ベトナム南西のフーコック島で200年以上続くニョクマム(魚醤)の名門ブランド『Huynh Khoa(フィン・コア)』の3商品が、2025年6月に国家OCOP5つ星認定を取得し、同月に豪州市場への初出荷を実現した。代表のNguyen Huynh Anh Khoa氏(34歳)は2016年にホーチミン市から島へUターンし、家業3代の伝統を国際市場へつなぐ転換期に立つ。Vietnam PlusとVietnam.vnの現地報道をもとに、産地・職人・市場の動きを整理する。
40°N・43°N・45°N――3商品が国家OCOP5つ星に
2025年6月、Huynh Khoaの『Huynh Khoa Phu Quoc Fish Sauce 40°N/43°N/45°N』の3商品が、ベトナム政府のOCOP(One Commune One Product)5つ星認定を取得した。「°N(度N)」は窒素含有量(窒素換算度数)を示す指標で、数値が高いほど発酵が深く、旨味が凝縮されている。フーコックのニョクマムでは40°Nが標準級、43°N・45°Nは高級プレミアムラインに位置付けられる。
OCOP5つ星はベトナム国内で「国家級プロダクト」として認定される最高ランクで、輸出促進の対象品目に指定される。フーコック島は2021年に「フーコックニョクマム製造」が国家無形文化遺産に登録されており、Huynh Khoaの3商品認定はその伝統を国際市場へ橋渡しする象徴的な出来事となった。
34歳の3代目、ホーチミンから島へUターン
Huynh Khoaを率いるのはNguyen Huynh Anh Khoa氏(34歳)。フーコック島Suoi Da集落にあるHuynh Khoa Fish Sauce Trading Co., Ltd.のディレクターで、3世代続く家業を引き継ぐため、2016年にホーチミン市での仕事を辞めて島へ戻った。当時、フーコックのニョクマム業界は安価な工業製品に押され、職人の高齢化と後継者不足が深刻化していた。
Khoa氏が引き継いだ工場では現在、120本超の木樽が稼働し、年間100万リットルを出荷する。生産にはHACCP・ISO・HALALの3規格を導入し、伝統製法と国際品質基準を両立させる体制を整えた。HALAL認証はムスリム圏輸出の前提条件で、中東・東南アジアのインドネシア・マレーシア向け商流を見据えた布石でもある。
島全体で7,000樽、年間3,000万リットルの一大産地
Huynh Khoaが属するフーコックニョクマム協会には50社が加盟し、島全体で7,000本超の木樽が稼働、年間約3,000万リットルのニョクマムを生産する。
| 指標 | Huynh Khoa単体 | フーコック島全体 |
|---|---|---|
| 木樽数 | 120本超 | 7,000本超 |
| 年間生産量 | 約100万L | 約3,000万L |
| 協会加盟数 | — | 50社 |
| 主要原料 | カタクチイワシ・海塩 | 同左 |
| 熟成期間 | 12〜15ヶ月以上 | 同左 |
| 地理的表示 | EU PDO(原産地呼称保護)2012年登録 | 同左 |
フーコック産ニョクマムは2012年にEUの原産地呼称保護(PDO)に登録された。これは東南アジアの食品としては早期の認定例で、シャンパーニュやパルマ生ハムと同じ枠組みで産地・原料・製法が保護される。原料のカタクチイワシ(cá cơm)は島周辺の海域で漁獲され、海塩とともに木樽で12〜15ヶ月以上熟成される伝統製法が特徴だ。
豪州初出荷、次は米国・欧州
2025年6月の豪州初出荷では、現地パートナーと消費者から高評価を獲得し、2026年中には米国・欧州への本格輸出を計画している。ベトナム政府は「ベトナム製品ブランド国家化プログラム」を通じてOCOP5つ星品の輸出を支援しており、Huynh Khoaは食品ジャンルの先行事例として位置付けられている。
豪州市場ではアジア食材スーパーやベトナム系コミュニティが主な販路で、初回出荷ではメルボルン・シドニーの中華・東南アジア食材店経由で展開された。次の標的市場である米国・欧州では、より広範な主流スーパー・ファインダイニングへの食い込みが課題となる。
SNSと旅行者の反応
「フーコック島でHuynh Khoaの工場見学に行ったら、樽の前で発酵中のカタクチイワシを直接見せてくれた。45°Nを1本買って帰国、空港でラップしてもらえた」(Tripadvisor、シンガポール在住・40代男性のレビュー意訳)
「OCOP5つ星マーク付きHuynh Khoaを豪州のアジア食材店で発見。本場の味がメルボルンで買えるのは衝撃」(Threads、メルボルン在住・30代女性の投稿意訳)
「Khoa氏の話を聞きに工場へ。3代続く家業を継ぐためHCMCから島へ戻った決断が、今のOCOP5つ星につながっている」(Facebook、ハノイ在住・フードジャーナリストの投稿意訳)
フーコック島では工場見学ツアーを有償で受け入れており、Tripadvisorのレビューも複数件で★4.0以上の評価を集めている。
日本人旅行者への影響
フーコック島はホーチミン市から国内線で約1時間、リゾート&ビーチ目当ての日本人観光客にも人気のエリア。Huynh Khoaの工場はDuong To地区Suoi Da集落にあり、空港から車で約20分の立地。事前予約で工場見学が可能で、各種ボトル(40°N/43°N/45°N)を直販で購入できる。
日本への持ち帰りは液体物のため預け荷物必須で、瓶の梱包は工場側でしっかりラップしてもらえる。価格は500ml容量の43°N・45°Nが日本の高級醤油と同等の中〜高価格帯で、贈答用にも向く。Marou ChocolateのBonbon Phở金賞受賞と並び、ベトナム発の「OCOP5つ星×国際市場」路線を体現するお土産候補だ。
業界・社会への波及
フーコックニョクマムをめぐっては、過去に「フーコック」名称の不適切利用や輸出時の品質低下が問題化してきた。EU PDOの厳格運用とOCOP5つ星制度は、こうした「ブランド希釈リスク」を抑制する両輪として機能している。Huynh Khoaの豪州輸出成功は、続くフーコック島メーカーの国際展開にも追い風となる。
ベトナム政府は2030年までにOCOP5つ星品の海外売上を倍増させる目標を掲げており、フーコックニョクマムは米・コーヒー・ドリアンに次ぐ「第4の輸出ブランド」候補として位置付けられている。日本市場でも、業務用ニョクマムの輸入は徐々に拡大しており、フーコックブランドの正規流通が進めば家庭用市場への浸透も視野に入る。
工場見学・購入の実用情報
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 工場名 | Nuoc Mam Phu Quoc Huynh Khoa |
| 住所 | Duong To地区Suoi Da集落、フーコック島、An Giang省 |
| 代表 | Nguyen Huynh Anh Khoa氏(34歳) |
| 創業 | 200年以上の家系(3代目) |
| 看板商品 | 40°N/43°N/45°N(OCOP5つ星) |
| 木樽数 | 120本超 |
| 年間生産 | 約100万L |
| 認証 | OCOP5つ星/HACCP/ISO/HALAL/EU PDO(フーコック産地) |
| 輸出開始市場 | 豪州(2025年6月)/2026年中に米国・欧州予定 |
| 工場見学 | 事前予約制(Tripadvisor/Expedia等で予約可) |
まとめ:200年伝統と国家ブランド戦略の交差点
Huynh Khoaの3商品OCOP5つ星と豪州輸出は、フーコック島の「200年の家業」と「国家ブランド戦略」が結びついた成功事例だ。34歳の3代目が島へ戻った決断と、樽120本・年100万Lの生産体制、HACCP・ISO・HALALの三重認証が積み重なって、世界市場への扉を開いた。
日本からフーコック島を訪れる際は、ロングビーチ周辺のリゾートに加えてDuong To地区の工場見学を組み込みたい。樽の前で発酵中のニョクマムの香りに触れ、40°N/43°N/45°Nを飲み比べる体験は、お土産選び以上の価値がある。
