ベトナムのコーヒー産地ダクラク省の中心都市ブオンマトートが、自慢のスペシャルティ豆を引き連れて中国へ売り込みに出ます。ブオンマトート・コーヒー協会と上海のMaiji Shanghai IT社が組み、2026年7月に上海で試験的なプロモーション、8月に広州で本格的な商談イベントを開く「Vietnam Amazing Cup 2026 China Roadshow」がそれです。ベトナムのコーヒーといえば練乳入りの甘い一杯や定番土産のインスタントを思い浮かべる人が多いはずですが、産地はいま「安い大量生産」から「産地と品質で選ばれる豆」へ舵を切っています。ナショナルジオグラフィックが「世界の食15選」に選んだコーヒー首都ブオンマトートの動きは、旅行者の土産選びにも直結する話です。
上海で試し、広州で商談する二段構え
今回のロードショーは二つの都市で性格を分けています。7月の上海は、現地のコーヒー専門家やバイヤーに向けた試験導入の位置づけ。中国市場がベトナムのスペシャルティをどう受け止めるかを測り、次の一手の土台を作る場です。8月の広州は一段踏み込んだ商談型で、ブオンマトート・コーヒー協会に加え、輸出企業や焙煎ブランド、コンテスト上位の生産者ら、生産と輸出の当事者が直接参加します。
会場では、コンテスト「Vietnam Amazing Cup 2026」で上位に入ったアラビカ10種・ロブスタ10種を展示し、カッピング(試飲評価)体験、ダクラク産地の紹介、中国の輸入業者・焙煎業者・カフェチェーン・流通業者とのB2B商談、覚書(MOU)の締結までを一気通貫で行う計画です。協会のチン・ドゥック・ミン会長は、質の高いスペシャルティコーヒーを中国の消費者に「より近く紹介する」ことを狙いに挙げています。
なぜ今、中国なのか
背景には、急拡大する中国のコーヒー消費があります。市場調査各社の推計では中国のコーヒー市場は年10%前後で伸び続け、都市部を中心に独立系カフェとサードウェーブ文化が広がっています。産地・精製方法・淹れ方にこだわるスペシャルティ需要が育っている今は、産地名で勝負したいベトナムにとって好機です。
ベトナム側の事情も追い風になっています。2024/25年度のベトナムのコーヒー輸出額は84億ドル超と過去最高を更新し、単価の急騰が金額を押し上げました。量ではなく質と単価で稼ぐ路線が数字で裏づけられた形で、最大市場の欧州に続く新たな出口として、地理的に近く伸びしろの大きい中国が浮上したという流れです。上海やホーチミンだけでなく、サンフランシスコで行列を作ったベトナムコーヒーの海外ポップアップと同じく、産地発ブランドが自ら海を渡り始めています。
数字で見るベトナムコーヒーと中国市場
裏づけの取れた主な数値を並べます。市場規模は調査会社によって幅があるため、傾向として読んでください。
| Item | Figure | 出典・時点 |
|---|---|---|
| ベトナムのコーヒー輸出額 | 84億ドル超(過去最高) | 2024/25年度 |
| 輸出量の前年比 | 約+1.8% | 同上 |
| 平均輸出単価 | 1トン5,610ドル(前年比+52.7%) | 同上 |
| 最大市場・欧州のシェア | 数量ベースで約47.2% | 同上 |
| 中国のコーヒー市場成長率 | 年10%前後(推計) | 市場調査各社 |
| 中国の輸入元(金額) | ブラジル首位、ベトナムは上位常連 | 2024 |
金額の伸びを牽引したのは輸出量ではなく単価です。作った量はほぼ横ばいなのに輸出額が大きく増えた事実が、ベトナムの「質へ転換」を端的に表しています。
産地の当事者は何を語っているか
今回の取り組みをめぐる当事者の言葉と動きを拾うと、産地が輸出の主役になろうとしている構図が見えます。
- ブオンマトート・コーヒー協会のチン・ドゥック・ミン会長——質の高いスペシャルティを中国消費者に「より近く紹介する」ことを狙いに掲げる
- 輸出企業・焙煎ブランド・上位入賞生産者——協会任せにせず、生産・輸出の当事者が広州の商談に直接参加
- 協会——中国に続き、8〜9月には韓国のコーヒー協会との連携も予定し、東アジア市場を面で取りにいく構え
「Vietnam Amazing Cup」は2019年に始まり2026年で8回目を数えるコンテストで、上位入賞は品質の裏書きとして海外バイヤーへの説得材料になります。
旅行者の土産選びは、この動きで変わる
この産地の動きは、ベトナムを旅する人の土産選びにも実利をもたらします。要点は二つあります。
First,「安いインスタント一択」から抜け出す選択肢が増えることです。ベトナムで作られるコーヒーの約95%はロブスタ種で、定番土産のG7(チュングエン)に代表されるインスタントは配りやすく手頃です。一方で、コンテスト上位のダクラク産スペシャルティのように、産地・農園・精製まで明記された豆が土産の棚に増えていきます。ばらまき用はインスタント、自分用や珈琲好きへの一本はスペシャルティ、と用途で分けられる時代です。
Second,「産地名で選ぶ」目印が使えるようになることです。ブオンマトートやダラット/ラムドンといった産地名、Vietnam Amazing CupやSCA/CQIのスコア(80点以上がスペシャルティの目安)が、味の当たり外れを減らす手がかりになります。ラムドン産の受賞豆が示した「産地名で選ぶ土産」の流れと同じ発想で、パッケージの産地表記を一度確認するだけで満足度は変わります。
土産に選ぶときの実用早見表
旅行者目線で、タイプ別の選び方を整理しました。為替は1万ドン≒60円で換算しています。
| Type | Guide price | 向く相手・使い方 |
|---|---|---|
| インスタント(G7など3in1/4in1) | 10〜20袋で5万〜10万ドン(約300〜600円) | 職場・友人へのばらまき。甘いミルク入りが手軽 |
| ブラックの粉/豆(ロブスタ主体) | 250gで10万ドン前後(約600円〜) | フィン(金属フィルター)で淹れたい人。苦味とコク重視 |
| スペシャルティ(産地・農園明記) | 250gで15万〜30万ドン(約900〜1,800円) | 珈琲好きへの一本。産地名・スコアで選ぶ |
表記の見分け方も覚えておくと便利です。パッケージの「2in1」は砂糖入り、「3in1」は砂糖+ミルク、「4in1」は砂糖・ミルク・添加物入り、表記なしはブラック。産地までこだわるなら専門店、ばらまき用ならスーパーが立ち寄りやすい、という使い分けが基本です。
まとめ——次に確かめたい二つのこと
ブオンマトートが上海と広州で仕掛けるロードショーは、ベトナムコーヒーが「安さ」から「産地と品質」へ看板を掛け替える象徴的な一手です。旅行者にとっては、土産の棚に産地名入りのスペシャルティが増える前触れでもあります。次に確かめたいのは二点。7月の上海と8月の広州で、どのブランドが中国のバイヤーやカフェチェーンと組むか。そして、その結果が現地の土産店やスーパーの品ぞろえにどう跳ね返るかです。次にベトナムを訪れたら、いつものインスタントに加えて、パッケージの産地表記を一つ手に取って比べてみてください。
