2020年にマサチューセッツ州ケンブリッジの一角で産声を上げた「Cicada Coffee Bar」が、全米の食メディアで話題になっている。ベトナム北部バクニン省出身のシェフ、ヴィン・レーとMIT卒のパートナー、ズオン・フインが手掛ける店だ。建築畑のふたりが”空間ごとデザインした”カフェは、昼はコーヒースタンド、夜はレストランへと変わる二毛作スタイルで運営される。
WiFi撤去という選択
Cicadaの店内にフリーWiFiはない。ノートPCの使用も推奨されていない。アメリカのカフェ文化ではかなり異例の判断だ。
ヴィンはSaigoneerの取材に対して「食べものと飲みものは、文化を紹介する最良の手段。胃に直接入り、魂に届く」と語っている。スクリーンではなく、目の前の料理と会話に集中してほしいという意思表示がWiFi撤去という形になった。
Yelpには250件以上のレビューが集まり、2026年5月時点でも高評価を維持している。
シグネチャーメニュー
昼と夜で表情が変わるメニュー構成が特徴だ。
| メニュー | 特徴 | 提供時間帯 |
|---|---|---|
| サイゴン・ラテ | ヴィンが「自分の心そのもの」と呼ぶ看板コーヒー | 昼 |
| シーソルト・シェイカー | メイン州産の海塩とコンデンスミルクのアイスコーヒー | 昼 |
| ハニームース・エスプレッソ | ハノイ名物エッグコーヒーを地元産はちみつでアレンジ | 昼 |
| キュアードサーモンのバインミー | アボカドパテ、自家製ピクルスの青パパイヤ入り | 昼・夜 |
| フォー・ヌードルサラダ | 手切り太麺+焼きナス or 豆腐 or キュアードサーモン | 夜 |
| ブンマンヴィット | 鴨とタケノコのスープ麺。北部ベトナムの伝統料理 | 夜 |
麺は近隣の中華食材店から毎日仕入れる生麺を手切りで仕上げる。ピクルスやペスト(カシューナッツ+ハーブベース)もすべて自家製だ。
ジェームズ・ビアード賞セミファイナリストに
ヴィン・レーは2023年、米国の食の最高権威「ジェームズ・ビアード財団」の新進シェフ賞(Emerging Chef Award)セミファイナリストに選出された。ベトナム料理を”フュージョン”と呼ばれることにヴィンは抵抗感を示す。
「アメリカでつくる以上、ベトナムとまったく同じ味にはならない。環境が違うのだから、食も自然に適応する」。融合ではなく”適応”という言葉が、彼の料理哲学を端的に表している。
現地・業界の反応
- Boston Globe: 「レストランでもカフェでもあり、コミュニティでもある」と特集記事を掲載
- GBH(公共放送): ヴィンの半生と料理哲学を30分のドキュメンタリーで紹介
- Yelp利用者: 「WiFiがないおかげで、隣の席の人と自然に話すようになった」という声が複数投稿されている
旅行者にとっての意味
ボストン・ケンブリッジを訪れる日本人旅行者にとって、Cicadaは「ベトナムコーヒーの入口」として機能する店だ。サイゴン・ラテ1杯で、練乳ベースのベトナムコーヒー文化を体験できる。
ベトナム旅行前の”予習”としても、旅行後の”復習”としても使える。ホーチミンやハノイのカフェ文化に興味がある人なら、ケンブリッジのこの一軒は訪問リストに加える価値がある。
飲食業界への波及
米国ではアジア系シェフの独立開業が増加傾向にある。Cicadaの成功は、ベトナム料理が高級ダイニングの文脈でも評価される時代に入ったことを示す事例だ。
WiFi撤去というポリシーも、単なる奇策ではない。リモートワーカーが長時間占拠する問題に悩むカフェオーナーにとって、ひとつの解答例になっている。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 店名 | Cicada Coffee Bar |
| 住所 | 106 Prospect Street, Cambridge, MA 02139 |
| 営業時間 | 火〜金 8:00-15:00 / 17:00-23:00、土日 9:00-15:00 / 17:00-23:00(月曜定休) |
| WiFi | なし(意図的に撤去) |
| 受賞歴 | ジェームズ・ビアード新進シェフ賞セミファイナリスト(2023年) |
| 公式サイト | cicada-coffee-bar.square.site |
まとめ
建築家カップルが空間設計から料理までを一貫して手掛けるCicada Coffee Barは、ベトナムコーヒー文化の新しい伝え方を示している。WiFi撤去は”つながり”を選んだ結果であり、それが全米メディアの注目を集めた。ケンブリッジを訪れる機会があれば、サイゴン・ラテを一杯試してほしい。
ホーチミンの「カフェアパートメント」完全ガイドもあわせてどうぞ。ベトナムのヘリテージカフェ特集では現地のカフェ文化をさらに深掘りしている。マルゥのボンボンショコラなど、ベトナム発の食ブランドにも注目だ。
