ベトナムのビールというと、Saigon や 333 のようなローカルのラガーを思い浮かべる人が多いはずです。ところがこの10年で、ジャスミンやパッションフルーツ、コーヒー、さらにはドリアンまで——地元の素材を主役にした個性的なクラフトビールが一気に花開きました。
この記事は、そんなベトナムのクラフトビールを「どんな味があり、誰が造っているのか」で丸ごと理解するためのガイドです。どの店で飲むかはエリア別のガイドに譲り、ここではご当地フレーバーの図鑑と、主要ブルワリーの個性を一気に押さえます。銘柄の見当がつけば、現地のメニューがぐっと楽しくなります。
ベトナムのクラフトビールは、どう生まれたのか
まずは全体像を、短い物語として。ベトナムのクラフトは、大きく「前史」と「現代の波」に分かれます。
- 【前史】チェコ式ブラウハウス:現代クラフトが広まる前から、ホーチミンの Hoa Viên がチェコ式の生ビールを自家醸造していました
- 【現代クラフトの波】:2015年1月、Pasteur Street が最初の一杯を注ぎます。翌2016年には Heart of Darkness と East West が続き、ここで一気に広がりました(先駆けの一つ、Fuzzy Logic は2014年創業)
決め手になったのは、ベトナムならではの素材でした。ジャスミン、パッションフルーツ、コーヒー、カカオ、レモングラス。これらをホップと組み合わせ、欧米の模倣ではない「ここにしかない味」を打ち出したのです。
その実力は、国際的な評価にも表れています。Pasteur Street は2016年シンガポールの Asian Beer Medals でその年最多の金3つを獲得。Heart of Darkness はこれまでに25の国際メダルを重ね、中部ダナンの 7 Bridges は2024年のアジア・ビール選手権で「ベトナム王者(Country Champion)」に選ばれました。
ご当地フレーバー図鑑:ベトナムでしか飲めない味
ベトナムクラフトの面白さは、地元の素材を主役にした「ご当地フレーバー」にあります。メニューで見かけたら試してほしい、代表的なタイプと具体的な銘柄をまとめました。
花の香り ── ジャスミンIPA
ベトナムクラフトを象徴する一杯。ホップの苦みに、ジャスミンの花の香りをまとわせたIPAです。苦すぎず華やかで、クラフトの入り口にちょうどいい味わい。
- 代表銘柄:Jasmine IPA(Pasteur Street)
トロピカルフルーツ ── パッションフルーツ/ドラゴンフルーツ
南国らしい甘酸っぱさが軽快なタイプ。ビールの苦みが得意でない人でも飲みやすく、暑いベトナムの気候によく合います。
- 代表銘柄:Passion Fruit Wheat(Pasteur Street)などのフルーツ系ウィート/エール
コーヒー・カカオ ── 濃厚な黒ビール
コーヒー大国ベトナムならではの一杯。ベトナム産のコーヒーやカカオを効かせた、どっしり濃厚なスタウトです。食後にデザート代わりにも。
- 代表銘柄:Cyclo Imperial Chocolate Stout(Pasteur Street/アルコール13%。World Beer Cup で金賞)
ハーブ・スパイス ── レモングラスや胡椒
料理に使うハーブやスパイスを、そのままビールに。清涼感やピリッとした香りが、他の国にはない個性を生みます。
- 代表銘柄:Lemongrass、Phu Quoc Pepper Saison(フーコック島の胡椒を使ったセゾン/Pasteur Street)
ホップ全開 ── 本格IPA
ご当地素材だけでなく、王道のIPAも高い完成度です。苦みと香りをしっかり効かせた、ビール好きをうならせる一杯がそろっています。
- Kurtz’s Insane IPA(Heart of Darkness/7.1%・102 IBU の攻めた苦み)
- Far East IPA(East West/世界各地のホップを合わせた香り高い一本)
チェコ式ラガー ── 麦のコクを味わう
IPA続きで舌が疲れたら、すっきりしたラガーへ。チェコ式ブラウハウスのピルスナーやダークラガーは、麦芽の甘みとコクをじっくり楽しめます。
- 代表銘柄:Hoa Viên のピルスナー/ダークラガー
- Primeval Forest Pilsner(Heart of Darkness/アジア・ビールカップ東京で金賞)
変わり種 ── ドリアンやフォーまで
話題づくりの実験的な一杯も、ベトナムクラフトの見どころ。好き嫌いは分かれますが、旅の思い出に一度は挑戦する価値があります。
- ドリアンビール:Pasteur Street はベトナムで初めてドリアンビールを造った醸造所として知られます
- Pho Beer:ハノイの Furbrew が手がけた、フォーの香味を取り入れた遊び心のある一杯
地域で違う、ベトナムのビール文化
同じベトナムでも、ビールの「飲み方の文化」は土地ごとに大きく違います。どこで、誰と、どう飲むか。その空気こそが、旅の記憶に残ります。
北部(ハノイ)── 歩道に広がるビアホイ文化
ハノイのビール文化を象徴するのが「ビアホイ(bia hơi)」です。その日に仕込む保存料なしの生ビールで、度数は3〜4%と軽く、苦みも少ない。旧市街のタヒエン通りには20軒以上のビアホイが軒を連ね、夕方になると小さなプラスチックの椅子が歩道を埋めていきます。
学生も会社員も旅行者も、同じ高さの椅子に腰かけ、1杯数十円のビールを片手に語り合う。肩書きを脱ぎ捨てた、開けっぴろげな社交の場です。この庶民的な生ビール文化の上に、ここ数年は旧市街を中心に独立系クラフトが密集。60円の路上ビールと、こだわりのクラフトが徒歩圏で同居しているのが、いまのハノイです。
ハノイの店の回り方やビアホイの楽しみ方は、ハノイ クラフトビール完全ガイドとビアホイ完全ガイドにまとめています。
南部(ホーチミン)── クラフトの実験場と「nhậu」
ホーチミンは、東南アジア屈指のクラフトビールの街です。アメリカ人らの醸造家がベトナムの素材で実験を重ね、1区の Lý Tự Trọng(リー・トゥ・チョン)通り周辺に醸造所が集まります。国際的で、少し洗練された空気が流れています。
一方で、庶民の定番は「quán nhậu(クアン・ニャウ=大衆酒場)」。冷えていないビールにはグラスの氷(đá)を入れ、貝(ốc)や干物をつまみながら、何時間もかけて飲みます。数分おきに「Một, hai, ba, dô!」の掛け声でグラスを空ける、にぎやかな「nhậu」文化が根強い。洗練されたクラフトのビアホールと、路地裏の貝&氷入りビール。新旧の飲み方が同じ街に共存しているのが、南部の面白さです。
さらにサイゴンには、高層ビルの屋上で夜景とともに一杯やるルーフトップバー文化もあります。詳しくは絶景ルーフトップバーをどうぞ。
どの醸造所に行くか、エリア別の回り方や1日モデルコースはホーチミン クラフトビール完全ガイドに、街全体の歩き方はホーチミンのエリアガイドにまとめました。
中部(ダナン・ホイアン)── ビーチ町で育つ地クラフト
大都市に少し遅れて、しかし独自に育ったのが中部の地クラフトです。かつては大手ラガー中心だったダナンに、地元の造り手や外国人ブルワーが集まり、トロピカルフルーツやスパイス、コーヒーを使った一杯が生まれています。ダナン発の 7 Bridges を筆頭に、Bia Nhà のような地元発の醸造所が育ち、毎春には30以上の醸造所が集まるクラフトビール・フェスも開かれます。
海風を受けるビーチサイドのビアガーデンで、新鮮なシーフードと生演奏を楽しみながら一杯。リゾート寄りの、のんびりした飲み方が中部らしさです。Larue や Huda といった地元ラガーへの愛着が強い土地でもあります。
中部のグルメや旅程はベトナムの食べ物ガイドとあわせてどうぞ。
覚えておきたい、乾杯とお酒の作法
ベトナムの飲みの場には、知っておくと一気に打ち解けられる作法があります。難しくはありません。
- 掛け声:「Một, hai, ba, dô!(モッ・ハイ・バー・ヨー=1・2・3・乾杯!)」。南部では「dzô/vô(ヨー/ヴォー)」とも言います。全員のグラスが満ちてから乾杯するのが基本です
- 飲み干す合図:「Trăm phần trăm!(チャム・ファン・チャム=100%)」は「一気に飲み干そう」の意味。無理なら、笑顔で断って大丈夫です
- 注ぎ方:自分より先に、周りのグラスに注ぐのが礼儀。年長者へは両手で注ぐと、より丁寧です
- 年長者との乾杯:グラスを相手より少し低い位置で当てると、敬意を示せます
- 氷とつまみ:南部ではグラスに氷(đá)を入れて薄めながら飲みます。貝や干物、ピーナッツなどの「đồ nhậu(つまみ)」を少しずつ
肩の力を抜いて、笑顔で乾杯に加われば十分です。作法は、相手を敬い、場を分かち合うための小さな合図にすぎません。
注文と楽しみ方:迷ったらフライトから
メニューにはスタイル名や数字が並んで戸惑うかもしれません。最低限の言葉と、失敗しない頼み方だけ押さえておきましょう。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| IPA | ホップを効かせた、苦みと香りが強めのエール |
| スタウト/ポーター | 黒く濃厚。コーヒーやカカオと好相性 |
| ラガー/ピルスナー | すっきり冷たく飲める定番 |
| ABV | アルコール度数。5%前後が標準、スタウトは10%超も |
| IBU | 苦さの目安。数字が大きいほど苦い |
| フライト | 数種類を少量ずつ試せるセット。迷ったらこれ |
スタイルがわからなければ、店員に「軽いのが好き」「苦いのが好き」と伝えれば選んでくれます。まずはフライトで飲み比べるのが、いちばん失敗のない選び方です。
クラフト1杯の目安は 90,000〜160,000 VND(約530〜940円)。Pasteur Street など缶で流通する銘柄は、お土産にもできます(日本へは預け入れ荷物で)。ローカル大手や1杯60円の生ビール文化はビアホイ完全ガイドをどうぞ。
よくある質問
- ベトナムのクラフトビールで、まず何を飲むべきですか?
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Pasteur Street の Jasmine IPA が定番の入り口です。ベトナムらしさがわかりやすく、苦すぎません。フルーツ系の Passion Fruit Wheat もクラフトが初めての人に向いています。
- ベトナムならではのクラフトビールはありますか?
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ジャスミン、パッションフルーツ、コーヒー、カカオ、レモングラス、フーコック胡椒など、地元の素材を使った銘柄が各醸造所の看板です。ドリアンビールやフォー風味のビールといった変わり種もあります。
- クラフトビールが盛んなのはどの街ですか?
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醸造所の数・密度ともにホーチミンが最も充実しています。中部ではダナン発の 7 Bridges、北部ハノイには独立系の醸造所が集まっています。
- ローカルの Saigon ビールとは何が違いますか?
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Saigon や 333 は大量生産のラガーで、軽くゴクゴク飲むためのビールです。クラフトビールは小規模な醸造所が、素材や製法で個性を出した多彩なスタイルが特徴で、一杯をじっくり楽しむタイプです。
- クラフトビールは1杯いくらくらいですか?
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90,000〜160,000 VND(約530〜940円)が目安です。ローカルのラガーより高めですが、少量ずつ試せるフライトを置く店も多くあります。
まとめ:味から知る、ベトナムクラフト
ジャスミン、パッションフルーツ、コーヒー、そしてドリアン。ベトナムのクラフトビールは、その土地の素材を味に変えるところに面白さがあります。Pasteur Street の受賞ラインから Heart of Darkness の攻めたIPA、Hoa Viên のチェコ式まで、造り手ごとの個性もはっきりしています。
気になる味を見つけたら、次は実際に飲みに。南部で飲み歩くならホーチミン クラフトビール完全ガイド、北部ならハノイ クラフトビール完全ガイドへどうぞ。
