ArchDaily厳選『遺産を生き返らせた』ベトナムのカフェ10選――フエ・サイゴン・クイニョンの建築再生最前線

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『日常の遺産』をテーマにしたArchDaily特集の射程

建築専門メディアArchDailyが2026年に公開した特集『Everyday Heritage: 10 Vietnamese Coffee Shops Reviving Small-Scale Traditional Buildings』が、ベトナムのカフェ建築界隈で話題を集めています。50年代モダニズムの別荘から、戦前のタウンハウス、フランス植民地時代のヴィラ、フエの伝統木造まで、観光地のシンボル建築ではなく『日常的な小規模建築』を再生したカフェ10件を集めた点が特集のミソです。

ArchDailyが選んだ10件(建築事務所・建物タイプ別)

# 店名 所在 設計事務所 元の建物 遺産期
1 The Cocoa Project Café 未公表 T3 Architects モダニズム別荘 1950年代
2 The Running Bean Café ハノイ Red5studio 歴史的保全建築 歴史建築
3 CoCo Cha Taiwan Tea & Coffee 未公表 PT Arch Studio 古典様式建築 歴史建築
4 Namra Coffee 未公表 D1 Architectural Studio モダニズム住宅(元ウェディングドレスショールーム) 1970年代
5 Okkio Duy Tan Caffe ホーチミン市 sgnhA フランス植民地ヴィラの片側 植民地期
6 DeHue Coffee フエ son.studio 木造伝統家屋 フエ伝統建築
7 Tan Coffee 未公表 Son Studio 旧工場の複数構造体 工業建築
8 Sipply Coffee 未公表 sgnhA モダニズム建築 モダニズム期
9 Adiuvat Coffee Roaster Quinhon クイニョン A+H architect 戦前タウンハウス 1975年以前
10 Bơ Bakery ホーチミン市 Nhabe Scholae サイゴン式ショップハウス 都市職住一体建築

遺産系カフェに共通する3つの設計原理

第一に「足し算より引き算」。Okkio Duy Tan Caffeのように、フランス植民地ヴィラの『半分』だけを使い、装飾を新設せず元の柱・梁・タイル・天井装飾を露出する手法が中心です。建築写真家を呼び込み、SNSで拡散させる構造でもあります。

第二に「都市文脈を切らない」。ハノイRed5studioのRunning Beanや、ホーチミン市Nhabe ScholaeのBơ Bakeryのように、街路に対して開口を取り、テラスとファサードを街並みの一部として残しています。サイゴンの『撮影スタジオ化したカフェ』とは違い、街路への外向き圧力を抑えた設計です。

第三に「素材主義の徹底」。フエのDeHue Coffee(son.studio)は伝統木造の構造材を露出させ、クイニョンのAdiuvat(A+H architect)は戦前タウンハウス特有の『ペブル・ウォッシュアウト』ファサード(小石を埋め込んだ表面仕上げ)を保存。素材そのものを意匠として読ませる手法が共通します。

業界の反応――小規模建築リノベが牽引する『第3の波』

ベトナムのカフェ業界:The Coffee House、Highlands Coffee、Phuc Long、Trung Nguyenの4大チェーンに対して、独立系の建築重視カフェがコーヒーの『第3の波(サードウェーブ)』のもう一段上として位置づけられつつあります。今回ArchDailyが選んだのはほぼ独立系・建築家コラボ型で、量産チェーンと別レイヤーで発信されている層です。

建築家・スタジオ側:sgnhA、Son Studio、T3 Architects、Red5studio、A+H architect、Nhabe Scholaeなど、ベトナム国内の中堅建築事務所がポートフォリオのなかでカフェ建築を独立した作品系列として打ち出すようになりました。住宅やオフィスより撮影解禁が早く、海外メディアに露出しやすいのが理由のひとつです。

不動産オーナー:『古い建物を壊して建て替える』のではなく、テナントとして建築事務所込みのカフェ事業者を入れて再生するモデルが、ホーチミン市1区・3区、ハノイ旧市街、フエ・クイニョンで広がっています。原型保存+構造補強+空間活用の3点セットが、賃料水準を底上げしているのが現実です。

日本人読者・編集視点での注目ポイント

第一に、フエDeHue Coffeeとクイニョン Adiuvatは、ホーチミン・ハノイの主要観光ルート外にあり、地方都市カフェ巡りの動機になります。フエは京都的な木造遺産、クイニョンは戦前タウンハウスのストリート景観で、ベトナム旅行記事のテーマ設定として日本の雑誌・Webメディアにフィットします。

第二に、Okkio Duy Tan Caffeのフランス植民地ヴィラ再生は、サイゴン中心部から徒歩圏にある『建築鑑賞×カフェ』の入門編。ベトナム雑貨店に行くついでに15-20分立ち寄れる立地で、ベトナム旅メディアの定番企画化が進みそうです。

第三に、日本のリノベーションカフェ(金沢の町家カフェ、京都の路地カフェ、尾道の坂道カフェ)と並べて比較する企画は、訪日観光客向けにも訪越観光客向けにも双方向で機能します。建築事務所名を出して紹介することで、専門誌寄りの読者にもリーチできます。

業界波及――建築×コーヒー×遺産の三角形

このトレンドが拡張すると、ベトナムの遺産カフェは『建築事務所のショーケース+コーヒーのテイスティングルーム+観光ガイドのフォトスポット』を兼ねる三層メディアとして機能します。スペシャルティコーヒー業界(フィンドリップから第3の波への移行)と、地方都市の不動産再活用、建築家のキャリア構築が同時に動く稀有な交差点です。今後はホイアン・ダラット・ハイフォンなど第二都市群でも同様の動きが出ると予想されます。

基本情報テーブル

項目 内容
特集タイトル Everyday Heritage: 10 Vietnamese Coffee Shops Reviving Small-Scale Traditional Buildings
掲載媒体 ArchDaily(建築専門国際メディア)
取り上げ件数 10件
主な都市 ホーチミン市、ハノイ、フエ、クイニョン
主な建築事務所 T3 Architects、Red5studio、PT Arch Studio、D1 Architectural Studio、sgnhA、son.studio、A+H architect、Nhabe Scholae
建物タイプ モダニズム別荘、植民地ヴィラ、伝統木造、ショップハウス、戦前タウンハウス、旧工場 等

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まとめ

ベトナムのカフェ文化は『コーヒーが美味しい店』から『建築を読みに行く店』へ静かに移っています。ArchDailyの特集はそのトレンドの公的な記録であり、フエ・クイニョン・ハノイ・ホーチミンを横断した遺産カフェ巡りが、日本人旅行者の新しい目的になりそうです。

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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