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2026年3月、ベトナムを訪れる欧州からの旅行者数が前月比で大幅に落ち込んだことが、ベトナム国家観光総局のデータで明らかになった。原因は中東情勢の悪化によるドバイ・ドーハ・アブダビなど主要乗り継ぎ空港の閉鎖。燃料コスト高騰と航路の大幅迂回が重なり、北欧・東欧を中心に旅行キャンセルが相次いだ。一方でアジア圏からの旅行者は軒並み増加し、日本人訪問者は前年同月比39%増という記録的な伸びを記録した。ベトナム全体の2026年第1四半期累計は676万人と、過去最高を更新している。
ベトナム国家観光総局が発表した2026年3月の国別訪問者データによると、欧州主要国からの旅行者数は前年同月比で軒並み大幅なマイナスとなった。
北欧・東欧諸国が特に大きな落ち込みを示している点が注目される。これらの国々は、欧州とアジアを最短距離で結ぶ中東経由ルート(いわゆる「湾岸ハブ」経由)を利用することが多く、ドバイ・ドーハ・アブダビなどの空港機能停止の影響を直撃した形だ。
2026年2月末から3月にかけて、イスラエル・米国とイランの間で軍事的緊張が一段と高まり、中東の主要民間空港が相次いで運航停止または大幅縮小に追い込まれた。特にドバイ国際空港は事実上の全便停止状態となり、エミレーツ航空は無期限の運航停止を宣言。カタール航空もドーハ発着便を数日にわたって全便欠航とした。
欧州とベトナムを結ぶ航空路の多くは、この「湾岸ハブ」を経由する構造になっていた。ロンドン・パリ・フランクフルト発のエミレーツやカタール航空のフライトは、ドバイやドーハを経由してハノイ・ホーチミンへと向かうルートが主流だった。これらが一斉に機能停止したことで、欧州からベトナムへの直接的なアクセス手段が事実上消滅した。
さらに事態を悪化させたのが燃料コストの急騰だ。航空機が中東上空を避けて南回りや北回りの迂回ルートを飛ぶ場合、飛行時間が2〜3時間延びるだけでなく、燃料消費量も大幅に増加する。この燃料コスト増は航空運賃に転嫁され、欧州からの旅行者にとってベトナム旅行のコストパフォーマンスが著しく悪化した。
欧州市場の急減とは対照的に、アジア各国からの訪問者数は軒並み大幅に増加した。
日本人旅行者の39%増は、アジア諸国の中でも突出した伸び率だ。この背景にはいくつかの要因が重なっている。
まず、中東混乱の影響がほぼなかったことが大きい。日本からベトナムへの直行便は複数の航空会社が運航しており、ハノイ・ホーチミン・ダナン・ハノイなどへの直行ルートは中東を経由しない。今回の混乱で欧州旅行者が苦しんでいる間も、日本人旅行者は通常どおりベトナムへ渡航できた。
また、2026年4月28日からはVietjetがハノイ〜静岡線を新規就航する予定があり(Vietjetハノイ〜静岡線4月28日就航)、地方空港からの直行便拡充が日本人の渡航ハードルをさらに下げている。加えて、ベトナムの2026年第1四半期の観光者数が過去最高を更新した好調な観光環境も、日本からの渡航意欲を後押ししている(2026年第1四半期外国人観光客数が記録更新)。
2026年3月のベトナム訪問者数は200万人で、前月の2月比で6.7%減少した。欧州からの急減が全体の数字を押し下げた形だ。
ただし、第1四半期(1〜3月)の累計は676万人と前年比12%増を達成し、四半期ベースとしては過去最高を記録している。これは1月・2月の好調がベースにあり、旧正月(テト)需要や年初の観光シーズンが順調だったことを示している。
今回の状況は、日本人旅行者にとってむしろチャンスとなる側面がある。
1. 観光地の混雑緩和
ハノイ、ホーチミン、ホイアン、ダナンといった人気観光地では、欧州からの団体旅行者が一時的に減少しているため、3〜4月は例年より混雑が緩和されている可能性がある。特にフォー・バイン・ミーなどの人気食堂や、バーツァン・ロールのローカル店では、行列が短くなっているという現地情報もある。
2. ホテル・フライト価格の安定
欧州からの需要が減少している分、ハノイやホーチミンの国際ホテルでは客室稼働率が若干下がっており、直前予約でも比較的良い部屋が取りやすい時期となっている。ただし、日本からの需要は増加しているため、日本人に人気の中価格帯ホテルは依然として予約が必要だ。
3. 中東経由乗り継ぎは避けるべき
今回の事態は、日本から欧州や中東経由でベトナム入りするルートの脆弱性を改めて示した。現時点でも中東情勢は流動的であり、日本からの旅行では直行便を選択することを強く推奨する。
4月以降のベトナム旅行では、ダナンのソンカン・フェスティバル(ダナン・ソンクランフェスティバル2026)やフエ・フェスティバル(フエ宮廷料理フェスティバル2026)など、大型イベントが目白押しだ。旅行者数が増える時期に入るため、早めの手配が賢明だろう。
中東情勢の先行きは依然不透明だが、いくつかの航空会社は迂回ルートでの運航再開を模索している。ただし、欧州〜ベトナム間の通常レベルの便数回復には、中東の空域完全正常化が前提となり、早くとも数ヶ月単位の時間がかかると見られている。
一方でアジア発の旅行者増加トレンドは持続的であり、ベトナムの観光産業は市場の多様化という観点からは恩恵を受けている。インド・インドネシア・日本からの旅行者拡大が、欧州市場の一時的な落ち込みを補って余りある勢いを示している点は、ベトナム観光の底堅さを示す指標だ。
2026年3月のベトナム欧州旅行客急減は、地政学リスクが航空路線を通じて観光産業に波及した典型例だ。ノルウェー42%減、スウェーデン37%減という数字は、中東ハブへの依存度が高い欧州旅行者の脆弱性を露わにした。対照的に、日本人旅行者の39%増という数字は、直行便ネットワークの強さと、ベトナムが日本市場において確固たる人気を誇っていることを示している。
日本からベトナムへの旅行は今まさに追い風の時期にある。混雑緩和・価格安定・新路線就航というトリプルメリットが重なる今春は、ベトナム旅行の絶好のタイミングと言えるだろう。
参考・引用元:
・VnExpress: Vietnam sees drop in European arrivals in March amid disruption in air travel
・Bloomberg: 中東航空会社の運休広がる、イランの攻撃で
・ACCESS Online: 中東空域閉鎖でベトナム発着便が相次ぎ欠航