ベトナムで暮らす日本人や出張者にとって、役所通いの負担が変わる。政府は電子身分証アプリVNeIDを拡張する政令320号を公布し、2026年9月28日に施行する。いったんアプリに取り込まれた書類は、行政機関が自らシステムから照会する義務を負い、窓口で同じ書類を再提出しなくてよくなる。パスポートや運転免許、居住確認といった手続きの土台が、紙のやり取りから画面上の照会へ動く。
誰に関係する話か。ベトナムの居住カードやVNeIDアカウントを持つ在住者、現地法人の代表や総務担当、そして短期でも行政手続きに触れる出張者だ。とくに駐在員は、会社の各種届出とのつながりが深い。
政令320号は既存の69号を改め、9月28日から施行する
今回の320号は、電子身分証を定めた既存の政令69号を改正するものだ。中心にあるのは「一度出した情報を二度出させない」という運用の徹底にある。原文によれば、書類がアプリに統合された後は、担当機関が本人に再提出を求めるのではなく、システムから直接情報を取得しなければならない。窓口に積まれる書類コピーの束が減る方向へ制度が動く。
これまでの窓口手続きでは、パスポートや居住確認のコピーを申請のたびに用意し、内容によっては公証を求められる場面もあった。同じ書類を部署ごとに出し直す手間が、在住者の時間を削ってきた。320号が想定する機関側がシステムから照会する運用は、この重複を制度として断ち切ろうとするものだ。
ベトナム政府はここ数年、行政手続きの入口をVNeIDへ集約してきた。車の登録・検査や入管の届出をアプリ側へ寄せる流れがあり、320号はその延長線上で、個人と法人の書類を一気に束ねる。省庁ごとにばらけていたデータベースを横につなぎ、変更があれば自動で同期させる設計が土台になる。
発行機関には、内容に変更が生じたら変更後ただちにデータを更新する義務も課される。連携済みのデータベースは自動で同期する仕組みが前提だ。VNeIDでの手続き完結は、すでに入管手続きの一本化や犯罪経歴証明の取得で先行しており、320号はその範囲を大きく広げる位置づけになる。
個人66種・法人140種の計206種が統合対象
統合の対象となる書類は幅広い。個人向けは66分類で、パスポート、運転免許、居住確認などが含まれる。法人・組織向けは140分類で、事業登録証、輸出入許可、印章証明などが並ぶ。合わせて206分類がアプリ上で扱えることになる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 施行日 | 2026年9月28日 |
| 政令 | 320号(69号を改正) |
| 個人向け書類 | 66分類(パスポート・運転免許・居住確認など) |
| 法人向け書類 | 140分類(事業登録・輸出入許可・印章証明など) |
| 合計 | 206分類 |
オンライン申請は手数料を減免、年金や手当は「社会福祉口座」で受け取る
費用面の変更もある。アプリを通じてオンラインで処理する行政サービスは、手数料の減額または免除の対象になる。手数料ゼロの条件については、外国人がどこまで対象になるかを含めVNeIDの手数料免除の運用を別途確認しておきたい。手数料の減免は、窓口に並ぶより画面で済ませたほうが安く速いという設計で、スマホでの本人認証が広く根づいたベトナムの実情に合う。ただしアプリに未統合の書類は従来どおり紙で扱われるため、当面は電子と紙が併存する。
もう一つの新機能が「社会福祉口座」だ。年金や各種手当の受け取りのために、銀行口座・電子ウォレット・モバイルマネーを紐付けられる。原文の範囲では、この口座機能に開始日は明示されていない。銀行・EC・SNSの口座を期限までに紐付けよ、という全員向けの一律義務も、政令320号の条文からは確認できない。裏取りのない期限に振り回されないことが、在住者には実利になる。
在住日本人・駐在員が施行前に手を打てること
制度が動く前に、手元でできる準備がある。
- VNeIDアカウントのレベル2認証を済ませ、パスポートや居住情報が正しく反映されているか確かめる
- 会社の事業登録証や許可証など法人書類の記載が最新か、総務・法務と突き合わせる
- 年金・手当の受給予定があるなら、社会福祉口座に登録する銀行口座やウォレットの情報を整理しておく
- 窓口で再提出は不要のはずと主張する前に、対象書類がアプリに統合済みかを自分で確認する
とくに会社経由で手続きする駐在員は、法人書類の統合状況が個人の申請速度に響く。事業登録や許可証の情報が古いままだと、システム照会でも古い内容が返るため、施行前の棚卸しが効いてくる。
紙の削減は、現場の運用が追いつくまで時間差が出る。施行直後は窓口ごとに対応が割れる場面も見込んで動くのが現実的だ。
9月28日の施行前に統合書類を確認しておく
政令320号は2026年9月28日施行、個人66種・法人140種の計206種の書類をVNeIDに統合し、統合済みなら役所での再提出を不要とする。オンライン申請は手数料が減免され、年金・手当は社会福祉口座で受け取れる。一方、銀行・EC・SNS口座の一律紐付け期限は、この条文からは読み取れない。まずは自分のVNeIDと会社書類の記載を9月28日までに点検しておくことが、窓口で無駄足を踏まない一歩になる。
