ホーチミンの地下鉄、国産化へ――2号線で技術移転の覚書に署名

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2026年7月17日、ホーチミン市の都市鉄道管理局(MAUR)と、ベトナム国内のIT・通信企業グループ「GTEL」が、地下鉄の中核技術を国内で担えるようにするための覚書(MOU)に署名した。手始めの舞台は、いま市街地の地下で工事が進むメトロ2号線(ベンタイン〜タムルオン)だ。まだ契約ではなく協力の枠組みを確認した「覚書段階」だが、外国メーカー頼みだったベトナムの地下鉄を、自国の技術者と企業で動かす方向へ寄せる狙いを示した。ホーチミンで暮らす人、これから訪れる人にとっては、数年先の移動手段がどう育っていくのかを占う話になる。

目次

何が発表されたのか

MAURとGTELが結んだのは、地下鉄の「システム統合の研究」「技術の習得」「技術移転」を一緒に進めるという覚書だ。対象は信号、通信、電力供給、電気機械(E&M)、監視制御(SCADA)、運行管理センター(OCC)、自動運賃収受(AFC)、ホームドア(PSD)といった、路線を動かす基幹システム一式。さらにAIやデジタルツイン、電子ID(eID)など、運行管理と保守のデジタル化でも協力するとしている。

両者はまず2号線に技術を集中させ、2026〜2030年に計画される路線群へ広げる。最終的にはホーチミンの地下鉄網を束ねる統合運行管理センターを自前で持ち、設計・統合・運行・保守までベトナム人技術者と国内企業でこなせる体制を目指す、とMAUR側は説明する。あくまで発表・覚書の段階であり、具体的な発注や金額はこれからだ。

なぜ今、「国産化」なのか

ホーチミンの地下鉄は、2024年12月に開業した1号線(ベンタイン〜スオイティエン)がようやく動き出したばかりだ。この1号線は日本の円借款と日本企業の車両・システムで実現し、設計から施工まで長い年月がかかった。続く2号線も、2026年1月に着工したものの、車両は韓国のヒュンダイ・ロテムが製造を担う。路線を一本引くたびに外国メーカーと交渉し、技術も人材も外部に依存する――この構図をどこかで変えないと、計画中の路線を数珠つなぎに増やすのは難しい。

ホーチミンは2035年までに7路線・総延長およそ355kmの都市鉄道網を築く構想を掲げる。これだけの規模を毎回ゼロから外注していては、時間もコストも際限がない。だからこそ、いま動いている2号線を「国産技術を仕込む実験台」に選んだ。今回の覚書は、その最初の布石にあたる。

1号線と2号線、いま何が動いているか

在住者・旅行者の実感に近いところで、2本の路線を並べてみる。動いているのは1号線だけで、2号線は数年先の話という現実がはっきりする。

項目 1号線(ベンタイン〜スオイティエン) 2号線(ベンタイン〜タムルオン)第1期
状況 2024年12月22日 開業・運行中 2026年1月着工、開業目標2030年
距離 19.7km 約11.3km(地下9.3km/高架2km)
駅数 14駅 11駅(地下10・高架1)
車両 日本製で運行中 韓国ヒュンダイ・ロテムが製造(無人運転車両)

2号線は地下区間が9割近くを占める都市型路線で、駅の大半が地下にある。この工事の重さが、着工から開業まで年数を要する理由でもある。総事業費は公表値が媒体ごとに揺れており、確定額は正式契約を待つ段階だ。

国産化の的は「駅で目に見える設備」まで

今回の覚書で挙がった技術は、乗客からは見えない裏方だけではない。改札を通るときのAFC(自動運賃収受)や、ホームと線路を仕切るPSD(ホームドア)といった旅客接点の設備も含まれる。一方で、遅延や運休を判断するOCC(運行管理センター)や監視制御のSCADAは、路線を安全に動かす中枢にあたる。表と裏の両方を、外国メーカーの出張対応ではなく国内で設計・保守できるようにする狙いだ。

もう一つの軸がデータの扱いだ。MAURは統合運行管理センターを自前で持つことで、運行や乗客の移動に関わるデータの管理権をベトナム側に残すと説明している。誰が乗り、どこで混むかという情報は、路線を増やすほど価値を持つ。その主導権を手放さない構えは、地下鉄を単なる交通手段でなく都市データの基盤として見ていることを示す。

在住者・旅行者にとっての読みどころ

正直に言えば、この覚書で明日の移動が変わるわけではない。動いているのは1号線だけで、2号線が開くのは早くても2030年。覚書は数年から10年先を見据えた土台づくりだ。ただ、押さえておくと役に立つ点が三つある。

  • 当面の足は1号線とバス:2号線が通るベンタイン〜タムルオン方面(市中心部から北西の3区・10区・タンビン区方面)は、開業までバスやタクシー、配車アプリが主役のまま。地下鉄前提で住む場所を選ぶのはまだ早い。
  • 工事の影響は今から出る:2号線は地下区間が中心で、市中心部の道路を掘り返す工事が本格化する。ベンタイン周辺やカックマンタン通り沿いは、渋滞や車線規制が数年続く前提で移動時間に余裕を持ちたい。
  • 国産化が進めば運行が安定しやすい:保守を国内で回せるようになれば、部品待ちで止まるリスクや外国メーカー依存のコストが下がる可能性がある。長く住むほど、この地味な変化の恩恵は効いてくる見込みだ。

ホーチミンの交通は、地下鉄だけでなく駐車場や空港でも「増える需要をどうさばくか」という同じ課題に直面している。市街地の駐車難に縦型タワーで応じる動き(車とバイクを縦に積む、ホーチミンの駐車難に効くタワー4基)や、2号線の国産化と同じく都市の足を増やす一手だ。

日本の鉄道ビジネスへの示唆

1号線を日本の技術と資金で支えてきた立場からすると、2号線の車両が韓国勢、システムの国産化にはベトナム企業――という流れは、対ベトナムの鉄道輸出が「一括受注」から「技術移転・人材育成つきの伴走」へ移りつつあることを映す。完成品を売り切るモデルより、現地企業と組んで設計思想や保守ノウハウを渡す座組みのほうが、これからのベトナムでは選ばれやすい。

これは首都ハノイでも同じ流れにある。ハノイは複数の地下鉄路線の一斉着工に踏み切り、路線バスの電動化まで公共交通の刷新を急いでいる(ハノイの路線バスが電気に、17路線281台が変える在住者の足)。南北の二大都市がそろって「自国で回せる公共交通」を志向し始めた。日本企業にとっては、車両やシステムを納めるだけでなく、技術者教育や保守体制づくりで長く関わる余地が広がる。

いま使える地下鉄(1号線)の実用情報

2号線を待つあいだ、旅行者・在住者が実際に乗れるのは1号線だ。市中心部のベンタインから東部のスオイティエンまで、渋滞を避けて動ける唯一の鉄道路線として使い勝手がいい。

路線 メトロ1号線(ベンタイン〜スオイティエン)
区間・距離 市中心部〜東部トゥードゥック方面、19.7km・14駅
運行時間 おおむね5:00〜22:00
運行間隔 約4分30秒〜10分
主な使いどころ ベンタイン市場、オペラハウス、バーソン、タオディエン(在住者エリア)、スオイティエンテーマパーク方面へのアクセス
混雑の目安 旧正月2026は1日平均約7.8万人が利用(前年比+42%)。休日と夕方は混みやすい

まとめ

MAURとGTELの覚書は、ホーチミンの地下鉄を「外国から買う」から「自国で育てる」へ切り替える最初のサインだ。とはいえ効果が表に出るのは2号線が動く2030年前後から先で、当面の移動は1号線とバスが軸になる。いま在住者・旅行者にできる現実的な備えは、2号線ルート沿いの工事渋滞を移動計画に織り込みつつ、動いている1号線をうまく使うこと。数年後、地下2階から次の一本が国産技術で立ち上がる日を、今回の覚書が静かに指し示している。

参照元:SGGP English EditionVietnam+(VietnamPlus)Vietnam Government Portal

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この記事を書いた人

ベトナム・ホーチミン在住3年目|旅行で来るだけでは知ることができない、現地にいるからこそわかるローカル情報を中心に発信していければと思いベトナム旅行の専門情報サイトを立ち上げました。

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