ホーチミンから週末に足をのばすなら、ブンタウの海だけを目的にする時代は終わりつつある。ヌイ・ロン(大山)に2026年7月に完成した防火帯が、地元の歩き手たちのあいだで登山路として使われ始めた。もともとは山火事を食い止め、消火隊が入るための作業道だが、尾根まで登ると市街と海が一度に見渡せることが口コミで広がり、週末の目的地になっている。海水浴とセットで半日歩ける場所を探している旅行者に向けて、この道の中身を整理しておきたい。
火を止めるための道が、なぜ歩く道になったのか
防火帯とは、森林火災の延焼を止めるために樹木を切り開いて設ける帯状の空白地帯を指す。ヌイ・ロン(トゥオンキー山とも呼ばれる)に引かれたこの帯は、火が尾根を越えて燃え広がるのを防ぎ、緊急時に消火の人員が入るための通路も兼ねる。結果として、藪を分け入らなくても山頂近くまで歩ける一本道が生まれた。登山道として整備されたわけではないのに、見晴らしの良さが人を呼び込んだかたちだ。
この転用は偶然の産物に近い。行政が観光目的で造った遊歩道ではなく、防災インフラが結果的に歩き手に開かれた。だからこそ道の性格は素朴で、途中に売店や案内標識がそろっているわけではない。手つかずの尾根をそのまま歩ける点が、逆に人を惹きつけている面もある。整いすぎた観光地に飽きた層にとっては、この未完成さがむしろ魅力になっている。
どんな道か、山頂から何が見えるか
起点はビバ通り(Đường Vi Ba)との交差点あたり。そこからヌイ・ロンの斜面を登っていく。全長は10キロ超、標高は200メートル超まで達する。森のなかを曲がりくねりながら進み、途中でホーマイのリゾート一帯を通り、古い砲台跡や機雷を納めた壕といった戦時の遺構のそばも抜ける。ブンタウの山が軍事の要所だった歴史が、道すがら顔を出す。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 山 | ヌイ・ロン(大山、別名トゥオンキー山) |
| 起点 | ビバ通りとの交差点付近 |
| 全長 | 10キロ超 |
| 最高地点の標高 | 200メートル超 |
| 道沿いの見どころ | ホーマイのリゾート一帯、古砲台跡・機雷壕の戦時遺構 |
| 完成時期 | 2026年7月(防火帯として) |
数値・地名はいずれもTuổi Trẻ紙の原記事にもとづく。
標高こそ200メートル台と高くはないが、海抜ゼロの浜辺のすぐ背後からこの高さまで一気に上がるため、視界を遮る建物がなく眺めが抜ける。都市部の展望台やビルの屋上とは違い、自然の尾根から街と海の全体を俯瞰できるのが、この道が短期間で人を集めた理由だろう。
尾根まで上がると視界が一気に開ける。ブンタウ中心部、バイチュオックとバイザウの浜、川が海に注ぐ河口の湿地帯、対岸のロンソン島からカンザー方面、そして沖合の石油・ガス施設まで一望に入る。地元の歩き手タン・タム氏は、山頂からブンタウ全景を眺める感覚を「本当にすばらしい」と語っている。海と街と工業地帯が一枚の絵に収まる眺めは、ビーチの砂浜からは決して見えない角度だ。
ブンタウは今、ホーチミン市の一部になっている
この道が「ホーチミン近郊」と呼べる背景には、行政区分の変化がある。ヌイ・ロンが位置するのは、現在の区分でホーチミン市ブンタウ坊(phường Vũng Tàu)。2025年の地方行政の再編で、旧バリア・ブンタウ省はホーチミン市に統合された。かつて「別の省へ小旅行」だった距離感が、いまは同じ市内の海辺という位置づけに変わっている。ブンタウ行きが日帰りや一泊の週末圏として、いっそう身近になったわけだ。ブンタウの足まわりについてはロンタイン空港からブンタウのビーチへ地下鉄30分構想でも触れている。
歩く前に押さえておく実用ポイント
作業道が転用された道なので、山小屋や売店が並ぶ整備された登山ルートとは性格が違う。歩く前提で用意しておきたいものを挙げておく。
- 水分:10キロ超を登る前提で多めに。日中の南部は日差しが強い
- 足元:舗装されていない区間があるため、サンダルではなく歩き慣れた靴
- 時間帯:市街と海の眺めを狙うなら、光がやわらぐ朝か夕方が向く
- 戦時遺構:古砲台跡や機雷壕は見学の対象だが、立入制限の表示には従う
海水浴を組み合わせるなら、歩くのを涼しい時間に回し、昼は浜で過ごす順番が現実的だ。ブンタウの名物粉ものバインコットのような地元グルメを挟めば、山と海と食が一日で回る。
週末弾丸のモデル
ホーチミン中心部から朝に出て、涼しいうちにヌイ・ロンの防火帯を登り、山頂で市街と海を見下ろす。下山後は浜辺で昼食と海水浴、夕方に街の食堂で一杯。ブンタウ側で一泊すれば、翌朝もう一度海に入ってから戻れる。ホーチミンからの日帰り目的地としては、タイニンの築140年の共同祠のような内陸の名所も選択肢に入るが、山も海も一度に味わいたいならブンタウのこの道が今の狙い目になる。整備された観光地の完成度を求めると肩透かしかもしれないが、火を止めるための道が絶景の入口に変わったという成り立ちそのものが、この場所の面白さだ。
