英国の価格比較サービスMoneySuperMarketがまとめた「接客が親切な都市」ランキングで、ハノイが107都市中2位に入り、7月に入って各国メディアで報じられ話題を呼んでいる。首位のエディンバラ(59.0%)に対しハノイは58.6%、僅差の3位はリバプール(58.3%)。東南アジアから唯一ランクインしたのがこのハノイで、ベトナムの他都市は上位に見当たらない。ハノイと言えば「店員が笑わない」「注文しても無反応」という評判を旅行前に耳にしがちで、身構えて出発する日本人は少なくない。その評判と正反対の結果が出た理由を、旅行者が現地で実際に何を感じるかという視点から掘り下げる。
エディンバラに0.4ポイント差、ハノイが107都市中2位に入った
この調査は、世界107都市のレストラン・バー・観光施設などについてGoogleマップに寄せられた口コミ10万件超を分析し、そのうち「スタッフのおもてなしが温かい」と言及した割合を都市ごとに算出したものだ。1都市あたり約1,000件の口コミ、施設数にして30〜50カ所を対象にしている。ハノイのスコア58.6%は、口コミの5件に3件近くが接客の良さに触れていたことを意味する。上位はエディンバラ・リバプールという英国勢が挟み込む中で、非英語圏かつアジアの都市が2位に食い込んだ点が海外メディアでも驚きをもって報じられた。
| 順位 | 都市 | 国 | 親切と評価した割合 |
|---|---|---|---|
| 1 | エディンバラ | 英国 | 59.0% |
| 2 | ハノイ | ベトナム | 58.6% |
| 3 | リバプール | 英国 | 58.3% |
| 4 | パリ | フランス | 57.5% |
| 5 | ダブリン | アイルランド | 57.3% |
| 6 | モントリオール | カナダ | 56.8% |
| 7 | ウィーン | オーストリア | 55.6% |
| 8 | アブダビ | UAE | 55.3% |
| 9 | バーミンガム | 英国 | 54.2% |
| 10 | ブリストル | 英国 | 53.7% |
注意したいのは、これが「街全体の親切さ」を測ったものではなく、あくまで飲食・観光関連の店舗に寄せられた口コミの文面を集計した指標だという点だ。渋滞やクラクションの多さといったハノイらしい混沌はこの数字に含まれない。旅行者が店やホテルで受け取った印象に絞れば、評価は高いということになる。
「無愛想」の評判はどこから来て、なぜいま覆りつつあるのか
ハノイの接客が冷たいという印象は、実際の悪意というより文化差から生まれていることが多い。ベトナム北部の接客は、笑顔で迎えて雑談で場を温めるサービスとは異なり、用件を淡々とこなす実務的なスタイルが基本にある。注文を復唱しない、会計時に「ありがとう」を言わない、といった振る舞いは、日本の接客を基準にすると素っ気なく映る。だが現地では、それは無関心ではなく単に距離感の取り方が違うだけ、という場面がほとんどだ。
その土台が、観光客の増加とともにここ数年で変わってきている。ハノイ市は夜間の飲食・娯楽で旅行者の滞在時間と消費を伸ばそうと動いており、その狙いは旅行者が夜に使うお金を市が正面から取りに行く施策にも表れている。訪れる客が増えれば、店側の接客も外国人慣れしていく。旧市街の飲食店がミシュランに載る例も出ており、四代96年続くバインクオン店が旧市街で評価された事例のように、味だけでなく店の応対まで含めて外から見られる機会が増えた。評判が覆りつつある背景には、こうした「見られること」への意識の高まりがある。
10万件の口コミが評価したのは、洗練より「人の距離の近さ」
レビューで接客が語られるとき、そこで褒められているのは洗練されたマニュアル対応ではない。むしろ「道に迷っていたら店主が身振りで案内してくれた」「言葉が通じないのに一緒に笑ってくれた」といった、型にはまらない人懐っこさだ。ハノイの強みは、サービスが均質に丁寧なことではなく、個人の距離がふっと近くなる瞬間が生まれやすいところにある。
その象徴が、路上のバインミー屋台のような小さな商いだ。以前、釣り銭のやり取りをきっかけに客と売り手が心を通わせた出来事が話題になったが、こうした逸話が生まれる土壌こそがハノイの接客評価の正体に近い。第三者の声を拾っても、旅行フォーラムには「無愛想だと聞いていたのに、屋台のおばさんが一番親切だった」という趣旨の書き込みが目立つ。SNSでは在住外国人が「北部の人は照れ屋なだけで、一度打ち解けると面倒見がいい」と評する投稿も見かける。おもてなしの温度は、高級店より路地の商いで測るほうが実感に近い。
旧市街で日本人がつまずく場面と、身構えなくていい理由
とはいえ、初めて訪れる日本人が戸惑う場面は確かにある。よくあるのは次の三つだ。
- 席に着いても店員が来ず、こちらから声をかけないと注文が始まらない
- 料理が出た後の「お待たせしました」的な一言がなく、放っておかれた気がする
- 会計で電卓や指で金額を示され、事務的に感じる
これらはどれも、サービスの手抜きではなく現地の標準的なテンポだ。声をかければ応対はきちんと返ってくるし、金額の提示が数字だけなのは、むしろ言葉の壁を越えるための合理的なやり方でもある。身構えて黙って待つほど「冷たい店だった」という記憶になりやすく、こちらから一言かけるだけで印象は大きく変わる。ベトナム語の「シンチャオ(こんにちは)」や「カムオン(ありがとう)」を一つ覚えておくと、店側の表情がほどける場面は多い。評判に引きずられて壁を作らないことが、結局いちばんの対策になる。
現地で接客の温かさに当たりやすい時間帯・店の選び方
限られた滞在で「親切なハノイ」に当たる確率を上げたいなら、店選びと時間帯に少し工夫の余地がある。混雑のピークを外すのが基本で、朝食のフォーやバインクオンなら開店直後の午前7〜8時台、昼どきを避けた14時前後は、店員に余裕があり応対も柔らかくなりやすい。観光客向けに整えられた新市街の大型店より、旧市街の家族経営の小さな店のほうが、前述の「距離が近くなる瞬間」に出会いやすい。
会話のきっかけとして料理を指さして「おいしい」と伝える、子ども連れの店では子どもに笑いかける、といった小さな働きかけが効く。ハノイの接客は、待っていれば向こうから来るものではなく、少し歩み寄れば倍になって返ってくるタイプのものだ。世界2位という数字は、その相性の良さを外から裏づけてくれる材料に過ぎず、実際にどう感じるかは旅行者側の構え方でかなり動く。無愛想という先入観を一度置いて出かけるだけで、この街の評価が高い理由は自然と腑に落ちるはずだ。
