ベトナムで買い物をするときの支払い手段に、9月25日の会合でひとつの数字が付いた。国内の決済受付箇所は250万を超えているのに、外国人が自国のアプリで読める越境QR規格「VietQR Global」を掲げている場所は約15万4,000か所。比率にすると6%ほどで、残りのQRは国内の口座向けだ。しかも、この越境QRがつながっている6か国のなかに日本は入っていない。日本のスマートフォンを持ってベトナムへ行く人は、当面は現金と国際カードを前提に組み立てる必要がある。
国内250万超の決済受付箇所のうち、越境QRを出しているのは15万4,000か所
会合はベトナム国家銀行(中央銀行)決済局、ベトナム国家決済公社(NAPAS)、Tạp chí Kinh tế Việt Nam/VnEconomy が9月25日午後に共催したもので、テーマは越境QR決済の拡大だった。
6%は発表された数字ではなく、2つの数字の割り算
決済局長の Phạm Anh Tuấn 氏は、全国の国内決済受付箇所が250万を超える一方、VietQR Global を受け付ける箇所は約15万4,000にとどまると述べた。6%という比率は当局が発表した指標ではなく、報道側がこの2つを割って出した目安として記事に添えられている。実際に割ると15万4,000÷250万=6.16%で、母数が「250万超」である以上、本当の比率はこれより小さい。越境QRの普及率を6%と丸めて扱うときは、この程度の幅を見ておいたほうが安全だ。
会合で誰がどの数字を出したか
同じ席で国家銀行副総裁の Phạm Tiến Dũng 氏は、越境決済の成果は接続した国の数ではなく、実際の利用度合いと受付箇所の広がり、利用者と事業者が得る価値で測るべきだと述べている。Phạm Anh Tuấn 氏の「つながっているかどうかではなく、そのつながりが使われているかどうかだ」という言い方も同じ向きだ。旅行者の体感に近いのは接続国数より受付箇所の比率のほうだ。
タイ・ラオス・カンボジアの客の利用は8倍、日本はまだ待つ側
NAPAS副社長(Phó tổng giám đốc)の Nguyễn Đăng Hùng 氏によると、2021年以降にベトナムと決済を接続したのは中国、タイ、韓国、シンガポール、カンボジア、ラオスの6か国。今後の拡大先として挙がったのが日本、インド、マレーシア、インドネシア、フィリピンで、日本は「これから」の側に置かれている。
中国からの客は8月までの4か月で件数3倍、金額4倍
伸びの数字は市場ごとにかなり違う。NAPAS の集計では、2026年1〜8月にタイ・ラオス・カンボジアからの旅行者がベトナム国内で VietQR Global を使った取引は、前年同期比で件数が8倍、金額が6倍。逆方向、つまりベトナム人がこの3市場で使った取引は件数が約5倍、金額が4倍だった。中国からの客は、中国側の決済プラットフォームと接続した後の8月までの4か月で件数が3倍、金額が4倍になっている。8倍という数字は越境QR全体ではなく、この3か国からの客に限った伸びである点は押さえておきたい。
日本はインド・マレーシアなどと同じ拡大予定の欄にある
| Country/region | 9月25日の会合で示された状況 |
|---|---|
| タイ/ラオス/カンボジア | 接続済み。1〜8月にベトナム国内での利用が件数8倍・金額6倍、ベトナム人の同3市場での利用が件数約5倍・金額4倍 |
| China | 接続済み。8月までの4か月でベトナム国内の利用が件数3倍・金額4倍 |
| Singapore | 双方向で接続 |
| South Korea | 韓国からベトナムへ向かう方向の決済を提供 |
| 日本/インド/マレーシア/インドネシア/フィリピン | 今後の拡大先として挙げられた段階 |
方向まで明示されたのはシンガポール(双方向)と韓国(韓国発)で、ほかの国について会合の報道は方向を書き分けていない。日本発の便が多いハノイ・ホーチミン・ダナンを回る人にとっては、行き先の都市より「自分の手元のアプリがどの接続に乗っているか」が効く。
日本の銀行アプリで店頭のQRを読んでも、いまは決済できない
ここが日本発の旅行者にとって一番実務的な結論になる。日本が拡大予定の欄にある段階なので、日本の銀行アプリやコード決済アプリでベトナムの店頭のQRを読み取る経路は、まだ開いていない。
現金・国際カード・QRの3本柱のうち、日本発はQRが抜ける
Nguyễn Đăng Hùng 氏は、訪越外国人の支払い手段はカード、現金、QRの3つが主だと整理し、アジア太平洋地域からの来訪者の85〜88%はすでにQRに慣れているとした。裏を返すと、日本から行く人はこの3本のうちQRが使えず、現金とカードの2本で回すことになる。同席した観光当局側からも、支払いで手間取った旅行者は支出を減らすか別の場所へ移ってしまう、という指摘が出ている。屋台や小さな土産物店での少額の買い物ほど、この差が出やすい。
| Means | 日本発の旅行者の現状 | 会合で示された関連数字 |
|---|---|---|
| 日本のアプリで店のQRを読む | 経路が開いていない | 日本は拡大予定の対象 |
| 店頭のVietQR Global表示 | 掲げている店自体が少ない | 約15万4,000か所/国内250万超 |
| 国際カード | 使えるが店側の負担が重い | ベトナム国外発行カードの加盟店手数料は2.4〜3%と説明 |
| 現金(ドン) | 両替の手間は残る | 訪越客の主要3手段の1つ |
回線が切れるとQRは読めず、カードの明細も確認できない
QRもカードの利用通知も、通信が生きていることが前提になる。空港でSIMを買う列に並ばずに済ませるなら、出発前にeSIMを入れておくほうが早い。料金の目安は1日10GBが30日125,000ドンというベトテルのeSIMの回で整理してある。通信が細いと、屋台で表示された金額をその場で円に換算する作業さえ止まる。
店側の手数料は越境QRが1.5%、国外発行カードは2.4〜3%
会合ではベトコムバンクの担当者 Trần Văn Thanh 氏が、同行が越境決済サービスを60を超える国・地域で展開していると説明したうえで、VietQR Global の加盟店手数料は取引額の約1.5%で、ベトナム国外発行の一部の国際カードについて挙げられた2.4〜3%より低いと述べた。
1.5%と2.4〜3%は店が払うコストで、旅行者の請求額ではない
この2つの数字を自分の支払額に足してはいけない。どちらも加盟店が決済を受け付けるために負担する率で、旅行者の請求額に上乗せされる手数料の話ではない。旅行者側の負担として効くのは為替の換算レートや自分のカード会社の海外利用手数料で、会合ではそこまで踏み込んだ数字は出ていない。
小さな食堂では現金を求められる場面が残る
1.5%と2.4〜3%の差は、利益率の薄い小さな店では無視できない。店側が越境QRを歓迎する理由もここにある。ただ、その越境QRを掲げている店が15万4,000か所しかないので、朝だけ開く14席で一汁三菜が約30万ドンという路地の食堂のような場所では、現金を用意しておくのが今のところ確実だ。逆に税・サービス料別で79万ドンのロブスターを出す28階のレストランのような価格帯なら、カードでの支払いを前提にして構わない。金額の大きさで手段を分けるのが、当面いちばん手戻りが少ない。
支払い画面で受取人名を見る、それだけで防げる種類の被害がある
会合の後半は安全面に割かれた。QRは端末を持たない小さな店でも受け付けられる反面、決済の経路に店、銀行、仲介事業者と多くの結節点が入る。
8月末までに170万件近い不審取引が止められた
国家サイバーセキュリティ協会データ安全部門の Ngô Tuấn Anh 氏は、QRコードが差し替えられる、端末がマルウェアに感染する、利用者情報が不正に使われるといった形でリスクが出ると説明した。専門家からの助言は具体的で、確定する前に受取人・受取事業者の名前を確認する、出所の分からないアプリを入れない、の2点だ。会合で公表されたリスク監視システム SIMO の数字では、8月末までに延べ510万人超の利用者に警告が出され、170万件近い不審取引が止められた。合計額は原文で5,700 tỷ đồng、つまり5兆7,000億ドンだ。「tỷ」は10億なので、桁区切りのピリオドを小数点と読むと1,000分の1に潰れる。1円=約165ドン(2026年9月26日時点)で換算すると約346億円になる。
出発前にやっておくと現地で困らないこと
受取人名はベトナム語表記でも店名のローマ字がたいてい読めるので、現地語が分からなくても確認できる。屋台で誰かの個人名が出てきたときは、その場で店員に聞くのが早い。現金中心で回すなら、10万ドン札と2万ドン札を意識して崩しておくと釣り銭で待たされる回数が減る。
次にベトナムへ行く人が出発前に1つだけやるなら
やることを1つに絞るなら、カード会社の海外利用設定と利用通知を出発前に確認しておくことだ。日本のアプリでQRが読めない状態が続く以上、カードが主力になる。通知が届く設定にしておけば、二重請求や想定外のレートにその日のうちに気づける。加えて、屋台と市場向けの現金を初日に確保しておく。越境QRの接続先に日本が入るのはこれからの話で、それまではこの2本立てが現実的だ。
もうひとつ、ホーチミン市内の短距離移動なら134路線のバスが12月末まで無料になっているので、支払い手段を考えずに済む区間がある。支払いで悩む回数自体を減らす方向も使える。


