ベトナム中部の古都ホイアンには、約350軒のテーラー(仕立て屋)がひしめく――。世界遺産の街でありながら、2024-2026年にかけてTikTokで「tailor in Hoi An」が指名買いキーワード化し、欧米・豪州・韓国・日本からの観光客が「あの店で作りたい」と店名を指名して訪れる現象が定着している。代表格はBebe Tailor(累計7万人超)、Two Ladies Tailor(シルク・精密縫製)、Yaly Couture(Netflix映画衣装担当のオートクチュール)の3軒。TripadvisorとIndochina Voyagesのテーラーガイド、TikTokの実態をもとに整理する。
350軒のテーラーが並ぶ世界遺産の街
ホイアン旧市街は1999年にUNESCO世界遺産登録された港町で、人口約12万人。中華・日本・フランス植民地様式が混在する建築景観が有名だが、その路地には約350軒のテーラーが密集している。多くはトラン・フン・ダオ通り、レロイ通り、グエン・ティ・ミン・カイ通りに集中する。
ホイアンが「テーラーの街」となった起源は、絹織物の交易港として栄えた15〜17世紀の商業都市時代に遡る。日本人町や中国人町があった時期からの仕立て技術が今も受け継がれ、現代ではアジア各地の絹・リネン・ウールに加え、イタリアやイギリスから輸入される高級生地を扱う店も増えている。
Bebe Tailor――累計7万人超の最大手
Bebe Tailorはホアンディウ通り05-07番地に本店を構える、ホイアンを代表する大型テーラーだ。累計70,000人超の顧客に対応してきた実績を持ち、TikTokでも「最初に行くべき店」として最頻出。営業時間は朝8時から夜9時までと長く、滞在日数の短い旅行者にも対応しやすい。
価格帯は$75〜$300で、シンプルなアイテムは数時間で仕上がる「即日対応」も可能。スタッフは英語のほか日本語・韓国語・中国語にも対応するスタッフを配置し、外国人観光客のオンボーディングが洗練されている点も特徴だ。アオザイから西洋のスーツまで幅広いカテゴリを一店舗でカバーする。
Two Ladies Tailor――TikTokで火が付いた精密縫製
Two Ladies Tailorはトラン・フン・ダオ通り77番地の家族経営の小規模店。シルクのドレスと精密縫製のスーツに定評があり、2024〜2025年にかけてTikTokで爆発的に拡散。「他のテーラーで失敗してここに来たら完璧だった」というレビュー動画が指名買いを生み、現在は2〜3日先まで予約で埋まる状況が続いている。
同店の特徴は、採寸時間に30分以上をかけること。一般的な大型店が10〜15分で済ませる初回採寸を、Two Ladiesでは細部の好みまでヒアリングしながら丁寧に行う。SNS上では「家族と話している感覚」「他では指摘されなかった姿勢の癖まで合わせてもらえた」とのレビューが目立つ。
Yaly Couture――Netflix映画衣装担当のオートクチュール
Yaly Coutureはホイアン最高峰のテーラーで、専属デザインチームを抱えるオートクチュール志向。Netflix映画『A Tourist’s Guide to Love』(2023年、ベトナムを舞台にした初のNetflixオリジナル映画)の出演者衣装を手掛けたことで国際的な知名度を獲得した。
価格帯は$150〜$500と他店より高め。所要時間は1〜3日だが、特急対応では一晩仕立て(オーバーナイト)も可能。世界各国からのVIP・セレブが利用するため、輸入生地ストックの種類は他を圧倒する。イタリア製ウール、英国製ピンストライプ、京都産シルクなどを取り揃える。
主要テーラー比較データ(円換算 1USD=158円)
| 店舗 | 住所 | 価格帯(USD) | 所要時間 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| Bebe Tailor | 05-07 Hoang Dieu | $75〜$300(約11,850〜47,400円) | 数時間〜2日 | 累計7万人、08:00〜21:00営業 |
| Two Ladies Tailor | 77 Tran Hung Dao | $80〜$300(約12,640〜47,400円) | 2〜3日 | シルク・精密縫製、TikTokバズ |
| Yaly Couture | 旧市街中心部 | $150〜$500(約23,700〜79,000円) | 1〜3日(一晩仕立て可) | Netflix映画衣装、オートクチュール |
| A Dong Silk | 62 Tran Hung Dao | $100〜$400(約15,800〜63,200円) | 24〜48時間 | 25年以上の老舗 |
| B’lan Silk | 23 Tran Phu | $80〜$300(約12,640〜47,400円) | 2〜3日 | 築200年の建物で営業 |
※標準的な紳士スーツは1着$120〜$200、ドレスは$50〜$150が目安。10着以上の大量オーダーで割引対応する店が多い。
SNSと旅行客の反応
「Two Ladies Tailorのシルクワンピース、TikTokで見て指名で行ったけど期待以上。私の体型を理解した上で『ここを少し詰めましょう』と提案してくれた」(豪州在住・30代女性のTikTok投稿意訳)
「Bebe Tailorで48時間でブラウス・パンツ・ドレス計10着仕上げてもらった。ホテルまで届けてくれるサービスが助かった」(米国在住・40代女性のInstagram投稿意訳)
「Yaly Coutureで結婚式用のスーツを注文。一晩仕立てで翌朝渡してくれて、レベルが完全に違う。店内の生地ストックは欧州ブランド店並みだった」(ロンドン在住・40代男性のXポスト意訳)
TikTokのハッシュタグ「#hoiantailor」「#hoianvietnam」「#vietnamtailoring」では、欧米・豪州・韓国・日本のクリエイターによる体験動画が連日投稿されており、関連投稿数は数万件規模で増え続けている。動画の多くは「採寸→生地選び→仮縫い→完成→着用」の一連の流れを編集した「ホイアンテーラー体験記」フォーマットで、新規旅行者が「あの店に行きたい」と指名買いする導線を作っている。
日本人観光客への影響と実用情報
ホイアンのテーラー街は日本人観光客にとっても「ベトナム旅行で必ず立ち寄るスポット」として知られている。Travel + Leisure誌で世界の隠れ家都市1位に選ばれた追い風で、テーラー街への観光客もさらに増える見込みだ。
日本人旅行者が利用する際のポイントは次の通り:
- 到着初日に採寸を済ませ、滞在中に試着・修正の時間を確保する
- 滞在2泊以上を推奨(即日仕上げは品質ばらつきリスクあり)
- 支払いは現金(USD・VND)が主流、一部店舗でクレジットカード対応
- サイズ表(cm)と希望写真を持参すると伝達が確実
- 10着以上のまとめ買いは値交渉の余地あり
業界・社会への波及
テーラー業はホイアンの主要産業の一つで、約350軒の店舗とその家族・職人を含めると数千人が従事するとされる。TikTok経由の指名買い増加は売上を底上げする一方、SNS映え重視の安価コピー店も増えており、品質ばらつきが問題化し始めている。地元観光業界では認証制度や格付けの必要性が議論されており、Tripadvisorと公式SNSで実績を確認してから訪問することが推奨されている。
同じくTikTokで指名買いが起きている事例として、ホーチミンのバインミー名店や、ハノイのエッグコーヒー店がある。共通するのは「店主の人柄・店舗の物語・職人技」がショート動画で伝わりやすい点で、ベトナム観光業界全体が「TikTokで売る時代」に移行している。
訪問前に押さえる実用情報
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| テーラー集中エリア | Tran Hung Dao通り/Le Loi通り/Hoang Dieu通り |
| 店舗数 | 約350軒 |
| 営業時間 | 多くが08:00〜21:00 |
| ベスト来訪時期 | 2-4月/9-10月(雨季は避ける) |
| 滞在日数推奨 | 2泊以上(1泊では仮縫い不可) |
| 支払い | USD・VND・一部カード |
| 持参推奨 | サイズ表・希望写真・参考のお気に入り服 |
| 言語 | 英語・日本語対応店多数 |
| 注意点 | SNS映え重視の安価コピー店に注意、Tripadvisor・公式SNS確認推奨 |
まとめ:350軒の激戦地が示す「指名買い」の時代
累計7万人のBebe Tailor、TikTokバズで2〜3日待ちのTwo Ladies Tailor、Netflix映画衣装担当のYaly Couture――ホイアンの350軒のテーラーは、それぞれが「指名買いされるブランド」として独自のポジションを築いている。生地・技術・接客・SNS発信のすべてが揃った店だけが生き残る激戦地で、観光客は店選びそのものが旅の楽しみとなっている。
日本からホイアンを訪れる旅行者が、世界遺産の街並みだけでなく「自分だけの一着」を持ち帰りたいなら、滞在2泊以上を確保し、TripadvisorとTikTokで店を絞り込んでから訪れるのが現実的なステップになる。
