ベトナムのLCC最大手ベトジェット(VietJet)が、オーストラリアの国内線市場に自前の航空会社で乗り込もうとしています。豪州の民間航空安全局(CASA)にAOC(航空運航証明)を申請し、現地に別ブランドの子会社を設立、ボーイング737 MAX 8を最大10機投入して、シドニー・メルボルン・ブリスベンを結ぶ「ゴールデントライアングル」に挑む、という計画です。国際航空会社が豪州の国内線に本格参入するのは、2007年のタイガー航空以来、およそ19年ぶり。就航目標は早ければ2027年とされますが、この段階ではまだ申請中で、確定した話ではありません。ベトナム旅行や在住・出張で日常的にベトジェットを使う日本人にとって、この動きは「ベトナム経由で豪州へ行くとき、現地の国内移動まで同じ会社で安く繋がるかもしれない」という、なかなか実用的な意味を持ちます。順を追って読み解いていきます。
何が申請されたのか──10機の737 MAXで豪州の空へ
報道によると、ベトジェットはCASAに対してAOCの取得を申請しました。AOCは、その国で旅客を乗せて商業運航するために不可欠な「運航のお墨付き」です。豪州の国内線を飛ぶには、ベトナム本体の免許では足りず、豪州で法人登記した子会社が現地のAOCを取る必要があります。そのため今回の計画は、ベトジェット本体とは別ブランドの現地会社を立ち上げる形で進められています。CASAは「航空会社の事業計画についてはコメントしない」との立場ですが、複数の業界筋が申請の存在を認めています。
投入機材はボーイング737 MAX 8を最大10機。ベトジェットは世界全体で151機の737 MAXファミリーを発注済みで、機材の裏付けはあります。就航先として想定されているのが、シドニー・メルボルン・ブリスベンの3都市を結ぶ通称「ゴールデントライアングル」。なかでもシドニー〜メルボルン線は世界で6番目に混雑する路線とされ、豪州で最も収益性が高い区間です。ベトジェットはシドニー空港の発着枠取得も進めており、キングスフォード・スミス国際空港に2,252回分の離着陸枠を申請したと報じられています。これは737で1日あたり7〜10往復ができる規模にあたります。
なぜ今なのか──カンタスとヴァージンの「複占」に生まれた隙間
豪州の国内線は長らく、フルサービスのカンタス(傘下に格安ブランドのジェットスターを持つ)と、ヴァージン・オーストラリアの2社による事実上の複占状態が続いてきました。ここに割り込もうとした挑戦者は過去にもいましたが、うまくいっていません。地方路線を担っていたレックス航空は2024年に経営が行き詰まり、新興LCCのボンザも同じ年に運航を停止しました。ベトジェットは一時、ボンザのAOCを引き継ぐ形での参入も検討したものの、取引は成立せず、今回は一から自前でAOCを取りに行く道を選んだことになります。
競争相手が減れば、運賃は上がります。レックスの撤退後、主要都市間の平均運賃は2024年9月までに13.3%上昇したと伝えられました。裏を返せば、価格で勝負するLCCにとっては入り込む余地が広がったということです。ベトジェットは、座席と身の回り品だけを基本料金に含め、預け荷物・座席指定・機内食などを別料金にする典型的なアンバンドル型の運賃で知られます。基本運賃を思い切り下げ、必要な人だけがオプションを買う構造は、価格が高止まりした豪州国内線に対しては強い武器になり得ます。
ベトジェットの実像──安さと引き換えの「割り切り」
ベトナムを使い慣れた人には説明不要かもしれませんが、ベトジェットはベトナム最大のLCCで、国内線・国際線ともに路線網が広く、頻繁なセールで驚くほど安い運賃が出るのが最大の魅力です。座席は高密度配置、機内サービスは有料が基本。定時性や清潔さ、スタッフの対応はLCCとして必要十分という評価が多く、安全面では第三者評価で「最も安全なLCC」上位に数えられ、2018年以降は最高ランクの安全格付けを維持しているとされます。サービス面の総合評価は3つ星クラスで、価格の安さを軸に割り切って使う航空会社という位置づけです。
一方で、弱点もはっきりしています。欠航や大幅遅延が起きたときの対応力は、フルサービス航空会社に比べて見劣りするという声が少なくありません。他社便への振り替えや代替機の手配といった「もしも」のときの厚みが薄く、トラブル時は自力で動く覚悟が要ります。この特性は、豪州国内線でそのまま出るはずです。安く乗れる代わりに、遅れたときの安心料は含まれていない──そう理解しておくのが実務的です。
日本人旅行者・在住者にとっての意味
ここが本題です。ベトジェットはすでにホーチミンからシドニー・メルボルン・ブリスベン・パースへ国際線を運航しています。2025年後半に豪州発着便をホーチミン集約へと再編し、シドニー・メルボルンは冬季に毎日運航まで増やす計画が示されました。つまり日本からベトナム経由で豪州へ向かう動線は、すでにベトジェット一社で組める状態にあります。
そこに豪州の国内線が加われば、たとえば「日本→ホーチミン→シドニー」で入国したあと、シドニー→メルボルンやブリスベンへの国内移動まで同じベトジェット系で、しかもLCC価格で繋げられる可能性が出てきます。都市間を鉄道でなく飛行機で移動する豪州では、この国内線の運賃が旅費全体を大きく左右します。ベトナム発の便を安く押さえられる人ほど、恩恵は大きくなります。移動のコツという点では、ベトナム国内でも夏の鉄道が10%オフになる買い方のように、時期と買い方で費用が変わる工夫が効きます。豪州国内線でも、同じ発想で早期のセールを狙う姿勢が生きるはずです。
ただし、繰り返しになりますが就航は確定していません。AOCの審査には一般に6〜12カ月かかり、CASAは技術・安全に加えて財務の健全性まで見ます。豪州は国内会社の所有・支配に比較的自由な制度を持つため審査後の立ち上げは速くなり得るとされますが、それでも旅程を組めるのは早くて2027年前半という前提です。今すぐ「豪州国内もベトジェットで」という計画は立てられない、という点は正確に押さえておいてください。
現在のベトジェット ベトナム発着・豪州路線
今の時点でベトナムから豪州へ向かうときに使える、ベトジェットの主な路線を整理しました。日本からはホーチミン乗継ぎが基本の動線になります(運航状況は時期により変動します)。
| 豪州側の都市 | ベトナム側の発着 | 備考 |
|---|---|---|
| シドニー | ホーチミン | 冬季に毎日運航まで増便計画。国内線参入時の拠点候補 |
| メルボルン | ホーチミン | 冬季に毎日運航まで増便計画。ゴールデントライアングルの一角 |
| ブリスベン | ホーチミン | 週5便程度から増便。国内線でも就航先候補 |
| パース | ホーチミン | 週3便程度。国内線構想の当初対象には含まれず |
2025年後半の再編で、以前あったシドニー〜ハノイ、メルボルン〜ハノイの直行は取りやめとなり、豪州便はホーチミン集約に切り替わりました。ハノイから豪州へ向かう場合は、ホーチミン経由が前提になります。
業界への波及──「第三の勢力」は根づくか
豪州国内線に外資が本格的に挑むのは久しぶりで、成功すれば運賃引き下げ圧力として消費者に還元されます。ただ、過去にレックスやボンザが退場した事実が示すように、複占市場に第三の勢力が根づくのは簡単ではありません。カンタスは格安ブランドのジェットスターで価格競争に応じる体力を持ち、ヴァージンも守りに入れます。ベトジェットが勝負できるとすれば、ベトナム本体の規模を背景にしたコスト構造と、東南アジア〜豪州を一体で運ぶ乗継ぎ需要の取り込みでしょう。ホーチミンをハブに、日本を含むアジア各地から豪州の主要都市へ、国際線と国内線を一気通貫で安く売る──この絵が描けるかどうかが焦点です。
ベトジェットはタイに拠点を持ち、カザフスタンの航空会社を取り込むなど、多国展開を積極化しています。豪州はその延長線上にある一手であり、単発の路線開設ではなく、アジア太平洋を面で押さえる戦略の一部と見るのが自然です。ベトナム発の交通制度は動きが速く、車検が紙不要になる新ルールのように、旅行者・在住者の足まわりに直結する変化が続いています。航空でも同じスピード感で状況が変わり得ると考えておくとよいでしょう。
まとめ──今できる備えと、待つべきこと
ベトジェットの豪州国内線参入は、日本人にとって「ベトナム経由で豪州へ行く旅」をさらに安く、繋がりやすくする可能性を秘めた話です。ただし現状はAOC申請の段階で、就航は早くて2027年前半、それも審査次第という前提を忘れないでください。
今の段階でできることは二つです。ひとつは、すでに動いているホーチミン発着の豪州国際線を、セールのタイミングで押さえる感覚を身につけておくこと。もうひとつは、国内線が実現したときに備えて、乗継ぎ時間や入国動線を無理のない設計にしておくことです。豪州で複数都市を回る旅を考えているなら、まずはホーチミン発着の国際線がどう再編されているかを押さえたうえで、続報を待つのが賢明です。就航が正式に決まれば、あらためて具体的な使い方をお伝えします。
参照元
- Aviation Week – VietJet Seeks Approval To Launch Australian Airline
- AeroTime – Vietjet seeks regulatory nod for Australian domestic airline venture
- ch-aviation – VietJetAir eyes Australian AOC
- Aerospace Global News – VietJet applies to launch new Australian-based low-cost carrier
- Simple Flying – Where VietJet’s New Australian Airline Could Fly
- Australian Aviation – Vietjet shifts all Australia flights to Ho Chi Minh City
- Simple Flying – Vietjet In Top 10 Safest Low-Cost Airlines
