ベトナム北部のハロン湾で、数年閉ざされてきたソイシム島(Soi Sim)のビーチが2026年8月に一般開放される見通しになった。世界の名浜100選に名を連ねながら、観光船の航路には入っているのに上陸も海水浴もできない、という宙づりの状態が続いていた場所だ。船上から眺めるだけだった浜が泳げる浜に変われば、鍾乳洞と奇岩をめぐるクルーズ一辺倒だったハロン湾の旅程に、海に入って過ごすという時間の使い方が加わる。日本からハロン湾へ向かう旅行者にとっても、これは行程の組み立て方が変わる話だ。
数年閉ざされたソイシムの浜が、当初の7月から8月へずれ込んで戻る
ハロン湾・イエンツ世界遺産管理委員会(Halong Bay-Yen Tu World Heritage Management Board)が進めてきたソイシムの再開は、当初2026年の夏、具体的には7月中の開放を目指していた。地元報道(DTiNews、7月26日)によれば、それが8月へと後ろ倒しになった。浜辺の休憩シェルター、石灰岩の山裾に沿った遊歩道、観光サービス用の施設はすでに整備・改修が終わっており、建物や動線の工事が理由の遅れではない。
後押しになっているのが、ソイシムが米国系の格付け団体による「Corona Beach 100 of 2026」に選ばれ、世界の上位100浜の一つに数えられたことだ。白砂と透き通った水に加え、島はsim(テンニンカ/ローズマートル)という低木に覆われ、夏には紫の花が丘を染める。「ソイシム」という名も、この島に茂るsimを見て地元の漁師が付けたものだと管理委員会は説明している。管理委員会の資料では、島には78種を超える植物と32種の動物が確認され、希少なランの仲間も含むという。
| 項目 | ソイシム島の浜(開放予定) |
|---|---|
| 場所 | ハロン湾内・ソイシム島(ティトップ島の近隣) |
| 開放時期 | 2026年8月見込み(当初7月から後ろ倒し) |
| 島の広さ | 約8.7ヘクタール・二つの峰を持つ小島(最高点は約200m) |
| 特徴 | 白砂・浅瀬、夏に紫のsimの花、原生林と希少種 |
| 評価 | Corona Beach 100 of 2026(世界100選) |
足止めの正体は、2020年から続く土地・森林・海域の割り当て手続き
ソイシムが閉じられたのは工事や事故が原因ではない。この浜はハロン湾の観光ルート上にあり、島の動植物保全区を整備する計画が、土地・森林・海域の割り当てをめぐる法的手続きが片付かないまま2020年に止まった、というのが経緯だ。世界遺産の中に手を入れるがゆえに求められる段取り──森林環境税の扱い、船着き場(バース)の公示、海域の割り当て、土地の手続き──が積み重なり、施設が出来上がっても人を入れられない期間が長引いた。
いま管理委員会が進めているのは、浜そのものの原状回復と並行して、残った手続きを一つずつ終わらせる作業だ。上陸できないのに観光船の航路には島が含まれている、という状態に旅行者から「行程に入っているのに船が停まれない」という不満が出ていたと地元報道も伝える。世界遺産の保護を優先する手続きの重さと、待たされる観光側の苛立ちが、同じ小島の上で長くせめぎ合ってきたことになる。自然保護区の整備と観光の開放をどう両立させるかという問いは、コンダオでアオウミガメの孵化・放流事業を観光と両立させてきたコンダオの取り組みとも重なる。守るための線引きが、そのまま観光の設計を左右する構図だ。
ティトップ集中を解く、ハロン湾で二つ目の泳げる浜
ハロン湾には大小あわせて約200の砂浜があるとされる一方、観光利用が正式に認められてきたのはソイシムとティトップ(Ti Top)の二つだけだ。そのソイシムが数年閉じていたため、実際に泳げる公共の浜はティトップ一つに絞られ、夏の最盛期には人が集中して混み合う状態が続いてきた。ソイシムが戻れば、この一極集中が二つに分かれる。
| 比較 | ティトップ島の浜 | ソイシム島の浜 |
|---|---|---|
| 現状 | 唯一の公共海水浴場・夏は混雑 | 数年閉鎖、2026年8月開放見込み |
| 性格 | 展望台と組み合わせた上陸地 | 原生林と紫の花、静けさが残る |
| 混雑 | ピーク時に集中しやすい | 開放直後は分散先として期待 |
意味合いは混雑緩和にとどまらない。奇岩の間を船で滑り、洞窟を歩いて船に戻る──というクルーズ中心のハロン湾に、浜で半日を過ごす、泳ぐ、という滞在型の選択肢が正式に一つ増える。ハロン湾を島の暮らしから味わうなら、田植え前に村総出で田へ降りる島の農耕祭のような、船からは見えない一面もある。眺める湾から、降りて過ごす湾へと入口が広がっていく。
日本からの旅程に、ソイシムをどう差し込むか
日本からハロン湾へは、ハノイのノイバイ空港を起点に陸路で向かうか、ハイフォン経由で北部に入るのが一般的だ。多くの旅行者は日帰りや1泊のクルーズで湾を回るため、ソイシムに上陸する日は、乗る船の航路にこの島が含まれるかを事前に確認しておきたい。開放が8月見込みという点も含め、出発前に運航状況を押さえるのが現実的だ。
時期の読み方には裏表がある。simの花が紫に染まる夏はソイシムがもっとも映える季節だが、その夏はハロン湾全体の最盛期でもあり、開放直後は物珍しさで人が集まりやすい。静かな浜を目当てにするなら、朝いちばんの便や盛夏を外した時期に分がある。ビーチを主役にした滞在なら、海フェスで街全体が浜に出るニャチャンのような海辺のリゾート都市が先を行っており、ハロン湾はそこへ一歩近づく格好だ。世界遺産のクルーズと、浜で泳ぐ時間。北部の旅にこの二枚看板がそろうなら、行程はクルーズ半日+上陸海水浴半日という組み方が現実味を帯びる。
参照した情報源
- DTiNews — Halong Bay beach set to open after years of delays(2026年7月26日)
- DTiNews — Halong Bay seeks to reopen world-ranked beach this summer(2026年6月21日)
- Vietnam News — Ha Long Bay temporarily closes Soi Sim beach to visitors
- VnExpress International — One of world’s most beautiful beaches in Vietnam’s Ha Long Bay temporarily closed to visitors
