9月1日から罰金――ベトナムの暗号資産新ルール、在住者はどこまで対象か

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ベトナム政府は2026年7月16日付で政令284/2026/NĐ-CP を公布し、暗号資産(ベトナム語で tài sản mã hóa)をめぐる行政制裁の枠組みを9月1日から動かす。財政省の認可を受けた事業者を通さずに取引した国内投資家に3,000万〜5,000万ドン(1円=約162ドン換算で約18万5千円〜約31万円)の罰金、という条文が入った。暗号資産分野の違反類型と罰則を一本の政令にまとめた例は、ベトナムではこれが最初になる。ハノイやホーチミンで暮らす日本人の論点は「自分は対象なのか」と「9月1日に何が変わるのか」の2つだが、条文にあたるとどちらも見出しほど単純ではなかった。制度の中身と、住んでいる人が確認できる範囲を整理する。銘柄や売買の判断には立ち入らない。

目次

政令284/2026 が定めたこと

政令284/2026/NĐ-CP は2026年7月16日に署名され、政府公報の掲載情報によれば署名者は Nguyễn Văn Thắng 氏。施行日は2026年9月1日で、効力は決議05/2025/NQ-CP による暗号資産市場の試験運用が続く間とされている。制裁の形式は警告と罰金の2種類。罰金の上限は組織が2億ドン(約123万円)、個人が1億ドン(約62万円)で、時効は1年と定められている。

条文が扱う範囲は広い。暗号資産の売出しと発行、取引市場の運営、事業者の義務、取引行為、検査の妨害、口座データの不正な売買、マネーロンダリング対策の不備までが並ぶ。罰金だけでは終わらない。違法な利益の返還(buộc nộp lại số lợi bất hợp pháp)、違反に使われたウェブサイト・ソフトウェア・取引システムの削除、取引業務の1〜3か月の停止といった是正措置も置かれている。

個人に直接かかわるのは第9条だ。財政省の認可を受けた暗号資産サービス提供事業者を通さずに取引した国内投資家に3,000万〜5,000万ドン。外国投資家向けに売り出された暗号資産を取引した国内投資家には7,000万〜1億ドン(約43万円〜約62万円)。この条文の主語が「nhà đầu tư trong nước(国内投資家)」である点は、あとで効く。

認可された取引所がまだ1社もない状態で始まる

誤解されやすいのは、9月1日に「無認可の取引所を使えば即罰金」という状態が完成するわけではない点だ。土台になっている決議05/2025/NQ-CP は2025年9月9日に発効し、試験運用の期間を5年としている。その第7条では、国内投資家が認可事業者を通して取引しなければならない義務は、最初のサービス提供事業者が認可を受けてから6か月後に生じる組み立てになっている。

では最初の1社は出ているのか。財政省・国家証券委員会が認可申請の受付を始めたのは2026年1月20日。The Leader が5月に報じたところでは、要件を満たす申請を出したのは VIXEX、Vietnam Digital Assets Corporation、CAEX(VPBank系)、SCEX、TCEX(Techcombank系)の5社。財政省次官の Nguyễn Đức Chi 氏は「早ければ第3四半期に、ベトナムで正式な暗号資産市場の最初の動きが出ると考えている」と述べている。7月下旬の時点で、認可済み事業者の確定リストは公表されていない。

9月1日に立ち上がるのは、罰を科す側の法的な道具立てである。個人向けの取引義務が同じ日に発動するとは条文からは読めない。半年の時計が回り始めるのは認可第1号が出た日からだ。日付は一次資料で確かめておきたい。

罰金額と対象を一覧で読む

違反行為 対象 罰金額(ドン) 円換算の目安
認可事業者を通さない暗号資産の取引 第9条 国内投資家 3,000万〜5,000万 約18万5千〜31万円
外国投資家向けに売り出された暗号資産の取引 第9条 国内投資家 7,000万〜1億 約43万〜62万円
口座開設時に投資家の本人確認をしない サービス提供事業者 5,000万〜7,000万 約31万〜43万円
無認可でのサービス提供・市場運営/無認可のまま行う暗号資産の広告・マーケティング 第7条4項ほか 事業者 1億8,000万〜2億 約111万〜123万円
口座・暗号資産データの不正な収集・保管・売買・開示 第11条 組織・個人 1億5,000万〜2億 約93万〜123万円
罰金の上限 第4条 組織 2億 約123万円
罰金の上限 第4条 個人 1億 約62万円

換算レートは1円=約162ドン。ドン建ての金額は政令および現地報道に基づく。

在住外国人はこの罰則の対象になるのか

在住者にとって最大の関心事だが、条文は正面から答えていない。政令284/2026 の適用対象(đối tượng áp dụng)には、ベトナムおよび外国の組織・個人が含まれると書かれている。一方で、個人の取引に罰金を科す第9条の主語は国内投資家だ。決議05/2025 の用語定義では、国内投資家は「ベトナム国籍を持つ個人、ベトナム法に基づいて設立された組織」、外国投資家は「外国籍を持つ個人、外国法に基づいて設立された組織」とされている。区分の基準は居住地ではなく国籍に置かれている。

この定義を当てはめれば、ベトナムに住む日本国籍の個人は外国投資家に分類され、第9条の3,000万〜5,000万ドンは文字どおりには当たらない。ただしこれは条文の構造からの読みであって、在住外国人への適用を明示した規定は見当たらない。ベトナム国内の銀行口座を経由した資金の流れがどう見られるかは、罰則の条文とは別に残る。断定できる材料がない以上、判断が要る場面では自分の在留資格と資金の経路を持って現地の専門家にあてるのが現実的だ。

逆向きの制約もある。決議05/2025 の第6条は、試験市場で売出し・発行される暗号資産について「外国投資家に対してのみ売出し・発行する」(1項)「1項の暗号資産は、財政省の認可を受けた事業者を通じて外国投資家どうしの間でのみ取引する」(2項)と定めている。外国籍の在住者が試験市場に関わる場合、どちら側に立つ扱いかで見え方が変わる。

現地と業界の反応

ホーチミン市法科大学 商法学部の副学部長 Phan Phương Nam 氏は、暗号資産の行政制裁について独立した政令が出たのはベトナムで初めてで、「観察」から「管理下に置く」段階への移行を示すと評価している、と現地報道は伝えている。

申請5社という数字は、要件の重さを考えれば少なくない。取引市場の運営を申請するには定款資本10兆ドン(約617億円)が求められ、株主構成にも条件が付く。既存の金融グループでなければ通らない設計だ。

海外取引所側の動きは一様ではない。VietnamNet が7月24日に伝えたところでは、Binance は3月、ベトナム国内のコミュニティ支援グループから多くのスタッフが抜けた一方で、ベトナムの責任者ポジションを募集していた。OKX は4月に国内の CAEX へ戦略投資を実施。BingX、Bitget、Gate、Mexc は目立った動きが見えないと同紙は書く。海外取引所がベトナム居住者の利用をどう扱うかは、公式な発表が出ていない。

在住者と日本企業が施行前に確認できること

制度が固まる前にできるのは、売買の判断ではなく記録と経路の整理だ。ベトナムでは本人確認の締め付けがこの1年続いている。銀行口座は生体認証を通さないと止まる運用に移り(顔認証しないと口座が止まる、ベトナム在住者の生体認証チェック)、ネット販売でも7月から出品者の本人確認が必須になった(7月からベトナムのネット販売は本人確認が必須に、匿名出品が消える)。暗号資産も同じ方向で、認可事業者には口座開設時に投資家の本人確認をする義務があり、怠れば5,000万〜7,000万ドンの罰金が待つ。匿名で完結する経路を前提にした運用は、分野を問わず成り立ちにくい。

在住者が手を付けられるのは4点ある。使っているサービスがベトナム国内で認可を申請している事業者か国外の事業者かを整理すること。資金の出入りがベトナムの銀行口座を経由しているかを把握すること。保有の記録を日付と金額で残すこと。VnEconomy は6月の記事で、投資家が自己管理型のウォレットに資産を置くこと自体は認められ、国内の取引所へ移さなくても罰則の対象にはならない、と伝えている。制約がかかるのは保有ではなく取引の経路のほうだ。4つ目は日本側の申告との関係で、ベトナムの所得課税は7月に手取りの計算が変わっており(7月からベトナムで手取りが変わる──在住者が知っておく所得税と年金の話)、居住者判定と申告先の整理は暗号資産の話と切り離して済ませておくほうが早い。

日本企業の側で関係が出るのは、ベトナム法人が暗号資産に触れる業務を持つ場合だ。無認可でのサービス提供・市場運営と、市場運営サービスの認可を受けないまま行う暗号資産の広告・マーケティングは、いずれも1億8,000万〜2億ドンの罰金対象で、組織の上限は2億ドン。マーケティング部門が「暗号資産で決済できます」に類する訴求を軽く出すと、広告の扱いで引っかかる余地が残る。試験運用の間は解釈も動くため、現地法務を通さずに走らせない方が安全だ。

市場と周辺サービスへの波及

この政令が変えるのは罰金表だけではない。ベトナムの暗号資産取引は長く海外プラットフォーム上で行われ、法的な位置づけがはっきりしないまま規模が膨らんできた。決議05/2025 と政令284/2026 は、その流れを国内の認可事業者に集める設計だ。資本と株主構成の要件を見れば、申請した5社に Techcombank 系や VPBank 系が並ぶのも筋が通る。

ベトナムドン建てでの上場と取引が求められる点も効く。ビットコインやイーサリアムであってもドン建てで扱う設計だと VnEconomy は伝えており、認可取引所が動けばドンと暗号資産の値付けがベトナム国内で成立する。決済や送金、会計まわりの事業者には、対応する為替処理と記帳の設計が新しく要る。

確認先と日付の一覧

項目 内容
政令番号 284/2026/NĐ-CP(2026年7月16日署名)
施行日 2026年9月1日(決議05/2025 の試験運用が続く間)
土台となる決議 決議05/2025/NQ-CP(2025年9月9日発効・試験期間5年)
認可を出す機関 財政省(申請受付は国家証券委員会)
申請受付の開始 2026年1月20日
認可済み事業者 2026年7月下旬時点で確定リストは未公表。申請は5社
国内投資家の取引義務が生じる時点 最初の事業者が認可を受けてから6か月後(決議05/2025 第7条)
罰金の上限 組織2億ドン(約123万円)/個人1億ドン(約62万円)
時効 1年
原文の確認先 政府公報 vanban.chinhphu.vn(政令284/2026、決議05/2025)

まとめ

9月1日に発効するのは制裁の枠組みであって、個人の取引義務が同じ日に立ち上がるわけではない。国内投資家に3,000万〜5,000万ドンという条文は実在するが、その主語は国籍でいう「国内」であり、日本国籍の在住者にどう適用されるかを書いた規定は見当たらない。認可事業者のリストも確定していない。分かっていることと分かっていないことの線は、思ったよりはっきり引ける。

手を動かす順番はこうなる。政府公報 vanban.chinhphu.vn で政令284/2026/NĐ-CP と決議05/2025/NQ-CP の原文を開き、施行日と第9条の主語を自分の目で確かめる。そのうえで、財政省が認可第1号を公表した日を記録しておく。半年の時計が動き出すのはその日からだ。ベトナム法人として暗号資産に触れる業務があるなら、広告表現とサービス提供の線引きを現地法務に投げるところまでを9月1日より前に終わらせておきたい。

参照元:VietnamPlus政府公報Báo Chính phủLuatVietnamXây dựng chính sáchVnEconomyVnEconomy(ウォレット)VietnamNetVietnamNet(海外取引所)The Leader

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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