「旅先で台風に直撃される」——旅行の失敗談の定番です。ところが2026年7月4日夜、台風1号「マイサック(Maysak)」がベトナム北部クアンニン省に上陸したとき、沖合の離島コートー(Cô Tô)島では正反対の光景が生まれていました。船が全便欠航し、島に足止めされた宿泊客約50人のために、ホテルのオーナーが1年以上かけて育てたイノシシを一頭さばき、無料の宴会を開いたのです。VietnamNetをはじめ現地紙が相次いで報じたこの出来事は、ハノイから足を延ばせる離島を旅する日本人にも他人事ではありません。ニュースの中身とあわせて、コートー島への行き方、雨季の台風リスクとの付き合い方まで掘り下げます。
船が全便欠航した夜、ホテルの主人はイノシシをさばいた
コートー島は、世界遺産ハロン湾の東に広がるバイトゥロン湾のさらに沖、クアンニン省に属する離島です。7月3日、台風1号の接近を受けて当局は旅客船の全面運航停止を決定。VietnamNetによると、島内のドンア(Đông Á)ホテルには、本土へ戻れなくなった約50人の宿泊客が20室に分かれて滞在していました。
オーナーのファム・ディン・タムさん(1959年生まれ)が動いたのは、台風が上陸する当日の晩、7月4日の夜です。ソンラー省モクチャウの高原から仕入れて1年以上育てたイノシシを一頭さばき、宿泊客全員を無料の夕食会に招きました。20人の従業員に一部の宿泊客も加わって調理し、約3時間でおよそ10品の料理が食卓に並んだといいます。フート省から来た宿泊客が、故郷の味を再現した一皿を振る舞う場面もありました。
タムさんは現地紙の取材に「このイノシシはモクチャウで買って1年以上育てたものです」「どんな状況でも、旅行者には温かさを感じてほしい」と語っています。宴会だけでなく、足止め期間中の宿泊料金やサービス料の値上げは一切しないとも明言しました。
島に残ったのは約2,800人——数字で見る台風1号とコートー島
台風1号マイサックは7月4日夜、クアンニン省モンカイ付近に上陸しました。現地報道によると、モンカイでは850本以上の倒木や住宅の屋根の被害が出たほか、コートー島では停電が発生し、復旧作業が急がれました。
一方で、島側の避難対応は素早いものでした。Dân Trí紙によると、旅客船の運航は7月3日17時に停止(最終便は同日16時発)。それまでに計18便が増発され、3,147人の観光客が本土へ戻っています。運航停止が決まる前の時点で島には約6,000人の観光客が滞在していたと報じられており、差し引きおよそ2,800人が島に残って台風をやり過ごした計算になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 台風 | 2026年台風1号「マイサック」 |
| 上陸 | 7月4日夜、クアンニン省モンカイ付近 |
| 船の運航停止 | 7月3日17時(最終便は16時発) |
| 本土へ戻った観光客 | 増発計18便で3,147人 |
| 島に残った観光客 | 約2,800人 |
| ドンアホテルの足止め客 | 約50人(20室) |
| 宴会の内容 | イノシシ一頭・約10品・無料 |
※数値はVietnamNet・Dân Trí・Thanh Niênの報道に基づきます。
「台風より、人の情のほうが記憶に残った」——現地の反応
宴会に招かれた宿泊客の声を、Thanh Niên紙が伝えています。ホアビン省から訪れたレ・ゴック・ムオンさんは「不安がほとんど消えた。本当に感動した」と話し、ハノイから来たヴー・マイン・ホンさんは「台風そのものより、地元の人の情のほうが印象に残った。他人同士の距離が、親戚のように縮まった」と振り返りました。
行政側の動きも見逃せません。クアンニン省の当局は島内の宿泊施設に対し、足止め客への食事と生活環境の確保、気象情報のこまめな共有を指示しており、ドンアホテルの対応は個人の善意と行政の要請がかみ合った結果でもあります。
そしてこの一夜の宴は、VietnamNet、Dân Trí、Thanh Niên、Tiền Phongと全国紙が相次いで取り上げる「ニュース」になりました。イノシシ一頭と10品の料理が、島とホテルの名前を一晩でベトナム中に知らしめたわけです。
なぜ「便乗値上げ」ではなく「大盤振る舞い」なのか
冷静に考えれば、足止めされた観光客は他に行き場のない「囚われた客」です。災害時に宿泊費が高騰する便乗値上げは世界中で起きており、値上げしても部屋は埋まります。それでもタムさんが逆を行った背景には、離島観光地ならではの合理性が透けて見えます。
第一に、コートー島は2010年代以降に電力網や観光インフラの整備が進んだ新興のビーチリゾートで、リピーターと口コミが生命線です。一見客を搾り取るより、「あの島は台風の夜でさえ客を大事にした」という評判のほうが、長期的にはるかに価値があります。第二に、SNSと報道が結果的に証明したとおり、善意は最強の広告になり得ます。全国紙数紙への露出を広告費に換算すれば、イノシシ一頭の原価とは比べものになりません。第三に、ベトナム語で「ティン・グオイ(tình người=人の情)」と呼ばれる、困っている人を放っておかない規範の存在です。ホンさんのコメントが台風ではなく人情を主語にしていたのは象徴的です。
サービス業には、トラブルからの見事な回復はトラブルがなかった場合より顧客の記憶に強く残る、という考え方があります。今回の出来事はその典型で、「台風で足止め」という旅の最悪シナリオが、「主人がイノシシをさばいてくれた夜」という一生モノの思い出に書き換えられました。日本の宿でも台風時の柔軟なキャンセル対応や延泊割引は広がっていますが、宿が主催する無料の宴会にまで踏み込む例はまれです。旅行者の立場から言えば、悪天候は選べなくても宿は選べます。離島では、建物の豪華さより「主人の顔が見える宿」こそが、いざというときの保険になる——これがこのニュースの実践的な教訓だと考えます。
コートー島への行き方と、雨季に「詰まない」ための心得
コートー島の玄関口は、ハノイから東へ車で3〜4時間ほどのバンドンにあるアオティエン(Ao Tiên)港です。そこから高速船で60〜90分、運賃は片道23万〜30万ドン(約1,400〜1,800円。1万ドン=約60円換算)が目安。夏のハイシーズンは満席になりやすいため、船のチケットは1〜2日前までに確保しておくと安心です。ハノイ前後泊と組み合わせるなら、週末夜に歩行者天国化が始まった旧市街の新しい歩き方もあわせてどうぞ。
| 実用情報 | 内容 |
|---|---|
| 行き方 | ハノイ→バンドン・アオティエン港(車で約3〜4時間)→高速船60〜90分 |
| 船賃の目安 | 片道23万〜30万ドン(約1,400〜1,800円) |
| 台風リスク | 夏場(おおむね6〜9月)は接近時に即全便欠航 |
| 欠航時の情報源 | 宿泊先・船会社への直接確認(宿には気象情報共有の当局指示あり) |
そのうえで、雨季の離島旅で「詰まない」ための心得を挙げます。
- 帰島日の翌日に国際線を入れない。島の後に1〜2日のバッファ日程を置く
- 海外旅行保険は、悪天候による欠航・延泊の宿泊費や旅程変更費用が補償対象かを出発前に確認する
- 停電でATMやカード端末が止まる想定で、現金を小額紙幣多めに持つ
- 停電対策のモバイルバッテリーは、7月から機内持ち込みが2個までに制限されたルールの範囲で準備する
- 船に乗ること自体が不安な時期なら、陸路だけで行ける北部ビーチという選択肢もある。タインホアのサムソンビーチと奇岩ホン・コーザイなら欠航リスクと無縁
まとめ——「足止めされても大丈夫」な旅程が、最高の思い出を連れてくる
台風1号の夜にコートー島で起きたのは、災害ニュースであると同時に、旅の失敗が離島のホスピタリティによって一生モノの思い出へ変わる瞬間の記録でした。次にベトナム北部の島を旅程に入れるなら、やることは三つです。島の後ろに予備日を置くこと。悪天候補償のある保険を選ぶこと。そして宿を選ぶとき、写真の美しさだけでなく「トラブル時にどう対応したか」という口コミを読むこと。それさえ押さえれば、もし船が止まっても、その夜はあなたにとって旅のハイライトになるかもしれません。
参照元
- VietnamNet: Chủ khách sạn ở Cô Tô mổ lợn rừng đãi gần 50 khách lưu trú khi bão số 1 đổ bộ
- Dân Trí: Khách ở lại do bão số 1, chủ khách sạn Quảng Ninh mổ lợn mời 50 người
- Thanh Niên: Giữa bão số 1, chủ khách sạn mổ lợn đãi khách ‘mắc kẹt’
- Tiền Phong: Chủ khách sạn ở Cô Tô mổ lợn rừng đãi gần 50 du khách mắc kẹt vì bão
- Dân Trí: Quảng Ninh: Bão số 1 làm hơn 850 cây xanh đổ, nhiều nhà tốc mái ở Móng Cái
- Beka Travel: Speedboat To Co To Island – Schedule & Ticket Prices
