フォー2000にクリントンが突然来た日、店主は米国で電話を受けた

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ホーチミン市1区、ベンタン市場の西側に沿うファン・チュー・チン通り1-3番地に「フォー2000」がある。2000年11月19日の昼、ここにビル・クリントン米大統領が予告なしに入り、娘のチェルシーさんと約1時間の昼食をとった。ベトナム紙ダントリが2026年9月23日、その日を創業者フイン・チュン・タン(通称アラン・タン)氏の証言で伝えた。話の入口は、店主本人がその場にいなかったことだ。

当時の一杯は12,000ドン。今は小サイズで70,000ドン、客の大半は外国人だ。旅行者はこの店を「大統領が来た店」として消化しがちだが、創業者はその一点だけで店が続いたわけではないと言う。

目次

米国で電話を受けた店主、義母が伝えた「大統領が昼食中」

電話が鳴ったのは米国時間の2000年11月18日深夜、ベトナム時間では19日の昼にあたる。タン氏は米国で新支店の準備中だった。義母は「あなた、米大統領のビル・クリントンがうちの店に昼食に来ているよ」と告げた。すぐには信じられなかったという。クリントン氏のベトナム公式訪問は11月16日から19日まで。現職の米大統領がハノイを訪れたのは初めてで、1975年の米軍撤退後では初のベトナム訪問にあたる。

「事前に知っていたら、夫婦で店に居てお迎えしていたはずです」とタン氏。地球の裏側で一睡もできず、昼食が無事に終わったと連絡が入って息をついた。

1階は警護、2階で鶏のフォーから注文が始まった

従業員の説明としてダントリが伝えた経緯はこうだ。大統領が入店するとシークレットサービスがすぐに扉を閉め、警護は1階に残り、大統領はチェルシーさんと数名の随行者とともに2階へ上がった。大統領は鶏のフォーを1杯注文し、そのあと牛のフォーを追加。飲み物はマンゴーのスムージーと水。チェルシーさんは豆腐とキノコ、野菜だけで取った出汁の精進フォーを選んだ。

大統領は箸とスプーンで食べ、娘や駐ベトナム米大使夫妻と談笑した。帰る前には厨房に入り、従業員を呼んで一緒に写真を撮っている。出汁を炊く区画の横に立つその一枚は、いまも店の目立つ位置に掛かっている。「父親が娘を食事に連れてきたような光景だった」とタン氏は振り返った。

完全な偶然ではなかった、数日前に動いていた二つの準備

「飛び込み」と呼ぶには早い。訪問の数日前、ベトナム側の警備が従業員名簿を受け取りに来て、店の周囲を見て回っていた。さらにさかのぼると、在ホーチミン米国総領事館の関係者が2000年に毎週この店へ通っていた。親しくなったその客が「重要な外交団が来るのでフォーを食べてもらいたい」と打ち明け、米側から食材サンプルの検査を申し入れてきた。

タン氏は即座に応じた。「始めたときから夫婦で食品衛生に気を配ってきたので、不安はありませんでした」。突然の来店は店側の体感としては正しいが、段取りは数日前に始まっていた。

一杯12,000ドンが70,000ドンへ、26年で値段はどこまで動いたか

ダントリによれば現在の鶏・牛・精進のフォーは小サイズ約70,000ドン、大サイズ約99,000ドン。小サイズで名目約5.8倍だ。

円換算の目安と、当時の価格を比べてはいけない理由

品目 2000年当時 現在(2026年9月時点) 円換算の目安
フォー1杯(当時はサイズ区分の記載なし) 12,000ドン — —
フォー(鶏・牛・精進)小サイズ — 約70,000ドン 約440円
フォー(鶏・牛・精進)大サイズ — 約99,000ドン 約620円

円換算はベトコムバンクが2026年9月25日9時33分(現地時間)に公表した電信相場、1円=159.64ドンで計算した目安だ。2000年の12,000ドンは当時の為替と物価が違うため、円に置き換えても比較にならない。

路地の一皿と並べると、この価格帯が何を売っているのか見えてくる

当サイトで取り上げたハノイの路地で70年続くバインクオンは一皿89円だった。フォー2000の小サイズはその5倍前後にあたる。つまりこの440円は麺と出汁の原価だけの値段ではない。外国人が迷わず入れる立地、拭き上げられた2階席、壁の写真が乗っている。

店名の「2000」はクリントン訪問の年ではない

この店についてよく言われる思い違いが店名の由来だ。「クリントン氏が来た2000年にちなむ名前だろう」と冗談めかして言われることが多い、とダントリは書く。事実は違う。1号店は1998年、サイゴンの「フォー通り」と呼ばれてきたヴォーティーサウ通りに開いた。「新しい千年紀を迎えようとしていた時期で、その節目を刻む数字として2000を選びました」。訪問は店名決定の2年後だ。

フレンチの高級店2軒から、庶民の一杯へ切り替えた1998年

タン氏は飲食・ホテル業を営む家に生まれ、1971年に米国へ留学しそのまま現地で働いた。1989年に帰国してフランス料理店「ル・メコン」を立ち上げ、その後は共同で「ベトナムハウス」を開く。どちらも当時の市内で名の知れた高級店だった。

アジア通貨危機で経営が苦しくなり、夫婦は一時米国へ戻る。書店で手にした有名飲食ブランドの経営哲学が転機になった。「高級路線に絞るのではなく、庶民的で、その土地の固有性がある料理に舵を切ることもできる」。帰国後はバインクオン、ブンリウ、ブンオック、ブンチャーを検討し、最後にフォーを選ぶ。理由は「ベトナム人がいる場所には、必ずフォーがある」の一点だった。

単価を下げる話ではなく、扱う品目を替える話だった

不況期の対応は値下げに見えるが、タン氏がやったのは業態の入れ替えだ。高級フレンチを安く回すのではなく、地域の看板になる一品へ移り、そこで衛生と品質の基準を高く置いた。日本の飲食業や食品メーカーにも読み替えが効く。

骨を8時間以上、化学調味料なし。卓の上まで決めごとがある

夫婦は自分たちの出汁を探してベトナム北中南の3地域でフォーを食べ歩き、砂糖を多めに入れる店や化学調味料を多用する店に気づいた。試作を重ね、骨から自然な甘みを出す方法を選んだ。

出汁と麺で店が譲らない基準

「骨は8時間以上煮出し、化学調味料は使いません。出汁は濾過装置を通します。煮詰めすぎると塩辛くなりますが、料理人が急いでも味が落ちます」とタン氏は語る。麺にも条件がある。柔らかく、薄すぎず厚すぎず、途中で切れないものを求めるという。

ステンレスの卓、湯にくぐらせたスプーン、卓下の小さなかご

卓と椅子はステンレス製で、客が入れ替わるたびに拭いて消毒液を吹ける。スプーンは熱湯にくぐらせ、ビニールで包んで出す。各テーブルの下には紙ナプキン用の小さなかごを置いた。

「最初は従業員とトングを持って、テーブルの下の紙を一枚ずつ拾いました。私たちが清潔を保つのを見て、客にも習慣がついた」。米側の食材検査に即答できた背景はここにある。

「昔と違う」という声に、店が見ているのは注文の中身

ダントリの記事は好意的な評価だけを並べていない。出汁のこくが足りない、以前と同じ味ではない、という声が届いていることも書かれている。客の大半が外国人という構成では評価も割れる。タン氏の答えは「こくのある出汁が好きな人もいれば、すっきりした味を好む客もいます。的を射た指摘なら受け入れて調整します」。

アンケートではなく、毎日の注文構成を数えている

タン氏は日々の料理別の注文数を追っている。「フォーの店に入った客が、主にご飯物や揚げ春巻きを頼むようになったら、料理に問題が出ている合図です」。看板商品の比率が落ちたら本体が傷んでいると読む。声の大きい少数に引きずられず、日本の小売にも移せる。

息子が継いだ店、創業者が挙げる4つの条件

タン氏は経営から離れ、長男のフイン・チュン・カイ氏が跡を継いだ。カイ氏は出汁の作り方を守りつつ、フォー2000を海外市場へ広げる計画を進めているという。大統領の来店が誇るべき一点であることは創業者も認める。ただ同時にこうも言う。「持続する成功は、料理の質、食品衛生の基準、価格、そして客を大切にする姿勢から生まれる」。26年前の1時間だけでは店は続かなかった、という自己評価だ。

ベンタン市場の西側へ行くなら、降車地点と頼み方を先に決める

行くなら押さえる住所・価格と、道路規制の確認

項目 内容
店名と住所 フォー2000(Phở 2000)/ホーチミン市1区 ファン・チュー・チン通り1-3番地
立地 ベンタン市場の西側に沿う通り
フォーの価格 小サイズ約70,000ドン/大サイズ約99,000ドン(約440〜620円)
フォー以外と客層 鶏飯・スペアリブ飯・牛肉飯など/大半が外国人客
1号店と現在の運営 1998年ヴォーティーサウ通り/長男フイン・チュン・カイ氏

店の前のファン・チュー・チン通りはベンタン市場の西側で、周辺は交通規制の影響を受けやすい。当サイトでもホーチミン中心部が3年間の一方通行に切り替わる件を扱った。配車アプリは降車地点が市場のどちら側かで歩く距離が変わるので、地図上で通りを指定したほうが早い。営業時間はダントリの記事にないため、店頭表示で確かめてほしい。

店内の写真を探してから一杯を頼む

次の出張や旅行で寄るなら、席に着く前に店内の写真を探してほしい。写真を見てから小サイズを1杯頼めば、440円の内訳を自分の舌で判断できる。味の幅を測りたい人は、外国からの客が毎日通う点で共通するハノイのチキンフォー「フォー・グエット」も材料になる。

参照した資料

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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