ハノイ中心部から約30km離れた高齢者施設が、包括料金で月600万ドンから90人を受け入れている。ベトナムの新聞Dân tríが11月5日に伝えた。看護師は17人、夜間は5人が当直に残る。入居者の半数以上は車椅子で動く。そして朝8時50分、気温が落ち着いたころに施設がにぎやかになる。ピックルボールの時間だ。
親をベトナムに呼び寄せるか、自分がこのまま現地で年を取るかを考え始めたとき、最初に突き当たるのは医療と介護の実額だ。月いくらで、その中に何が入り、何を足すと上がるのか。この施設の数字は、その問いに具体的な線を引く。
包括月600万ドンに24時間の医療・栄養管理が入り、90人を看護師17人と夜勤5人で回す
Dân tríが書いている料金は「trọn gói」、つまり包括である。月600万ドンから始まり、パッケージの幅は月600〜800万ドンに収まる。この包括に付くものとして記事が挙げているのは、医療と栄養の24時間体制だ。
月600万ドンを円と1日あたりに置き直す
1万ドン=約57円(2026年11月時点)で計算すると、月600万ドンが約3.4万円、月800万ドンが約4.6万円。1日あたりでは20万ドン、約1,140円から始まる。
| 月額(ドン) | 円換算の目安 | 1日あたり |
|---|---|---|
| 600万ドン | 約3.4万円 | 20万ドン(約1,140円) |
| 700万ドン | 約4.0万円 | 約23万ドン(約1,330円) |
| 800万ドン | 約4.6万円 | 約27万ドン(約1,520円) |
90人を見る人の数
看護師長のCao Thị Loan氏によると、施設の看護師は17人。ほかに厨房が2人、雑務が3人。夜間は常に5人が当直に入る。
| 担当 | 人数 | 入居者90人との比 |
|---|---|---|
| 看護師 | 17人 | 単純に割れば1人あたり5人強 |
| 厨房 | 2人 | 90人分の食事を回す |
| 雑務 | 3人 | 清掃など |
| 夜間の当直 | 5人 | 1人あたり18人 |
17人は在籍の総数で、同じ時間に17人が立っているという話ではない。体制の厚みを測るなら、夜に5人が残るという一点のほうが実感に近い。入居者の半数以上が車椅子で移動しているという記述と重ねると、夜間に動ける人手の意味が変わってくる。
食事は90人分を一つの献立で回していない
- 取材日の朝食はひき肉入りのフォー
- 噛む力や飲み込む力が落ちた5人には粥が出る
- ベジタリアンの入居者1人には別の献立を用意
- 昼休みのあと、14時ごろに軽い間食が入る
食事形態を分ければ厨房の手間は増える。そこを2人で回しているというのが、包括料金の中身を読むときの材料になる。
日差しが強くなる前の8時50分にコートが埋まる
1日は6時30分の起床から始まる。庭を歩く人とニュースを見る人に分かれ、8時50分ごろ、日差しがまだ強くない時間にコートが埋まる。
午前はラケット、午後は声
- 体がよく動く入居者がラケットを持ってゲームに入る
- コートの外には白髪の応援団が並ぶ
- 午後はボールのパス回しと、移動が難しい人向けの輪投げ。得点が付く
- カラオケと、自作の詩の朗読も午後の予定に入る
ピックルボールはベトナムの都市で一気に広がった競技で、コートが小さく球が遅いところが入口の低さになっている。それが施設のレクリエーションに組み込まれ、周囲の観客席は常に埋まっている。競技の普及が進んだという話ではなく、90人の施設の午前中が何で埋まっているかという話だ。
74歳のTâm氏は元教師で、教職について自分で書いた詩を朗読したとDân tríは伝えている。輪投げと詩の朗読が、同じ午後の時間に並んでいる。
日本の特養は食費と居住費だけで1日2,460円、ハノイの包括は1日約20万ドン
月600万ドンという数字は、日本側の制度と並べたときに輪郭が出る。日本の介護保険施設では、食費と居住費に国が基準費用額を定めている。特別養護老人ホームの食費は2026年8月の改定で1日1,545円、多床室の居住費は1日915円。合わせて1日2,460円だ。
食事と部屋だけを並べてみる
| 比較の軸 | ハノイの施設 | 日本の特別養護老人ホーム(多床室) |
|---|---|---|
| 1日あたり | 20万ドン(約1,140円) | 2,460円(食費1,545円+居住費915円) |
| 30日分 | 600万ドン(約3.4万円) | 約7.4万円 |
| この額に入るもの | 24時間体制の医療・栄養管理 | 食事と居室のみ |
| 別に積む分 | 食事介助・身体の清潔ケア・理学療法で月800万ドンまで | 介護サービス費の自己負担1〜3割、日常生活費 |
日本側の約7.4万円には、介護サービス費の自己負担が一円も入っていない。食事と部屋だけの基準額である。所得段階による軽減が効く人は実際の請求が下がるが、上に積む項目のほうが多い。対するハノイの600万ドンは、24時間体制の医療・栄養管理が付いた月額として提示されている。
比べているのは制度ではなく請求書の桁である。日本で食事と居室だけに払う額より低い金額で、ハノイの施設は24時間体制の医療・栄養管理を付けた月額を提示している。ただし日本側の2,460円は介護保険の給付が別にある前提の自己負担で、ハノイの600万ドンは全額自費だ。
月800万ドンの傷痍軍人手当から月700万ドンを払う75歳がいる
費用の水準は、誰が払うかという一点で意味が変わる。Dân tríが取り上げた75歳のĐào Đăng Khuê氏は、娘が遠方で働けるようにと自分で入居を決め、月700万ドンを自分の手当から払っている。原資は傷痍軍人と枯葉剤に関する月約800万ドンの手当だ。
手当の内側に施設費が収まっている
- 手当が月約800万ドン、施設への支払いが月700万ドン。残るのは月100万ドン
- 円では手当が約4.6万円、支払いが約4.0万円(1万ドン=約57円、2026年11月時点)
- 71歳のNguyễn Hữu Dũng氏のほうは、家族がバーチエウ通りの自宅で営む商売の収入から払っていると記事にある
公的な手当の内側に施設費が収まる構造は、在住者が自分の老後を試算するときの基準線になる。ただし日本の年金を持ち込んで払う場合、受け取る通貨と払う通貨が違うので為替の振れがそのまま効く。1万ドン=約57円が1割動けば、月600万ドンの請求は約3,400円分が上下する。
支払いの経路も見ておきたい。日本の決済アプリをそのまま持ち込んで月額を払う道はまだなく、越境QRが使える店はベトナム全体の6%にとどまる段階で、日本は接続先にも入っていない。現地の銀行口座から引き落とす形になるなら、銀行口座のVNeID紐付け期限が2027年6月末に置かれていることが、入居より前の手続きとして並ぶ。
30kmを往復する回数のほうが先に効く
- ハノイ市内に住んでいれば、中心部から約30kmは日帰りの範囲に入る
- 日本から来る家族が毎回空港から向かうなら、往復の時間が訪問のたびに積み上がる
- 料金の上下は月200万ドン、約1.1万円の幅。距離のほうが生活設計を縛る場面がある
月600万ドンの内側にあるのは24時間体制の医療・栄養管理だ
包括の中身としてDân tríが書き切っているのは一行で、24時間体制の医療・栄養ケアという範囲までだ。看護師17人がこなしている仕事はもっと広いが、そのどこまでが月600万ドンの内側かは、記事の文面からは決まらない。
包括に書かれているものと、書かれていないもの
- 包括に入るとDân tríが明記しているのは、24時間体制の医療・栄養管理
- 看護師17人は健康状態の確認、食事の介助、入浴、マッサージ、機能訓練を担当する。どこまでが包括に入るかをDân tríは書いていない
- 食事介助、身体の清潔ケア、理学療法が必要になると料金は上の段に移る
介助の段階が上がると月600万ドンはどこまで動くか
| 介助の段階 | 月額 | Dân tríが書いていること |
|---|---|---|
| 包括の下限 | 600万ドン(約3.4万円) | 24時間体制の医療・栄養管理が付く |
| 実際に払っている例 | 700万ドン(約4.0万円) | 75歳のKhuê氏が手当から払っている額 |
| パッケージの上端 | 800万ドン(約4.6万円) | 食事介助・身体の清潔ケア・理学療法が必要な入居者は上がる側に移る |
同じ施設の中で、月600万ドンと月800万ドンを分けているのは部屋の等級ではなく、手を貸す場面がどれだけ増えたかだ。差は月200万ドン、約1.1万円。90人のうち半数以上が車椅子で、夜は5人が当直に立ち、朝8時50分にはラケットを持つ人と応援する人に分かれる。その1日の値段が、下限で月600万ドンに置かれている。


