見ると突飛な商品ではなく、むしろ象徴です。

第二に、「長さ」そのものが希少価値になっています。四季島も瑞風も最長3泊4日ですが、SJourneyは7泊8日。国を北から南まで縦断しながらホテルを一度も移らない「動くホテル」体験は、アジアではほかに選択肢がほとんどありません。1泊単価が日本の2倍でも、7泊分の行程を丸ごと売れる列車は競合不在です。

第三に、買い手は世界の富裕層であって、ベトナムの物価とは切り離されているという点です。ピーク期満席という実績は、価格の基準が「現地でいくら」ではなく「世界の豪華列車市場でいくら」に置かれていることを示します。日本人が円安の中で「ベトナムは安く行ける国」と捉えているあいだに、現地は世界基準の値付けをする商品を次々に作っている——この非対称は、旅行者としても、観光ビジネスに関わる人間としても頭に入れておきたい変化です。

日本の鉄道会社にとっても他人事ではありません。車両単位の販売、バルコニー付き客室、キッチン車を含む13両の食体験特化編成といった商品設計は、四季島・瑞風の次の一手を考えるうえで参照点になります。抽選や会員制で需要を絞る日本型に対し、SJourneyは客室の階層を増やして単価上限を開放する方向に進みました。

実用情報——現実的な乗り方と「対極」の選択肢

読者がすぐ動ける情報を整理します。

項目 内容
列車名 SJourney(エスジャーニー)
主な行程 ハノイ〜ホーチミン8日間/ハノイ〜サパ〜ハロン4日間/ホーチミン〜ホイアン4日間
新客室の投入時期 2026年10月(インペリアルスイート・スイート)
料金の目安 標準客室 約120万円〜/スイート約500万円/インペリアルスイート約990万円(いずれも8日間・1名)
運行頻度 月4〜6回
予約の狙い目 9月〜4月のピーク期は満席が続くため早期予約が前提。5月〜8月が比較的取りやすい時期

「990万円は別世界」という人には、4日間コースや標準客室という現実的な入口があります。さらに対極の選択肢として、通常のベトナム鉄道の寝台列車でハノイ〜ホーチミンを旅する手もあり、この夏は運賃の割引も出ています。買い方のコツは夏のベトナム鉄道10%オフの記事にまとめているので、同じ線路の上に「数千円台の寝台」と「990万円のスイート」が併走する面白さをぜひ体感してください。

まとめ——「安いベトナム」の先入観を更新する一本

SJourneyの皇帝スイートは、単なる高額客室のニュースではなく、ベトナム観光が世界の富裕層市場で戦う段階に入ったことを示す指標です。次のアクションとしては、(1) 豪華列車派は公式サイトで2026年10月以降の8日間コースの空席と料金を確認する、(2) まず体験したい人は4日間コースか標準客室を候補にする、(3) 予算重視派は通常の統一鉄道の寝台+夏割引で同じ車窓を先に見てしまう——この3段構えがおすすめです。同じハノイ〜ホーチミンの旅が120万円にも990万円にも数千円にもなる。この振れ幅こそ、いまのベトナムの面白さだと思います。

参照元

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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