ホーチミン市が、オーストラリアからの旅行者を本気で取りに行っている。8月8〜13日にシドニーで開いた観光フォーラムで、市はオーストラリア観光業協会(ATIA)、高級旅行予約サイトのLuxury Escapes、体験型ツアー大手のIntrepid Travelと相次いで覚書(MOU)を交わした。目的は、食・歴史・エコ・地域体験を軸にした新しい商品を一緒につくり、豪州客の流入を増やすことだ。
戦略の話に聞こえるかもしれないが、在住者の目線で読むと面白い。豪州客のために磨かれる体験は、そのまま日本人旅行者が楽しめる郊外の行き先とほぼ重なる。ホーチミンに数日いるなら、豪州客が向かう先を先回りして押さえておく価値がある。
豪州客はホーチミンで5位市場、7か月で25万人・1人60万円超を落とす
Tuoi Tre Newsによると、オーストラリアはホーチミン市にとって上位5番目の送客市場だ。2026年の最初の7か月で、市はオーストラリアから25万3,104人を受け入れた。これはベトナム全体に来た豪州客のおよそ64%にあたり、その多くが最初にホーチミンの土を踏んでいる。
ベトナム全体で見ると、同じ7か月で豪州客は約39万7,000人、前年同期比プラス22.5%と伸びた(DTiNews)。1人あたりの旅行支出はAUD5,600〜6,200(VND1億500万〜1億1,700万ドン)で、滞在は7〜12日と長い。1AUD≒111円で換算すると、1回の旅で約62万〜69万円を使う計算になる。短く来て安く済ませる層ではなく、連泊して郊外まで足を延ばす旅行者だという点が、市が力を入れる理由だ。
Intrepidが掘るのは「タイニンとコンダオ」、都心の外側
MOUの中身で在住者が注目すべきは、Intrepid Travelとの取り組みだ。同社はホーチミン市と責任ある観光(responsible tourism)の商品を共同開発し、都心の外側にある地域体験を売り込む。報道で名前が挙がった行き先が、タイニン省とコンダオ島という二つの「隠れた名所」だった。どちらもガイドブックの1ページ目には出てこないが、ホーチミンを拠点にすれば十分に届く。
タイニンのバーデン山ケーブルカーとカオダイ教総本山
タイニンはホーチミンから車で約2時間。目玉は標高986mのバーデン山(黒婆山)で、南部ベトナムの最高峰だ。山麓からはケーブルカーで頂上へ上がれる。この山麓駅は「世界最大のケーブルカー駅」として面積10,959平方メートルでギネス世界記録に認定されている。頂上には巨大な仏像や庭園が広がり、雲海が出る日は眺望が一変する。
ふもとにはカオダイ教の総本山(カオダイ・ホーリーシー)がある。カオダイ教は仏教・道教・儒教・キリスト教・イスラム教の教えを一つにまとめたベトナム独自の宗教で、信者数では国内3番目とされる。極彩色の大伽藍で行われる正午の礼拝は、写真で見るのとは迫力が違う。クチトンネルと組み合わせた1日ツアーが多く、市内発の日帰りで無理なく回れる。
7月の合併で「ホーチミン市の島」になったコンダオ
もう一つのコンダオは、少し事情が変わった。もともとバリアブンタウ省に属する島だったが、2025年7月1日の省合併でバリアブンタウ省がホーチミン市に統合され、コンダオは拡大したホーチミン市の一部になった。つまり「市内から離島リゾートへ」が、行政上は同じ市の中の移動になったわけだ。
アクセスはホーチミンから飛行機で約45分。透明度の高い海と手つかずのビーチ、そしてコンダオ国立公園が広がる。4月からはウミガメの産卵シーズンで、バイカイン島では国立公園のガイドプログラムに参加し、母ガメを驚かせない距離から産卵を見守れる。一方で島には1861年にフランス植民地政府が築いたコンダオ刑務所の遺構が残り、ベトナム近代史の重い一面も伝える。自然と歴史の落差が大きいぶん、記憶に残る島だ。
メコンの手漕ぎボートは、豪州客と日本人の共通項
市が挙げる商品リストには、食・歴史・エコツアー・MICE・地域文化体験・高級リゾート・責任ある観光が並ぶ。このうちエコと地域体験の入口になるのがメコンデルタだ。市内から車で南下し、中州の島で果樹園や養蜂場を回り、椰子並木の小運河を手漕ぎボートで進む。豪州客が「ローカルな体験」を求めて向かう先と、日本人が船旅を楽しむ先は、ここでぴたりと重なる。
ホーチミンでの過ごし方を組む際は、ホーチミン滞在の最適日数と目的別プランを先に決めておくと、郊外1日をどこに差し込むか判断しやすい。エコ体験を厚めにしたい人はメコンデルタの船旅ガイドを、市全体の客足の勢いを知りたい人は上半期に外国人客1,070万人を突破したベトナム観光の回復もあわせて読むと、今のホーチミンの熱量がつかめる。
Summary
ホーチミン市が豪州客向けに開発している体験は、タイニンのケーブルカーとカオダイ教総本山、合併で市内入りしたコンダオの離島、メコンの手漕ぎボートと、いずれも都心から日帰り〜1泊で届く郊外だ。25万3,104人の豪州客が7か月で示したのは、都市観光だけで帰らない旅の形だった。次にホーチミンへ行くなら、ベンタイン市場やドンコイ通りの外側に、もう1日だけ予定を足してみてほしい。
Sources
- Tuoi Tre News「Ho Chi Minh City targets Australian tourists with new travel experiences」(2026年8月10日): https://news.tuoitre.vn/ho-chi-minh-city-targets-australian-tourists-with-new-travel-experiences-103260810184148469.htm
- DTiNews「Australian arrivals to Vietnam surge, rank among high spenders」(2026年8月10日): https://dtinews.dantri.com.vn/lifestyle/australian-arrivals-to-vietnam-surge-rank-among-high-spenders-20260810090904034.htm
- Karryon「Intrepid Travel x Ho Chi Minh City drive responsible tourism」(Intrepid Travelとの覚書): https://karryon.com.au/industry-news/intrepid-travel-ho-chi-minh-city-mou/
- SGGP English「New Ho Chi Minh City officially established, beginning operations on July 1」(2025年の省合併): https://en.sggp.org.vn/new-ho-chi-minh-city-officially-established-beginning-operations-on-july-1-post118580.html
