2026年9月26日と27日の2日間、東京・西新宿の新宿中央公園で「ベトナム バインミーフェスティバル」が開かれた。駐日ベトナム社会主義共和国大使館が実行委員会に名を連ね、バインミーを主役に掲げた催しが日本で開かれるのはこれが最初になる。主催者が見込んだフードブースは約30、入場は無料。初日はあいにくの雨だったが、ベトナム通信社(VNA)は数千人が訪れたと伝えた。日本にベトナム料理店が増えた、という話ではない。ベトナム本国が自国の食を国のブランドとして海外へ持ち出す順番があり、その順番がいま日本に回ってきている。旅行でベトナムに通う人、住んだことのある人にとっては、現地で見てきた光景が東京で再生産され始めた合図でもある。
新宿中央公園で2日間、約30ブースの予定で開かれた
会期は9月26日(土)の11時から20時まで、27日(日)は10時から18時まで。会場は新宿中央公園ファンモアタイムひろば(東京都新宿区西新宿2-11)。公園の案内では都営大江戸線の都庁前駅A5出口から徒歩1分、JR新宿駅西口からは徒歩10分とされている。共催は駐日ベトナム社会主義共和国大使館、株式会社ライノ・コネクト、在日ベトナム伝統芸術文化協会(Betoraku)、iiMediaの4者。後援は外務省、法務省出入国在留管理庁、新宿区、国際機関日本アセアンセンター。特別協賛はSMSグループとベトナム航空、協力にOhana株式会社と株式会社SENKYUが入った。運営側は出店を約30ブース、来場を2〜3万人と見込んでいた。
内容はバインミーとベトナム料理のブースに加えて、伝統舞踊と民族音楽のライブステージ、星型ランタン作り、ノンラー(ベトナムの円錐笠)の絵付け、アオザイの試着といった体験、クラフトマーケットとスタンプラリー。会期が中秋節に重なったため、ランタン行列と獅子舞、月餅の試食も組まれた。中秋の獅子舞はベトナム各地でこの時期の名物で、ハノイでは水族館の水中で獅子舞を見せる企画が同じ週末まで走っていた。開会式で挨拶した駐日ベトナム大使館公使参事官のグエン・サウ氏は、バインミーとコーヒーは日本でも世界でも人気が高まっているベトナムを代表する2つの食であるとし、来場者には食べ物と飲み物だけでなくベトナムの文化や人に触れてほしいと述べている。主催者側は、この催しを毎年の行事にしたいという意向を示した。
会場の「ファンモアタイムひろば」は何の広場か
ベトナム側の報道はいずれも会場を「Fun More Time Square」と英字で書いており、日本側の名称にあたる情報がない。調べると、これは新宿中央公園にある「水の広場」の現在の呼び名である。新宿区が同広場でネーミングライツ(命名権)事業を行っており、期間は2024年4月1日から2029年3月31日まで。命名権を取得したのは西新宿エリアの民間企業19社で構成する新宿副都心エリア環境改善委員会で、「まちでより多くの時間を楽しもう」というコンセプトからファンモアタイムひろばという名が付いた。この委員会は東京都との共催で西新宿一帯を歩行者中心に開放するイベント「FUN MORE TIME SHINJUKU」も開いており、広場の名は同じ看板から来ている。
場所の選び方には意味がある。ベトナム関連の大型催事で日本人の間でよく知られているのは代々木公園だが、今回は都庁の足元が選ばれた。西新宿は平日の就業人口が厚く、週末は公園利用者と新宿駅からの流動が混ざる。ベトナム料理店が集まる新大久保や高田馬場からも近い。主催者は会場を選んだ理由を公表していない。立地の条件だけを並べれば、在日ベトナム人コミュニティに向けた催しと、ベトナムを知らない日本人への露出を同じ場所で成り立たせやすい位置ではある。
バインミーは何が挟まっているのか
バインミーは、ベトナム語でパンそのものを指す語であり、それを使ったサンドイッチも同じ名で呼ばれる。パン食が入ったのはフランス統治期で、日清製粉グループの解説では約100年にわたる統治のあいだにフランス人が持ち込んだものとされる。ベトナムのバゲットはフランスのものと食感が違い、同社はクラストが薄くて歯切れがよく、クラムが口の中で溶けるような軽さだと書いている。
この軽さの理由として、日本の製パンレシピやバインミー専門店の解説では小麦粉に米粉を混ぜる配合がしばしば紹介される。ただし製粉メーカー側の解説は軽さを水分量の多い生地と焼成時の蒸気で説明しており、米粉の使用を前提にしていない。米粉を混ぜる作り方が実際にあることは確かだが、ベトナムのバインミーはすべて米粉入りだと言い切れる裏付けは取れなかった。買う側としては、店ごとにパンが別物だと考えておくほうが実態に近い。
具のほうは、レバーペースト(パテ)を塗り、ハム類やチャールア(豚肉のベトナム風ハム)を重ね、なますとキュウリを入れ、パクチーなどの香味野菜と唐辛子で締める構成が広く共有されている。そこから先は地域で分かれる。ベトナムの製パン業者や飲食店の解説を複数読み比べると、傾向はこう整理できる。店ごとの差は大きく、下の表はあくまで典型例である。
| 系統 | 具の組み方 | 味の付け方 |
|---|---|---|
| ハノイ系 | パテ、ルオック(でんぶ)、目玉焼き、チャールアなど点数を絞る | パテの塩気と辛味で立てる |
| サイゴン系 | 複数のハム、焼き豚、シウマイ(ひき肉の肉団子状の具)など品数を重ねる | バターソースやマヨネーズ、自家製のたれを合わせる |
パンの皮の厚さについては、ハノイのほうが薄いとする解説とサイゴンのほうが薄いとする解説が並んでおり、どちらとも決められなかったのでここには書かない。地域差でもう一つ外せないのが中部ホイアンのバインミー・フーン(Bánh mì Phượng)で、市場の屋台から始まった店が2009年にアンソニー・ボーディンの番組『No Reservations』で取り上げられて世界的に知られるようになった。外から来た誰かの一言が一軒の店を変えるという型は、サイゴンのフォー2000にビル・クリントンが立ち寄った一件とよく似ている。
出店者、大使館、主催者は何と言ったか
実行委員会のグエン・カン・リー氏は、ベトナム料理、とくにバインミーを日本人の日常のなかに持ち込みたいと語っている。これは観光客向けの物産展とは別の狙いで、来場者の記憶ではなく食習慣を取りにいくという意味になる。
出店側の言葉も出ている。ベトナム外務省系の媒体が伝えたところでは、Ba Ba Banh Mi の店主トノヅカ・リカコ氏は開業から約5年で、同店のバインミーは750〜850円という価格帯だという。日本の外食でこの価格は、専門店のサンドイッチとして通る一方、コンビニのパンや牛丼と並べられると高く見える帯でもある。ここをどう抜けるかが、常設店の側の課題として残る。
大使館側の発言は、バインミーとコーヒーを組みで出していることが特徴だった。公使参事官のグエン・サウ氏は、この2つが日本と世界で人気を高めているベトナムの代表的な食だと位置づけた。飲み物と食べ物をセットで押し出す説明の仕方は、ベトナムの食のプロモーションでは繰り返し出てくる。コーヒーを単独の輸出産品としてではなく、食文化への入口として置く扱い方だ。
もう一点、数字の読み方として記録しておきたいことがある。運営の想定来場者数は2〜3万人だったが、VNAが初日について書いたのは「数千人」である。初日は雨で、会期は2日間。ただし2〜3万人は2日間合計の事前見込みで、「数千人」は初日の途中経過をVNAが書いたものだ。2日間の総来場者数は発表されておらず、この2つを並べて成否を測ることはできない。判断できるのは、初日が雨だったという事実までである。
フォー、コーヒー、バインミーと催事が続いている
ベトナムの料理を一品目ずつ前面に出す催事は、この数年で続けて立っている。ただし主催団体はそれぞれ別で、国が順番を決めて並べたと読める資料は出ていない。時系列だけを並べると、次のようになる。
先頭はフォーだった。12月12日は「フォーの日」(Ngày của Phở)で、2018年12月12日にトゥオイチェー紙が、この日付の名称についての知的財産上の決定を受けている。海外展開の第1弾は日本で、Vietnam Phở Festival 2023 が2023年10月7日と8日に代々木公園で開かれた。主催はトゥオイチェー紙とサイゴンツーリスト・グループ、駐日ベトナム大使館が後援に入り、日越外交関係樹立50周年の記念事業として位置づけられている。次がコーヒーで、こちらは輸出産品と店舗展開の両面から進んだ。
そしてバインミーである。「bánh mì」はオックスフォード英語辞典に項目として立っており、エントリーの初出は2011年3月、記録されている最も古い用例は1985年のサンフランシスコ・クロニクル紙とされる。ベトナム側はこの収載日を2011年3月24日として扱い、2026年で15年目と数えている。ホーチミン市では第4回のベトナム・バインミー祭が2026年4月23日から26日までレ・ヴァン・タム公園で開かれ、150ブース、来場20万人超を見込んだ。主催はホーチミン市観光協会、ベトナム料理文化研究保存発展センター、ホーチミン市ジャーナリスト協会で、テーマは「ベトナムのバインミー、世界の食の価値、五大陸へ」。東京の初開催は、ホーチミンの第4回から5か月後にあたる。時系列としてはそう並ぶが、国内で育ててから海外へ出す計画があったことを示す資料は見当たらない。
ベトナムに通っている読者にとっての実用的な含意は2つある。1つは、現地で開かれる品目別の祭りの日程が、日本での関連催事を探すときの手がかりになること。もう1つは、在日ベトナム人が営む店と、現地の味を掲げる日本の専門店を一度に比べられることだ。主催者が公表した出店者リストには、台東区雷門のBANH MI XIN CHAO、中央区日本橋小舟町のnicoバインミー、千代田区平河町のTOKYO BANH MI STAND、横浜市泉区のSAIGON – BÁNH MÌ VIỆT、川越市のCHAN BAKERYといった名前が並んでいた。普段なら東京・埼玉・千葉・神奈川を回らないと出会えない店が、2日間だけ同じ広場に集まる。
日本市場ではバインミーがどこまで来ているか
受け皿になる人口は、統計で押さえられる。出入国在留管理庁が2026年3月27日に公表した2025年12月末時点の在留外国人統計では、在留外国人の総数が412万5,395人で初めて400万人を超えた。国籍別ではベトナムが68万1,100人で2位(前年末比4万6,739人増)、1位の中国が93万428人、3位の韓国が40万7,341人である。ベトナムは増加数でも上位に入る。
店舗側の数字は公的統計がないため、業界団体の推計に頼ることになる。日本バインミー協会の2026年版調査では、2025年末時点で店舗型専門店が215店、キッチンカー型専門店が144台、バインミーを扱う店が240店で、合計599拠点。1年前の同協会の資料は2024年末を約540拠点としており、1年で60ほど増えた計算になる。同協会は10年で約4倍、15年で36倍という伸びも示している。出店は在留ベトナム人の多い工業地域や留学生の街に現地志向の専門店が立つ流れと、都市中心部や観光地に日本風のアレンジ店が立つ流れに分かれるという整理だ。ただし同協会の資料は在留ベトナム人を「60万人突破」と書いており、上記の68万1,100人とは時点がずれている。拠点数も公的統計ではなく業界団体の集計なので、幅をもって読むのが妥当だろう。同協会は2026年8月に「ベストバインミー2026」の結果を発表しており、候補は全国で200店舗近くあったとしている。
催事の側も厚みが出ている。代々木公園のベトナムフェスティバルは2008年に始まり、2026年は5月30日と31日に18回目を迎えた。主催は実行委員会と駐日ベトナム大使館で、2025年の実績は14万人、2026年は18万人を目標に置いた。神奈川では9月12日と13日にベトナムフェスタin神奈川2026が日本大通り、神奈川県庁本庁舎、象の鼻パークで開かれている。ベトナム航空はこの神奈川の催しにトップスポンサーとして出展し、2週間後の新宿のバインミー祭には特別協賛で付いた。航空会社が秋の2つに続けて名を出した形で、食のイベントが旅客需要の導線として扱われていることがうかがえる。
日本と現地、それぞれどこでいくら食べられるか
まず次の機会について。今回の催しは終了しており、主催者は年次化の意向を示しているが2027年の日程は出ていない。ベトナム関連の大型催事で日程が読めるのは代々木公園のベトナムフェスティバル(2026年は5月30日・31日)と、9月のベトナムフェスタin神奈川。本国側の日程を狙うなら、ホーチミン市のバインミー祭が4月下旬(2026年は4月23〜26日)である。
常設で食べるなら、東京では新大久保と高田馬場の周辺にベトナム料理店が集まっている。留学生や在住者が多く、現地志向の店が残りやすいエリアだ。価格の目安としては、今回出店したBa Ba Banh Mi が750〜850円としている。
現地で食べる場合の価格帯を整理しておく。為替は1円=約164.7ドン(2026年9月28日時点)で換算した。1万ドンが約61円になる。
| 買う場所 | 現地価格 | 円換算の目安 |
|---|---|---|
| 路上の屋台・担ぎ売り(最安の例) | 5,000ドン | 約30円 |
| 行列のできる高価格帯の有名店(サイゴンのフイン・ホア/公式メニューの看板「特別」) | 61,000〜78,000ドン | 約370〜474円 |
5,000ドンはタンニエン紙が「国内で最も安い」と紹介した高齢女性の担ぎ売りの例で、これを標準と思わないほうがよい。この店の1個は日本の外食の感覚に近く、屋台で買う1個とは別の買い物になる。ハノイの路地で一皿89円のバインクオンを出す店と並べると、バインミーは現地の軽食としては真ん中から少し上あたりに位置する。注文で迷ったら、まずパテとチャールアが入る基本形を1個頼んで、店のパンを確かめるのが早い。パンが軽く歯切れよく焼けている店なら、具を足した高い方を頼む価値がある。香港ではバインミー専門店のBánh Mì Nếmがミシュランのセレクテッドに入っており、この料理が屋台の枠で止まらなくなってきていることの一例になっている。
まとめ:次はどこで食べ、何を見ておくか
東京のバインミー祭は2日間で終わったが、押さえるべき点は残る。次の機会を探すなら、本国側のカレンダーのほうが早い。ホーチミン市のバインミー祭は4月下旬、フォーの日は12月12日で、代々木公園のベトナムフェスティバルは5月末に立つ。
東京で食べるなら、現地志向の店とアレンジ店は分けて回りたい。新大久保や高田馬場の店と、ターミナル駅周辺の専門店は、同じ名前で別の料理を出している。そして次にベトナムへ行くときは、具ではなくパンから比べてみるといい。ハノイとサイゴンで具の組み方が違い、ホイアンには番組で有名になった店がある。同じ「バインミー」を3都市で食べ比べると、1つの料理として語られていたものが3つに分かれて見えてくる。
そして、この催しが年次化するかどうかは見ておく価値がある。大使館が実行委員会に入り、外務省と出入国在留管理庁が後援に並び、航空会社が協賛する構成は、民間の物産展とは性格が違う。2027年に2回目が立てば、バインミー単独の催事を日本で続けられるだけの需要があるかどうかを測る材料になる。
参照元
- VnExpress International・Vietnam banh mi festival held for first time in Japan
- VietnamPlus・Vietnamese banh mi takes centre stage at first festival in Japan
- The World and Vietnam Report・First Vietnamese Banh Mi Festival in Japan
- 株式会社プランニングオフィスエスエムエス・『ベトナム バインミーフェスティバル』2026年9月26日・27日にて開催
- ベトナム航空 日本支社・秋のベトナム文化を味わい尽くす2大イベントに協賛・出展
- 西新宿LOVE WALKER・新宿中央公園 水の広場の名称が「ファンモアタイムひろば」に
- 出入国在留管理庁・令和7年末現在における在留外国人数について
- 日本バインミー協会・バインミー市場規模(2025年版)の調査レポート
- VIETJOベトナムニュース・日本バインミー協会、「ベストバインミー2026」受賞3店舗を発表
- ホーチミン市電子情報ポータル・Lễ hội Bánh mì Việt Nam lần thứ 4
- Thanh Niên・Bánh mì Việt Nam: Từ ổ bánh giá 5.000 đồng đến tiệm được Michelin vinh danh
- Tuổi Trẻ・Vietnam Phở Festival 2023 ở công viên Yoyogi
- ベトナムフェスティバル2026 実行委員会・開催概要
- 日清製粉グループ・パンを巡る旅レシピ vol.1 パンと肉 ベトナムのバインミー
- 株式会社プランニングオフィスエスエムエス・ベトナム文化を感じる2日間『ベトナム バインミーフェスティバル』イベント内容大公開!(9月16日版)
- Oxford English Dictionary・banh mi, n.
- ベトナム バインミーフェスティバル 公式サイト
- 新宿中央公園 公式サイト・アクセス
- Bánh Mì Huynh Hoa 公式サイト・メニュー
- 日本バインミー協会・バインミー市場規模(2026年版)の調査レポート


