ベトナムで社用車や自家用車を持つ人にとって、避けて通れないのが年に一度の車検(đăng kiểm)です。検査場に紙の書類一式を持ち込み、順番を待ち、判子をもらう──この光景が2026年7月1日から大きく変わります。建設省が出した通達(Thông tư 30/2026/TT-BXD)と政令89号(Decree 89/2026)が同日に施行され、車両登録証はスマホアプリでの提示でよくなり、検定証(検査証明書)も原則として電子発行になりました。駐在員や在住者の車まわりの手続きが軽くなる一方、「早めに検査を受けたのに落ちると、まだ有効な旧証明書が即失効する」といった注意点も生まれています。旅行や出張でレンタカーやチャーター車を使う人にも、無関係ではない変化です。
7月1日から何が変わったのか
今回の目玉は、車検まわりの書類をまとめて電子化したことです。ベトナムメディアや建設省の発表を整理すると、変更点はおおよそ次の8つに集約されます。
- 車両登録証を、電子身分認証アプリ「VNeID」や交通管理アプリ「VNeTraffic」に統合し、紙の提示が不要になった
- 車両ファイルを検査ソフトが自動作成し、1台につき「1つのファイル」で一元管理する
- 登録証の変更、ナンバープレートの変更、営業用・非営業用の切り替え時に検定証を再発行できるようになった
- 内装やサイドステップ、ルーフラック、ヘッドライトの球交換など、多くの部品交換で改造認定の手続きが不要になった
- 違反車両・回収対象車の情報を検査場が登録・削除し、関係機関と連携する仕組みを強化した
- 四輪駆動(AWD)車のブレーキ検査を、2027年1月1日から専用装置で行い精度を上げる
- 改造で車両全体の重量を減らすことを禁止し、8人乗り以上のバスは座席を減らしてもバス区分を維持する
- 改造を行う施設に、検査記録・写真・重量測定票の提出を義務づけ、責任を明確にした
在住者が日常でいちばん実感するのは、最初の2つでしょう。財布や書類ケースに車検証を入れて持ち歩く必要がなくなり、スマホのアプリを見せれば済む場面が増えます。
電子検定証はいつから、どう機能するのか
電子化の流れ自体は7月に突然始まったわけではありません。ベトナム登録機関(Vietnam Register)は2026年3月1日から、全国の検査場で電子検定証(電子版の検査証明書)の発行を始めていました。これは紙の証明書と同じ法的効力を持ち、登録機関のデータベースに保存されます。7月1日施行の政令89号は、この電子検定証を正式に制度として位置づけ、手続きをさらに引き締めた格好です。
実際の運用はこうです。フロントガラスに貼る検査ステッカーにQRコードが付き、そのコードが登録機関のデータベースに直結します。交通警察や運輸当局はコードを読み取るだけでリアルタイムに有効性を確認でき、偽造や失効車の走行を見抜きやすくなります。証明書の内容は、ナンバープレートと車台番号を入力すれば公式ポータル(gcndangkiem.vr.org.vn)でも照会できます。紙の控えがほしい人は、検査場でシステムから直接印刷し、確認の判子を押してもらえます。完全なペーパーレスではなく、「原則は電子、必要なら紙も出せる」という併存の設計です。
駐在員・在住者がとくに気をつけたい点
便利になる一方で、運用が厳しくなった部分もあります。もっとも注意したいのが、検査のタイミングです。有効期限より前に早めに車検を受けたものの結果が基準を満たさなかった場合、まだ残っていたはずの旧証明書がシステム上で即座に失効します。「余裕を持って早めに」という日本的な感覚で不合格だと、その日から車が公道を走れなくなる可能性があるということです。整備を済ませ、合格の見込みが立ってから検査に臨むほうが安全になりました。
費用面では、排ガス検査などで不合格になり再検査する場合、同日中なら基準料金の50%、翌日以降なら100%の追加負担がかかる仕組みが示されています。1回で通す準備の大切さは、電子化後も変わりません。
そして手続きの入口はVNeIDです。ベトナムでは入管手続きや税・年金まわりでもこのアプリへの一本化が進んでおり、車検の電子提示もその延長線上にあります。滞在ビザやレジデンスカードに紐づくVNeIDアカウントを整えておくことが、車を持つ駐在員にとって前提になりつつあります。関連する制度変更は6月からVNeIDに一本化された入管手続きの記事もあわせて確認しておくと、全体像がつかみやすいはずです。
現地の受け止め
制度が動き出した現場では、手続きが目に見えて減ったという声が上がっています。ホーチミン市で新ルール初日の検査場を取材したベトナムメディアの報道では、書類のやり取りが簡素化され、待ち時間の短縮につながったと伝えられました。紙の登録証を毎回コピーして提出する手間がなくなった、と歓迎する車の所有者の反応も紹介されています。
一方で、在住者コミュニティでは戸惑いも見られます。VNeIDへの登録がまだ済んでいない外国人が、アプリ提示に切り替わったことで検査当日にあわてる、という指摘です。QRコードでの照合に慣れていない地方の一部検査場では、当面は紙の控えを併用する運用が続くとの見方もあります。制度と現場の運用が完全に足並みをそろえるには、もう少し時間がかかりそうだ、という受け止めが現地では一般的です。
旅行者・出張者にとっての意味
自分で車を運転しない旅行者にも、この変化は静かに効いてきます。チャーター車やタクシー、配車アプリの車両が電子検定証で管理されるようになると、整備不良車や無登録車が排除されやすくなり、移動の安全性が底上げされる方向に働きます。QRコードで有効性が可視化される仕組みは、乗る側にとっても安心材料です。
ベトナムの都市部では公共交通の整備も同時に進んでいます。車検制度の電子化と並行して、ホーチミンで7月から134路線が無料になる路線バスや、各地の新しい移動手段が次々と登場しています。旅の足をどう組むかを考えるうえで、「車を借りる」以外の選択肢が広がっている点も押さえておきたいところです。
実用情報:車を使う人がいま準備すべきこと
ベトナムで車を保有する、あるいは長期滞在中に運転する予定がある人が、7月以降にやっておくと安心な準備を整理します。
- VNeIDアプリをインストールし、身分認証レベル(定額2レベルなど)まで登録を進めておく
- 車両登録証がVNeID/VNeTrafficに正しく統合されているか、事前に画面で確認しておく
- 車検は期限直前の駆け込みを避け、整備を済ませて合格の見込みを立ててから受ける
- 紙の控えが必要な場面(駐車場や一部の官公署手続き)に備え、検査場で印刷・押印を依頼しておく
- 公式ポータルでナンバーと車台番号から検定証を照会し、有効期限をスマホに控えておく
制度変更が続く時期は、税や年金など他の手続きとまとめて足元を見直すのが効率的です。給与・社会保険まわりの動きは7月から手取りが変わる所得税と年金の記事でも取り上げています。
まとめ:まずはVNeIDの整備から
7月1日の車検新ルールは、「紙からアプリへ」という一言で語れるほど単純ではなく、電子検定証の正式化、手続きの簡素化、そして不合格時の即失効という締めつけが同時に走る改革です。ベトナムで車を使う駐在員・在住者がまず取り組むべきは、VNeIDアカウントを整え、車両登録証の電子統合を確認すること。そのうえで、車検は余裕を持って整備を済ませてから受ける、という順番に切り替えるだけで、新制度のメリットを取りこぼさずに済みます。次にベトナムで車を手配する予定があるなら、出発前にアプリ環境を一度点検しておくことをおすすめします。
