青森・大間で水揚げされた220kgのクロマグロが、東京で仕入れられたその日のうちにハノイへ空輸され、8月13日に旧市街近くの日本料理店「Hatoyama(鳩山)」で五人のシェフによる解体ショーの主役になった。日本の食を京都で扱う立場から見ると、これは「珍しい豪華イベント」では終わらない話だ。日本の魚を食べにベトナムへ行く旅行者、そして現地で日本の味を探す在住者の双方にとって、ハノイの日本食がどこまで来たかを測るものさしになる。
東京で仕入れ、その日のうちに空輸された1本
VnExpressによれば、マグロは青森県大間町産のクロマグロ、いわゆる本マグロで、重量は220kg。東京で仕入れられ、同じ日にベトナムへ運ばれた。大間のマグロは津軽海峡の一本釣りで知られ、築地から豊洲へ場所を移した初競りでも毎年最高値の常連になる産地だ。その1本が水揚げから数日のうちにハノイの調理台へ届いた事実そのものが、日越の物流が短くなったことを物語る。刺身文化に慣れた日本人でも、大間の本マグロを1本まるごと目の前でさばく場面に立ち会える機会は、日本国内でもそう多くない。冷蔵で運ぶ生鮮の空輸は温度管理がシビアで、鮮度を保ったまま国境をまたぐには荷主・航空・受け手の段取りが噛み合う必要がある。それが1日で回ったということだ。
「10億ドン」の中身は落札・手数料・空輸込みで約570万円
気をつけたいのが金額の読み方だ。報道が伝える価格は落札額・手数料・航空輸送費を含めて38,260ドル、ベトナムの通貨で10億ドンちょうど。円に直すと約570万円になる(1ドル148円換算の概算)。日本語で伝わる際に「1000万円級」と膨らみがちだが、10億ドンは日本円で1000万円ではなく、実際はその半分強だ。とはいえ、輸送費まで含めた1本のマグロにこの額を投じてイベントを組む日本料理店がハノイにあること自体が、市場の成熟を示している。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 産地 | 青森県大間町(クロマグロ) |
| 重量 | 220kg |
| 総額 | 38,260ドル=10億ドン(約570万円) |
| 開催日 | 2026年8月13日 |
| 会場 | ハノイ「Hatoyama(鳩山)」 |
| シェフ | 5名 |
円換算は1ドル≒148円、10億ドン≒約570万円で計算した概算。為替により変動する。
五人のシェフと、日越をつなぐ「Taste of Japan」
解体を担ったのは五人のシェフ。日本料理歴27年以上のKyo Nguyen氏が中心となり、そのなかにはベトナム人として初めて「Taste of Japan」の金バッジを得たNguyen Ba Phuoc氏も加わった。日本人の板前を招くのではなく、ベトナム人シェフが主役として大間のマグロに包丁を入れる——ここが従来の「日本から料理人を呼ぶ豪華イベント」と違う点だ。イベントは同店が毎年開く食と文化のシリーズ「Taste of Japan」の一環で、CEOのTran Hanh氏が率いる。訪れたタイビン省のDao Ngoc Trang氏は「刺身が好きで、日本の料理イベントにはよく足を運ぶ」と話した。作り手も客も、日本料理を一過性の流行ではなく「学び、味わう」対象として能動的に選んでいる。日本側にとっては、水産物の輸出先としてのベトナムが、価格勝負ではなく技術と目利きで評価される市場に育ちつつあることを意味する。
旅行者・在住者がこの熱をたどるには
単発の解体ショーは日程を狙うのが難しいが、日本の食を目当てにするなら足がかりは増えている。ホーチミンでははま寿司が7月30日に東南アジア2カ国目の1号店を開いたばかりで、回転寿司の価格帯で日本の魚に触れられる。ダナンでは盆踊りや屋台が並ぶ来場5万人規模の越日文化祭が定着し、こうした催しに合わせて特別メニューが出ることも多い。ハノイで日本食と土地の味を1日で回るなら、旧市街の食べ歩きルートと組み合わせると、朝はフォー、昼は路地の名店、夜は日本料理という緩急がつけやすい。
- 解体ショーは通年ではなく単発開催。「Taste of Japan」など主催シリーズのSNS告知を追うのが確実。
- 大間産など高額マグロの回は数量限定になりやすい。予約可否と提供時間を事前に店へ確認する。
- 日本の魚を日常価格で試すなら、はま寿司などの新規出店やイオン系の鮮魚売り場が入り口になる。
1本のマグロが映すハノイ日本食の現在地
220kgのクロマグロを東京からその日に運び、五人で解体して振る舞う——この一連が成立するのは、産地・物流・作り手・客が同じ日にそろったからだ。金額を正しく約570万円と押さえたうえで見れば、これは「豪華さ」より「速さと厚み」の話に見えてくる。次にハノイやホーチミンを訪れるとき、日本料理店の催事カレンダーを一度のぞいてみる価値がある。
