灰汁で透き通る端午のちまき、ベトナム「バインウー・チョ」を味わう

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ベトナムでは旧暦5月5日の端午節「テト・ドアンゴ(Tết Đoan Ngọ)」が、2026年は6月19日に巡ってきた。この日に家々の供物台へ必ず並ぶのが、灰汁(あく)で炊いた琥珀色の小さなちまき「バインウー・チョ(bánh ú tro)」だ。子どもの拳ほどの三角形で、葉を開くとぷるんと透き通った餅が現れる。実はこの作り方、鹿児島の郷土菓子「あくまき」と驚くほど似ている。旅行者にとっては、節句の数日間だけ市場に並ぶ季節の味であり、ベトナムと日本に共通する端午の食の知恵にも触れられる。

目次

テト・ドアンゴと「灰汁のちまき」とは

テト・ドアンゴは旧暦5月5日に祝う節句で、中国の端午節(ドゥアンウー)と起源を共有する。ベトナムでは別名「テト・ジエッ・サウボ(Tết diệt sâu bọ)=虫退治の節句」とも呼ばれ、夏の盛りに体内の不調や害虫を払い、祖先を敬って豊作を願う農耕由来の行事だ。慣わしでは正午(旧暦の午の刻、午前11時〜午後1時)に供物を捧げる。

その供物の主役がバインウー・チョである。もち米を草木灰からとった灰汁(アルカリ性の水)に丸一日浸すことで、でんぷんの一部が分解され、炊き上がりが半透明でゼリーのような独特の歯ごたえになる。地域によって灰の原料は異なり、ザボンの皮、栴檀(せんだん)、ごまの茎、稲わらなどを焼いた灰に石灰を加えて使う。浸したもち米を竹・ドンの葉・バナナの葉などで包み、4〜6時間ほど茹でてから竹竿に吊るして乾かす。

起点となった話題:失われかけた手仕事への再注目

サイゴンの英語メディアSaigoneerは、このバインウー・チョを「端午節の子ども時代の歓びを緑の葉に包んだ菓子」として紹介している。記事が強調するのは、餅そのものに甘みはほとんどなく、ほのかに灰の香りが残るだけという素朴さだ。だからこそ子どもたちは、何もつけずに、あるいは黒蜜やザラメ糖に浸して、外側のもちもちした食感を楽しむ。手間のかかる灰汁仕込みを担う作り手が年々減るなか、節句のたびに市場へ並ぶこの菓子は、いまも残る生きた手仕事として光が当たっている。

北・中・南で違う三つの顔

同じ灰汁ちまきでも、ベトナムは縦に長い国だけあって地域差が大きい。旅先がどこかによって、出会う「端午のちまき」の姿はまるで変わる。

地域 呼び名 形・特徴 食べ方
北部(ハノイ等) バインジオ/バインナン(bánh gio) 具なしの素朴なタイプ 糖蜜(バインジオ・マッ)をかけて
中部(フエ・ホイアン等) バインウー・チョ ピラミッド型、10個ひと束で販売。緑豆あん入りも そのまま、または糖蜜・砂糖
南部(ホーチミン等) バインウー・ラーチェ(笹葉包み) 具が多彩:ドリアン・ココナッツ・砂糖漬けココナッツ・冬瓜の砂糖漬け つけダレなしでそのまま

北へ行くほど飾り気がなく糖蜜で味わう一方、南へ下るほど餡や果実の具が入って菓子としての顔が濃くなる。中部では10個を1本の紐で結わえた「ひと束」で売られ、土産にしやすい。

鹿児島「あくまき」とのそっくりな関係

日本にも、灰汁で炊くちまきが端午の節句に食べられる地域がある。鹿児島・宮崎の郷土菓子「あくまき(灰汁巻き)」だ。もち米を木や竹を燃やした灰汁に浸し、孟宗竹の皮で包んで灰汁水で数時間煮る——製法はバインウー・チョとほぼ同じ発想で、アルカリがもち米を柔らかくし、日持ちを良くする。あくまきもそれ自体に味はほとんどなく、きな粉や黒蜜、砂糖をかけて食べる点まで共通する。

違いは背負う物語にある。あくまきは関ヶ原の戦いで島津義弘が日持ちする兵糧として持参したのが始まりという説があり、保存食・戦陣食としての側面が色濃い。一方バインウー・チョは、夏の暑気と害虫を払う節句の縁起物という位置づけだ。同じ「灰汁+もち米+葉+端午」という組み合わせが、海を隔てた二つの土地で別々の意味をまといながら受け継がれてきたことになる。日本の食文化に親しむ旅行者なら、ベトナムでこの菓子に出会ったとき「あくまきに似ている」と気づくはずだ。

現地の受け止め方

ホーチミンでは、節句が近づくと中華系住民(ホア人)が多いチョロン地区を中心に、葉に包まれたちまきが一斉に市場へ並ぶ。ただし市場に出るちまきは一様ではない。透き通った灰汁ちまきのバインウー・チョと並んで、豚肉・塩漬け卵・蓮の実・きのこ・緑豆を詰めた中華系の塩味ちまき(バインバーチャン)も売られる。地元メディアによれば、フンフン市場(チョロン)には後者を手がける広東系の作り手がおり、なかにはアワビや焼き肉まで十数種の具を詰め、1個1キロ近くある高級品を三代続けて作る店もある。同じ端午節でも、甘く素朴な灰汁ちまきと、おかずに近い具入りちまきは別系統と考えると分かりやすい。

家庭の供え方も変わりつつある。2026年の節句では、果物と数本のバインウー・チョだけを供える「簡素な供物」が広がっているとベトナムメディアが報じた。手間より気持ちを重んじる家庭が増えた形だ。

旅行者・日本の消費者への示唆

バインウー・チョは、旅程が旧暦5月5日前後に重なったときだけ街角に溢れる「季節の便り」だ。ベトナム旅行で食を楽しみたいなら、フォーやバインミーのような定番だけでなく、こうした暦に紐づく菓子に出会えるかどうかで体験の厚みが変わる。葉を開いて琥珀色の餅が現れる瞬間や、ほのかな灰の香りは、写真や言葉では伝わりにくい現地ならではの感覚だ。

日本の消費者・食品事業者の視点では、灰汁(アルカリ)でもち米の食感と保存性を変える技法が、ベトナムと日本の双方に根づいている点は興味深い。葉で包んで茹でる、糖蜜やきな粉で食べるといった素朴な楽しみ方は、和の感覚とも地続きだ。お土産として持ち帰るなら、餡や果実入りより、灰汁の風味が素直に出る素朴なタイプの方が「日本のあくまきとの違い」を語りやすく、贈った相手との会話も弾む。

実用情報:どこで・いくらで買える?

かつては各家庭で仕込んだ灰汁ちまきも、いまは市場・精肉店・食品店の季節商品として並ぶことが増えた。10個ひと束の量り売りから、贈答用に箱詰めした高級ラインまで幅がある。最盛期は旧暦5月5日(2026年は6月19日)前後の数日間で、地域や大きさで価格が変わる。為替は1万VND≒60円で換算した(節句前後の市場相場の目安。実際の価格は店舗・年により変動)。

項目 目安 補足
価格(10個ひと束) 約50,000〜100,000 VND(約300〜600円) 60,000 VND(約360円)前後が一般的
ホーチミンの相場 約60,000〜80,000 VND(約360〜480円)/束 他地域より割安とされる
買える市場(ホーチミン) チョロン(5区)、バーチエウ市場、グエンチフォン市場(10区)ほか 中華系住民の多い地区に集中
買える時期 節句の前後数日のみ 過ぎると入手困難
食べ方 そのまま/糖蜜・ザラメ・きな粉 南部の具入りはつけダレなしでOK

具の有無を選べる店なら、灰汁の風味を味わいたい人は「具なし(chay)」を、菓子として楽しみたい人は緑豆あんやココナッツ入りを選ぶとよい。葉に包まれたまま常温で数日持つため、その日のうちに帰国しない旅程でも持ち歩きやすい。

よくある質問

バインウー・チョはいつ買えますか?

旧暦5月5日の端午節「テト・ドアンゴ」前後の数日間が最盛期です。2026年は6月19日にあたりました。この時期を過ぎると市場からほとんど姿を消すため、ベトナム旅行の日程がこの数日に重なったときが狙い目です。

どんな味がしますか?甘いお菓子ですか?

餅そのものに甘みはほとんどなく、ほのかに灰の香りが残る素朴な味です。北部・中部では糖蜜やザラメ、砂糖をつけて食べます。南部にはドリアンやココナッツ、緑豆あんを詰めた具入りもあり、そちらはお菓子に近い味わいです。

日本のちまきやあくまきと何が違いますか?

もち米を灰汁(アルカリ性の水)に浸して炊き、葉で包んで茹でる製法は、鹿児島・宮崎の「あくまき」とよく似ています。きな粉や黒蜜で食べる点も共通します。違いは背景で、あくまきは保存食・兵糧の物語を持ち、バインウー・チョは夏の暑気と害虫を払う端午の縁起物として親しまれています。

まとめ:暦に合わせて街角を歩いてみる

バインウー・チョは、年に一度の端午節にだけ街にあふれる季節の菓子だ。ベトナム旅行が旧暦5月5日前後に重なったら、中華系住民の多い市場へ足を運び、10個ひと束を買って葉を開いてみてほしい。琥珀色の餅にザラメや糖蜜を少し落とせば、鹿児島のあくまきと地続きの、けれど少し違う端午の味に出会える。お土産にするなら、灰汁の風味が素直に出る素朴なタイプを選ぶと、日本の食卓で「あくまきとどう違う?」という会話のきっかけになる。

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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