ベトナム北部、中国と国境を接する石灰岩台地の役場から出た3〜5分の動画が、旅行者の行き先を動かしている。撮っているのはドンヴァン・コミューン人民委員会のファム・ドゥック・ナム委員長。集落を見回った帰りに自分のスマートフォンで回し、フェイスブックページに上げる。ダン・チーが2026年9月26日に報じた。ここは日本の旅行者が長く「ハザン」と呼んできた土地だが、2025年の省再編で住所はトゥエンクアン省に変わった。そして役場は、動画が話題になったのとほぼ同じ週に、旅行者向けの苦情受付番号を7つ公開している。行く側にとって効くのは、むしろそちらだ。
三脚は通販の安物、映っているのは麻織りの作業場
ダン・チーによると、ナム委員長は三脚にスマートフォンを固定し、モン族の麻織りの作業場を自分の言葉で紹介する。専用スタジオはなく、背景は周囲の山並みそのまま。制作は委員長と役場職員2人の計3人。撮影や編集を習ったことのある者はおらず、機材は個人のスマートフォンとネット通販で買った安価な三脚だけだという。撮影班がいないわけではなく、素人3人のチームである。
最初の1本は数万回、いまページのフォロワーは1万人超
古い集落と素朴な食卓を撮った第1作が数万回再生され、その後フェイスブックページ「Nam – Chủ tịch xã Đồng Văn」の投稿群が累計で数百万回に達した。フォロワーは1万人を超える。ひとつの動画が単独で100万回を超えたという書き方は元記事の本文にはなく、再生回数はページ全体の積み上げとして示されている。数字を引くときはこの差を落とさないほうがいい。
3か月ためらってから撮り始めた
思いついてから実行までに3か月かかったと本人は振り返る。障害は機材でも題材でもなく、「委員長が動画を上げたら不真面目だと見られないか」という迷いだった。撮り始めてからも会議室の口調が抜けず、報告書を読み上げるような話し方になったという。1本あたりの工程は企画・撮影・編集・内容確認の4段階で、数日かかる。
ドンヴァンはもう「ハザン省」ではない、住所はトゥエンクアン省
旅行者に一番効くのは地名の話だ。ナム委員長は旧ハザン省で35年勤め、以前はドンヴァン県人民委員会の副委員長だった。省の再編と2層制の地方行政への移行を経て、いまはコミューンの委員長である。役場サイトが載せる所在地も「トゥエンクアン省ドンヴァン・コミューン、ドンヴァン集落」になっている。
「村」ではなく24の集落を抱えるコミューン
日本語では「村」と訳されがちだが、ドンヴァンは24の集落(トン)を束ねる行政単位で、旧ドンヴァン県の中心市街もこの中に入る。9月22日付の役場通知の配布先にも「各集落長(24集落)」と明記されている。石造りの旧市街、日曜の定期市、モン族の土壁家屋が残るムアピン集落は、いずれも同じコミューンの中にある。
予約サイトと地図で表記が割れる
宿や車の手配で「Ha Giang」と「Tuyen Quang」の両方が混在する期間がしばらく続く。検索するときは省名ではなく「Dong Van」と、旧県名・旧省名を併記して当たるのが確実だ。保険や渡航届の住所欄で旧省名を書いてしまうと、後から照合が面倒になる。山越えの区間は電波が途切れるので、1日10GBが30日125,000ドンというベトテルのeSIMのような大容量回線を先に用意しておくと、現地で地図と連絡の両方を回せる。
9月22日付の通知で、役場が苦情窓口の番号を7つ公開した
ドンヴァン・コミューン人民委員会は2026年9月22日付の通知第291号で、宿泊・飲食・その他サービスに関する旅行者の申し立てを受ける携帯番号を公開した。役場サイトに掲載された文書には、委員長以下7人の氏名・役職・番号と、それぞれが受ける内容が表になっている。署名はジャン・ミー・サイ副委員長。メールでの受付先は ubnd.xadongvan@tuyenquang.gov.vn。
宿・価格・食品衛生で受付先が分かれている
| 受付内容 | 担当(役職) | 番号 |
|---|---|---|
| 観光・サービス業全般 | ファム・ドゥック・ナム(コミューン委員長) | 0949.112.686 |
| 観光・文化・宿泊施設 | ジャン・ミー・サイ(副委員長) | 0388.433.650 |
| 観光・宿泊・情報・広報 | チャン・ティ・サン(文化社会課長) | 0372.485.136 |
| 商売・価格・価格表示 | リー・ヴァン・ドン(経済課長) | 0852.910.888 |
| 治安・交通安全 | ジャン・ミー・サー(公安署長) | 0979.214.258 |
| 価格・商品・原産地 | タック・ドゥック・シン(市場管理第11隊長) | 0963.876.688 |
| 食品衛生・医療 | ヴィエン・クアン・フアン(ドンヴァン地域医療センター) | 0386.017.135 |
通知は、申し立てる側に氏名・発生場所・具体的な内容を揃えて伝えるよう求めている。写真と領収書、店名の綴りを控えておくと話が早い。
動画に出ている本人が表の1番に載っている
動画で顔を見せている委員長が、そのまま苦情受付の筆頭に名前を出している。発信と受け止めが同じ人物に紐づく構えは、観光地としては珍しい。動画で来た人が現地で困ったときに戻る先が用意されている、という一点で、この2つの動きは別々の話ではない。
そば花は12月初旬まで残す段取り、植えているのは国道4C沿い
ドンヴァンの秋の目当てはソバの花だ。役場が9月8日にタートゥンチュー集落で開いた植え付け開始式の発表によると、2026年の秋冬作では24集落で作付けを進め、うち国道4C沿いの11集落・20ヘクタールを重点区域として花を集める。第12回ソバ花祭りに合わせた段取りである。
3回に分けて播いて花期を伸ばす
| 項目 | 役場の発表内容 | 発表日 |
|---|---|---|
| 播種の分け方 | 3回に分割。1回目が早咲き、2回目が祭り本番用、3回目で12月初旬まで花を残す | 2026年9月8日 |
| 重点区域 | 国道4C沿いの11集落・20ヘクタール | 2026年9月8日 |
| 祭りの予定行事 | 第2回料理コンテスト、コーヒーの夜、花畑での体験、ドンヴァン演舞センターでのロック公演、ソバ花の植栽・造形コンテスト | 2026年9月11日 |
祭り本番の日程は、9月26日時点で役場サイトの記事からは読み取れなかった。花だけが目的なら、混雑する本番を外して3回目の咲き終わりに寄せる選び方もできる。
面積の数字は役場の発表どうしで合っていない
9月8日の発表は作付け目標を50ヘクタールとしているのに、9月11日の省の視察記録では「これまでに130ヘクタールを植えた」となっている。どちらかが集計の取り方を変えているはずだが、外からは決められない。現地発表の面積を1つだけ拾って「今年は例年より広い」と判断しないほうがいい。旅程に効くのは面積より、国道4C沿いに固めているという配置のほうだ。
行政が撮ると「保証」に見える、その受け取り方は分けておく
ナム委員長は、書記や委員長がライブ配信に出ることを、品質と産地に対する「金の保証シール」だと表現している。ただしこれは本人の見立てであって、制度上の認証ではない。行政職員が映っている動画は、その店やその宿の品質を公的に保証するものではない。
民間の発信とは、増え方の速さが違う
ベトナムでは、古い建物を探して歩く愛好家グループが15万人規模まで育った例があり、民間の熱量は行政の発信よりはるかに速く伸びる。逆に役場の発信は、通知・価格表示・医療窓口といった裏方の情報と同じ場所に置ける強みがある。ドンヴァンの場合、動画で来た人が次に開くのが同じサイトの通知欄になる。
外部の選出に頼る集客とは向きが逆
海外メディアの年間リストに載って客が動く経路もある。ダナンが海外ガイドブックの2027年版50選に入ったように、外から選ばれる形だ。ドンヴァンは選ばれるのを待たずに自分で出した。どちらが強いかではなく、後者は出し手の都合で更新が止まる弱さを抱える。フォローする側は、更新が途切れても現地が変わったわけではないと踏まえておく。
出発前にやること、着いてからやること
花の時期を狙うなら、祭り日程の発表を待ってから宿を決める
作付けの段取りから逆算すると、花は11月から12月初旬まで見られる想定で動いている。ただし祭りの会期が決まると宿の値段と空きが一気に動くので、会期の発表を確認してから押さえるほうが損をしにくい。役場サイトは日次で通知が出る場所なので、行く月の頭に一度見ておけばよい。
困ったときのために、店名の綴りと領収書を残す
公開された7つの番号は、氏名・発生場所・内容を揃えて伝えることを前提にしている。ベトナム語での電話が難しければ、メールアドレス宛に写真を添えて送る手もある。動画を見て山の上まで来た旅行者が、価格や衛生で黙って帰らずに済む道を、役場が先に用意した。次にドンヴァンへ行く人がまずやるべきことは、この通知のページをブックマークしておくことだ。


