ホーチミン市が、市の中心を流れるサイゴン川沿いの水辺一帯を生まれ変わらせる大規模再開発計画を打ち出した。対象となるのは、観光客にもおなじみのバクダン(Bach Dang)埠頭を含む水辺と水面あわせて約73.3ヘクタール。総事業費は約29兆3,200億ドン(約11億ドル、2026年6月時点の1ドル≈158円換算で約1,740億円)にのぼる。河岸を走る道路を地下に潜らせ、地上には河川公園と文化施設を広げる構想で、工事は2026年第3四半期に始まり、2029年第2四半期の完成を見込む。サイゴン観光の起点である水辺が4年がかりで姿を変えるこの計画は、川沿いを歩いたり、ウォーターバスに乗ったりする日本人旅行者にも直接関わってくる。
計画の要旨
計画の核心は、車のための空間を地下へ、人のための空間を地上へ、という発想の入れ替えにある。バクダン埠頭の前を走るトンドゥックタン通りの一部区間を地下化し、その地下空間に商業施設と駐車場を収める。地上に解放されたスペースには緑地を備えた遊歩道が広がり、ウォーターバスや観光クルーズの船着き場も整備し直される。
再開発エリアは大きく二つに分かれる。ひとつが下流側のニャーロン〜カインホイ地区で、ここには河川沿いの文化公園、旧サイゴン港本部を改修した展示・イベント空間、そして歴史的な船を再現した博物館施設が計画されている。もうひとつが中心部のバクダン埠頭で、緑地と拡張された護岸を中心に、人が長く滞在できる水辺へと作り替える。投資主体としてはベンニャーロン観光サービス社が名乗りを上げている。
なぜ今なのか——現状のバクダン
バクダン埠頭は、ベンタイン市場やサイゴン大聖堂、オペラハウスから歩いて行ける距離にある、サイゴン観光の定番スポットだ。13世紀の英雄チャン・フン・ダオの像が川を見下ろし、1865年にフランス人が建てた古い旗竿も残る。夕暮れ時には対岸のランドマーク81やビテクスコ・タワーが川面に映え、川沿いのカフェでコーヒーを片手に夕日を眺める人で賑わう。
一方で、この一帯は車道に分断され、水辺に出るまでが歩きにくいという声が長く聞かれてきた。市が再開発に動く背景には、緑地の絶対的な不足がある。市が示した数字では、住民一人あたりの公園面積はわずか約0.7平方メートル。世界の大都市と比べても際立って低い水準で、川という最大の資産を市民が十分に享受できていない。今回の計画は、この水辺を「通り過ぎる場所」から「過ごす場所」へ変える試みだといえる。
規模とスケジュール
主ソースで確認できた数値を整理する。確認できなかった項目は載せていない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象面積 | 約73.3ヘクタール(陸地+水面) |
| 総事業費 | 約29兆3,200億ドン(約11億ドル/約1,740億円) |
| 地下化する道路 | バクダン埠頭付近のトンドゥックタン通りの一部 |
| 地下に造るもの | 商業施設・駐車場 |
| 地上に造るもの | 河川公園・緑地・文化施設・船着き場 |
| 関連道路 | グエンタットタン通りを8〜10車線に拡幅(ホアンジエウ交差点に地下道) |
| 関連橋梁 | タントゥアン1橋(6車線)新設、タントゥアン2橋を8車線に拡幅 |
| 工期 | 2026年第3四半期〜2029年第2四半期 |
事業費の内訳は、土地活用分が約19兆ドン、市の予算分が約10兆ドンとされる。建設費を先に投資家が立て替え、市が後から支払う公民連携(PPP)の枠組みが想定されている。
受け止め——期待と注文
水辺を市民に開く方向性そのものには、おおむね前向きな反応が広がっている。住民からは、車道に阻まれずに川辺へ出られるようになる点を歓迎する声が上がる。日々の散歩やジョギング、夕涼みの場として、中心部に大きな緑地が生まれる意味は小さくない。
都市計画の専門家からは、地下に車と商業を収め、地上を歩行者に明け渡す手法を、限られた土地を立体的に使う現実的な解として評価する見方が出ている。市側も、地上を覆う建物の量を抑えながら駐車と商業の需要を満たせる点に意義を置く。
同時に、注文も付く。地下の商業施設が水辺の公共性をどこまで損なわずに共存できるか、また4年に及ぶ工事期間中の交通と景観への影響をどう抑えるか——こうした論点は、計画を実りあるものにするための課題として指摘されている。歴史的な港湾建築や記念碑をどう残し、生かすかという視点も欠かせない。
日本人旅行者への示唆
完成後の楽しみは大きい。今は車道で分断されている水辺が、ベンタイン市場やオペラハウスから地続きの遊歩道としてつながれば、サイゴン観光の回遊性は一段と高まる。船着き場が整えばウォーターバスやクルーズへの乗り換えもスムーズになり、「市場で買い物→水辺を散歩→船で対岸へ」といった一日の組み立てがしやすくなる。旧サイゴン港を生かした文化施設や博物館は、街の近代史に触れる新しい立ち寄り先になりそうだ。
一方で、工期中(2026年後半〜2029年前半)にサイゴンを訪れる場合は、バクダン周辺で部分的な通行規制や景観の制約が出る可能性を頭に入れておきたい。トンドゥックタン通りや関連道路で工事が進めば、川沿いの一部が一時的に閉鎖されることも考えられる。完成を待つなら2029年以降、工事の「途中」を見るのも旅の記録としては面白い、という二つの楽しみ方がある。
都市と観光への波及
この再開発は、単発の公園整備にとどまらない。サイゴン川を軸に水辺の魅力を引き上げる動きは、ウォーターバスやリバークルーズといった水上交通の価値を底上げし、観光客の動線を陸路だけでなく水路にも広げる。グエンタットタン通りの拡幅や橋梁の新設・拡幅が同時に進めば、混雑しがちな中心部の交通も少しずつ整理されていく。住民一人あたり0.7平方メートルという公園不足を埋める一歩でもあり、暮らしと観光の両面で街の質を押し上げる投資といえる。京都をはじめ世界の都市が川辺の再生に取り組んできたように、サイゴンも「川に背を向けた街」から「川に開かれた街」へと舵を切ろうとしている。
実用情報——今の水辺の楽しみ方
工事が本格化する前の今こそ、現在のバクダン埠頭を味わっておきたい。中心部のウォーターバス起点はバクダン船着き場で、ベンタイン市場やグエンフエ通り(歩行者天国)から徒歩圏内にある。ウォーターバスの運賃は片道15,000ドン、往復30,000ドン(約280円)ほどで、ランドマーク81やサイゴン橋を眺めながら川を上下する手軽な川クルーズとして人気だ。便数は限られるため、乗船前に当日の時刻を確認しておくとよい。
水辺の散策は、暑さの和らぐ夕方から夜にかけてが心地よい。乾季にあたる12月〜4月は天候が安定し、屋外で過ごしやすい。川沿いには地元チェーンのカフェが並び、夕日や夜景を眺めながら一息つける。完成後の姿を想像しながら、今の素朴な水辺を歩いておくのも一興だ。
まとめ
バクダン水辺の再開発は、約73.3ヘクタール・約29.32兆ドンという規模で、車を地下へ、人を地上へと配置し直す大胆な計画だ。2029年の完成後には、サイゴンの顔である水辺が歩いて楽しめる連続した空間として生まれ変わる。工事期間中の旅行には多少の制約も予想されるが、それも含めて、街が川に開かれていく過程を間近で見られるのは今だけの体験になる。次にサイゴンを訪れるなら、変わりゆく水辺をぜひ自分の目で確かめてほしい。
よくある質問
Q. バクダン水辺の再開発はいつ完成しますか?
A. 工事は2026年第3四半期に始まり、2029年第2四半期の完成が見込まれています。完成後は河岸道路が地下化され、地上に河川公園や船着き場が整備されます。
Q. 工事期間中もバクダン埠頭は観光できますか?
A. 詳細な規制内容は公表され次第の判断になりますが、トンドゥックタン通りなどで工事が進むため、川沿いの一部で通行規制や景観の制約が出る可能性があります。訪問前に現地の最新情報を確認することをおすすめします。
Q. 今のバクダン埠頭ではどんな楽しみ方ができますか?
A. ウォーターバス(片道15,000ドン)でサイゴン川を巡るミニクルーズや、川沿いカフェでの夕日・夜景鑑賞が定番です。ベンタイン市場やオペラハウスから徒歩圏内で、夕方以降が過ごしやすい時間帯です。
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