7月上旬、米国のTikTokで「bánh khọt(バインコット)」というベトナム料理の動画が次々と数百万回再生を記録しました。火をつけたのは7月2日にクリエイターのCami Petynが投稿した初体験動画で、わずか2日で140万回再生を超えています。バインミーが#StandBanhMi のタグでTikTokに拡散した昨シーズンに続き、ベトナムの屋台食がまた海の向こうで脚光を浴びた形です。もし次の旅でホーチミン市に入るなら、少し足を延ばして本場の一口を確かめておく価値があります。
米国TikTokerが火をつけた「一口揚げ」ブーム
発端はカリフォルニア州の食べ歩き動画でした。人気クリエイターのEmma & EJが6月30日、リトルサイゴンにあるファウンテンバレー(Fountain Valley)の店「Banh Khot Lady」でバインコットを初めて口にし、Emmaは何度も「so delicious」と繰り返し、EJは「flawless(欠点がない)」と評しています。
その2日後、フォロワー数十万人規模のCami Petynが自身の初体験を投稿。黄金色に揚がった皮の食感と、生野菜・魚醤(ヌクマム)と合わせる食べ方を絶賛し、動画は2日で140万回再生に達しました。以降「banh khot mukbang」「trying Vietnamese banh khot」といった検索で、数十万〜数百万回再生の動画が次々とヒットする状態になっています。
そもそもバインコットとは何か
バインコットは、米粉にココナッツミルク(nước cốt dừa)とネギを混ぜた生地を、丸い窪みの並んだ専用の鉄板で揚げ焼きにする小さな一口サイズの料理です。ターメリックでほんのり黄金色に色づけし、外はカリッと、中はふんわりと仕上げます。上には大ぶりの海エビが一尾。イカや豚ひき肉をのせる店もあります。
食べ方はベトナムらしく手が込んでいます。揚げたてを青菜やハーブでくるみ、甘酸っぱいヌクマムのタレにくぐらせて頬張る。ひとつが小さいので、脂っこさよりも軽さが先に立ち、野菜と一緒に何個でも進みます。ルーツは中部のバインカン(bánh căn)ですが、ヴンタウの人々がココナッツミルクを加えて香りとコクを足し、海の街らしく大きな海エビをのせて独自の名物に育てました。
数字で見るブームと国際評価
今回のバズは一過性の思いつきではなく、国際的な評価の土台の上に起きています。主な再生数と受賞歴を整理しました。
| Item | Details |
|---|---|
| Cami Petyn 投稿 | 7月2日投稿、2日で140万回再生超 |
| Emma & EJ 投稿 | 6月30日、Banh Khot Lady(米カリフォルニア)で実食 |
| TasteAtlas(2024) | 「アジアのベスト料理100」に選出 |
| CNN | 「ベトナムのベスト料理40」に掲載 |
ベトナム料理そのものの世界的な追い風も背景にあります。麺料理ではTasteAtlasの評価でフォーが世界2位に立ち、18品がトップ100入りしたように、屋台グルメが「知る人ぞ知る味」から「わざわざ探す味」へと位置づけを変えつつあります。バインコットの海外バズは、その流れの一コマと見るのが自然です。
現地とアメリカ、双方の声
今回の盛り上がりで拾えた当事者の言葉を並べると、リアクションの中身がよく分かります。
- Cami Petyn——「最初の一口で虜になると分かった」。カリッとした皮とハーブの爽やかさの両立を「perfect」と表現
- Emma & EJ——Emmaは連呼で「so delicious」、EJは「flawless(欠点がない)」と評価
- シカゴ在住のJayla Trenyce——揚げ物の香ばしさと穏やかな甘酸っぱさが好みに合うと「perfect」と絶賛
米国TikTokでのベトナム食ブームは、フエの餅菓子バインラムイットが火をつけた先例もあり、今回のバインコットはその系譜に連なります。海外の在住コミュニティが「地元の味」を発信し、それが現地(ベトナム)の観光需要に跳ね返る循環が生まれています。
旅行者がいま本場を狙うべき理由
この現象は、ベトナムを旅する人にとって具体的なメリットに変換できます。ポイントは3つあります。
First,まだ「観光地価格」になっていない今が狙い目という点です。バインコットは一皿でも数百円台に収まる庶民の味で、海外でバズったとはいえ現地の値付けは据え置かれています。SNSで火がついた料理が現地でも一気に値上がりする例は珍しくなく、本場の価格で味わえる時間は有限だと考えておくと動きやすくなります。
Second,「本場」と「支店」で体験がまるで違うことです。米国リトルサイゴンやサイゴン市内でも食べられますが、バインコット発祥の地はビーチの街ヴンタウ。鉄板の前で一枚ずつ揚がる様子、揚げたてを海風の下で頬張る体験は、動画では伝わりません。せっかく現地に行くなら、発祥の街まで足を運ぶ価値があります。
第三に、SNSで得た「予習」が現地で効くことです。海外の動画で食べ方や見た目を知ってから訪れると、注文もタレの付け方も迷いません。バズは単なる流行ではなく、旅行者にとっては現地での失敗を減らす予習教材にもなります。
ヴンタウで狙う名店と、サイゴンからの行き方
本場ヴンタウには「バインコット通り」と呼ばれる激戦区があり、ホアンホアタム(Hoàng Hoa Thám)通り周辺に名店が集まります。代表的な2軒の実用情報をまとめました(1万VND≒約60円/2026年7月時点の目安)。
| Shop name | Address | 一皿の目安 | Notes |
|---|---|---|---|
| Bánh Khọt Gốc Vú Sữa | 14 Nguyễn Trường Tộ, 3区, ヴンタウ | 約60,000VND(約360円) | 市内No.1と評される定番。朝7時〜15時半頃 |
| Bánh Khọt Cô Ba | 1 Hoàng Hoa Thám, 3区, ヴンタウ | 約77,000〜99,000VND(約460〜590円) | エビ・緑豆・海鮮ミックス等、具の選択肢が豊富 |
ヴンタウはホーチミン市から約100km、車やバスでおよそ2時間の距離です。日帰りでもビーチとセットで十分楽しめます。市内までは行けないという場合でも、サイゴンには「Bánh Khọt Cô Ba Vũng Tàu」の支店(3区・チャンカオヴァン通り)があり、雰囲気だけなら味わえます。米粉を焼く系の朝食グルメが好きなら、ミシュランに載ったサイゴンの蒸し米クレープ(バインクオン)の老舗と合わせて食べ歩くのもおすすめです。
まとめ——次の旅で確かめたい一皿
米国TikTokの数百万回再生は、遠い国の流行のようでいて、ベトナムを旅する人には具体的な行き先を指し示しています。バインコットは、米粉とココナッツミルクと海エビが生む「一口の完成度」で世界を振り向かせた庶民の味です。次の旅でホーチミン市に入るなら、ヴンタウまで足を延ばして本場の鉄板を目の前で確かめるか、時間がなければサイゴン市内の一軒で予習しておく。動画を眺めて終わりにせず、実際に手でくるんで頬張るところまでを、旅の計画に一行足しておく価値のある料理です。
