カラベル9階のサイゴンサイゴンに残った床タイルと青いガラスに隠れたヘリ屋上

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ホーチミン市の市民劇場に面したラムソン広場に建つカラベル・サイゴンの9階で、1959年から続くルーフトップバー「Saigon Saigon Rooftop Bar」が約4か月の改装を終えて客を入れている。VnExpressが10月6日に伝えたところでは、50年以上ほとんど手を入れてこなかった内装をほぼ全面的に入れ替え、床タイルと鎧戸だけを残した。戦時中に外国人記者が集まった店として知られ、英誌タイムアウトは「1960年代の戦争特派員になったつもりで」と薦めてきた場所だ。ただし、1975年4月29日にヘリコプターへ人が乗り込むあの一枚が撮られたのは、このバーではない。しかも写っていた屋上は、いま青いガラスの高層ビルに隠れて9階からは見えないという。

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残したのは床タイルと鎧戸、入れ替えたのは100平米超の内装ほぼすべて

VnExpressによると、本格的な工事に入ったのは2026年5月で、期間は4か月近く。50年あまりほとんど変わらなかった店にとって、これが最初の大規模な改装にあたる。面積は100平方メートル超で、屋内とバルコニーに分かれ、テーブルと椅子の組は合わせて約50。カウンターは中央に据えられ、客とバーテンダーが向き合う配置になった。

内装はディスコ調とアールデコの造形に、インドシナ様式と古いサイゴンの建築への参照を混ぜたものに替わっている。一方で床の市松模様のタイルと、木製の鎧戸は手を付けずに残した。カラベル側の説明では、鎧戸は吹き抜けの空間とホーチミン市の気候に合っており、タイルは見慣れた感触を保つために置いたという。バルコニーは家具を入れ替え、緑を足した。棚には1950〜60年代に記者が使ったタイプライターと記録写真が並ぶ。カクテルの「ミス・サイゴン」は残された。

客の受け止めは割れていない。10月2日に妻と訪れた65歳の英国人は、ほぼ別の店になったのに懐かしさと記録写真は残っていたと話し、月に一度友人と来るという市内在住のゴック・トゥーさんは、配置に無理がなく値段に見合うとしたうえで、この一角にエアコンがなく相当に暑いと付け加えた。店は2024年にフレーバーズ・アワードの飲食部門で受賞し、トリップアドバイザーでは世界の高評価バーの上位1割に長く入っている、というのがVnExpressの記述である。

ヴァン・エスの一枚はこのバーからではなく、UPI事務所のバルコニーから300mmで撮られた

この店を「アメリカ人が去った屋上のバー」と紹介する文章は日本語圏にもある。今回のVnExpress越語版も、9階のバルコニーの写真に「ヴァン・エスがあの一枚を撮った位置」という説明を付けている。ただし同じVnExpressの英語版は撮影地を「近くの屋上」と書くだけで、本人の回想と突き合わせると9階のバーではない。撮ったのはオランダ人写真記者ユベール・ヴァン・エスで、当時はUPIにいた。サイゴニアが本人の回想として伝えている経緯はこうだ。暗室で作業していたところ同僚の声が飛び、事務所に残っていた一番長いレンズをつかんだ。それが300mmで、「それでなんとかするしかなかった」。バルコニーに出てピットマン・アパートの屋上を見ると、20人か30人が梯子を登っていた。ヒューイは12人か14人を乗せて離陸した。その型の推奨上限は8人だったという。

世界に配信されたキャプションは、米国大使館の屋上にアメリカ人が押し寄せている写真として流れた。実際の建物はUSAID職員が住む集合住宅で、最上階にはCIAの副支局長が入っていた。ヴァン・エスは長く訂正を求め続けた。

時刻についても記録は一致しない。VnExpressは1975年4月29日17時としているが、本人の回想は午後2時半ごろから動き始めたという書き方になっている。日本語の記事やガイドで秒単位まで書き切っているものを見かけたら、どの資料に拠っているかを疑ったほうがいい。カラベル9階とこの写真をつなぐのは「戦時中に各国の記者がここに集まっていた」という事実であって、シャッターが切られた場所ではない。

ヘリが降りた22 Lý Tự Trọngは今も集合住宅で、屋上へ上がれるかは門番次第

ヘリが止まった建物は、当時の住所で22 Gia Long、現在の22 Lý Tự Trọngにあたる。ドンコイ通りの角に近く、ヴィンコムの隣という立地で、カラベルからは徒歩数分の距離だ。旅行ガイドのRusty Compassは、ここは正式な観光地ではなく屋上まで行けるかは運次第で、相場として「2人で10万ドン」を門番に払う形になると書いている。10万ドンは約600円だが、ガイドの記述には時点があるので、その額で通ると決め込まないほうがいい。上がれなかった場合の見方として同ガイドが挙げているのは、ドンコイ通り側のヴィンコム・センター正面か、反対側の中央郵便局前からの眺めである。

そして9階のバルコニーからは、その屋上はもう見えない。VnExpressは、ヘリポートのある建物が青いガラスの高層ビルに隠れたと書いている。戦時の痕跡を建物側が管理して見せる形は、ハノイでは1901年開業のメトロポールが地下の防空壕の見学を宿泊者だけに絞っている例がある。サイゴンのこの一件は逆で、見せる相手を絞ったのではなく、視線そのものが新しい建物に塞がれた。

1杯20万〜70万ドンでエアコンはなく、16時開店から翌1時までが営業時間

営業は毎日16時から翌1時まで、夜は生演奏が入る。価格はおおむね1品20万〜70万ドンで、VnExpressの英語版は8〜27米ドルと併記している。1万ドン=約61円(1円=約163ドン、2026年10月13日のおおよその水準)で換算すると、約1,200〜4,300円の幅になる。税とサービス料の扱いまでは元記事に書かれていないので、会計の前に確認する項目として残る。参考として、同じ市内の28階にあるバーではチリクラブ味のロブスターが税・サービス料別79万ドンという水準なので、9階の価格帯は高層階のホテルバーとして突出していない。

実際に行くなら、座る場所と天気で中身が変わる。約50組の席のうち、市民劇場、コンチネンタル・サイゴン、ヴィンコム・ドンコイ、パークハイアット・サイゴンを見下ろせるのはバルコニー側で、数は限られる。店にエアコンはなく、暑いという指摘は常連から出ている。南部は10月でも午後に雨が落ちることがあり、屋内側の席があること自体が保険になる。写真の屋上を自分の目で確かめたいなら、ドンコイ通りかヴィンコム前での答え合わせを先に済ませ、そのあとで19〜23 Công trường Lam Sơnの9階に上がる順番が無駄がない。

モダニズム建築を探す15万人と同じ線の上に、カラベルの改装も乗っている

今回残されたのは、床タイル、鎧戸、中央のカウンター、ミス・サイゴン、そしてタイプライターと記録写真だった。どれも室内に置けるものばかりで、この店を特別にしていた外向きの要素、つまり窓の外に何が見えるかは守られていない。守る手立てが店側にないという点が、この一件の肝だと思う。ベトナムで古い建物への関心が細っているわけではなく、モダニズム建築の愛好家グループは15万人規模に育ち、古い住宅を探して記録している。それでも、記録できるのは建物であって、建物と建物の間に通っていた視線のほうは台帳に載らない。

旅行者の側の組み立ても、それに合わせて変わる。1975年の一枚を目的にホーチミンへ行くなら、見るべき対象は9階ではなく路上の22 Lý Tự Trọngで、9階は記者たちが座っていた部屋そのものを味わう場所として使う。この二つを別の予定として分けておくと、現地で落胆しない。青いガラスの壁が立つまで、カラベルの9階は写真の答え合わせができる場所だった。いまは答え合わせを先に路上で済ませてから、同じ床タイルを踏むことになる。

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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