2026年9月15日、ベトナムで外国人の居住情報を管理する新しい政令286号(286/2026/ND-CP)が施行された。出入国管理当局と各省庁、地方の人民委員会、そして宿泊施設が、外国人のビザ・滞在情報をリアルタイムで共有する仕組みを定めたものだ。狙いは、誰がどこにどれだけ滞在しているかを当局が常時把握できるようにすること。ベトナムに住む日本人にも、出張や旅行で数日泊まるだけの人にも、チェックイン時の届出と本人確認が今までより確実に回るようになる。
政令286号が変えたのは届出義務より「情報の流れ」
この政令のポイントは、新しい届出義務を課したことではなく、既にある滞在届(tam tru)の情報を関係機関が即時に突き合わせられるようにした点にある。第9条は、各省庁と地方人民委員会に対し、ビザ・投資証明書・労働許可証、さらにe-visaやビザ免除で入国した外国人が参加する会議・セミナーの情報を、出入国管理当局と共有するよう求めている。従来の枠組みだった政令64/2015号を土台に、共有される情報の範囲と機関を広げた形だ。
実務的に何が起きるか。宿泊施設が届け出た滞在情報、ビザや一時滞在許可証の記録、入出国履歴が、セキュリティ関連のデータベースを通じて横につながる。届出を怠った宿や、ビザの条件と実態が食い違う滞在は、以前より発見されやすくなる。制度そのものは静かな行政手続きの変更だが、現場での見られている度合いは一段上がった。
宿に泊まると誰が何時間以内に届け出るのか
ベトナムでは、外国人の滞在届を出す義務は本人ではなく宿泊先の管理者にある。ホテルやゲストハウスなら支配人や担当者が、友人宅や賃貸マンションに泊まるなら家主や貸主が、地元の公安へ届け出る。ホテルなど営業目的の宿泊施設は到着後24時間以内、個人宅は12時間以内(へき地は24時間以内)が目安とされる。届出はオンラインの出入国ポータルか、書式NA17を使った窓口で行う。
ここで見落としやすいのが、ホテル以外の滞在だ。民泊、知人の家への宿泊、会社の寮でも届出の対象になる。政令286号で情報の突合が進むと、届け出ていない滞在先が浮かびやすくなる。宿泊費を抑えようと友人宅を転々とするような滞在ほど、届出漏れのリスクを自分で確認しておきたい。
| Item | Details |
|---|---|
| 届出の義務者 | 宿泊先の管理者(ホテルの支配人・家主・貸主など) |
| 期限の目安 | ホテル等は到着後24時間以内/個人宅は12時間以内(へき地24時間) |
| 届出方法 | 出入国オンラインポータル、または書式NA17で窓口 |
| 外国人本人への罰則 | 300万〜500万ドン(約1万7600〜2万9400円)※重い場合は国外退去も |
| 宿泊施設への罰則 | 未届の人数に応じ100万〜600万ドン(約5900〜3万5300円) |
罰金の額を定めているのは政令286号ではなく、行政罰を規定する政令144/2021号だ。286号は罰則を新設したのではなく、違反が見つかりやすい環境を作ったと理解するのが正確だ。金額は1円=約170ドン(2026年9月時点)で換算している。
e-visaとビザ免除で「働く人」が新たに視野に入った
政令286号がとくに踏み込んだのは、e-visaやビザ免除で入国し、ベトナムで働いたり会議・セミナーに参加したりする外国人への対応だ。第11条は、こうした人が滞在中に法令違反をした場合、招へい・受け入れ側の機関と出入国当局が連携して処理するよう定めている。観光ビザや短期のビザ免除で入り、実態として業務をこなす、いわゆるグレーな滞在に対して、当局が手を打ちやすくなった。
ベトナムに拠点を持つ日本企業の出張者にも関係する。短期の会議参加のつもりでも、受け入れ側の招へい手続きと滞在届が噛み合っていないと、後から問い合わせを受ける余地が生まれる。招へい状・ビザの種類・滞在先の届出を、入国前にひとそろい確認しておく意味が増した。
フリーランスやリモートワークでベトナムに長く滞在する人も、他人事ではない。観光ビザやビザ免除の枠で入りながら現地で働く形は、今回の政令が名指しで対象にした領域と重なる。どのビザで何をするのかを実態に合わせ、必要なら就労を前提としたビザや許可へ切り替える判断が、これまで以上に問われる場面が出てくる。
9月15日以降、日本人が手元で確認したいこと
制度の主役は宿と役所だが、外国人側にもできる自衛はある。まず、パスポートとビザ(または入国スタンプ)の情報を宿に正しく伝え、滞在届が出ているかを一言確認する。ベトナムでは9月28日から全外国人のデジタルID「VNeID」のレベル2アカウント運用も始まり、身分情報の電子化が進む。VNeIDが全外国人に広がる手続きとあわせて、自分の登録情報が実態と合っているかを見ておきたい。
SIMの名義も要注意だ。他人名義のSIMは、身分照合が進む局面で足を引っ張る。SIM名義を1414で確認する方法で、自分の番号が誰の名義になっているかを先に押さえておくと安心だ。子どもと暮らす家庭では、出生届と同時に申請できる赤ちゃんのIDカードのように、家族の身分登録も同じ流れでデジタル化が進んでいる。
短期滞在でも長期在住でも、今日からできる3つのこと
政令286号は、罰則を厳しくしたというより、外国人の滞在を取りこぼさない体制へ舵を切った制度だ。効いてくるのは、届出が甘い宿や、ビザと実態がずれた滞在。裏を返せば、正規のビザで登録済みの宿に泊まり、書類を揃えている人にとっては、日々の行動が大きく変わるわけではない。
今日からできることは3つある。ひとつ、宿にチェックインしたら滞在届の有無を確認する。ふたつ、ビザの種類と実際の活動(観光か就労か会議参加か)を一致させる。みっつ、VNeIDとSIM名義など自分の身分情報を最新に保つ。この3点を押さえておけば、情報共有が進んだ環境でも落ち着いて滞在できる。
Sources:
VietnamWithMe — Vietnam Tightens Foreign National Tracking From September 15
LuatVietnam — New rules on managing foreign nationals entering Vietnam with e-visas from September 15, 2026
