ベトナム政府が6月26日に公布した政令238/2026/NĐ-CP(Nghị định 238/2026/NĐ-CP)が、8月15日に施行される。交通違反の処分を定めた政令168/2024号の改正で、子ども連れの家庭に効くのは2点だ。10歳未満かつ身長135cm未満の子どもを適切な安全器具なしで乗せた場合の処分が、罰金から「警告」に下がる。一方で、同じ条件の子どもを運転席と同じ列の席に座らせる行為には、80万〜100万ドン(1円=約162VNDとして約4,900〜6,200円)の罰金が残った。緩んだ側と残った側を取り違えると、子どもを車内でいちばん危ない席に座らせることになる。ハノイやホーチミンで自分の車を運転する駐在家庭ほど、この非対称を正確に押さえておきたい。
政令238号が動かしたのは「罰の重さ」であって義務ではない
公布は2026年6月26日、施行は8月15日。政府の法令データベースと政策解説サイト(いずれもchinhphu.vn)が同じ日付を掲げている。条文には「10歳未満かつ身長1.35メートル未満の子どもを乗せながら、規定に沿った適切な子ども用安全器具を使用しなかった自動車の運転者は、警告に処する」という一文が入った。
動いたのは罰の側だけだ。2024年道路交通秩序・安全法(2025年改正)第10条3項が置く、10歳未満かつ135cm未満の子どもに適切な安全器具を使わせるという義務そのものは残っている。罰金が消えたからチャイルドシートは不要、という読み方を条文は支えない。警告も行政処分の一形式で、金銭が伴わないだけだ。なお警告に下がる条文には「旅客運送の営業車を除く」という括弧書きが付いている。
もう一方の禁止規定は手つかずだ。同じ条件の子どもを運転席と同じ列の座席に座らせる行為には、政令168号第6条3項m号の罰金80万〜100万ドンが維持された。Thanh Niên紙が政令238号の変更点を並べた記事でも、緩和されたのは器具の不使用だけで、前列同乗は罰金のままだと整理されている。条文が明示する例外は「座席が1列しかない車」のみである。
1月1日、7月1日、そして8月15日——2度ずれた施行日
この規制は一度で今の形になったわけではない。2024年道路交通秩序・安全法は当初、チャイルドシート義務の適用を2026年1月1日からとし、国家技術基準QCVN 123:2024/BGTVTも同じ日に発効した。ところが2025年の法改正(118/2025号)で適用開始が7月1日へ後ろ倒しされ、罰則の形が政令238号で8月15日から書き換わった。半年ほどで、家庭が向き合う締切が3回動いた。
7月1日の施行時点で何を準備すべきかは、以前に別稿で整理している(わが子を助手席に乗せられない——7月施行、ベトナム交通新ルール準備帖)。今回の政令238号は、その続きとして「罰金が予告されていた2つの行為のうち、器具の不使用だけが警告に落ちた」と読むのが素直だ。
ただし7月1日から8月14日までの扱いは報道が割れている。LuatVietnamは交通警察局(Cục CSGT)の6月30日付の説明として政令168号の罰金が適用されると伝え、VnExpressは処分が見送られたと書く。この空白期間の解釈は確定していない。過去の運用を根拠にせず、8月15日以降の条文だけで乗せ方を決めるほうが安全だ。
罰則の新旧と、他国が引いている線
8月15日をまたいで何が変わるかを一枚にする。円換算は1円=約162VNDによる。
| 行為・項目 | 8月14日まで(政令168号) | 8月15日から(政令238号) |
|---|---|---|
| 10歳未満かつ135cm未満の子に適切な安全器具を使わない | 罰金80万〜100万ドン(約4,900〜6,200円) | 警告(罰金なし) |
| 同じ条件の子を運転席と同じ列の席に座らせる | 罰金80万〜100万ドン | 罰金80万〜100万ドン(約4,900〜6,200円) |
| 安全器具の義務が及ばない車 | 旅客運送の営業車(法118/2025号) | 同じ |
| 前列同乗の禁止から外れる車 | 座席が1列しかない車 | 同じ |
他国の線引きも見ておく。以下はDân trí紙が各国制度をまとめた記事に基づく整理で、細部は国・州で異なる。
| 国・地域 | 子ども用の座席・器具を求める目安 |
|---|---|
| ベトナム(8月15日以降) | 10歳未満かつ身長135cm未満の両方に当たる子ども |
| 日本 | 6歳未満はチャイルドシートを使用 |
| 英国・オランダ | 135cmを基準に使用 |
| ドイツ・フランス・イタリア | 150cm前後まで使用を求める |
| オーストラリア | 7歳未満は後席。年齢帯ごとに使う器具を指定 |
| ニュージーランド | 7歳未満は認証を受けた座席を使用 |
年齢で切る日本と身長で切る欧州の中間に、ベトナムは年齢と身長の両方に当てはまる場合だけという絞り方で入った。10歳でも135cmを超えれば対象外、130cmでも11歳なら対象外だ。日本の感覚で「小学生だから」と判断すると外す。
現地の受け止め——警察は幅を持たせ、研究者は前席から手を付けよと言う
交通警察局(Cục CSGT)は、認められる器具の幅を広く取る立場を示している。座席型、乳児用のベッド型、ブースターに、子どもを固定する安全ベルトを備えたものを挙げ、運転者はそれを使い、使い方を指導しなければならないと説明した。営業車を義務から外した理由については、実行可能性とベトナムの交通の実情に合わせるためだとしている。
研究側は別の角度から入る。公衆衛生大学(Trường Đại học Y tế Công cộng)政策研究・傷害予防センター長のPGS.TS Phạm Việt Cường氏は、2020〜2021年に約1万5,000台を観察した調査で、器具を使っていた車が1.3%(ハノイ2.6%、ホーチミン1.1%、ダナン0%)だったと報告した。VOV交通によれば同じ調査で、前席に子どもだけが座っていた車は22.8%、大人と一緒だった車は19.2%ある。器具の普及より先に、座る場所の是正が効く。
保健省系のSức khỏe & Đời sống紙は、同じCường氏の解説として年齢帯ごとの選び方を載せた。1歳未満は新生児用の専用座席、1〜4歳はハーネス付きの専用座席、4〜6歳は背もたれ付きブースター(体重15〜25kg想定)、6〜11歳は背もたれなしの座面(同22〜36kg)。同氏によれば、背もたれ付きブースターの役割は座面を上げてベルトを胸の中央から肩へ斜めに通すことで、首をこすらせないためだという。ベルトが胸ではなく腹に掛かると、内臓の損傷やベルトの下へのすり抜けにつながる。
ベトナム紙の関心は子どもだけに向いていない。Nhân Dân紙は政令238号を契約旅客運送の管理強化として報じ、Thanh Niên紙も無許可の配車営業など罰金が跳ね上がる項目を先に並べた。子ども関連は政令全体では小さな一角で、意識して拾わないと流れていく。
駐在家庭が8月15日までに決めておく3つのこと
ここからは実務に落とす。まず座席の割り当てを固定すること。前列同乗の罰金が残った以上、「今日は下の子が助手席」という運用は8月15日以降そのまま切符につながる。子どもの席を後席のどこにするか決め、乗り込む順番まで決めてしまうほうが、毎回の判断より崩れにくい。
次に、器具を買うかどうか。警告に下がったことで購入を先送りする家庭は出るが、選ぶなら基準側から入りたい。QCVN 123:2024/BGTVTは通達48/2024/TT-BGTVTで公布され、2026年1月1日に発効した基準で、子ども用安全器具をCRSとECRS(ISOFIX対応のi-Sizeなどを含む強化型)に分けて定義している。製造・組立・輸入の各段階で適合検査と証明の対象になり、表示には重量または身長の適用範囲、取り付け方向、安全上の警告をベトナム語で入れることが求められる。基準適合の表示があるかを店頭で確かめ、車側のISOFIX金具の有無と合わせて選べば買い直しを避けられる。
三つめは、自分で運転するのかという選択だ。日本の免許からの切替は90日ビザ保持者にも開かれた(90日ビザで運転できる——ベトナム免許切替、出張者にも門戸)。自分で運転するなら義務も罰則も自分に掛かる。運転手付きでも、車が自家用車であれば器具の義務は生きる。
タクシーとGrabに残る空白、そして市場への波及
制度の空白として効いてくるのが営業車の扱いだ。2025年の法改正で、安全器具の使用義務は旅客運送の営業車に適用しないと明記された。タクシー、配車アプリの車、契約旅客車、路線バス、観光バスは、子どもを乗せてもチャイルドシートを備える義務がない。Cục CSGTは実行可能性を理由に挙げている。空港送迎や通学を配車アプリで済ませる家庭は、法律上は器具なしで乗ることになる。
ただし前列同乗は別だ。条文がこの禁止から外す車は「座席が1列しかない車」だけで、営業車を外すとは書かれていない。営業車も除外されると読む解説記事も出ているが、条文で確認できる例外は1列車両のみである。取り締まりの実務は8月15日以降を見ないと分からないため、タクシーでも配車アプリでも子どもは後席、と決めておくのが安全側だ。助手席のエアバッグは小さな体には向かない。
運転を減らす手もある。ホーチミン市は路線バスの無料化を進めており、都市部の短距離なら車を出さずに済む(ホーチミンの路線バス、7月から134路線が無料に——旅行者の移動が変わる)。
市場では基準適合品への入れ替えが進む。使用率1.3%という出発点は、供給側の伸びしろがそのまま残っていることを示す。QCVN 123:2024/BGTVTが効く以上、基準に合わない格安品は売り場から整理される。一方で罰則が緩んだぶん購入を急ぐ動機は弱く、普及の速度は学校や企業の駐在規程がどこまで踏み込むかに左右されそうだ。
実務メモ:条件・罰則・例外の早見表
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 政令 | 238/2026/NĐ-CP(2026年6月26日公布/8月15日施行。政令168/2024号の改正) |
| 対象の子ども | 10歳未満 かつ 身長135cm未満(両方に当てはまる場合) |
| 義務1 | 運転席と同じ列の席に座らせない(例外:座席が1列だけの車) |
| 義務2 | 適切な子ども用安全器具を使う・使い方を指導する(例外:旅客運送の営業車) |
| 罰則(前列同乗) | 罰金80万〜100万ドン=約4,900〜6,200円(1円=約162VND)/政令168号 第6条3項m号 |
| 罰則(器具の不使用) | 警告(8月15日から。それ以前は罰金の規定)/政令168号 第6条1項a号(政令238号で改正) |
| 器具の技術基準 | QCVN 123:2024/BGTVT(2026年1月1日発効)。CRSとECRS(i-Size等) |
| 認められる形 | 座席型、ベッド型、ブースター、車体に固定する拘束ベルト(交通警察局の説明) |
| 根拠法 | 2024年道路交通秩序・安全法 第10条3項(法118/2025号で改正) |
| 一次情報 | vanban.chinhphu.vn(法令データベース)/csgt.vn(交通警察局) |
この記事は8月15日時点の条文と報道に基づく。実際に切符を切られた場面では、上記の一次情報で条番号まで当たり直してほしい。
まとめ
8月15日に効くのは、罰金が消えた側ではなく残った側だ。10歳未満かつ135cm未満の子どもを運転席と同じ列に座らせれば80万〜100万ドン(約4,900〜6,200円)、器具を使わなければ警告。義務の中身は法律側に残ったまま、罰の重さだけが片方で下がった。
今週やることは3つ。家族の乗車位置を後席で固定して全員に伝える。手持ちのチャイルドシートがQCVN 123:2024/BGTVTの基準表示を持つか確認し、なければ車のISOFIX金具と合わせて選び直す。配車アプリやタクシーの日も助手席には座らせないと決めておく。誕生日と身長は毎年変わるので、年に一度は対象から外れたかを見直す日を作っておくと運用が崩れない。
参照元:LuatVietnam/政府法令データベース/Xây dựng chính sách/Thanh Niên/Dân trí/Dân trí(各国比較)/VnExpress/VnExpress(対象車両)/VietnamNet/VOV Giao thông/Giáo dục và Thời đại/Sức khỏe & Đời sống/LuatVietnam(経過期間)/Nhân Dân
