ベトナム観光局が2026年5月までに発表した到着統計によると、インドからの来訪者は2025年通年で約74万6,000人に達し、ベトナムにとって第6位の送出市場へ躍り出た。さらに2026年1〜4月だけで32万4,000人を超え、前年同期比35%増という二桁成長を続けている。背景にあるのはIndiGoのデリー〜ハノイ毎日直行便(2025年12月20日就航)と、ボリウッド映画『Love in Vietnam』『SILLA』のロケ地効果、そしてMICE・結婚式・修学旅行というインド独特の旅行需要構造だ。日本人読者にとっては「4〜7月のハロン湾クルーズと5つ星リゾートが取りにくくなる」「インド系ベジ対応店が一気に増え選択肢が広がる」という両面の影響が出ている。
2026年Q1で32.4万人――『+35%』の中身を分解する
VnExpressがホーチミン市旅行協会のデータをもとに5月初旬に伝えた数字は鮮烈だった。2026年1月から4月の累計でインド国籍の入国者は32万4,000人を突破し、前年同期比で35%増。月平均8万人ペースで、このまま推移すれば通年で100万人に届く可能性がある。2024年通年は約50万人だったため、わずか2年で倍増だ。送出国ランキングでも2025年は第6位(中国本土、韓国、台湾、日本、米国に次ぐ)に浮上し、2026年は第5位に届くとの見立てが現地紙で広がる。
ただ単純な「数の伸び」ではない。インド人客は4〜7月の夏休みと10月〜1月の祭り・結婚式シーズンに2度のピークを持つ独特なカレンダーを持ち、4-5月のゴールデンウィーク帰り需要が落ち着いた直後の枠を一気に埋めにくる。同時期に旅行を計画する日本人にとって「ホテル空いてない問題」の主因のひとつになりつつある。880万人vs1,130万人、ベトナムがタイを猛追している全体トレンドのなかでも、インド客の伸びは突出している。
背景――フライト網・ボリウッド・ベジ対応の三位一体
急増の理由は3つに整理できる。第一に空路の劇的な改善。IndiGoは2025年12月20日からデリー〜ハノイの毎日直行便を運航開始し、フライト6E1633がデリー07:25発・ハノイ13:00着、復路6E1634がハノイ18:00発・デリー21:25着というビジネスにも観光にも使いやすい時間帯を確保した。これに加え2026年5月にはAir Indiaがデリー〜ハノイで週5便を投入。ベトナム航空もハノイ・ホーチミンからムンバイ、デリー、バンガロール、ハイデラバードへ路線網を広げており、現在デリー〜ハノイ間だけで週24便超が運航している計算になる。
第二にコンテンツ要因。インド映画『Love in Vietnam』『SILLA』がハロン湾、ダナン、ホイアンでロケを行い、2025〜2026年にかけてボリウッド観客の脳内地図にベトナムが書き込まれた。第三に食。仏教文化由来の精進料理「chay(チャイ)」が全土に根付いていたところに、ハノイ・ホーチミン・ダナン・ニャチャン・フーコックでインド料理店が次々開業し、ベジタリアン・ジャイナ教徒対応が現実的な水準まで整った。一部の富裕層グループは自前のインド人シェフを連れてくるケースもあり、5つ星ホテルがそれを許容する柔軟性も持つ。
数字で見る『インド客は財布が違う』
| 項目 | インド人観光客 | 一般的な訪越客 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2025年来訪者数 | 74.6万人(第6位) | ― | 前年比+48% |
| 2026年1-4月 | 32.4万人(+35%) | ― | 通年100万人ペース |
| 平均滞在日数 | 5〜7日 | 3〜5日 | 長め |
| 1人あたり消費額 | MICE層は通常の2〜3倍 | ― | 5つ星志向 |
| 主な滞在ホテルランク | 4〜5つ星中心 | 3〜4つ星中心 | 結婚式は貸切 |
| 主要直行便 | IndiGo毎日/Air India週5/VN航空・VietJet | ― | 週24便超 |
| 定番周遊ルート | ハノイ→ハロン湾→ニンビン or ダナン→ホイアン | ― | 5-7日 |
| ピーク月 | 4-7月(夏休み)/10-1月(祭り・結婚式) | ― | 2山型 |
特筆すべきはMICE層の消費単価だ。企業の報奨旅行や結婚式は1グループ500〜1,500人規模で、ハロン湾クルーズを丸ごと貸切ったり、ダナンの5つ星リゾートを3〜4日間で全館バンケットに使うケースも珍しくない。インドの結婚式は3日連続でセレモニーが続く文化的特徴があり、滞在費・装飾費・ケータリング費すべてが現地経済へ落ちる構造になっている。
業界・SNSの反応――『歓迎』と『悲鳴』が同居
ホーチミン市旅行協会の幹部はVnExpressの取材に対し「インド人富裕層は5つ星ホテルとプライベートヨットを選好し、平均消費額が一般客の2〜3倍に達する」と語り、戦略的な誘致対象としての重要性を強調した。一方、ハノイ旧市街の中堅3つ星ホテル経営者は地元紙Tuoi Treに「春から夏のピークは大型バスでインド人団体が乗り付け、地元客向けの50ドル帯が一夜で埋まる」と語り、需給逼迫を実感している。
SNSではX(旧Twitter)上で「ハロン湾の1泊クルーズが3週間先まで満室」「ダナンのインターコンチが結婚式団体で貸切、個人客が他都市へ流れた」といった投稿が増加。インド側でも旅行系YouTuberが「ベトナムはタイより安く、ベジタリアン対応が想像以上に進んでいる」と発信し、口コミの好循環が回っている。ダナンが『アジア夏の旅先TOP9』で2位に選ばれたばかりのタイミングと完全に重なり、現地の供給は追いついていない。
日本人読者への影響――GW明けに直撃する『争奪戦』
日本のゴールデンウィーク(4月末〜5月上旬)はインドの夏休みピークと完全に重なる。さらに5〜6月の大型連休後にも、インドからの結婚式・MICEの団体予約が一気に押し寄せるため、ハロン湾の人気船「Paradise Elegance」「Indochine」やダナンの「インターコンチネンタル・サンペニンシュラ」「フォーシーズンズ・ザ・ナム・ハイ」は3〜6カ月前の予約が常識化している。日本人がGW明けに「来月行こう」と思い立っても希望日程で取れないケースが増えるはずだ。
回避策は4つ。①予約は最低3カ月前、ハイシーズンは6カ月前に確保する。②同じ価格帯ならインド団体が手薄な「ニンビン」「フーコック南部」「クイニョン」を組み込む。③ハロン湾は1泊クルーズではなく2泊3日の小型船を選ぶと団体客が少ない。④ホイアンの宿はインド団体が苦手な小規模ヘリテージホテル(10室以下)を狙う。逆に、増えたメリットも見逃せない。ハノイのHapro Hotel Tower周辺やHo Chi Minh City 1区にはMITHILA、Tandoor、Khazaana、Babaなど本格的な北インド・南インド料理店が増え、ベジタリアン日本人や宗教的に肉を控える旅行者にとって選択肢が一気に広がった。
業界への波及――Halong/Da Nangの料金体系が変わる
インド客急増は宿泊・飲食・小売の構造変化を呼んでいる。ハロン湾クルーズ会社の一部は「ピーク料金(4-7月)と通常料金」の二段階制を導入し、団体予約には部屋単位ではなく船丸ごと貸切のパッケージ販売を増やす方針だ。ダナン・ホイアンでは結婚式の音響・装花・ヘアメイクを請け負うインド人プランナーが現地法人を立ち上げ、ベトナム人スタッフを雇用する例も出ている。
食品業界でもインフラ整備が進む。ハノイのLotte MartやAEON、ホーチミンのアンナム・グルメマーケットには、インド産バスマティ米・ダール(豆)・ギー(澄ましバター)・ヨーグルトドリンクのラッシーが定番化し、価格帯も日本円換算で日本国内とさほど変わらない。ジャイナ教徒向けに玉ねぎ・にんにくを使わないジャイナ料理を提供するレストランがホーチミン7区に複数登場し、「ベトナム料理にインド需要が混ざる」現象が日常化しつつある。
実用情報――2026年4-7月にベトナムに行く日本人向け
| カテゴリ | 内容 | 備考 |
|---|---|---|
| 予約タイミング | ハロン湾クルーズ・ダナン5つ星は3-6カ月前 | 4-7月はピーク |
| 避けるべき期間 | 4月最終週〜5月15日/6月10日〜25日 | 結婚式団体集中 |
| 狙い目代替地 | ニンビン、クイニョン、フーコック南部 | 団体少なめ |
| ハロン湾推奨船 | Paradise Elegance(2泊)、Heritage Binh Chuan | 小型・上質 |
| ハノイ・インド料理 | Tandoor (24 Hang Be)、Khazaana | ベジ対応 |
| HCMCインド料理 | MITHILA (Pham Ngu Lao)、Baba’s Kitchen | ジャイナ対応店あり |
| 5つ星代替候補 | InterContinental Phu Quoc、Six Senses Ninh Van | 結婚式少なめ |
| e-VISA期間 | 最大90日マルチエントリー(25-50ドル) | 83空港で対応 |
関連トレンドとして、ベトナム人旅行者の78%がスピリチュアルアドバイザーの助言で旅先を変更している現象も見逃せない。インドのスピリチュアル文化(占星術・ヒンドゥー巡礼)と、ベトナムの仏教観光(フン王廟、One Pillar Pagoda)が組み合わさり、「神聖な旅」というニッチがアジア横断で立ち上がりつつある。
まとめ――数字を見たら『3カ月前予約』が常識に
インド人観光客の急増は2026年のベトナム旅行市場の最大トピックのひとつだ。74.6万人→100万人ペースの伸びは、単に「人が増えた」のではなく、ハロン湾・ダナン・ホイアンという日本人定番ルートの料金体系・空室カレンダー・食事選択肢を構造的に変えつつある。日本人旅行者にとっての結論はシンプルだ。①4〜7月行くなら3カ月以上前に予約。②インド団体が手薄なニンビン・クイニョン・フーコック南部を組み込む。③インド料理店の増加というメリットを存分に活かす。④結婚式団体が集中する週末は避け、平日中心の日程に組む。次の旅行で「いつもの2倍料金」を払う前に、まずカレンダーとインド側のフライトスケジュールを見比べることをおすすめしたい。
引用元
・VnExpress International – Why Vietnam has become a favorite destination for Indian tourists
・Travel And Tour World – IndiGo Delhi-Hanoi daily flight
・Channel I am – Air India Expands to Vietnam
・Vietnam.vn – Hanoi-Delhi direct flight
