ベトナム北部ハイズオンのタインリエウ(Thanh Lieu)村に伝わる木版印刷は、15〜19世紀にかけて栄えた古い工芸だ。漢字やノム文字を彫り込む高度な技術を要し、いまは数戸が細々と続けるのみとなっている。この衰退した版木の技を、村出身の若手職人グエン・コン・ダットさんらが学び直し、ワークショップを通じて蘇らせようとしている。
15世紀に始まったタインリエウの版木
木版印刷をこの地にもたらしたのは、1420年生まれのルオン・ニュー・ホック(Luong Nhu Hoc)。中国への2度の外交使節で技術を学び、帰国後にタインリエウ、リエウチャン、クエリエウの3村の住民に伝えた。弟子のファム・ニエンとファム・ドイが普及を担い、3村は男が彫り、女が刷り、子が紙を裁つという分業で国内有数の版木の中心地になった。
UNESCO記憶遺産を生んだ技
タインリエウの職人たちが彫った版木は、後世に重い意味を持つ。阮(グエン)朝の版木は2009年、ベトナム初の「世界の記憶(Memory of the World)」としてUNESCOに登録された。何千組もの経典・書物・印章が数百年にわたって守られてきた。下の表に村と技の要点をまとめた。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 場所 | ハイズオン タインリエウ村(北部ベトナム) |
| 歴史 | 15〜19世紀に隆盛/創始はルオン・ニュー・ホック(1420年生) |
| UNESCO登録 | 阮朝の版木が2009年にベトナム初の世界記憶遺産に |
| 修業期間 | 最低3年(漢字・ノム文字、逆字の判読が必須) |
| 彫りの時間 | 標準で3〜5日、複雑なものは数か月 |
| 現状 | 技を保つのは数戸のみ |
逆字を彫る、3年がかりの修業
版木彫りは独特の難しさを持つ。漢字とベトナムのノム文字に通じ、書法の決まりを理解し、左右が反転した逆字を読み取って彫る必要がある。一人前になるには最低3年。標準的な版木で彫りに3〜5日、複雑なものは数か月を要する。刷りにはポーナー紙(Poonah paper)が使われる。阮朝末期でも、経典を彫れる熟練者は数百人の彫り手のうち約20人にとどまったという。
若手職人が漢字から学び直す
村出身のグエン・コン・ダットさんは、この技の再生に取り組む中心人物だ。祖先の歴史を知るために歴史家を訪ね歩き、版木を読み彫るために漢字・ノム文字を学び直した。ダットさんは「木版印刷の技がこれからも栄え、もっと多くの人に親しまれてほしい」と語る。
「村の再生の旅」プロジェクト
再生の取り組みは「タインリエウの版木 ― 工芸村を蘇らせる旅」と題したプロジェクトとして動いている。地元の職人と、ベトナム工芸村産品の研究・開発・応用センターが連携し、彫りと刷りのワークショップを開催。木の選定、版木の準備、彫り、墨入れ、刷りまでを参加者が体験できる。最終学年の美術系学生や外国人も関心を寄せている。
まとめ
タインリエウの木版印刷は、UNESCO記憶遺産を生んだ歴史を持ちながら、担い手が数戸まで減った工芸だ。若手職人が文字から学び直し、ワークショップで外部に開くことで、技を「見せて伝える」形へと作り変えている。観賞用の文化財から、体験を通じて受け継がれる工芸へ。タインリエウの試みは工芸村再生の一つの道筋を示している。
関連記事:
・再生したタインハー陶器村
・ランタン職人の物語
・ホイアンのランタン祭り
出典:Viet Nam News / Ancient woodblock printing saved from the chop / Bao Hai Duong / Young artisan keeps memories on woodblocks
