ベトナム政府が、国民デジタルIDアプリ「VNeID」をシンガポールとラオスの電子ID基盤につなぐ計画を承認した。決定に署名したのは9月22日、ホー・クオック・ズン副首相だ。接続先はシンガポールのSingpassとラオスのLAeID。ハノイのノイバイ国際空港とホーチミンのタンソンニャット国際空港の2か所で、入国審査にこの仕組みを持ち込む試験運用を行う。ベトナムに何度も飛ぶ日本人がまず確かめたいのは、自分が対象に入るのかどうかだろう。
先に結論を書く。決定が手順の整備を求めている相手は2組だ。シンガポールとラオスでVNeIDを使うベトナム国民と、SingpassまたはLAeIDでベトナムに入国する旅行者である。日本のパスポートを出して入国審査に並ぶ人は、このどちらにも入らない。それでも読む値打ちがあるのは、相手国の電子IDと照合して人を通すという枠組みに、期限・対象空港・集めるデータの項目まで書き込まれたからだ。
9月22日に署名、10月30日と11月15日に期限が引かれた
VnExpress International(9月24日、配信はベトナム通信社VNA)によると、承認されたのは越境の本人確認の枠組みで、適用範囲・利用者・工程表・接続方式・関係機関の責任を定めている。狙いは繰り返しの申告と書類チェックを減らし、国境ゲートでの処理時間を削ることだ。VNeIDと相手国システムの識別データを照合に使うと明記されている。
公安省・外務省・科学技術省が分担する
10月30日までに、この3省がシンガポールとラオスの当局と接続について協議する。あわせて、ベトナム国民が両国でVNeIDを使うときの手順と、SingpassまたはLAeIDを持つ旅行者がベトナムに入国するときの手順を作る。識別データを接続・共有・統合する技術文書と、ASEAN基盤につなぐ規格・技術要件も準備する。技術面を引っ張るのは公安省で、試験環境・回線・サーバー・監視ツールをそろえ、入国管理システムを調整する。機能・統合・性能・復旧などのテストを済ませる期限が11月15日だ。情報セキュリティと個人データ保護の要件を評価することも決定に入っている。
試験はノイバイとタンソンニャットの2空港に限られる
試験の場所はこの2空港で、他の国境ゲートへの展開は試験結果を評価したうえで検討すると書かれている。2026年とそれ以降にかけて、取引件数、認証の成功率、処理時間、エラー、人手で処理したケースを集め、市民と企業の意見も拾う。ホーチミン近郊ではロンタイン新空港の開港準備が別に進んでおり、国際線の受け皿そのものが数年で組み替わる。
| Period | What to do | Handling |
|---|---|---|
| 10月30日まで | 両国当局と接続を協議。双方向の利用手順、技術文書、ASEAN接続の規格を準備 | 公安省・外務省・科学技術省 |
| 11月15日まで | 試験環境と回線・サーバーの整備、各種テスト、入国管理システムの調整 | 公安省が主導 |
| 2026年とそれ以降 | 2空港で試験を実施・運用・評価。件数・成功率・処理時間・エラー・人手対応を収集 | 関係省庁 |
| 日付の明示なし | 効果・互換性・安定性を評価して首相へ報告。正式実施とASEAN拡大の可能性を提案 | 関係省庁 |
この2つの日付は、どちらも準備する側に切られた期限だ。旅行者が窓口で使い始める日ではない。試験運用の開始日は「2026年とそれ以降」という書き方で、日付としては出てこない。
対象はベトナム国民とSingpass・LAeIDで入国する旅行者
決定が手順整備を求めている相手は2組
整備が求められているのは、(1) ベトナム国民がシンガポールとラオスでVNeIDを使うための手順、(2) SingpassまたはLAeIDを使ってベトナムに入国する旅行者のための手順、この2つだ。VNeIDのほうはベトナム国民がベトナムの外で使う話として書かれており、ベトナムに入国する側のIDとして名前が挙がっているのはSingpassとLAeIDである。日本のパスポートだけを手にノイバイへ降り立つ人は、どちらにも当てはまらない。
シンガポール在住の日本人はどう扱われるのか
決定は「SingpassまたはLAeIDを使ってベトナムに入国する旅行者」と書くだけで、その旅行者の国籍には触れていない。Singpassはシンガポールの居住者向けの国民デジタルIDで、公式サイトはアプリ利用者420万人超、連携サービス2,700超、月間取引4,100万件超と掲げている。誰が登録できるかという資格条件は公式サイトの公開ページから確認できず、日本国籍の在住者が試験の対象に入るのかどうかも、9月24日の報道からは決まらない。含まれると断じるのも、除外されると決めつけるのも早い。
先に動いた国内線の顔認証で、待ち時間はどう変わったか
タンソンニャットT3では30〜45分の手続きが10〜15分になった
VnExpress International(2025年7月27日)は、タンソンニャットの国内線ターミナルT3で、VNeIDアプリのオンラインチェックインと顔認証を組み合わせた搭乗手続きが始まったと伝えた。同記事で、ホーチミン在住のNguyen Vu Khuong Duy氏は普段なら30〜45分かかる手続きが10〜15分で終わったと話し、フーコックへ向かうNguyen Duy Khang氏も速くて時間の節約になると述べた。VNeIDへの生体データの統合はノイバイとダナンにも広がっている。今回の決定が新しく持ち込むのは照合の相手が国外の基盤になる部分だ。国内線の搭乗手続きと違い、国境をまたいでデータを渡すことになる。
8月25日の戦略対話で科学技術大臣が接続を提案していた
VnExpress(2026年8月25日)によると、第1回ベトナム・シンガポール戦略対話で、科学技術省のヴー・ハイ・クアン大臣がVNeIDとSingpassの接続を提案した。1つの技術プラットフォームの話にとどまらず、2国を共通のデジタル空間で結びASEAN全体の接続へ進む構想だ、という趣旨で述べた。トー・ラム書記長・国家主席が両基盤の接続を提起していたことにも触れた。シンガポールのジョセフィン・テオ デジタル開発・情報相も、AI・データ・電子政府での協力を提案した。提案から署名までは28日。工程表と期限が入った決定が出るまでの間隔としては短い。
日本人旅行者と駐在員が空港でやることは、当面変わらない
在住外国人のVNeIDと、今回の接続は別の制度
ベトナムに住む外国人がVNeIDを持てるようにする動きは、今回の越境接続とは別の流れだ。本サイトでも在住外国人のVNeID取得について別稿にまとめた。こちらはベトナム国内の行政手続きに使うもので、今回の決定がVNeIDの利用者として挙げているのは、シンガポールとラオスでVNeIDを使うベトナム国民である。滞在申告の電子化は政令286号に関する別稿で整理した。紙とハンコを介さず当局がデータを持つ方向という点では、同じ線の上にある。
出発前に手元に置いておくもの
| Item | いまの扱い | 決定に書かれていること |
|---|---|---|
| Passport | 入国審査で提示。残存期間などの条件は在ベトナム日本国大使館や当局の案内で確認 | 照合に使うIDとして挙がるのはVNeID・Singpass・LAeIDの3つ |
| ビザ・ビザ免除 | 滞在目的と日数で必要書類が変わる。最新条件は公式案内で確認 | 対象は入国審査の本人確認と書類チェックの削減 |
| 国際線の入国審査 | パスポートを提示して審査を受ける | 試験の対象はSingpassまたはLAeIDでベトナムに入国する旅行者 |
| 国内線の搭乗 | T3などでVNeID+顔認証が稼働(2025年7月時点の報道) | 別系統。今回は国外の基盤との照合が入る |
| Singpass | シンガポールの行政・民間サービスで利用 | ベトナム入国での使い方は10月30日までに両国当局が協議 |
| 在住外国人のVNeID | ベトナム国内の手続き用 | VNeIDの利用者として挙がっているのはベトナム国民 |
電子IDで処理が縮むのは、対象になる人がその仕組みを使ったときの話だ。決定が集めるとしている件数・成功率・処理時間の数字が出てはじめて、審査全体への効果が見えてくる。
11月15日を過ぎたら何を見るか
試験開始の告知はどこに出るか
テストと統合の完了期限が11月15日で、試験はこのテストを済ませてから始まる。技術準備を主導するのは公安省なので、公安省と出入国管理局の発表を追うのが早い。
ASEAN他国への拡大は決定文に何と書いてあるか
決定は、ASEAN加盟国の国民電子ID基盤とVNeIDを接続する研究を続けるよう求めている。地域の接続性を高め、人の往来・貿易・投資を後押しするという位置づけだ。ただし日付付きの指示が出ているのはシンガポールとラオスの2か国で、他のASEAN諸国は「研究を続ける」ところまでだ。同じ重みで扱わないほうがいい。
いま取れる行動を1つ挙げるなら、11月15日前後に公安省と出入国管理局の発表を1度開き、対象者の書き方に国籍の条件が入るかを確かめることだ。国籍に触れないまま「SingpassまたはLAeIDの利用者」で通るなら、シンガポールの電子IDを持つ人の入国動線が変わる可能性が出てくる。日本のパスポートで行き来する人は、いまの準備のままで問題ない。


