ホーチミン中心部から車で向かうと、高層ビルの景色が途切れ、視界の端まで水田が広がる一角に出る。ビンチャンのタンニュット地区。8月11日付のトゥオイチェー紙が、この田園地帯を「まもなく黄金の季節を迎える映えスポット」として取り上げた。今は稲が穂を出しはじめた時期で、田は柔らかな緑に染まっている。都会の喧騒に疲れた滞在者や、田舎らしい風景を撮りたい旅行者に向けて、実際にどんな場所なのかを整理する。
穂が出はじめた田、色づくのはこれから
記事が紹介するのは、ハンズオン通りやランレー〜バウコー通り沿いに広がる水田だ。稲は「trổ đòng」、つまり穂が出はじめる段階に入ったばかりで、色は黄金ではなく「目に涼しい柔らかな若草色」と描写されている。見出しにある「黄金の季節(mùa vàng)」はこの先の話で、今訪れる人は青々とした稲穂と、収穫前の静かな田の空気を目当てにしている。緑の田と黄金の田では写真の印象がまるで変わるため、どちらを撮りたいかで訪問時期の見当をつけておきたい。柔らかな若緑を狙うなら今、頭を垂れる金色の稲穂を待つなら少し先、という時間差がこの場所にはある。
写真家のチュオン・コン・ミン氏は、当初は数枚だけ撮って帰るつもりだったと語り、「都会で遊ぶというより、故郷に帰ったような感覚だった」と記事に残している。市街地から短い移動で、これだけ農村らしい風景に切り替わることへの驚きが、この場所の人気の核にある。
訪れる人がしていること
記事によれば、田を訪ねる人の中心は写真好きだ。自転車を借りて畦道を走ったり、アオザイを着て稲を背景に撮ったりする光景が定番になっている。車やバイクで来た人も、田が見えると速度を落とし、ゆっくり流しながら景色を眺める。歩いて散策するだけの人もいる。特別な設備や入場ゲートがあるわけではなく、田そのものと畦道が舞台になっている。
撮影に向くのは光がやわらぐ午後だと記事は勧めている。真昼の強い日差しより、傾いた光のほうが緑の田を柔らかく写せるからだ。ここは同じホーチミン近郊でも、テーマパークや商業施設とは違う楽しみ方の場所で、屋内型の遊び場に一日を使うギガモールの屋内遊園地とは対照的な過ごし方になる。
都会と農村がこれほど近い意味
ホーチミンは行政区の統合が進み、中心部の高密度な街並みと郊外の農地が地続きになっている。ビンチャンはその西南側にあたり、繁華街から一続きの道をたどるだけで田園に届く。これは旅行者にとって、時間をかけずに「もう一つのベトナム」に触れられるという利点になる。空港や1区から遠いメコンデルタまで足を延ばさなくても、稲作の風景と農村の食事が半日で手に入る。
同じ発想で、市の郊外には半日から日帰りで行ける目的地がいくつもある。ホーチミンから足を延ばした先にあるタイニンの築140年の共同祠のように、都心の予定の合間に組み込める近郊スポットは滞在の幅を広げてくれる。ビンチャンの田は、そうした近場の選択肢のなかでも移動距離が短く、思い立った日の午後に回しやすい。
ベトナムの田んぼは、単なる背景ではなく暮らしと結びついている。田植え前に村総出で田に降りるハロン湾の島の農耕祭のように、稲作は各地の行事や食文化の土台にある。ビンチャンの田も、映える構図の裏にそうした日常が流れている点を意識すると、ただの撮影地以上の見え方になる。
畦道で味わえる田舎の食
この一帯の楽しみは風景だけではない。記事は昼どきに、メコンデルタ式の果樹園(miệt vườn)で田舎料理を味わえると伝えている。挙げられているのは、田で獲れた小エビをカリッと揚げた「テップドンのから揚げ」や、メコン川の増水期にとれる小魚を使った鍋「ラウ・カーリン」だ。稲穂を眺めたあとに、その田がもたらす食材を口にする流れは、観光地の食事とは違う手ざわりがある。懐かしさと絶景を兼ねた過ごし方は、この夏通いたい旬の食スポットの楽しみ方とも重なる。
訪れる前に押さえたい実用メモ
- 場所:ホーチミン西南部、ビンチャンのタンニュット地区。ハンズオン通り、ランレー〜バウコー通り沿いに水田が広がる。
- 今の状態:稲は穂が出はじめた緑の段階。黄金色に色づくのはこれから。撮る狙いによって時期を選ぶとよい。
- 時間帯:光がやわらぐ午後が撮影向き。昼は田舎料理を味わう時間に充てられる。
- 過ごし方:自転車で畦道を回る、アオザイで撮る、車をゆっくり流す、歩いて散策する。
- 食事:田で獲れた小エビのから揚げ、メコンの小魚カーリンの鍋など、メコンデルタ式の田舎料理。
記事は具体的な交通手段や距離までは記していない。緑の稲を狙うなら今、黄金の田を待つならもう少し先と、目的で訪問時期が変わる場所だ。市街地の予定の合間に半日を空けられるなら、ビンチャンの田は行き先の候補に入れておく価値がある。都会の景色がふいに稲の海へ変わる瞬間そのものが、この場所の見どころになっている。
