ホーチミンやハノイの路上で、見慣れないスクーターの背中を追うことが増えた。ベトナムのダットバイク(Dat Bike)が5月下旬に発売した「Era」は、10月10日のトゥオイチェー紙の報道で、発売から約5か月で約2万件の予約を集めたと伝えられた。安いほうのE2は2,990万ドン(約18万2千円)で、ホンダがベトナム国内で出しているビジョンの提示価格より安い。旅行で借りる一台としても、在住者が買い替える一台としても、価格の線が変わったことは意味がある。以下、円換算はすべて10月13日時点の1万ドン=約61円(100万ドン=約6,100円)で計算した。
E2は2,990万ドンのまま据え置かれE1だけが100万ドン上がった
トゥオイチェー紙によると、Eraは5月下旬の発売時にE1が3,290万ドン、E2が2,990万ドンで出た。その後E1だけが100万ドン上がって3,390万ドン(約20万7千円)になり、E2は据え置かれている。約2万という数字は納車済みの台数ではなく、ベトナム語でいう「đơn đặt hàng」、つまり受注・予約の積み上げだという点は押さえておきたい数字の性格で、実際に路上に出た台数とは別物だ。
中身は2機種で共通する部分が多い。側方配置の5kWモーターは日本のFCCと共同開発したもので、最高速度は82km/h。電池は4.3kWhで、満充電での走行距離はメーカー公称200km。シート下の収納は50リットルあり、ホンダ・リードの37リットルより13リットル広く、16インチのノートパソコンやバドミントンのラケットが入るとされる。充電器は駆動系に内蔵されていて、家庭用コンセントにそのまま差せる。標準の1,200Wで満充電まで約3.5時間、1,800Wの急速で約2.2時間、2,700Wのブーストでは最初の15分で約30km分が入るというのがメーカー側の数値だ。E1にはCBSブレーキと急速・ブースト充電が付き、E2は標準充電のみという切り分けになっている。発売当初の30日以内にE1を買った人には最長10年の電池保証が付く、というのが発売時に同社が経済紙バオダウトゥ紙上で出した案内だ。この統合充電はBetter Choice Awards 2026の「グリーン転換を促す解決策」部門で、4万8千票を超える一般投票と専門家審査9.17点を得て選ばれている。
Eraの2,990万ドンはホンダ・ビジョンを下回りウェーブ・アルファの1.7倍になる
この価格をどう見るかは、隣に何を置くかで変わる。ホンダのベトナム法人が自社サイトに出している参考価格は、ビジョンが3,150万6,545ドン(約19万2千円)、リードABSが3,975万3,818ドン(約24万3千円)、エアブレードが4,240万4,727ドン(約25万9千円)。E2の2,990万ドンはこのうちビジョンとリードの間ではなく、ビジョンよりさらに下に入る。ガソリン車で最も売れている層の入口に、電動の新顔が並んだことになる。
ただし、ベトナムの通勤バイクの底はもっと低い。同じ価格表でウェーブ・アルファ110は1,795万7,455ドン(約11万円)、ブレードは1,890万ドンだ。E2はその1.7倍で、月収ベースで考える買い手には依然として上の棚にある。ダットバイク自身の歩みを見ると、方向は逆に動いている。創業は2019年、シリコンバレーから戻ったグエン・バー・カン・ソン氏が立ち上げた会社で、最初の量産車ウィーバーの売価は4,000万ドン近くだった。E2は同社が初めて3,000万ドンを割った機種になる。5年かけて、値札は4,000万ドン台から3,000万ドン割れまで下がった。
2万件はこの7か月に売れた電動バイク513,742台の4%にあたる
ここで数字の縮尺を合わせたい。VOVが統計サイトMotorcyclesDataをもとに8月に報じた内容では、2026年1〜7月のベトナムの二輪販売は約186万台で前年同期比19.6%増、うち電動二輪は513,742台で97.2%増、全体の27.7%を占めた。ブランド別の伸びはビンファストが170.1%増で二輪の第2位ブランドに上がり、ヤディアが57.2%増、ダットバイクは49.5%増だった。約2万件という予約はこの7か月の電動二輪の約4%にあたる規模で、電動化の主役はビンファストのほうにある。
母数のほうはもっと大きい。ベトナム二輪製造者協会(VAMM)加盟5社の2026年1〜9月の販売は2,054,213台、第3四半期だけで686,661台と前年同期比10.4%増で、ホンダが加盟社計の約86%を握る。加盟5社はホンダのICON e:のような電動も扱うため、この台数はガソリン車だけの合計ではない。ホンダ単体の9月の小売は210,983台だった。乱暴に日割りすれば、ホンダがベトナムで3日足らずで売る台数を、ダットバイクは5か月かけて予約として積んだことになる。電動が全体の3割に迫るというニュースと、ガソリン車の販売が二桁伸びているというニュースが同じ年に並ぶのが、いまのベトナムの二輪市場だ。
4.3kWhの満充電は1万ドン台でE10を1リットル買う額の半分以下
在住者にとって効くのは車両価格より毎日の支出だ。家庭用電気料金は商工省の決定1279号で6段階に分かれ、税別で月101〜200kWhの区分が1kWh当たり2,380ドン、201〜300kWhの区分が2,998ドン。Eraの電池は4.3kWhなので、空から満充電まで入れても約1万〜1万3千ドン(約62〜79円)にとどまる。一方ガソリンは、E10が1リットル27,080ドンまで上がった水準にある。満充電1回の電気代は、ガソリン1リットル分の半分以下で収まる。
もっとも、公称200kmをそのまま信じるのは早い。4.3kWhで200km走るには1km当たり21.5Whに収める必要があり、これは信号の多い市街地を低速で流し続けた場合の数字に近い。渋滞のなかを急加速で走り、二人乗りで荷物を積めば消費は増える。それでも、満充電1回の電気代が1万ドン台にとどまるという関係は、実際の走行距離が公称より短くても変わらない。充電は家庭用コンセントで足りるため、充電ステーション網の有無が購入条件にならないのも、路地の奥に住む人には大きい。逆に、集合住宅の駐輪場にコンセントがない物件では、この利点がそのまま消える。
5kWのEraにはA1免許が要り、ハノイの通行止めはホアンキエム第1区域の金土日19〜24時だけ
旅行者が借りる場合に最初に引っかかるのは免許だ。ベトナムの道路交通秩序・安全法の区分では、出力4kW以下の電動二輪は免許不要で16歳以上、4kW超〜11kWはA1免許で18歳以上、11kW超はA免許となる。Eraは5kWなのでA1免許が必要で、ナンバー登録も省けない。日本の免許証だけでは運転できず、国際運転免許証もベトナムは制度上そのままでは通らない。現地で取る道は楽ではなく、ベトナムでは9か月で153万件が免許試験に不合格になっている。短期の旅行で電動スクーターに乗りたいなら、出力4kW以下の車種を貸し出す店を選ぶほうが現実的だ。
買い替えを考える在住者が気にする規制のほうも、報じられ方より狭い。ハノイの低排出ゾーンは7月1日から始まり、第1段階は12月31日まで。対象はホアンキエム坊の第1区域と第2区域で、第1区域では金・土・日の19時から24時まで全車種が入れないという時間帯の線引きだ。環状1号線の内側9坊が計画の対象に入っているが、全域で一律にガソリン車を止める運用にはなっていない。排ガス基準のほうは、2027年1月1日から優先車両の四輪に基準4以上、2028年1月1日から同じ対象の二輪に基準3以上が求められる。環状1号線内のバスは7月1日から2027年6月30日まで無料で乗れる。ホーチミンも134路線のバスを12月末まで無料にする一方、ガソリン車の使用自体は禁止していない。いま2,990万ドンのEraを買う理由は、規制に追われるからではなく、電気代とシート下50リットルのほうにある。
参照元
- Tuổi Trẻ「Xe máy điện Dat Bike Era chốt 20.000 đơn sau 5 tháng mở bán」
- Báo Đầu Tư「Dat Bike Era – xe điện gia đình dưới 30 triệu đồng」
- VOV「Xe máy điện chiếm gần 28% doanh số」
- VietnamPlus「Doanh số xe máy Việt Nam vượt 2 triệu chiếc, xe xăng vẫn tăng trưởng」
- Honda Việt Nam 二輪車製品・参考価格一覧
- Tạp chí Luật sư Việt Nam「Hà Nội hướng dẫn đi lại trong vùng phát thải thấp」
- VietNamNet「Xe máy điện có phải đăng ký biển số không và cần GPLX gì trong năm 2026」
- VTC News「Chi tiết bảng giá điện sinh hoạt 2026」


