ベトナム政府が6月26日に公布した新デクレ238/2026/NĐ-CP(交通違反処罰のデクレ168/2024を改正)が、8月15日に施行される。白ナンバーの自家用車で料金を取って人を乗せる行為に、初めて明確な罰則が設けられた。金額は1,200〜1,400万ドン(1円≒170ドンの概算で約7〜8.2万円)、加えて免許の減点6点。日本人の在住者・出張者にとっては「白タク摘発の強化」よりも、友人の送迎やゴルフの相乗りといった日常の場面で線引きが変わる点が実務に効いてくる。
白ナンバーの非営業車で料金を取ると1,200〜1,400万ドン、免許は年12点のうち6点が飛ぶ
今回の改正で新設されたのは、運送事業の登録をしていない車(=白ナンバー、ベトナム語で xe biển trắng)の運転者が、料金を受け取って客を乗せる、輸送の契約を結ぶ、または配車の予約を受ける行為への処罰だ。罰金は1,200〜1,400万ドンで、同時に運転免許から6点が減点される。ベトナムの免許点数は年間12点が上限なので、一度で半分を失う計算になる。
行為と処罰を整理すると次のとおり。
| 対象の行為 | 罰金(ドン) | 円換算の目安 | 免許減点 |
|---|---|---|---|
| 白ナンバー車で料金を取り客を乗せる/契約・予約を受ける | 1,200万〜1,400万 | 約7〜8.2万円 | 6点 |
| 契約旅客車(xe hợp đồng)が契約外で乗客を拾う・切符を売る | 最大2,400万 | 約14万円 | — |
| チャイルドシート未装着(10歳未満・身長1.35m未満) | 警告のみ(旧80〜100万から緩和) | — | — |
円換算はいずれも1円≒170ドンでの概算で、為替により上下する。ポイントは、罰金の重さより「非営業の車が金銭を受け取った瞬間に対象になる」という設計の明確さにある。
狙いはGrab型の隙間で増えた「xe ghép」「xe tiện chuyến」の野放し
背景にあるのは、配車アプリの普及と歩調を合わせて広がった相乗り運送のグレー化だ。ベトナムでは、同方向の客を1台に乗せ合わせる xe ghép(相乗り)や、都市間を安く運ぶ xe tiện chuyến(ついで便)がSNSやチャットで盛んに取引されてきた。多くは正規の運送登録を持たない自家用車で、実態は営業しているのに帳簿上は「知人を乗せているだけ」を装う。デクレ238は、こうした「契約旅客車のなりすまし(xe hợp đồng trá hình)」を処罰対象に取り込み、事務所や支店で客を乗降させる隠れバスターミナル化も禁じた。
ベトナムメディアVOVの議論では、現場の警察官や運送関係者から「どうやって金銭授受を立証するのか」という声が繰り返し上がっている。同乗者が友人か有料客かは外形で判別しにくく、通報データや配車履歴と突き合わせる運用が前提になるとみられる。自動車フォーラムotosaigonでも、常連ドライバーが「アプリを通さない直接取引はこれで一気にやりにくくなる」と書き込む一方、「結局は通報頼みで、たまたま止められた人だけが払う」との冷めた見方も並ぶ。摘発の網が全件に及ぶわけではないが、いざ当たれば1回で7〜8万円の出費と年間持ち点の半分を失う、という非対称なリスクに変わったことは押さえておきたい。
在住日本人が引っかかりやすいのは「友人を送って謝礼を受け取る」場面
駐在員や長期滞在者が現実に注意すべきは、白タク営業そのものより、生活の延長にある金銭のやり取りだ。たとえば空港まで同僚を送ってガソリン代として現金を渡される、休日にゴルフや遠出で数人を乗せて割り勘の交通費を集める、といった行為は、外形上「料金を取って人を乗せた」に近づく。純粋な割り勘か営業かの線引きは曖昧で、頻度や集金の形によっては指摘される余地がある。
安全なのは、対価をやり取りしないか、やり取りするなら正規の配車を挟むことだ。ベトナムでは Grab のほか、電動タクシーの Xanh SM、地場の be が主要な配車アプリで、いずれも運送登録済みの車両とドライバーを手配する。空港送迎や複数人の移動でも、これらを使えば運転者側のリスクは事業者に移る。逆に、チャットで見つけた個人の xe ghép に相乗りする側は罰則の主対象ではないものの、事故時の保険や車両の整備状態が担保されない不安が残る。この点は、ハノイでバス24路線が距離制運賃に切り替わり降車タッチを忘れると終点運賃を取られるようになった変化と同じで、「正規のルートを外れると割高な代償を払う」方向に制度が寄っている。
同じデクレ238はチャイルドシートを罰金から警告に緩め、罰則は事業者にも及ぶ
デクレ238は締め付け一辺倒ではない。同じ改正で、10歳未満・身長1.35m未満の子どもを安全装置なしで乗せた場合の扱いは、従来の80〜100万ドンの罰金から警告に緩和された。制度の導入初期に周知を優先した措置とみられる。この点は本サイトでも8月15日のチャイルドシート新ルールとして別途扱っており、同じ日付・同じデクレの中で「厳格化」と「猶予」が同居している構図が見える。
事業者側では、契約旅客車が契約外の客を拾ったり切符を売ったりすると最大2,400万ドン、車内カメラの未設置・不作動は個人で500〜600万ドン、組織で1,000〜1,200万ドンの罰金が定められた。ドライブレコーダー的な記録装置の処罰は8席未満の乗用車・貨物車で2028年1月1日、客室部分は2029年1月1日から段階適用される。今回の金銭授受ルールだけが突出しているのではなく、運送の周辺を面で規制していく流れの一部だと捉えると理解しやすい。
新ルールに向き合う手順は、暗号資産の規制強化と同じ「自分が対象かを先に確かめる」
制度が変わったとき在住者が最初にすべきは、条文の丸暗記ではなく、自分の日常行動が対象範囲に入るかの確認だ。今回であれば「車で人を乗せて金銭を受け取る習慣があるか」「あるなら正規配車に置き換えられるか」の2点で足りる。同じ発想は、9月1日から罰則が動くベトナムの暗号資産新ルールでも共通していた。新デクレは範囲が広く見えても、在住者の実生活に触れる部分は限られる。送迎で対価を取らない、取るなら Grab・Xanh SM・be を通す——この切り替えだけで、8月15日以降のリスクの大半は避けられる。
